9月8日、全国180以上の広場に人が繰り出した。喜劇役者ベッペ・グリッロが政界浄化法案への署名を訴えた集会「V-day」である。有罪判決を受けた議員の立候補禁止、最長二期までの制限、議員の直接選挙制という彼の提案に30万人を超える署名が集まった。こうした勢いの要因には、根強い政党不信に加えてインターネットの影響もある。政治風刺がきっかけでテレビ界から離れた経験のあるグリッロは今ではイタリア一有名なブロガーであり(http://www.beppegrillo.it/)、動画配信などさまざまな技術を利用してメッセージを伝えている。書店には『ベッペ・グリッロのすべての戦い』(カサレッジョ)、『重要なグリッロすべて』(フェルトリネッリ)など関連本が並んだ。
政治体制への抗議行動を実現し、体制権力の情報操作に対して「反情報」を流す上で、新しいメディアは大きな役割をもつ。今回V-dayのメイン会場となったボローニャでは30年前に大学が占拠され、学生らデモ隊と警官とが衝突した。いわゆる「77年」の抗議運動のなかで反体制の意見の場となったラジオ・アリーチェは、現在のサイトやブログ、さらには携帯に相当するといえるだろう。その結果、騒動を扇動したとして当局によって「アリーチェ」は放送を中断させられるのだが、76年の放送自由化以後、各地に設立された「自由」ラジオ局は若者文化の発信地であった。
30年後の今年、「77年」関連の書籍が目についた。当時の資料を収めた『アリーチェは悪魔:過激派ラジオの物語』(Shake Edizioni)には警官突入時の放送を収録したCDがあり、生々しい状況が伝わってくる。この時代の文化の特徴が「集団性」だとすれば、ジャンニ・チェラーティがボローニャ大学でルイス・キャロルの物語について行った講義から生まれた『場違いなアリーチェ』(レ・レッテレ、1978年版の再版)も集団執筆の一例である。エンリーコ・フランチェスキーニ編『あのころ私は二十歳だった』は当時ボローニャ大学法学部の学生グループだった仲間の回想集であり、アントニオ・ネグリとラッファエッラ・バッタリーニによる戯曲『70』(DeriveApprodi)も70年代がテーマである。
小説に移ろう。ドメニコ・スタルノーネの『第一回』(フェルトリネッリ)は、かつて高校教師だった主人公が昔の教え子の頼みでテロリストの手伝いをさせられそうになる物語と、それを執筆する作家自身の物語が交替する仕掛けが面白い。ヴァレリオ・エヴァンジェリスティによる異端審問官ニコラスシリーズ『オリオンの光』は、14世紀の衰退するコンスタンティノープルで行われる黒魔術の世界と、近未来戦争の陰惨な光景が重ねて語られる。作家集団Wu Mingの『マニトゥアナ』(エイナウディ)は、18世紀北アメリカ大陸を舞台に、開拓者と原住民が入り混じった特殊な部族の運命を描く。
有名作家では、50年にわたる作品を収録したエドアルド・サングイネーティの短編集『しかめっ面』(フェルトリネッリ)、アルベルト・モラヴィアが遺した原稿から再構成された小説『二人の友人』(ボンピアーニ)、騎士道文学に登場する巨人たちの生態研究という論考の形式をとりながら徐々にその執筆者の偏執ぶりが露になっていくエルマンノ・カヴァッツォーニ『巨人たちの自然史』(グアンダ)などの作品があった。
評論ではウンベルト・エーコによる書籍論『植物の記憶』(エディツィオーニ・ロベッロ)と記号学・言語哲学論集『樹木から迷路へ』(ボンピアーニ)や、昨年逮捕されたマフィアの首領プロヴェンツァーノのメッセージを分析したアンドレア・カミッレーリの『きみたちは知らない』(モンダドーリ)、チェーザレ・デ・マルキによる小説論『小説:その読書と執筆』(フェルトリネッリ)、映画史家ジャン・ピエロ・ブルネッタの大作『現代イタリア映画』(ラテルツァ)などを挙げておきたい。
日本語翻訳からは、生誕300周年を迎えたカルロ・ゴルドーニ『ゴルドーニ喜劇集』(名古屋大学出版会)、ガブリエーレ・ダンヌンツィオ『快楽』(松籟社)、スザンナ・タマーロ『わたしの声を聞いて』(草思社)などがあった。
Beppe Grillo, Tutte le battaglie di Beppe Grillo, Casaleggio Associati, 2007; Beppe Grillo, Tutto il Grillo che conta, Rizzoli, 2006; Bifo Gomma, Alice è diavolo: storia di una radio sovversiva, con CD, ShaKe Edizioni, 2007; Gianni Celati (a cura di), Alice disambientata: Materiali collettivi (su Alice) per un manuale di sopravvivenza, Le lettere, 2007; Enrico Franceschini, Avevo vent'anni; Storia di un collettivo studentesco 1977-2007, Feltrinelli, 2007; Raffaella Battaglini e Toni Negri, Settanta, DeriveApprodi, 2007; Domenico Starnone, Prima esecuzione, Feltrinelli, 2007; Valerio Evangelisti, La luce di Orione, Mondadori, 2007; Wu Ming, Manituana, Einaudi, 2007; Edoardo Sanguineti, Smorfie: Romanzi e racconti, Feltrinelli, 2007; Alberto Moravia, I due amici, RCS, 2007; Ermanno Cavazzoni, Storia naturale dei giganti, Guanda, 2007; Umberto Eco, La memoria vegetale e altri saggi bibliofilia, Edizioni Rovello, 2007; Id., Dall'albero al labirinto. Studi storici sul segno e l'interpretazione, Bompiani, 2007; Andrea Camilleri, Voi non sapete: Gli amici, i nemici, la mafia, il mondo nei pizzini di Bernardo Provenzano, Mondadori, 2007; Cesare De Marchi, Romanzi; Leggerli, scriverli, Feltrinelli, 2007; Gian Piero Brunetta, Il cinema italiano contemporaneo: Da "la Dolce Vita" a "Centochiodi", Laterza, 2007;