■ 第四幕

 

一人、茶の間で家の外を眺める富士子。そこに清さんが帰ってきて、大家の様子を伝える。

  富士子「どうだった?」

大家さんはよりにもよって、ノミ屋のよっちゃんの所に行ったらしい;

  富士子「よっぽど好きなのかねぇ、あのできそこないの風間杜夫が…」
  清一 「でも、いいとこあるんだぜ。大家が先物に手を出したって聞いたら、
      本気で怒ってた。このバカ大家!って」
  富士子「自分も博打打ちのクセにね…」
  清一 「競馬はいいんだとよ。あれは男のロマンだって…」

清さんが帰ってきた雰囲気を察知して、2階からキクさんと瑛子ちゃんが降りてくる。よっちゃんの所に言ったと聞いて、二人とも驚いてます。

  暎子 「おっちゃん言わなかった?『俺に金貸せ!それで大穴当ててやる』
      って」
  富士子「あの人もそこまで馬鹿じゃないわよ」
  清一 「それが言ったんだよ」
  富士子「言ったの、あの人?!!」

「ほらネ」という表情で顔を見合わせるキクさんと瑛子ちゃん。でも、すぐに清さんが大家さんを殴り飛ばしたらしい。

  富士子「清さん、ありがとう」

旦那を殴られて例を言う人も珍しいとキクさんには言われますが、これ以上、借金が増える愚だけは避けられた模様です。そして、貴子は、安西が町田から預かったお金を持って、それを自分の会社の社長に叩きつけに行ったと聞いて、すぐにその後を追いかけたらしい。きっと、小夜子に対して、2,3発手は出てるだろうと、嬉しそうに話すキクさんと瑛子ちゃん。いや、手をシュレッダーの中に入れたりだとか、壁に張り付け状態にしたりだとか、そんな話で盛り上がっていると;

  清一 「あのーーーーーーーーー。おばちゃんとマジな話すっから」
  キク&瑛子「あい」

と、キクさんと瑛子ちゃんは、ソファーに退避。清さんは台所にいるおかみさんに話をしに行きます。

  清一 「おばちゃん、大家さん戻ってきてもあまり怒らないでやってくれないかな」

清さんが叱ると、大家さんは大声で泣き出したそうな。

  富士子「清さん、やさしいね」

この後、下宿屋をどうするか、自分たち下宿人は所詮、他人なのだから、考えなくていいと言う清さん。なのに;

  清一 「俺はこの下宿屋、好きよ。勿体無いよ、こんな下宿屋がなくなっち
      ゃうのは…」
  富士子「逆のこと言ってるよ、売れと言ったり、売るなって言ったり」
  清一 「そりゃぁ、頭の中グルグルまわってっからよ」

だが、そういう皆のぐるぐる回ってる思いよりも先に、おかみさんは既に次の行動に移していたのだった。今、奥に不動産屋さんに来てもらっていると言う。今年の春から不動産屋からここを売らないかと打診があったという。今から不動産屋と話をすると言って、おかみさんは奥へと引っ込んでいく。

残された清さん&キクさん&瑛子ちゃん;

  暎子 「どうすんの?・・・おばちゃん!!売る気だよぉ〜」
  キク 「イメージできないよ、そんなの、俺。もう、柱とか狸の置物とかと
      一緒で、ここの下宿屋と一体化してるもの」

と、動揺を隠せない慌てるキクさんや瑛子ちゃんに、ずっと黙って座っていた清さんがいきなり立ち上がり、2階への階段を駆け上がり始めます;

  清一 「おめーら、秘密守れっか?」
  キク 「?」
  暎子 「?」
  清一 「俺の仕事、金になるから!」

事情はよく分からないものの、その清一の言葉に、後を続いて階段を駆け上がっていくキクさんと瑛子ちゃんなのでした。



それと入れ違いに、奈津子が自分の部屋から降りてきて、町田がどこかに外出していたらしく、玄関から入ってきて、ソファーに座る。どうも何かに怒っている荒々しい雰囲気;

  奈津子「どうしたの?珍しい」
  町田 「金策に走り回っていたんです、昔の仲間を頼って。でも、ダメでした」

と、町田が説明すると、奈っちゃん;

  奈津子「銀行強盗の仲間?
  町田 「あっ、お金のこと、そうやって想像していたんですか?」
  奈津子「あなたは銀行強盗の頭脳ね。パソコンを駆使して、安全な侵入ルー
      トを確保するの」
  町田 「違いますよ!」
  奈津子「ふふふ…。銀行強盗はね、言い過ぎにしても、何か人には言えない
      事情で日本全国を逃げ回ってる人!!
      賄賂をもらった政治家の秘書とか」
  町田 「いいえ」
  奈津子「援助交際の本締めとか」
  町田 「いいえ」
  奈津子「だいたいね、そうやって何も言わないからあれこれと詮索したくな
      るのよ。あなたは誰?どういう過去を持ってる人?」

と、あれこれと詮索をする奈津子に対し、少し膨れっ面の町田君;

  奈津子「あ、怒った?」
  町田 「別に」
  奈津子「だって、顔をそむけた」
  町田 「それは…。少しは怒りましたけど。どうせ僕の話なんか聞いても、
      つまらないですよ。奈津子さんや貴子さんみたいに面白い話なんて
      ないし。みなさん、そういう話、嫌いでしょ?」
  奈津子「私好き!」
  町田 「嘘ばっかり」
  奈津子「私には面白いかもしれないじゃない。言ってみて」
  町田 「言いませんよ、そんな風にして聞くんだったら」

ますますへそを曲げる町田君。それにめげず、奈津子は、みんな辛いことは隠して、表面的には楽しいことしか言わない。テレビをつければ、楽しいことしかやってない、なんて調子のいいことを言ってみたりする;

  奈津子「そうよ、正直者は暗いのよ!だから、まっち
  町田 「まっち?」小ネタ*4-1
  奈津子「まっちは正直者なのよ!だから、いつまでもグジグジしてる」
  町田 「別にグジグジはしてないよ」
  奈津子「じゃぁ、何なのよ!!」
  町田 「僕的には・・・アンニュイ
  奈津子「・・・」

とまぁ、何でもいいから、話せと言う奈津子に、重い腰を上げて、奈津子に過去を話す決意をした町田君。ちゃぶ台の前に座る奈津子の前に、座布団を置いてそこに座り;

  町田 「じゃぁ、言います」

と、今から話そうとした瞬間、立ち上がって

  町田 「やっぱりやめた」

おいおい…(^^;)。

  奈津子「何で!!!」
  町田 「だって奈津子さん、こう…人を持ち上げて、ダーっと落とすでしょ?
      『へへへ、ていのいい、言い訳だったわね、へへへ』って」
      (↑奈っちゃんの物真似、実演中)
  奈津子「バレた?(^^;)」

改めて、ソファーに座って;

  町田 「僕は・・・謎の下宿人で結構です
      とにかくこの下宿屋が好きで、ここで暮らしたくて引っ越してきた
      んです」

と町田。


ここで安西&貴子帰宅。二人ともすっきりした表情です。町田の渡した現金を金融会社の社長に、叩きつけてきたらしい。原ナマの効果は絶大で、社長は目を白黒。そして、その愛人の小夜子に対しても、往復ビンタを食らわしてきた貴子ちゃん;

  貴子 「確かに可愛いのよ。あややと久保純子を足して、括弧でくくって、
      磯野貴理子で割って、ラーメン茶漬けを振りかけた感じね!」
  奈津子「余計わかんないよ」
  貴子 「それぐらい、男性の食欲をそそるってこと!」

安西も、台所でボールに入れた氷水に手をつけながら、3発殴ってきたという話をします。

  安西 「訴えると言ってましたが、訴えられるわけが無いんだ。お父さんと
      僕を食い物にした状況証拠は揃ってますからね」

そして、町田の前に跪いて;

  安西 「町田君、本当に助かった。ありがとう」
  貴子 「でも、あのお金、何か怪しいお金じゃない?」
  安西 「彼女が色々と想像するんだよ。
      君は銀行強盗の一員でチームの頭脳だって」
  奈津子「私と同んなじ!」
  貴子 「さすが我が姉妹」
  安西 「僕もちょっと推理してみたんだ。
      君は賄賂をもらった政治家の秘書で日本全国を
      逃げ回ってる。もしくは援助交際の本締めで…」
  奈津子「きくさんとおんなじ!」
  安西 「じゃぁ、絶対に違うね。もう少し待ってね、他に考えるから(^^;)」
  町田 「・・・」

町田君、絶句(^^;)。

  貴子 「この靴、誰?」

貴子は玄関に置いてあった見慣れない人の靴を見つけます;

  安西 「僕のじゃないよ」
  奈津子「奥に不動産屋がきてるの」
  町田 「おカミさんが呼んだんですか?!」

その手回しのよさに、さすがおカミさんだと感心する安西。今のこの下宿屋の状況下、かつ大家さんの悪評が加わると、いくら金策に走り回っても徒労に終わることは明らかなのだから。

  貴子 「あんた、こんなところで、何してるのよ。動転しているお母さんの
      側についてあげなきゃだめじゃない」
  奈津子「私だって動転してるわよ」
  安西 「誰だって動転してるんだよ。でもね、1本の矢は折れないけれど、
      3本の矢がまとまれば!」

と言って、台所から3本の割り箸を持ってくる安西さん。だけど、奈っちゃんはその3本を手にして、"ばき!"と、軽くへし折ってしまいます;

  奈津子「動転している人が束になっても、余計に動転する
      んじゃないですか!
  安西 「いじわるぅ〜(涙)」

と、そんなことを言っていても始まらないので、貴子&安西は富士子のいる奥の部屋へと向かったのでした。そして、奈津子も向かおうとしたとき町田が呼び止めます;

  町田 「奈津子さん」
  奈津子「・・・。さっきはいろいろ変なこと言ってごめんなさい。とにかく、
      町田さんには感謝はしてるの。でも、あのお金があっても、もう、
      どうにもならない。不甲斐ない娘よね。へへへ」

そう言って、奈津子は奥の部屋へと向かった。



茶の間に一人ぼっちの町田君。外では犬の遠吠えが響いてます。ちゃぶ台に染み込んだものを指でなぞってみたりしています。そこに、中庭から大家さんが戻ってきました。

  満男 「町田君」
  町田 「大家さん!奥に不動産屋がきてますよ」
  満男 「さっき、窓から見えたよ。あいつはいい奴だよ。あいつのオヤジは
      先代と親友で、きっと悪いようにはしないよ」
  町田 「行かないんですか?」
  満男 「行って、俺が何言える?」

そもそも自分のせいでこうなった以上、自分はこの家の敷居をまたぐ権利はないと言う満男。と、泣き言を言ってるうちに、「俺は負け犬だ」と言いながら、突然、ハシゴを2階へ立てかけ、屋根に登り始める大家さん。

  町田 「危ないですよ!酔っ払って!」
  大家 「来るな、町田!!!」

町田君の静止を振り切って、屋根の上に上がった大家さん、町田君に履いていた草履を投げつけたり、完全に自棄を起こしてます小ネタ*4-2。外で吠える犬の声に同調するように大家さんも;

  満男 「俺は負け犬だ〜!!!アオ〜!アオ〜〜〜!

と絶叫(^^;)。慌てて、奥から奈っちゃんが飛び出してきて;

  奈津子「ちょっと!お父さん!何バカなことやってるのよ!!!」
  満男 「奈津子!!聞け!これが、負け犬の遠吠えだ!アオーーーーーー」

続けて、富士子さんも駆けつけて、台所にあったたまねぎを手に取り、中庭に飛び出します;

  富士子「あんた!負け犬なら、このたまねぎでもくらえ!」
  満男 「犬がたまねぎ食うか!」
  富士子「私の涙の塊を!」

と、言いながら、半ばマジで屋根の上の大家さんに向かってたまねぎを投げつけるおかみさん。そして、最後は半ば泣きながら(いや、笑いながらという時もあったなぁ…(苦笑));

  富士子「一度でいいから、あんたと一緒になってよかった
      と思わせてよ!

  満男 「・・・」

その富士子の言葉に静々とハシゴを降りてくる満男。富士子は洗面所の辺りから雑巾を取り出し、満男に足を拭いて上がってくるようにという仕草をした。そこに貴子が奥からやってきて;

  貴子 「奥で不動産屋さんがびっくりしてたわよ!たちの悪い野良犬です、
      って答えておいたけど、たちの悪い父か…」

  満男 「あなたがこの家の大家です。この家をどうするかは、あなたが決め
      て下さい」

富士子はそう言って不動産屋さんとの話し合いに戻っていき、貴子もそれに続きます。そして奈津子も;

  奈津子「・・・」
  満男 「わかったよ、すぐ行く…」
  奈津子「来てよ、お父さんなんだから」

そういい残して、奥へと下がっていきました。町田君は中庭に散らばった大家さんの草履を元に戻しながら、茶の間へと上がってきます。

  満男 「町田君、俺は一体、何のために生まれてきたんだろうなぁ。下宿屋
      に生まれて、この下宿屋を潰そうとしている。生まれてきた意味が
      どこにあるというんだ…」
  町田 「意味なんて誰にも分かりませんよ
  満男 「あれ、君にも分からないことがあるんだ。何でも知ってそうだけど」
  町田 「・・・(^^;)。目の前のことを一つずつ、一所懸命に
      やるしかないんじゃないでしょうか、意味など
      考えずに
  満男 「・・・。
      目の前のこと、やってくるよ…」

町田の言葉に後押しされて、満男は奥の部屋へと向かった。茶の間に再び一人ぼっちの町田君@三角座り。そこに手ぬぐいでほっかぶりしたキクさんが、怪しげな雰囲気で2階から降りてきて、いきなり町田君の前に立ちはだかるキクさん。

  キク 「町田君、君、下宿人の仲間だよね!」
  町田 「ええ。そのつもりですけど」
  キク 「秘密守れるよな?」
  町田 「えっ??」
  キク 「手、出して」
  町田 「こうですか?」

と、町田が片手を差し出すと、その手を取って、「ふっ」と息を吹きかけるキクさん。思わず町田君も;

  町田 「きゃっ」

などと、可愛い悲鳴を上げてます(*^^*)。

  町田 「何なんですか?!おまじないですか?」

町田が尋ねると、キクさんは手にした紙袋から黄色のヘルメット@ヘッドライト付を町田に渡します。

  キク 「清さんが夜の、仕事、教えてくれたんだよ」
  町田 「工事現場か!」
  キク 「だったら秘密にすること無いじゃん。秘密の仕事!」
  町田 「泥棒か!」
  キク 「しーーーーっ」
  町田 「いや、誰もいないじゃん」
  キク 「・・・。鉄板泥棒だよ」
  町田 「お好み焼きやさんだったのか!」
  キク 「違うよ!」

キクさんが物分りの悪い町田君に、清さんの夜の仕事について説明します。何と、夜、仲間と建築現場に忍んでいって、建築用の鉄板を盗んでいたのだった。元々、建設現場で働いていた仲間が集まっているので、それぞれがクレーンなどのエキスパート。針金一つでクレーンのエンジンをかけ、運び出すことが可能なのだ!

  町田 「それって犯罪じゃないですか!」
  キク 「そうだよ」
  町田 「え〜〜〜〜〜っ!!!犯罪やるの?
  キク 「だって、血判状押したじゃないか!」
  町田 「押してないですよ」
  キク 「押したじゃないか」
  町田 「えっ、だってあれ、おまじないか何かじゃ…」

と、あまりの展開に町田君がおどおどおどおど・・・としていると、2階から清さんと瑛子ちゃんもジャージ姿で降りてきます。

  清一 「キクちゃん、仲間ゲット?
  キク 「ゲット!」

と、既に町田君、泥棒の数の中に入っちゃってます(^^;)。

  町田 「清さん、いつからこんなことやってるんですか?!」

聞けば、3年前にリストラをされた仲間が、保険金目当てに当たり屋をやったものの、上手くいかずに本当に死んでしまった。その死んだ仲間の家族のために、他の昔の仲間たちが集まって、リストラされた建設会社の工事現場から、盗みをするようになったという。

  瑛子 「リストラされなきゃ死なずにすんだのにねぇ…(;o;)」

そんなお涙頂戴の話に、わなわな震え始めた町田君。

  町田 「ほ・・・本当ですよね(号泣)」
  キク 「あれ、マッチもこういうの苦手?」
  町田 「はい。マッチ泣けちゃう!

キクさんから手ぬぐいをもらって、涙を拭いてます(^^;)小ネタ*4-3 。鉄板は1枚3万円。100枚盗めば300万円になる。

  町田 「すごいじゃないですか!!!」
  瑛子 「でも、来年の3月でやめちゃうんだよね?」
  町田 「どうしてやめちゃうんですか!もっと続けて下さいよ!」小ネタ*4-4
  清一 「だって、犯罪は犯罪だろ?」
  町田 「あ、そうか(納得)」
  清一 「だから、義務まではと思ってよ」
  町田 「えっ、清さん、中学生だったんですか!」
  清一 「俺じゃないよ、仲間の子供だよ!!」
  町田 「ああ…」

と、町田君、よく分かってんだか、分かってないんだか…(^^;)。

  清一 「まっちも、行くかい?」
  町田 「やります!是非、参加させてください!」

と、勇んで清一に握手を求める町田君。でも;

  キク 「腕力ある?」
  町田 「あるわけじゃないじゃん

と、即答。仕方なく;

  キク 「じゃぁ、見張りしてて。誰か来たら、踊っているフリして

何てことになるわけで;

  キク 「ちょっとやってみ」

と、指示される町田君。一歩前に出て、ゆっく〜りと、バレーのようなターンを“それなりに”一回転してみます。小ネタ*4-5

  瑛子 「・・・。微妙ね

このままじゃいけないと、キクさんが見本として、華麗にハイスピードのターンをやってみせます。町田君はそのお手本を見て、もう一度トライ。とりあえず何とか形にはなりました(た、たぶん…)。そして、気合を入れるために清さん,キクさん,瑛子ちゃんの3人が円陣を組んだその横で、一人、踊りの自主連をしている町田君(^^;)。円陣を組んでいることに気づいて、慌ててその輪に加わります;

   『エイ エイ オー!』

と、気合を入れ、いざ出陣ということろに、奥から奈っちゃん登場;

  奈津子「何やってんの!」

本来なら隠れてやらなきゃ意味がないのに、鉄板泥棒に向かうのだとペラペラ話しちゃうキクさん。その話を聞いて;

  奈津子「お好み焼き屋さんか!」

と、奈っちゃん、町田君と同じボケを言ってますが、更にキクさん、工事現場の建築資材を盗んでお金にするのだと事細かに説明してます。当然、「馬鹿なことはしないで!」とみんなを怒る奈っちゃん。もちろん、町田君にも;

  奈津子「ちょっと町田さんまで!」
  町田 「いや、いい話だったからさ」

と、うじうじいい訳(^^;)。そして、奥から「みんな集まってる?」という貴子の声が。

  奈津子「もう、集まってた」

で、奥に居た大家さん,おカミさん,貴子ちゃんも出てきます;

  奈津子「みなさん、大家さんからお話があります」

そう言って、ちゃぶ台をはさんで下宿人のみんなに向かって正座する大家さん。下宿人の4人も大家さんに向かって正座して座り、奈津子たちは大家さんの後ろに控えて座ります;

  満男 「今、奥で不動産屋の高橋(?)さんと話をしてきました。私は知らな
      かったのだが、春先からここを売らないかと話はあったようで、富
      士子は折をみて、みなさんや私に話をしようと思っていたそうです」

  満男 「そんなときに化石のような町田君が引っ越してきた。昔の楽しかっ
      た時代が戻ってくるんじゃないかと、そう思ったらしいんだ」

  満男 「そこに私の不祥事です。どうしようもない借金を抱えてしまいまし
      た」

来月中に借金を返済しないといけないが、どう考えてもその目処は立つはずもない。しかも;

  満男 「コーヒー代の借金,株で作った借金、奈津子の借金、これからの私
      と富士子の生活…どう考えても、うちはもう、火の車です。おまけ
      に町田君にまで大変なお金を借りてしまって」

  満男 「ここを買ってくれる人は、中西さんといって、先程、直接電話で話
      をしました。この辺りの風情と人情が好きだとおっしゃってくれま
      した。マンションよりも、長屋風のアパートを建てたいと仰って下
      さって、ここの柱とか、トイレ(風呂場?)のタイルとか、使って
      下さるそうです。だが、都合により工事を急いでいらして、秋には
      基礎工事を始めたいそうです。9月あたまに、ここを引き渡すこと
      にしました。
      急で申し訳ないが、2週間以内に、引越し作業を進めてください」

  満男 「富士子も何か言いなさい」

そう促されて、おカミさんが一言;

  富士子「今まで、家族のようで…。家族のようにしてくれてとても楽しかっ
      たけど、こういうことになりました。本当にありがとうございまし
      た」

  満男 「貴子も」
  貴子 「今まで兄妹のようにしてくれてありがとう」
  満男 「奈津子も」
  奈津子「ありがとう。もっとこのウチにいればよかった…」

黙って話を聞いている下宿人たち。キクさんは、大泣きしながら、さらにフガフガ鼻を啜りながら…(^^;)。その横で、ティッシュBOXを手にした瑛子ちゃん;

  瑛子 「(゚゚;)バキ☆\(--;)」(^^;)

そして、大家さんの話の続き・・・

  満男 「全て私のせいです。いままで本当にありがとう。失うことになって
      何が一番大事か、今になって分かりました…」

思いの丈を話す満男。その話を、皆、黙って聞いていましたが、その静寂を破って、キクさんがおもむろに拍手をし始めます;

  清一 「キクちゃん…」
  キク 「・・・。
      大家さん、よく喋ったよ!こんなにちゃんと喋った大家さんを見た
      のは、この24年間で初めてだ!それに免じて、勘弁してやる!」

キクさんに続いて瑛子ちゃん、町田君が大家さんに向かって拍手を。そして、大家さんも「ありがとう」と言いながら下宿人に向かって拍手。さらにおカミさんたちもそれに続いて拍手・・・と、なぜか拍手の中央にいる清さん(^^;);

  清一 「あのーーーーーーーーーー。一言、言っていいかな?」
  満男 「何でも行って」

  清一 「バカ大家!

  全員 「そうだ!(拍手)」

大きな拍手が茶の間に起こります。それに続いて、それぞれが溜まっていたものを吐き出し始めます;

  暎子 「私もいいかな・・・?この人格崩壊者!!!

  全員 「そうだ!(拍手)」

  貴子 「せっかく帰ってきたのに、何なのよ!」
  全員 「そうだ!(拍手)」

  奈津子「ちっとも癒されませんでした!」
  全員 「そうだ!(拍手)」

大家さんへの集中砲火で盛り上がってますが;

  満男 「誰か、良い事も言ってくれ!」
  全員 「・・・(しーーーーーーーーーーーん)」

その場の空気を察し、最後に町田君が挙手をして、立ち上がります;

  町田 「あの、僕、いいですか?」
  キク 「いいぞ、町田!」

  町田 「この日の出荘が好きでした!
  全員 「そうだ!(拍手)」

そして、トイレのほうに駆けていき;

  町田 「この、鍵の壊れたトイレが好きでした!
  全員 「そうだ!(拍手)」

次は、サイドボードの上の熊の置物を指して;

  町田 「この、熊の置物が好きでした!
  全員 「そうだ!(拍手)」

そして、舞台の左から右へと駆けていき;

  町田 「この、よっちゃんの、よっちゃんの黒電話が好き
      でした!
  全員 「そうだ!(拍手)」

  町田 「この、奈っちゃんのミシンが好きでした!
  全員 「そうだ!(拍手)」

再び舞台中央に戻ってきて;

  町田 「あの、キクさんに誘われて、瑛子さんが入ってるお風呂
      場を覗いちゃいました!
  暎子 「いやだ、言ってくれればよかったのに…」
  キク 「ごちそうさま!(拍手)」(^^;)

  町田 「僕は、この日の出荘の最後の下宿人として、
      歴史に名前を刻みました!
  全員 「そうだ!(拍手)」

  町田 「まだいいですか?」
  キク 「いいぞ、いけ、町田!!!」

と、ここで興奮している町田君、中庭に出て、ハシゴを使って屋根の上に上っていきます。ほとんどステージ感覚(^^;);小ネタ*4-6

  町田 「ワタクシ町田恭平、この日の出荘が好きでした!
  全員 「そうだ!(拍手)」

  町田 「ああ・・・(嗚咽)」

  キク 「がんばれ!!」

  町田 「ワタクシ町田恭平、この日の出荘が
      大好きでした〜!!!!
  全員 「そうだ!(拍手)」

  町田 「以上、まっちでしたぁ〜!!!
      ありがとうございました、ありがとうございました」

と、ご清聴のみなさまにお礼を言う町田君。盛り上がっている茶の間に、奥から安西さんが出てきて(あっ、安西さんが居たのを忘れてた…)

  安西 「あの・・・終わりましたか?」

安西さんは、奥で、契約成立のお祝いに不動産屋さんが飲みたいと言ってることを告げに来たのでした。・・・と、ここでようやく冷静になった町田君。自分が屋根の上にいることもようやく気づいた様子で、屋根の上で一人アタフタしています。
茶の間では、大家さん、改めて全員に向かって深々ととお辞儀、みんなもお辞儀。そして町田君も屋根の上から丁寧にお辞儀(^^;)小ネタ*4-7。大家さんは安西&貴子と一緒に、奥の部屋へと引っ込んでいきます;

  富士子「大丈夫、町田君?」
  町田 「すみません、興奮しちゃいまして…」

町田君は、ゆっくり、一段一段、階段を下りてきます。

  清一 「俺の部屋で飲みなおそうか?」
  富士子「町田君、ちょっと話したいことがあるの」
  町田 「はい」

町田君は家に上がり、ティッシュで額の汗をぬぐい、その他の下宿人たちは2階へと上がっていきました;

  富士子「奈津子も、もう寝なさい」
  奈津子「本当になくなっちゃうんだね…」
  富士子「本当になくなっちゃうのよ」

そうして、奈津子は自分の部屋に向かったが、階段の途中で蹲って、こっそり富士子と町田の話を聞いている。

  富士子「マッチ、こっちでお茶でも飲まない?」
  町田 「はい」

そうして、ちゃぶ台を挟んで座る富士子と町田;

  富士子「お金の話なんだけど。どうやって返済していけばいいのか相談しよ
      うと思って。何か使うアテがあったのだったら悪いじゃない」
  町田 「別に、使うアテはありませんでした」
  富士子「じゃぁ、何で持ってたの、あんな大金?!」
  町田 「退職金なんです」
  富士子「ああ、退職金」
  町田 「ええ。ここに来る前に現金で受け取って、こういうことも珍しいと
      思って、銀行に預けずに持ち歩いていたんです」
  富士子「ああ、退職金。会社にお勤めだったんだ」
  町田 「ゲームの会社です」
  富士子「係長さん?」
  町田 「社長です」
  富士子「それはお見逸れしました」
  町田 「いえいえ」

  富士子「社長なのに、どうして、会社を辞めてここに?」
  町田 「幽霊みたいに感じちゃったんです。そこにいるのかいないのか、分
      からないような」
  富士子「幽霊?そういえば、そんな感じがする。ちょっと触ってみてもいい?」
  町田 「どうぞお試しください」
  富士子「いやぁ〜」
  町田 「いやぁ〜」
  富士子「大丈夫、温かい、生きてるわ」
  町田 「(^^;)」

  町田 「たぶん、つかれちゃったんですね。普段、ゲームのことばかり考え
      ていたんで。最初はプログラマーだったんですけど、大学のときに
      作ったゲームが当たって、友達なんかいなかったのに、大勢の人が
      集まってきて。いつのまにか、社長に祭り上げられてました。外に
      出れば、知らない顔の人たちのいるパーティーばかりで・・・。
      僕、もてたんですよ」
  富士子「あ、自慢したいんだ」
  町田 「ふふふふ、まぁ、そうかな」
  富士子「そりゃぁ、社長さんだもの」
  町田 「ええ。社長というだけで、コンパニオンや若い女性がたくさん集ま
      ってきました。社長と言う肩書きは存在しても,僕はどこにも存在
      しないんです」
  富士子「それが、フワフワか…」

  町田 「それでびんびん生きている感じ欲しくて、会社を辞めて・・・」
  富士子「びんびん生きている感じ?」
  町田 「手の届く距離で、会話をしたり、喧嘩している感じ?つまり、ここ
      です。この…ちゃぶ台です
  富士子「ちゃぶ台?」
  町田 「(ちゃぶ台の上に)この醤油の(入れ物の)輪っかが残った感じと
      か、あと、ほら、油性まじっくの後が残った感じ・・・」
  富士子「それ、ここじゃない」
  町田 「そうですよ。だからここにきたんです。少なくともこの1ヶ月間、
      そういう生活ができました」
  富士子「一つ聞いていい?それがあなたにとっての幸せなの?」
  町田 「違いますか?」
  富士子「無い物ネダリじゃ無くて?」
  町田 「わかりません、いつもフワフワしていましたから」

  町田 「でも、おカミさんは幸せじゃないんですか?」
  富士子「どこが幸せなの?あんな亭主と一緒になって、借金ばかり作って…」
  町田 「でも、びんびん生きている感じがしますよ。僕にはそれがありませ
      んでしたから」
  富士子「それはあなた、他人事だからよ。不幸な小説を読んでいる気分で、
      旅行にでも来たような気分になってるのよ」
  町田 「そうかもしれません。でも、大家さんからいいこと教わりました」
  富士子「あら、あの人が何を言いました?***、チャンスだ、偉くなる!」
  町田 「それがすごいじゃないですか。大家さんには未来しか見えてないん
      ですよ。あの年で明るい未来しか思い描けないなんて、凄いですよ!」
  富士子「あら、バカと紙一重ね」
  町田 「まぁ、バカの方に近いと思いますけど」
  富士子「でも、そこがあの人のいいところなのかもね」
  町田 「だと思いますよ」
  富士子「あの人にもいいところがあったんだ」
  町田 「ええ。だから、お金はいつでも結構です。僕は失くしたつもりでいますから」
  富士子「それはいけないわ。何年かかっても、お返しします」
  町田 「じゃぁ宝くじにでも当たったら返して下さい。その方がいいんです。
      無いと思えば、僕には未来しかなくなり
      ます

町田は富士子がそれ以上話をしようとするのをさえぎって、「おやすみなさい」と自分の部屋へと戻っていった。

茶の間に残された富士子。町田が言ったちゃぶ台の上にある醤油の輪っかの跡だとか、マジックの落書きだとかをなぞってみる。そして、それまで気丈に振舞っていたのが、一人になって泣き伏してしまう富士子。

 

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