ルイージ・マレルバといえば、1963年に短編集『アルファベットの発見』で新前衛派運動の一人としてデビューして以来、映画や児童文学にも関った多芸多才な前衛小説家である。先日、冷笑的なグロテスクさを特徴とする彼が『作家の恥』(Che vergogna scrivere)というエッセーを出版した。作品を捧げた権力者に対して作家たちが感じてきた卑下の指摘から始まり、作家のあり方、文学の意味などについて、彼独特の風刺を込めて語っているようだ。
だが、今回紹介したいのは1978年の小説『威張りん坊』(Il pataffio) である。時代は中世、結婚によって貴族としての称号を手に入れた主人公ベルロッキオが任命された領地はまったく何の価値もない不毛の地で、称号自体もあやしげなものだった。やたらと御触れを連発して貧しい農民から食料を巻き上げる領主ベルロッキオの高雅な言い回し、毎晩夢魔といちゃついたあげく領主の妃ベルナルダと姦通してしまう好色神父カプッチオが喋るラテン語とイタリア語の混交語、農民の代表としてかれらに立ち向かう知恵者ミゴーネのラツィオ方言、この三者三様のやりとりは、抱腹絶倒のグロテスクな喜劇を織り成す。
しかし彼らの前に共通して存在するのは、貧困という現実であり、心と体をさいなむ食欲と性欲である。ラブレー流の「食欲は食べるにしたがって起こる」的な豊穣さとは反対に、欠乏が想像力と欲望をかき立てる世界なのだ。中世説話には御馴染みのスカトロジーはもちろん、男色あり、獣姦あり、妻殺しあり、人肉食あり、ミゴーネの放った犬によって去勢されてしまったベルロッキオが自殺して果てる結末まで、物語はマレルバ独特の黒いユーモアで満ちている。
イタリア古来の民話の伝統とか、マッケロニーカ(羅伊混交)文体で有名な『バルデュス』のフォレンゴなど、あれこれ連想したくなる佳作と言えるだろう。
Luigi Malerba, Il pataffio, Einaudi, 1978.