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図書新聞2002/02/09
クロスワードだけじゃない。エニグマへの誘い——バルテッツァーギ『謎解き学辞典』

長距離列車で、ペンを片手に小雑誌をにらんでいる旅行者をよくみかける。表紙にクロスワードのついた『週刊エニグマ』などの「なぞなぞ雑誌」は旅の友として根強い人気があるが、自宅でじっくり取り組むマニアからすれば、列車で見かけるのは素人なのかもしれない。

一度試しに買ってはみたが、語彙不足で当然挫折した。印象に残ったのは、「挿し絵」にアルファベットが点在する「判じ絵」など、クロスワード以外の種類の豊富さだった。解答を見てもわからない場合も多く、単なる語彙の問題を別にしても、言語センスが要求される不思議な世界がそこにあった。

新聞のパズル欄担当として有名なステーファノ・バルテッツァーギの『謎解き学講義』Lezioni di enigmastica(2001、エイナウディ)は、少々マニアックなこの世界「謎解き学(エニグマスティカ)」への愉しい入門書である。「きる/つなぐ」「くわえる/とりのぞく」「くみあわせる/ならびかえる」といった言葉遊びの基本原理を解説したうえで、クロスワードの作り方から、単語を分断する「シャラーダ」、並び替える「アナグラム」、「回文」など遊びの数々を紹介し、スフィンクスからインターネット時代までの「エニグマ」の歴史を通覧する。有名なエニグマティストを父親としてもち、大学ではエーコの指導のもとで記号論を学んだ経歴が、理論と実践の均衡を支えている。

バルテッツァーギは、『週刊エニグマ』におけるクロスワードなどの「大衆的」エニグマと、少部数の専門誌による「古典的」エニグマを分け、さらに特定の時代や規則に縛られない、広い意味での第三の「エニグマ」を設定する。ここには童謡のなぞなぞから前衛文学、現代のクイズまであらゆる「言語遊戯」が含まれる。問いと答えという形式と、アルファベット27文字の組み合わせへの関心がその魅力の根底にあるという著者の指摘は、神話やミステリーを通じて文学一般への拡がりをもつようにみえる。


Stefano Bartezzaghi, Lezioni di enigmastica, Einaudi, 2001.

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