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図書新聞2004/12/04
青春像を巧みに描いて——フェデリコ・モッチャ『天より三メートル高く』

表紙写真

フェデリコ・モッチャ『天より三メートル高く』(2004、フェルトリネッリ)は、ローマの若者の間でフォトコピーの形で回覧されてカルト的な人気を得た恋愛小説で、原作となった映画も大ヒットだという。題名は「天にも昇る嬉しさ」という表現をもじったものだ。

裕福な家庭で不自由なく育ったバービは、学校では真面目な優等生、最新ファッションと音楽が大好きで、「白馬に乗った王子様」との出会いを夢見る十八歳の女の子。一歳年上のステップは仲間とバイクを乗り回し、道場通いで鍛えた肉体で暴力を爆発させることで鬱憤をはらしている。お嬢様とチンピラ暴走族という別世界に属する二人の出会いと別れを描いた物語は、現代版「ロミオとジュリエット」のようだ。

ステップの暴力と仲間たちの馬鹿騒ぎを毛嫌いするバービは、しだいに彼に惹かれていく。ロマンティックながら気の強い彼女と、傷ついた内面を悪ぶった態度で隠している彼とのぶつかり合い、二人を取り巻く家庭や友人との軋轢が話の中心となる。設定は多少紋切り型かもしれないが、映画やテレビの脚本を手がけるモッチャは、深夜の公道でのバイクレース、警察との衝突、パーティでの大乱闘、学校を抜け出しての浜辺のラブシーンなど、現代の青春像の最大公約数を、巧みな対話描写を通じて浮かび上がらせることに成功した。物語に感情移入した十代読者から圧倒的に支持されているのがその証拠である。

一度は「天より三メートル高く」舞い上がった二人は、生活環境の違いから結局は別れてしまう。バービに新しい恋人ができるという現実的な結末は、状況はまったく違うが、フィリップ・ロスの『さようならコロンバス』にも通じる初恋の歓びとほろ苦さを感じさせる。最近の純愛ブームに見られるように大人の追憶のなかでかつての恋愛が理想化されるとしても、現実の十代の恋愛では互いを傷つけあう激しいエゴの衝突と破綻の方が普通だろう。


Federico Moccia, Tre metri soprar il cielo, Feltrinelli, 2004.

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