Q:2024年中に観た映画(新旧作・DVD・TV等を問いません)で、あなたのお薦めの映画、印象深い映画など3点を挙げてください。
A:映画名・監督名・その映画についての簡単なコメント(コメントは無くても可です)。回答者名は、匿名も可です(掲載は、入稿順です)。
■寺田 操
雪子さんの足音(2019年/監督:浜野佐知、脚本・山崎邦紀)
2度、映画に足を運びました。どちらも監督の舞台挨拶があり、これはうれしいこと。 2019年に一度目を神戸元町映画館で。語り手の湯浅薫が部屋に飾っていた絵が、私の好きな画家・松本竣介だったので、薫が世界目線となったこと。下宿先に置かれていた水槽の巨大な金魚が、人間そのものの得体の知れなさや無意識の欲望を形象し、下宿サロンで振る舞われる豪華な料理にも、目を奪われました。
2度目は2024年春に豊中すてっぷホールで鑑賞。吉行和子演じる老女の、若い芸術家への過剰なお節介とギフト精神と、死んだとき、きれいなうちに下宿人に見つけてもらいたいという秘めた欲望に、老女になった団塊の世代の無意識が鏡像になってギョギョっとしました。
次回作『金子文子 何が私をこうさせたか』を楽しみにしています。」
■高橋秀明
1.ジョーカー(監督:ッド・フィリップス)
2.PERFECT DAYS(2023年/監督:ヴィム・ヴェンダース)
1.青春(2023年/監督:ワン・ビン(王兵))
長江デルタ地域の織里という町は衣料品工場の町だ。その若い労働者たち数人のドキュメンタリー。彼らの働き方は日本の常識とはかなり違う。8時から23時と超長時間労働。しかし規律についても自己管理なので、時間内に歌歌ったり、遊んだり、いちゃついたり、喧嘩を売ったり、などなどしている。労働とその他の時間の近代的区別がない。
パートナーシップと互助によって個人が簡単に起業できるシステムのようだ。経営者も労働者も完全にアナーキーである。国営企業が主流だった中国におけるそれとはまったく異なった時間が流れ、労働が行われる。また、労働者も個人ではなく、家族単位で田舎からやってきて、しばしば同じ会社で働いている。この村だけが、まったく違った、資本主義?ルールと労働倫理(の未開?)で生きている。この映画は、2014-19に撮られた。システムは基本的にはまだ健在のようだ。
2.ゲバルトの杜〜彼は早稲田で死んだ〜(2024年/監督:代島治彦)
鴻上尚史氏作らしい劇中劇、特にそれがフラッシュバックのようにたびたび挿入されるところが、嫌だった。リンチの再現映像だから不快だというだけではない。「内ゲバによるリンチ(殺害)=絶対許してはならない悪」といったすでに社会に共有されているであろうステロタイプな認識を反復・強化している、そのようにも見えてしまう。
1972年11月8日に早稲田大学文学部キャンパスで川口君という学生が殺された。彼は中核系の集会に顔を出したこともあったようだが、中核シンパとまでは言えず、むしろノンセクトと捉えるべきだろう。これは、革マルという大きな組織が20歳のノンセクト活動家を威嚇しようと暴行し、殺してしまった事件である。「同一陣営または同一党派内での暴力を使用した抗争」という内ゲバの定義には当てはまらない。(当時同学年の活動家だった野崎泰志氏が書いた下記文章などを、読んだ限りでの判断だが。
https://ynozaki2024.hatenablog.com/entry/2024/05/09/231009
彼の死はそれ以前から続く革マル派による暴力支配の一こまだった。
彼の死をきっかけに、その暴行に反発した一般学生らの大きな反革マル大衆運動が起こる。それを革マルが暴力的に押しつぶした後、党派間の争いも大学キャンパスなど公開的場所で行われることはなくなる。革マル/中核(など)の陰惨な殺し合い(内ゲバ)が始まる。大衆の反発によってキャンパスに登場できなくなって、別空間(殺し合いの場)に戦いが移ったということだろうか。映画をきっかけに、当時の運動の実際がどうだったのかにむしろ興味を持った。この文章もそれをめぐってのものになってしまった。
3,ソウルの春(2023年/監督:キム・ソンス)
1979年10月26日韓国の独裁者朴正煕(パク・チョンヒ)が側近の金載圭KCIA長官によって殺される。(その金載圭をイ・ビョンホンがやったのが、『KCIA 南山の部長たち』、良い映画です)
1979年10月26日から翌1980年5月17日の非常戒厳令拡大措置まで政治的過度期を、歴史用語でソウルの春という。同年12月12日に全斗煥(チョン・ドゥファン)が、陸軍内の秘密組織「ハナ会」の将校たちを率いてクーデターを行い成功する。政治中枢においては実は「春」は50日弱しかなかったわけだ。「ソウルの春」という言葉を知らない日本人は冬の映画なのになぜと、戸惑ったはずだ。
全斗煥の配下のクーデター軍はソウルに進軍し、全斗煥を反乱者と規定する旧勢力の軍と内戦になろうとする。内戦になれば何千何万というソウル市民が死傷することになるので、旧勢力側は躊躇してしまう。狂信的な全斗煥側が勝利してしまうことになるのだ。この12月のクーデターも、尹錫悦本人は全斗煥以上の狂気を持っていたようで恐ろしい。
■川崎政敏
1.箱男(2024年/監督:石井岳龍)
私の大好きな監督です。「狂い咲きサンダーロード」「爆裂都市」「逆噴射家族」「パンク侍・斬られて候」は破格の面白さでした。「箱男」の原作は安部公房です。私は高校時代から愛読し「壁」の中にある「赤い繭」がラジオドラマになったことで演劇に興味を持ち始めました。小説「箱男」はメタフィクションというか観念的というか、あらゆる対立するモノが始終反転するような極めて実験的な小説です。それが果たして娯楽映画として成立するのだろうか?内省的で密室的な部分は内容も画質も暗く「ドグラマグラ」を想起しました。本物と偽物の箱男のアクションはスリリングでこんなにも箱男が機敏に動くのかと驚きました。〈謎の女〉は〈砂の女〉の様に古風で今の時代には合わないかもしれません。ラストのナレーションの「箱男はあなただ!」には私は「決まった!」と思いましたよ。
2.徒花(2024年/監督:甲斐さやか)
近未来における人間とクローンとの対話劇あるいは思考実験的映画です。背景、設定が曖昧なのでファンタジーかも。クローンの瓜二つの分身は〈それ〉と呼ばれる。自意識は異なる。医療行為において本人か〈それ〉のどちらかが死ぬと言うから、どうやら臓器移植の為のクローンでは無い様だ。病気の主人公(井浦新)は手術への不安解消の為、臨床心理士から過去の記憶や深層心理を遡らされる。森や海岸の暗い画面だ。ここにも〈謎の女〉が出て来る。病室は一転して明るい画面だ。対比が少しあざとい。人物の顔のアップも一寸くどい。結局、主人公は自分が死ぬ事を選ぶ。〈それ〉はその後どうなったのだろう。私には良く分かりませんでした。あー、何にも誉めてないですね。私は井浦新の映画は観る事に決めているのでした。
さて、この映画を観た後にクローン繋がりでカズオ・イシグロの「わたしを離さないで」を読みました。こちらはクローンたちが主人公の恋愛小説でした。ここではクローンが〈元親〉を〈ポシブル〉(親かも?)と呼んでました。
3.きのう生まれたわけじゃない(2023年/監督:福間健二)
大切なモノを喪失した空虚な人たちの会話劇です。設定も演出も演技もカメラワークも弛く、まるで雲の上を歩いている様な浮遊感があります。夢の中の出来事なのかも知れません。登場人物は全員死者なのかも知れません。監督はこの映画の完成直後に亡くなりました。もしかして御自分の死期を予感してたのでしょうか?否、それは違います。目覚めて(観終わって)私に残った言葉は「たすけて」「だいじょうぶ」「すき」でしたから。即ち、儚いけれど力強い映画なのでした。
■山口秀也
1.浮草(1959年/監督:小津安二郎)
映画の導入部、港町の家並を上から捉えた場面。たなびく旅一座の公演の幟の数かずが、これから始まる物語に私たちを心地良くいざなってくれる見事な画面構成。
2.友だちのうちはどこ?(1987年/監督:アッバス・キアロスタミ)
映画の中盤、友だちにノートを届けたい男の子が、母親に宿題を急かされている。そこで唐突に風に煽られ開いた戸からのぞく洗濯物がはげしく揺れている絶妙なさま。
3.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019年監督:クエンティン・タランティーノ)
映画の最終盤、積み上げてきた物語を一気に蕩尽する暴力シーン後のエンドロール。舞台となった屋敷を俯瞰する構図と流れるメランコリックな音楽の心地よさよ。
■匿名
1.RRR(2022年/S・S・ラージャマウリ)
インドの」ミュージカル映画。
2.雨の中の慾情(2024年/ 監督:片山慎三)
つげ義春の本が原作。つげの世界観がよく反映されており、場面転換の繋ぎ方が秀逸。
3.箱男(2024年/監督:石井岳龍)
■堀本和彦
1.花嫁はどこへ(2024年/監督:キラン・ラオ)
2.グレート・インディアン・キッチン(2022年/監督:ジヨー・ベービ)
3.ジョイランド(2024年/監督:サーイム・サーディク)
インド系映画が好きなもので。現代の家族と女性の社会情況が興味深く描かれています。
■広坂朋信
1.ガメラ3 邪神覚醒(1999年/監督:金子修介)
怪獣映画だが前半にホラー風の演出があって面白い。特に仲間由紀恵がミイラ化する場面は衝撃的、まだデビュー直後の未来の大女優が邪神イリスに体液を吸われて見事に干からびていた。
2.劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス(2015年/監督:塩谷直義)
この映画というよりは、この映画の元になったアニメシリーズにはまった。近未来の超管理社会を舞台にした犯罪ドラマという点で「攻殻機動隊」と同趣向だが、深層心理まで監視対象にされているところがエグい。
3.鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎(2023年/監督:古賀豪)前評判があまりによすぎたので、期待外れになりはしないかとためらっていたが、観てみたら実に面白かった。傑作ではなかろうか。
■F
オッペンハイマー(2024年/監督:クリストファー・ノーラン)
さすがのクオリティ
■黒猫房主
1.すばらしき日々(2021年/監督:西川美和)
2.銀河鉄道の父(2023年/監督:成島出)
3.PERFECT DAYS(2023年/監督:ヴィム・ヴェンダース)
すべて主演が役所公司。
番外.プラン75(2022年/監督:早川千絵)
ロストケア(2023年/監督:前田哲)
安楽死をテーマにした映画。
■過去のアンケート結果は、以下のサイトにて掲載しています。
2010年のアンケート結果
2009年のアンケート結果
2008年のアンケート結果
Web評論誌「コーラ」55号(2025.04.15)
「映画アンケート結果公表2024」
Copyright(c) SOUGETUSYOBOU 2025 All Rights Reserved.
|