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図書新聞2006/12/23
海外文学・文化2005回顧(イタリア)——ナポリを舞台に、全世界、多業種にわたる組織を描写(『ゴモラ』)―小説家による評論もめだつ

イタリアの政治とスポーツにとって2006年は話題豊富な年だった。トリノ冬季オリンピックに始まり、4月の総選挙で中道左派連合プローディが僅差でベルルスコーニ首相を破り政権交代。審判の不正操作をめぐる「カルチョ・スキャンダル」でサッカー界が騒然となるなか、6月のドイツW杯では24年ぶりの優勝に国中がわいた。

書店で話題となったのがロベルト・サヴィアーノ『ゴモラ』(モンダドーリ)だ。副題「カモッラの経済帝国と支配欲の旅」が示すようにナポリの犯罪組織「カモッラ」のルポタージュで、複数の賞を受賞した。マントヴァで開催された文学フェスティバルで熱弁をふるう27歳の作家の姿に刺激されて読んでみたが、高級ブランドを支える下請工場の闇労働から始まり、麻薬と武器の密輸、建築工事の不正入札、不法移民を使った売春、産廃の不法投棄まで、全世界、多業種にわたる組織の描写は圧巻である。マッテーオ・スカンニ、ルーベン・H・オリーヴァ『システム―カモッラに関する徹底捜査』(リッツォーリ)もDVDによる映像つきで同じテーマを扱っている。他にも、パレルモ生まれの批評家シルヴィオ・ペッレッラが作家との交流を通してナポリ体験を回想する『ジュウナポリ』(ネーリ・ポッツァ)、小説家エッリ・デ=ルーカが故郷にまつわる詩的散文を集めた『ナポリ性』(ダンテ&デカルト)、1970年生れのアントネッラ・チレントによる街案内『海に輝くナポリ』(ラテルツァ)など、この町の魅力を語る本は多い。

ナポリからシチリアへ渡れば、アンドレア・カミッレーリがランキングの常連モンタルバーノ警視シリーズ『八月の熱風』『スフィンクスの翼』(セッレーリオ)を発表している。カンピエッロ賞のサルヴァトーレ・ニッフォイ『裸足の女』(アデルフィ)は、ファシズム時代のサルデーニャで悲惨な死を遂げた恋人の復讐を果たす女性の物語で、カミッレーリ同様、独特の方言が作品の魅力を深めている。同時代だが北部のコモ湖東岸を舞台とした連作小説で評判なのがアンドレア・ヴィターリ。バンカレッラ賞の『市長の娘』に続き、今年は『オリーブを含めて』(いずれもガルザンティ)を発表。ピエロ・キアーラを思わせる田舎の描写、簡潔な文章と短い章立ての読みやさが人気の理由だろう。

有名作家の新作としてニコロ・アンマニーティ『神の命ずるまま』(モンダドーリ)、スザンナ・タマーロ『私の声を聞いて』(リッツォーリ)、ジャンニ・チェラーティ『放浪者の暮らし』(グランサッソ)。ウンベルト・エーコ『エビの歩み』(ボンピアーニ)、アントニオ・タブッキ『すごろく』(フェルトリネッリ)の二冊はベルルスコーニ批判と現代社会時評を展開した評論である。



文学評論ではラッファエーレ・クローヴィ『虎に騎ったヴィットリーニ』(アヴァリアーノ)、フランチェスカ・セッラ『カルヴィーノ』(サレルノ)、ロレンツォ・モンドによるチェーザレ・パヴェーゼの評伝『あの古い少年』(リッツォーリ)、アンナ・ドルフィ『タブッキ』(ブルゾーニ)といったモノグラフィーの他、ティツィアーノ・スカルパ『非合法な胸騒ぎ』(ファヌッチ)、アントニオ・スクラーティ『未経験の文学:テレビ時代に小説を書く』(ボンピアーニ)など小説家による評論も目立った。ジュリオ・フェッローニら批評家四人が、バリッコから推理小説ブームまでを「メッタ斬り」した『劣等生の机』(ドンゼッリ)は、百ページにも満たない小冊子ながら明確な批判で現代文学の見取り図を提供する。

現代史関連で、『コリエーレ・デッラ・セーラ』紙編集長パオロ・ミエーリがミラノ大学で行った講義をDVD3枚に収めた『第一共和国の歴史』(UTET)が出た。「第一共和国」とは1943年のファシズム崩壊から1993年のベルルスコーニの政界進出までの50年を指す表現だが、現在進行中の「第二共和国」についてはラニエーリ・ポレーゼ編『グアンダ年鑑1989−2006:イタリアの変貌』(グアンダ)が参考になるだろう。

最後に邦訳から二点、近代イタリアを代表する詩人ジャコモ・レオパルディの『カンティ』(名古屋大学出版会)とブルーノ・ムナーリによる想像力論『ファンタジア』(みすず書房)を挙げておく。


Roverto Saviano, Gomorra. Viaggio nell'impero economico e nel sogno di dominio della camorra, Einaudi, 2006;ロベルト・サヴィアーノ『死都ゴモラ―世界の裏側を支配する暗黒帝国』大久保昭男訳、河出書房新社、2008年; Matteo Scanno e Ruben H. Oliva, 'O sistema. Un'indagine senza censure sulla camorra. Con DVD, Rizzoli, 2006; Silvio Perrella, Giùnapoli, Neri Pozza, 2006; Erri De Luca, Napòlide, Dante & Decartes, 2006; Antonella Cilento, Napoli sul mare luccica, Laterza, 2006; Andrea Camilleri, La vampa d'agosto, Sellerio, 2006; Id., Le ali della sfinge, Sellerio, 2006; Salvatore Niffoi, La donna scalza, Adelphi, 2006; Andrea Vitali, La figlia della podestà, Garzanti, 2005; Id., Comprese olive, Garzanti, 2006; Nicolò Ammaniti, Come dio comanda, Mondadori, 2006; Susanna Tamaro, Ascolta la mia voce, Rizzoli, 2006; Gianni Celati, Vite di pascolanti: tre racconti, Granasso, 2006; Unberto Eco, A passo di gambero: guerre calde e populismo mediatico, Bompiani, 2006; Antonio Tabucchi, L'oca al passo: Notizie dal buio che stiamo attraversando, Feltrinelli, 2006; Raffaele Crovi, Vittorini cavalcava la tigre, Avagliano, 2006; Francesca Serra, Calvino, Salerno, 2006; Rorenzo Mondo, Qual ragazzo antico: vita di Cesare Pavese, Rizzoli, 2006; Anna Dolfi, Tabucchi, Bulzoni, 2006; Tiziano Scarpa, Batticuore fuorilegge, Fanucci, 2006; Antonio Scurati, La letteratura dell'inesperienza: Scrivere romanzi al tempo della televisione, RCS Bompiani, 2006; Giulio Ferroni, Massimo Onofri, Filippo La Porta, Alfonso Berardinelli, Sul banco dei cattivi: A proposito di Baricco e di altri scrittori alla moda, Donzelli, 2006; Paolo Mieli, Storia della Prima Repubblica(3DVD), UTET, 2006; Ranieri Polese(a cura di), Almanacco Guanda; Come si cambia. 1989-2006: la metamorfosi italiana, Guanda, 2006.

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