Web評論誌「コーラ」58号/映画アンケート結果2025

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Web評論誌「コーラ」
58号(2026/04/15)

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Q:2025年中に観た映画(新旧作・DVD・TV等を問いません)で、あなたのお薦めの映画、印象深い映画など3点を挙げてください。
 
A:映画名・監督名・その映画についての簡単なコメント(コメントは無くても可です)。回答者名は、匿名も可です(掲載は、入稿順です)。
 
■寺田 操
 
1.炎上(監督:市川崑)
 三島由紀夫原作『金閣寺』の映画化(市川雷蔵主演/4Kデジタル修復版)2025・11・20 午後NHK・BS1で、みる。「金閣寺ほど美しいものは地上になく、又金閣というその地面(じづら)、その音韻から、私の心が描きだした金閣は、途方もないものであった」と原作本(新潮文庫・昭和35・9・15初版/昭和51・6・30 41刷)を本棚から引っ張りだした。表紙カバー裏によれば、昭和25年7月�T日に起きた「国宝・金閣寺焼失」に材をとった作品。
 ここでズームアップしてきたのは「国宝」の二文字だ。昨年大ヒットした映画のタイトルだ。吉田修一原作は新聞連載時に読んでいたので、『国宝』(李相日:監督/吉沢亮・横浜流星主演)へは足を運ばなかった。大ヒットというだけで、人込みにまみれて映画館に入ることに抵抗があった、ということかもしれないが。赤茶けて文字がひろいにくく老眼鏡をかけないと読めなくなった文庫本のほうが何やら懐かしくて。
 文学メディア(原作)と映像メディア(映画)は違うテキストなのだと承知しながらも、三島由紀夫と市川崑の対照的な光の当て方を比べてしまった。原作本で読むほうが主人公の内面が鮮やかに映像化され、主体が「金閣寺」であることがその「国宝」としての最高の美が文体の完璧さとして伝わってきた。
 ずいぶん前になるが、雪の金閣寺をみて息をのむほどの美しさにうたれたということがあったせいだろうか。映画ではどうだろう。主人公・学僧の放火へと至る内面の葛藤や屈折がくぐもって障子や襖に映し出される影絵のように感じた。俗世にまみれた老師の生々しい姿や、足の悪い友人を演じた仲代達也の怪演ぶりに、市川雷蔵演じる学僧がすっぽり呑み込まれて、モノクロームの画面の芯の部分から、ぽっと「火が」あがったようだった。
 
 
■野原 燐
 
1.青春-春-(2023年)青春-苦-(2024年)青春-帰-(2024年)(監督:ワン・ビン)
 
2.さよなら、ジュリア(2023年/監督:ムハンマド・コルドファーニー)
 加害者の庇護の下に生き、彼女を愛するに至る被害女性は、彼女を許すか? 権力関係下(スーダンでは北部のムスリムが階層が上で、南部の黒人は階層が下)での女性の友情を描く。(イスラム映画祭で見た。好きな映画祭だったのに終わってしまった。)
 
3.よみがえる声(2025年/監督:朴寿南・朴麻衣)
 朴寿南が40年間撮りためた映像をまとめたもの。在日朝鮮人のマイノリティ性を描くが、腰の強さというかなんかすごい。
 
番外
ネタニヤフ調書 汚職と戦争(2024年/監督:アレクシス・ブルーム)
 ガザ・ジェノサイド糾弾! 
 
 
■山口秀也
 
1.悪は存在しない(2023年/監督:濱口竜介)
 トップシーン。冬の林を下から見上げてゆっくりと移動するカメラ。それと息を合わせるように静かに流れる石橋英子の音楽は、清らかともまた不穏とも取れ、観る者が受け取るであろう揺らぐイメージは、まるでこの物語の不確かな結末を予感させるようだ。映画の主人公同様、寡黙な語り口と、観客の浅薄な予想を受け付けないかのような筋運びと音楽とが相俟って、ひさびさに頭が痺れた。エンドロールのクレジットに「海炭市叙景」の劇伴を務めたジム・オルークの名前を見つけたのもうれしい一作だった。
 
2.一条さゆり 濡れた欲情(1972年/監督:神代辰巳)
 阪神野田駅からストリッパーの伊佐山ひろ子が、大きなトランクを不格好に運ぶヒモと登場するところから、テンポの良いセリフとショットが見るものを物語に引き込む。そのファーストシーンから、煽るようにまたユーモアもたっぷり湛えて鳴り響く「なんけ節(江州音頭)」。ストリッパーのヒモ役で確実な印象を残した高橋明が自ら唄う「なかなかなんけーなかなんけー」の節はラップそのもの。その猥雑でエネルギッシュなボーカルは神代の作劇に厚みを与え、この時代と登場人物たちの息遣いをみごとに体現している。のちの『四畳半襖の裏張り しのび肌』で、主人公の息子が幇間修行で語る口上もまたリズムに富んだボーカリゼーションとして、物語に確かな彩りを添えている。
 
3.シナントロープ(2025年/監督:山岸聖太 脚本:此元和津也)
 『セトウツミ』や『オッドタクシー』の脚本家此元和津也によるストーリーテリングと対話の妙が際立つ連続ドラマ(テレビ東京系)。ボスの二人の部下(遠藤雄弥/アフロ)の車中での会話や、そのボスの部屋の様子を、おそらくは復讐目的で向かいのマンションの一室から監視する年かさの男と若い男(山本浩司/栗原颯人)の室内で交わされるそれには、タランティーノ映画のエッセンスが見て取れる。洒落たタイトルロールと主題歌も、江�ア文武の手掛ける音楽とともに印象深い。三宅唱『夜明けのすべて』のHi'Specや『京都人の密かな愉しみ』の阿部海太郎らとともに、ここ数年の映画やドラマの劇伴の新しい潮流として覚えておきたい。
 
 
■川崎政敏
 
1.逃走 (2025年/監督: 足立正生)
 東アジア反日武装戦線〈さそり〉のメンバーだった桐島聡の最後の4日間の内面のドラマです。49年間逃亡し末期癌で死期を悟った後「本当の名前で死にたい」と病院に出頭し自白する。病魔に犯される幻視の中で、過去の自分や同志、同志の亡霊、分裂した自己の分身達と多弁な論争を開始する。それはきっと逃亡中も繰返しなされた自己問答だったろう。結論は見えている。「俺たちは逃げ続けなければならない、逃げ続けることが戦いだ」と。しかしその間の孤独な葛藤は深いものがあっただろう。〈逃走〉=〈闘争〉を貫徹した革命家の長いスパンの時間軸だ。〜桐島さんと私は生年月日が2ヶ月しか違わない。
 
2.こんな事があった (2025年/監督: 松井良彦)
 松井良彦監督は「追悼のざわめき」という変態的カルトムービーがアングラ界では有名です。私はそれをユーチューブで少しだけ観ました。「狂い咲きサンダーロード」の助監督も務めてました。79年デビューの後、これが5作目らしいので寡作の監督さんです。この映画もきっと癖のあるものだろうと思ってました。若松組の井浦新も出てましたから余計にそう思いました。あにはからんや、社会的ヒューマンドラマでした。福島原発事故から10年後の心を病み日常生活が破綻した人たちの再生の過程を描いた静かな作品でした。謂わば間接的な反原発映画です。ラストの、稚拙なテロを企む若者2人に対して、たしなめるでもなくそっと寄り添うサーフショップのマスターの微笑みが素敵でした。
 
3.メトロポリス (1927年/監督:フリッツ・ラング)
 11月にルナティック(松山市の映画館)で5日通しのイベントでライブ演奏付きの無声映画上映会があった。私は最終日のプログラムを観た(聴いた)。これは1927年に公開され〈SF 映画の原点にして頂点〉と評価されているドイツ映画だ。この日の上映は2010年に新しく編集された148分の尺の作品だった。私はそれまで断片的にパソコンで観ていたが通しで観たのは初めてだった。実写のスペクタクルだから当時としては大変なお金が掛かっただろう。
 作品上の時制は100年後でディストピア世界を想定していたらしい。すると、1927+100で2027年の世界と言うことになる。なんと、来年の世界ではないか!作品の内容は端的に言えば階級闘争だ。地上の知的な支配階級と地下の労働者の被支配階級との相克の物語だ。さて、1927年当時のドイツではナチスが擡頭していた。一方現在の政治状況を〈新しい戦前〉と呼ぶ人も居る。それらを考え合わせるとフリッツ・ラングには予知な想像力があったのかもしれない。その意味でタイムリーなイベン トだったのかもしれない。主催者の 炯眼だ。
 ところでライブ演奏は、坂田明、大友良英、中村達也、中尾憲太郎という錚錚たるミュージシャンの出演で、まるでキング・クリムゾンの様な圧巻の演奏だった。私は贔屓の坂田御大と狭いトイレで連れションをした。実はそれが一番嬉しかったのでした。
 
 
■広坂朋信
 
1.サユリ(2024年/監督:白石晃士)
 押切蓮介による原作漫画(幻冬舎刊)の映画化。原作は読んでいない。祖父、両親、姉と弟を悪霊にとり殺された少年が、認知症の祖母とともに悪霊と闘う。孫を叱咤激励し悪霊に立ち向かうばあちゃん役を根岸季衣が怪演。気合と体力は大事だと痛感する。
 
2.リボルバーリリー(2016年/監督:行定勲)
 長浦京による原作小説(講談社)の映画化。原作は読んでいない。軍部に追われる元女スパイを綾瀬はるかが力演。その雄姿を拝むだけでも価値がある。大活劇を堪能した。
 
3.火喰鳥を、喰う(2020年/監督:本木克英)
 原浩による原作小説(KADOKAWA)の映画化。原作は読んでいない。戦死した大伯父の手記発見をきっかけに起こる怪奇現象におののく若夫婦を描く。霊感のある妻役を山下美月が好演。佐伯日菜子がちらっと出てくるのもうれしい。
 
■通りすがり
 
1.遠い山なみの光(2025年/監督:石川慶)
2.ある男 (2022(年/監督:石川慶)
3.流浪の月(2022(年/監督:李相日)
 
■黒猫房主
 
1.遠い山なみの光(2025年/監督:石川慶)
 カズオ・イシグロの原作よりも、重層性にもとづく幻想性が際立っている。観終わった後の印象深い象徴シーンの謎解きも楽しい。
 
2.宝島(2025年/監督:大友啓史)
 エンタメのヒーロー映画かと思わせて、沖縄の怒りが重く感動的な映画。コザ事件の騒動シーンは圧巻。妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝らが熱演。ある意味、沖縄の戦後を凝縮した映画と言ってもよいのだろう。
 
3.どうすればよかったか?(2024年/監督:藤野知明)
 この映画は、25年1月最初に観たドキュメンタリー。もともとは映画化を予定していない20年の記録で、ホームビデオのため音声が悪く聞き取れない個所が多くて(内容ではなく)少々苛ついた。
1)導入部は暗転(撮影していないため)で、母親の「この家から分裂病を出せない」という叫び。この夫婦が娘の病状を「否認」していることに繋がる。
2)この否認が先行しているために、父親が娘を精神科医に連れて行っても、医者の診断によればは問題ないということを家族に告げる。→ 夫婦は娘が勉強漬けにされてきたことから親への復讐として、病状を「演じて」いると解釈することでその否認を強化していく。
3)だが、パンフレットの監督ノートによれば、後に息子=監督が伝をたよってその当時の精神科医を見つけ出し、そのような発言(「問題ない」)を父親にしていないことが判明する。「1回の診察で診断はつかない」、と。
4)高校生まで優秀だった娘は医学部入学に4浪し、そして入学後の確か3年生からの実習時に挫折して発病したらしい。その後娘はなんとか大学を卒業するも医師国家試験に何回も落ちるが、父親は状態のよくない娘に毎年国試の問題集を買い与える。→ 相変わらず父親は娘の病状を「否認」しつづけているというわけだ。
5)映画終幕に監督による父親へのインタビューで、父親は母親のために娘を入院させなかったと弁明するが、これも否認の延長にすぎない。→ 監督はこの発言は「うそだ」と監督ノートに記している。
6)この映画は、どこの家族にも起こりうるトラブルをこじらせ正面から向かいあうことができない、内に籠もる/閉じる「家族の否認」の物語だと思う。
7)「どうすればよかったのか?」→ 家族を「開く」ことだが、これは容易ではない。途中1回だけ親戚の女性が出てきて娘を案じるがが、この家族に積極的に介入した気配はなかった。
 家族の本質は、吉本的に言えば「対幻想」の共有だろう。だとすれば家族は「閉じている=求心性」ゆえに家族ともいえるだろうから、これを「開く」というのは「非−家族」になることではないか?
 「非-家族的家族」という課題は、可能なのか? だが戦前のような大家族であれば、その求心性は低く逃げ道もあるだろう。あるいは放置されて、自ずと自分を開いていかねば生きられないということもあるだろう。
 親の期待が大きかったのだろうが、4浪もして医学部受験する前に彼女に逃げ道はなっかたのだろうか。発病してから、オカルトや占いに専心していくのは、その逃げ道だったのか?
 ある友人は、「両親が一方的に社会との関わりを拒否しているように見えなくもないのですが、それを可能にしてしまう「社会」の側の冷徹な不在性を思わざるを得ませんでした」とするどく指摘していた。つまり周りが無関心で社会的介入がなかったということだが、この家族の場合のように外に対して強固に閉じている家族に対して、いかに社会的介入していくかということはなかなに困難だ。
 同居していた監督は大学を卒業してから、家族から逃げたという気持ちはよく分かる(僕にも似たような経験があるから)。彼じしん心身症かなんかで、大学でカウンセリングを受けており、彼もギリギリの限界だったのだ。
 それでも監督は数年後に家族に戻って来て、親を説得して姉を入院させたのが救い。→ 姉はみるみると回復していく。
 これも、家族だからだろうか。まあ、そうしないで見捨てる家族もあるから一概に家族だからというのは当たらないかもしれないが、監督の場合にはそれがあったと思われる。
 いったい社会が、どこまで面倒を看てくれるんだろう。看てくれても、やはり限界はある。限界はあるが、第3者(社会)が介入することで、家族を少しは開くことはできるだろう。それによって、親も変わり得るかもしれない。
 再度、では「どうすればよかったのか?」。そう、個人的なことは政治的なことだから、監督は家族の問題をさらけ出して、世に問うたわけだ!
 
番外 愚行録(2017年/監督:石川慶)
   石川監督の長編デビュー作。
 

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Web評論誌「コーラ」58号(2025.04.15)
「映画アンケート結果公表2025」
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