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図書新聞2002/09/07
現代風俗の現場から——サンドロ・ヴェロネージ『超・リスト』

語り手が道ばたで拾った広告チラシを頼りに魔術師を訪れて、その場で身の上話をでっちあげながら魔術師とかわすやりとりをユーモラスに描いた「アンダルシアの魔術師」をアンソロジーで読んで以来、いつかヴェロネージのエッセイをまとめて読みたいと思っていたところに、『超・リスト』Superalbo(Bompiani, 2002)が出た。既刊の単行本からの抜粋に加えて2001年までの文章が収められている。

小説『この歓びの列車はどこへ向かう』でデビューした59年生まれのサンドロ・ヴェロネージは、一昨年『過去の力』でカンピエッロ賞を受賞するなど、同年代のバリッコ、タマーロ、ロドリと共に若手から中堅へ見事に移行した人気作家のひとりだ。しかしここでは小説ではなく、何気ない日常の事件や風俗の現場に身を置くかれのルポタージュの面白さを指摘したい。

現場ルポといっても「潜入」とか「突撃」といったどぎつい形容詞は似合わない。せいぜい家具屋の主催するバス旅行(最後に巨大展示場で買い物をさせるのが目的)に既婚者を装って紛れこむ程度で、聖母マリアが出現するというオリーブ林を見に行ったり、女子サッカーの試合や高校卒業口頭試問を見学したり、新型スオッチ発売に徹夜の行列をする若者に混じったりする。皮肉たっぷりの語り手による物語は、むしろ一見たわいのない事柄から生まれる。ベオグラードでのボビー・フィッシャーの復活戦の観戦記、一躍スターとなった「トト」スキラッチへのインタビュー、モラヴィアの墓地訪問といった有名人が登場する物語もあれば、バンジージャンプ、フライトシュミレーター、スクラッチくじなどの最新流行をみずから体験するルポもある。リヴォルノの大学生によるモディリアーニの贋作騒動、カポーティ『冷血』によく似た一家惨殺事件など、三面記事をフォローする雑食性好奇心が魅力である。

ヴェロネージの観察日誌からは、包括的でもなければ一貫性もない、不定形の断片からなるパッチワークのような現代社会像が浮かんでくる。それはまた、かれの小説作品の素材として選別される以前の、混在するジグソーパズルの山だと言えるだろう。


Sandro Veronesi, Superalbo; le storie complete, Bompiani, Milano 2002.

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