第二次世界大戦終結から60年になるが、イタリアの特殊事情のひとつは、連合軍に降伏した1943年9月から北部解放の1945年4月まで一年半におよぶレジスタンスである。終戦は連合軍に対する「敗戦」としてよりナチファシズムに対する「勝利」として認識され、反ファシズムの規範が戦後イタリアの土台となった。『レジスタンス短編集』(エイナウディ)は、カルヴィーノ、フェノーリオからモラヴィア、ザンゾットまで15人の短編を地域毎に分類したレジスタンス文学の集大成だ。編者ガブリエーレ・ペドゥラは序文で、レジスタンスが戦後文学に与えた影響を、一見無関係に見える作家の作品まで含めて詳細にたどっている。一方、イタリア人同士の内戦という面も重要である。「敗者」として沈黙を強いられてきたファシスト側から見たパルチザンの虐殺行為に関する証言を集めたジャンパオロ・パンサ『知られざる1945年』(スペルリング&クプフェル)が激しい議論を引き起こしたように、レジスタンスの評価をめぐって現在の政治的対立がつねに表面化する。フィリッポ・フォカルディ『記憶の戦争』(ラテルツァ)は、1945年以降の政治におけるレジスタンス神話の受容史を分析した研究書である。また現代史に関して、20世紀の事件を報じた記事を集めたニコラ・グラツィアーニ編『ジャーナリズム講義』(ヌトリメンテティ)が興味深かった。
有名作家の新作小説として、元気な少女を主人公に現代社会の偽善を風刺したステファノ・ベンニ『マルゲリータ・ドルチェヴィータ』(フェルトリネッリ)、ファシズム時代の歴史小説『タイトルなし』とモンタルバーノ警視シリーズ『紙の月』(いずれもセッレーリオ)を発表したアンドレア・カミッレーリ、20世紀初頭から70年代まで主人公の一生を複数の視点と文体でつづったアレッサンドロ・バリッコ『この物語』(ファンダンゴ)がある。そのほか一昨年に歴史小説『人生』でストレーガ賞を受賞したメラニア・G・マッズッコが現代ローマを舞台とした『完璧な一日』(リッツォーリ)、ドメニコ・スタルノーネ『ラビリタ』(フェルトリネッリ)、サンドロ・ヴェロネージ『穏やかなカオス』(ボンピアーニ)、アントニオ・スクラーティのカンピエッロ賞受賞作『生存者』(ボンピアーニ)、ダルマチア出身のエンツォ・ベッティーツァ『失われた本』(モンダドーリ)、ジャンル小説ではジローラモ・デ=ミケーレの犯罪小説『シロッコ』、作家集団「バベットファクトリー」の政治SF『紀元2005』(いずれもエイナウディ)が目を引いた。ロベルト・ベニーニの新作映画『虎と雪』の共同脚本家ヴィンチェンツォ・チェラーミは、短編集『トレット障害』(ガルザンティ)と小説『出会い』(モンダドーリ)を出版している。
最近、若手作家の都市ガイドが目立つ。スカルパによるヴェネツィア、ノーヴェによるミラノに続き、今年はマルコ・ロドリ『島々:ローマ散策ガイド』(エイナウディ)、ジュゼッペ・クリッキア『トリノは僕の家』(ラテルツァ)と、内容も視点もさまざまだが、一般の観光ガイドとは違う都市観察が面白い。また環境問題に関して意外な発見だったのがジョルジョ・バッサーニ『保護すべきイタリア』(エイナウディ)だ。小説『フィンツィ・コンティーニ家の庭』で知られるバッサーニは、自然・文化遺産の保護を目的とする組織「我らがイタリア」の会長を務め、不法建築による自然破壊と戦う一方で生活から切り離された見世物的な「美観」保護にも反対している。
文学評論として、20世紀の総括といえるチェーザレ・セグレ『決算の時』(エイナウディ)、パヴェーゼ、カルヴィーノらが編集者として働いていた時代の出版社エイナウディを回想するエルネスト・フェッレーロの回想録『我らが人生最良の時代』(フェルトリネッリ)、作家養成講座「スクオーラ・ホールデン」による漫画形式の創作入門『NIC:物語工事中』(リッツオーリ)、没後30年にあたるパゾリーニに関する多数の研究書の中からアントニオ・トリコーミ『パゾリーニの未完成作品について』(カロッチ)を挙げておきたい。
Gabriele Pedullà(a cura di), Racconti della resistenza, Einaudi, 2005; Giampaolo Pansa, Sconosciuto 1945, Sperkling&Kupfer, 2005; Filippo Focardi, La guerra della memoria: La Resistenza nel dibattito politico italiano dal 1945 a oggi, Laterza, 2005; Nicola Graziani, Lezioni di giornalismo, Nutrimenti, 2005; Stefano Benni, Margherita Dolcevita, Feltrinelli, 2005; Andrea Camilleri, Privo di titolo, Sellerio, 2005; id., Luna di carta, Sellerio, 2005; Alessandro Baricco, Questa storia, Fandango, 2005; Melania G. Mazzucco, Un giorno perfetto, Rizzoli, 2005; Domenico Starnone, Labilita, Feltrinelli, 2005; Sandro Veronesi, Caos calmo, Bompiani; Antonio Scurati, Il sopravissuto, 2005, Bompiani; Enzo Battiza, Il libro perduto, Mondadori, Girolamo De Michele, Scirocco, Einaudi, 2005; Babette Factory, 2005 dopo Cristo, Einaudi, 2005; Vincenzo Cerami, La sindrome di Tourette: Storie senza storia, Garzanti, 2005; id., Incontro, Mondadori, 2005; Marco Lodoli, Isole: guida vagabonda di Roma, Einaudi, 2005, Giuseppe Culicchia, Torino è casa mia, Laterza, 2005; Giorgio Bassani, Italia da salvare, Einaudi, 2005, Cesare Segre, Tempo di bilanci: La fine del Novecento, Einaudi, 2005, Ernesto Ferrero, I migliori anni della nostra vita, Feltrinelli, 2005, AA.VV., NIC: narrazioni in corso, Rizzoli, 2005, Antonio Tricomi, Sull'opera mancata di Pasolini, Carocci, 2005.