イタリアでホラーといえば、ダリオ・アルジェントの『サスペリア』などの映画が有名だが、ホラー小説はどうか?
そんなことを考えていたときに、G・ロメロのホラー映画『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド/ゾンビの誕生』を思わせるという触れ込みで紹介されているのを知って読んだのが、ジャンフランコ・マンフレディの『赤魔術』(Magia rossa, Feltrinelli, 1983) だった。実はロメロの映画を観たのは小説を読んだ後、つい最近というより、今この文章を書きながらなのだけれど。
小説の舞台は80年代のミラノ、歴史研究家アルベルトが19世紀末の奇妙な人物「トンマーゾ・ライネル」に関して書いた論文から物語は始まる。元恋人のマリーザ、彼女の現在の恋人であるマリオとの三角関係に重ねて、ミラノに出没していた「魔術師」ライネルの正体探しが進行する。産業革命とラッダイト運動、初期マルクス主義とフリーメーソンの社会革命、そして降霊術といったさまざまな世紀末思想の申し子であるライネルは、古代エジプトの魔術を用いた機械の支配と破壊を企んでいたのだった。
古文書をめぐる歴史ミステリーの雰囲気をもつ前半に対し、後半はライネルの現代への輪廻転生と彼の「赤魔術」による死人の復活というクライマックスに向かって、まさにニュー・ゴシックかモダン・ホラーかというスプラッターぶりをみせる。評論家ステファノ・ターニによってエーコの『フーコーの振り子』と比較されるメタヒストリー性が、テレビ・映画の脚本にも携わるというマンフレディのヴィジュアルを意識した文章によってみごとに支えられたホラー小説だと言えるだろう。
ところで、モダンホラーなら(とりあえず)一件落着で幕となると思い込んでいたものだから、まるで収拾のついてない結末には意表をつかれた。ゾンビの襲来というカタストロフで放り出されてしまうと、読者は思わず笑ってしまうもののようだ。
Gianfranco Manfredi, Magia rossa, Feltrinelli, 1983.