2010年はこれに尽きます。本編の面白さもさることながら、町山智浩さんのボッドキャストでの解読で、キルケゴールの信仰への飛躍、「ラストタンゴ・イン・パリ」や「去年マリエンバードで」との繋がりなど、その深さを楽しませていただきました。
子ども向け、というか子どもが主役のSFコメディ、脚本がよいのか笑いのツボがしっかり抑えられていてとにかく楽しめます。「ショーツ 魔法の石大作戦」(2010年/ロバート・ロドリゲス)もまったく同様で甲乙付けがたい。
公開10何年目かで初DVD化記念ということで、これも。とにかくラスト以外は怖い。Jホラーの原点ということ以外にも、映像の美しさ、演出の冴えで、中田監督は天才だ!と思ったものだった。この映画の持つ懐かしい雰囲気は、小学生の頃、夏休みに怪談映画大会を必ず観に行ってた世代にはたまらない。
ゲスト・トーク(浜野佐知監督・映画特集(2010.7.24〜7.30/京都シネマ))に声をかけていただいたので、少し真剣にみました。映画を見たのは3度目でしたが、こんな場面あったかしらと、記憶にないシーンがいくつもあり、驚きました。尾崎翠の原作『歩行』『こほろぎ嬢』『地下室アントンの一夜』を連作映画化した作品ですが、新しい尾崎翠のテキストになっていたかと思います。原作に忠実に映像に転写しただけの映画は、つまりませんものね。それと、前2回の観賞では、主人公の町子を追いがちで、シュールな映像に目が点になりましたが、今回は、男たちが何ともいえないユニークなキャラで登場していることに気づきました。これは (男たちは)、面白いぞと思ったのでした。
1.「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」(2008年/ミゲル・コアン:監督)
これまでタンゴをじっくり聴いたことなど無く、勿論CDも持っておりませんでしたが、この映画の試写を観て、直ぐに2枚組のサントラ盤が欲しくなり、一番安かったアマゾンで即購入。またタンゴに関する本(これが意外に少ない)も古書も含めて何冊か購入。更に上記サントラ盤以外のタンゴのCDにも手を出し、三ヶ月ばかりはどっぷりとタンゴ漬けに。流石に最近では漸く熱も冷めたものの、この映画をご覧になった方は、私の様な行動に走られた方が多いようで、映画館でもサントラ盤が飛ぶように売れたようです。
この映画に出てくる男女のミュージシャンは、いずれもかなり高齢の方ばかりですが、こんな風に年齢を重ねることが出来ればと思わせる風格を皆さん持っていたと思います。
2.「川の底からこんにちは」(2009年/監督:石井裕也)
大笑いしたり、少し涙ぐんでみたり、久々に面白い映画に出会ったとう感じです。この監督の商業映画第一作とのことですが、凄い力のある監督だと感じました。また主演の満島ひかりさんも大物の予感漂う女優さんと感じました。
2010年に見た映画ベスト10
「インセプション」(2010年/監督:クリストファー・ノーラン)
映画ファンを喜ばせるツボを心得た映画
「スティング」(1973年/監督:デヴィッド・S・ウォード)
永遠の傑作。今見ても新鮮な詐欺師の古典話。
「追 憶」(1973年/監督:シドニー・ポラック)
価値観の違う二人の愛の行方が悲しい。これもエバーグリーンの名作。音楽も大好き。
「瞳の奥の秘密」(2009年/監督:ファン・ホセ・カンパネラ)
いくつも張られた伏線が見事。サスペンスと恋愛が融合した大人のための映画。
「フォロー・ミー」(1972年/監督:キャロル・リード)
これも大人にしかわからない作品。ロンドン観光案内映画としても面白い。
「恋するベーカリー 」(2009年/監督:ナンシー・メイヤーズ)
下ネタ満載のコメディ。これまた中高年向き。
「カティンの森」(2007年/監督:アンジェイ・ワイダ)
アンジェイ・ワイダのかつての作品群に比べると力は落ちるが、衝撃的な映画。
「スタンド・バイ・ミー」(1986年/監督:ロブ・ライナー)
永遠の青春映画。
「パイレーツ・ロック」(2009年/監督:リチャード・カーティス)
:笑って楽しむイギリス映画。1960年代に海の上から放送された海賊局のお話。
「新しい人生のはじめかた」(2009年/監督:ジョエル・ホプキンス)
イギリス女とアメリカ男の中年の恋の行方は。
※衝撃度1位 「9.11N.Y.同時多発テロ衝撃の真実」(DVD):あのとき、偶然にもWTCビルの現場にいてカメラを回していたテレビクルーが撮った衝撃のドキュメンタリー。
なお、上記のうち、リバイバルとDVD鑑賞を除いた2010年封切り映画でのベストは、「インセプション 」「瞳の奥の秘密」「カティンの森」「恋するベーカリー 」(2009年/監督:ナンシー・メイヤーズ)「悪人」(2010年/監督:李相日)「新しい人生のはじめかた」「息もできない」(2008年/監督:ヤン・イクチュン)「トイ・ストーリー3日本語吹替版」(2010年/監督:リー・アンクリッチ)「ミレニアム/ドラゴン・タトゥーの女」(2009年/監督:ニールス・アルデン・オプレヴ)「必死剣 鳥刺し」(2010年/監督:平山秀幸)
1.「マチェーテ」(2010年/監督:ロバート・ロドリゲス)
マシンガンとヌードと血みどろ、とぼけたユーモア。理由不明なる物語の飛躍。絶対に不死身な主人公。とてもマッチョなミッシェル・ロドリゲス。クスリで陶然となるリンジー・ローハン。ミニ・ナース姿で戦いに加わるうら若き美女たち。争闘につぐ闘争。これが映画だ。
2.「渇き」(2009年/監督:パク・チャヌク)
ゴシック的な建物で始まり、謎の病原体の治療が検討され、青年神父が登場し、死んでまた生き返り、愛欲劇・家庭劇に発展し、苦悶があり死へと向かい……。超変則的な、とんでもないヴァンパイアもの。観たあとは切なくてロマンチック。
3.「幸福 shiawase」(2006年/監督:小林政広)
ばらばらに解体していく、いくつかの家族共同体。とっくにこわれている場合は大量の殺戮も起きる。しかし小林政広は、解体の様相をみせつつ、別なかたちでの結合もおこなう。解体と結合。「現在」を直裁にとらえたこういう作品が、なぜもっと評価されないのかとても残念だ。
1.「亡命(Outside the Great Wall)」(監督:翰光)
天安門事件をきっかけに中国から海外に亡命した知識人・芸術家・活動家などを世界の国々に訪ね、2年がかりでインタビューした映画。鄭義(ジェン・イー)、高行健(ガオ・シンジャン)、王丹(ワン・ダン)など14名の亡命者の証言と天安門事件当時の記録映像から構成されている。
監督は日本に腰を据え、韓国人の日本軍慰安婦だった女性を描いた「チョンおばさんのクニ」や日本軍の性暴力「ガイサンシーとその姉妹たち」を撮った中国人監督翰光。
2時間5分。中国語・日本語字幕と書いてある。実は私は、DVDを製作に協力した方から貸して貰って見た。しかしそれは英語字幕で日本語字幕がまだ入っていないものだった。私は英語ができないがしかたないので、辞書を引きながら見た。中国に接近するために英語を媒介しなければならないというのもグローバリゼーションの時代らしい体験ではある。やっとこの春シアター・イメージフォーラムで公開決定らしい。
地味な映画だ。しかし中国政府が20年以上かけて必死に封じ込めた(その最大の手法は証言者を海外に排除すること)〈天安門〉は、今年エジプトのタハリール広場という形でイメージとしてだが大々的にリバイバルしてしまった。そのイメージが中国に到達しないように中国政府はいま必死になっているが、インターネットなどのメディアが(検閲はあるとはいえ)広く普及している中国においては無理だと思われる。
その意味でこの春の公開は時期を得たものになった。多くの方が見られることを願う。
ところで小説と言えば、ノーベル賞の高行健『霊山』と、鄭義の『神樹』は莫言と並んで、必読です! 分厚いけど圧倒的な読後感です。図書館で探して読んでからこの映画に臨みましょう。
2.「帰還証言 ラーゲリから帰ったオールドボーイたち」(監督:いしとびたま)
えーと2本目は日本人女性が監督した作品だがこれもまた例外的にしか一般公開されていない。ただその例外的な映画館上映でみた。あら失礼! 作品名と監督名を忘れている。ぐぐってみた。
平均年齢85歳、31人のシベリア抑留者の証言を集めた映画です。
1945.8.15に日本では戦争が終わった。終わったといっても秩序は崩壊せず、刑務所も解放されず(三木清は死んだ)。大陸では終わったことが告げられた日も8.15とは限らない。そのときの周辺の権力関係(ソ連軍や中共軍や国民東軍など)や地元の中国人の様子、自分が属していた軍組織の解体の度合いなども、まさに様々であった。数瞬の秩序の空白の時期があったとも言える。しかし結局は既に敗北した日本軍の隊列に戻りその組織に属する形で生き延びようとしていく、大多数は。特殊な能力人脈を持つ人以外、広大な大陸において他に方途はなかった。で結果、(日本国家に売り渡され?)シベリア抑留に至る。60年ほど経った平均年齢85歳の人のインタビューで構成されているので、以上のような問題を細部まで描き出しているわけではない。しかし監督の問題意識は明白でありそれに応えることができた映画だと思う。
類似の映画として、世評が高かった羽田澄子作品 「嗚呼 満蒙開拓団」がある。開拓団の悲劇とそれを追悼しようとする日本人と中国人の友情を描いた映画で、良くできている。開拓団の悲劇を知るためには、それを知ろうとする日本人と中国人の共闘がなければ知ることはできない。そのような認識の限界の苦しさを問おうとするより、追悼しようとする日本人と中国人の友情を歌い上げてしまっており、見やすくはあるが思想的深みはないのではないかと思った。
3.台湾映画「海角七号」(2008年/監督:ウェイ・ダーション)
去年1月に見た。ブログに書いた。
韓国映画「クロッシング」についても書いた。
ところでヴィターリー・カネフスキー監督「動くな、死ね、甦れ!」(1989年)はやはり名作! シベリア抑留の周辺に住んでいたロシア人たちもかなりひどい生活をおくっていたことも分かる
■黒猫房主
1.「めがね」(2007年/監督:荻上直子)
「かもめ食堂」(2005年)同様の時間と空間の和んだテイストが気に入っている。小林聡美・やもたいまさこ・光石研の組合せは絶妙。老後は、こんな生活をしてみたいと思わせる。
2.「アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち」(2008年/ミゲル・コアン:監督)
あの複雑な楽器バンドネオンを弾いてみたいと思った人は私だけではないでしょうね? あの独特のバンドネオンの和音とキレがアルゼンチンタンゴには欠かせない。
3.「いつか読書する日」(2004年/監督:緒方明)
年末の深夜TVで2回目を観た。田中裕子と岸辺一徳の抑えた演技がよかったが、こうした秘めた情愛の濃さは「堪えきれない重さ」かもしれない。それで映画の結末は悲劇にみせて<昇華>に至ったのだろうか。因みに主人公役の田中裕子の部屋の書棚にある河出書房版のドストエフスキー全集が印象的で、彼女は寝床で『カラマーゾフの兄弟』を読んでいた。
★昨年のアンケートは,こちら。
Web評論誌「コーラ」13号(2011.04.15)
「映画アンケート結果公表2010」
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