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図書新聞2002/01/12
アブノーマルな知識体系への欲望『異常な科学の百科事典』(ザニケッリ)

ボローニャのザニケッリといえば、イタリア語辞書の代表格「ジンガレッリ」などの辞書類で有名な老舗の出版社だが、99年の『異常な科学の百科事典』は古今東西の「異端科学」を集めた奇抜な事典である。

翻訳不可能な言葉遊びの副題、Forse Queneau(「たぶんクノー」と「たぶんノー」をかけて「おそらクノー」とでもすべきか)が示すように、編纂のきっかけは、パリの国立図書館の書棚を渉猟した若きレーモン・クノーが目論んだ「不正確な科学の百科事典」にある。クノーの対象はフランスだけだったが、ここでは国を問わず、いわゆる「正統科学」から外れた異端児、世間から理解されない天才が顔を並べている。だからといって「正統派」と「異端」の対立をあおるわけではない。不可能で馬鹿げたものに思われる偏執狂的理論や、ユーモアをこめたグロテスクな仮想学問が「権威ある正統派」と同じ地平に乗せられているのは、あらゆる学問の根底に「知識体系を構築する欲望」が感じられるからだ。占星術、錬金術などのオカルトから、フロギストン説・天動説・エーテル説といった過去の学説、地球空洞説からUFO、永久運動機関の発明、完全言語の発明や架空の生物学まで、あらゆる分野の(偽)学問が千を越える項目に列挙される様子は、まるで知識の百鬼夜行だ。

しかもその知識を披露するのは実在した「変人」とは限らず、文学作品の登場人物も含まれる。パピーニの小説にはシラミ学・逆さま歴史学・殺人学を教える教授が登場するし、ランドルフィの作品では人間の肉声の重さ・堅さ・色彩を研究する学問が説明される。マンガネッリは、死者との会話をテーマにペダンティックな論証を展開する。シラノ・ド・ベルジュラック、スィフトからクノー、ペレック、ボルヘス、エーコ、カルヴィーノに至るまで、文学に登場する「想像上のマッドサイエンティスト」と「マッドサイエンティストもどき」を網羅した百科事典としても面白い。


AA.VV., Forse Queneau; Enciclopedia delle scienze anomale, Zanichelli, 1999.

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