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図書新聞2006/04/15
政治家対アナーキストの決勝戦——フランコ・ベルニーニ『第一回』

セリエAでは昨年の覇者ユベントスが独走態勢に入ったらしい。イタリアでスポーツといえば「カルチョ」つまりサッカーだ。その第一回選手権が行われたのは今から108年前の1898年5月8日、場所はトリノの自転車競技場だった。4チームのトーナメント戦の結果、初代チャンピオンの名誉を手にしたのは、唯一トリノ外から参加した「ジェノア・クリケット・アンド・アスレチック・クラブ」。名が示すように、イギリス人がジェノヴァに創設したイタリア最古のチームである。延長戦でのゴールデンゴールによる劇的幕切れだったという。

フランコ・ベルニーニ『第一回』(Einaudi, 2005)はこの歴史的な一日を舞台として、当時ミラノで発生した民衆暴動事件や自動車・電灯の登場といった風俗を巧みに織り込んだ時代小説だ。「トリノ・インテルナツィオナーレ」の主将で大会主催者でもあるテオドリーコは、女好きの野心家代議士で、優勝カップとうぶな資産家令嬢の両方を手に入れようと企んでいる。一方、「ジェノア」チームの若きFWデイヴィッド=ジェイソンは、アナーキストの同志から報復テロとしてそのテオドリーコ殺害を命じられ、実行するかどうか悩みながらプレーを続ける。二人のフィールド内外での対決の緊張感が、ミラノの暴動を伝える新聞記者やテロを阻止しようとする警官などの脇役をまじえた群像劇のなかで描かれる。軽妙な会話や描写も、数々の映画脚本を手がけているベルニーニらしい。

想像力を刺激するのは、始まったばかりのサッカーの可能性であり、その場に立ち会ったわずか百人程度の観客が感じたこの奇妙な球技の魅力である。たとえば、初めて見た「フェイント」に驚いたデイヴィッド=ジェイソンが自分でもそれを取り入れたり、テオドリーコが「中盤」という戦略上のポジションを見つけたりする。選手も観客もすべてが初めての体験をした一日だったはずだ。

かつて三浦知良が在籍した名門「ジェノア」だが、昨年セリエBで優勝しながら八百長疑惑のためセリエC1降格の処分を受けてしまった。初代チャンピオン復活の日はまだ遠い。


Franco Bernini, La prima volta, Einaudi, 2005

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