■ 第三幕
そして、一ヵ月後の昼下がり。
※2階にある宴会場=町田君の部屋。ようやく荷物の整理がついたのか、ギターケース(色んなシールが貼ってある)や整理棚などが置かれてます。その上には招き猫+女優さんのモノクロ写真などが置かれてます。そして壁にはなぜかコント55号の映画のポスター(『出発進行!』とか書いてあった)もありました。これって、町田君の趣味なの???
さて、奈津子が何か階段下の物置から、赤い手提げ袋を取り出してきている。そこに、貴子が買い物から帰ってきます。乾物屋でコーヒーが安くて買ってきたので、一緒に飲まないかと奈津子を誘う貴子。そして;
貴子 「いや〜、ついに言われちゃったわよ、乾物屋のおばさんに。株屋の
旦那、どうしたの?って」
奈津子「えっ、それで何て言った?」
貴子 「言ってやったのよ、私が不倫して、あいつも不倫して、そして別れ
ました、って」
呆れ返っている奈津子に、「わが人生、悔いなしよ」と言い放つ貴子は、この1ヶ月、実家に戻ってきてリフレッシュができたと言う。
貴子 「人生の夏休み…。でも、それもそろそろ終わりにしないとね」
そういいながら、コーヒーを入れる準備をする貴子。奈津子もコーヒーカップの準備をして、ちゃぶ台に並べます。そして、奈津子は、手にした赤い手提げ袋から、手作りの巾着袋を取り出す。
奈津子「探していたの。デザイナーの原点」
奈津子が取り出した巾着には、ベージュ地にちゃぶ台のアップリケがされてます。それは小学校4年生(かな?)のときに奈津子が作ったもので、先生に誉められた思い出の作品。ちゃぶ台の上には、あれこれ食卓の上の品も並んでいます;
貴子 「これ、おはしでしょ?」
奈津子「爪楊枝だよ!」
貴子 「ソース入れ」
奈津子「醤油さし!」
貴子 「何でウンコがあるのよ!?」(お下品ですが、そのまま再現(^^;))
奈津子「かりんとうだよ!」
とちぐはぐなやり取りをしつつも、懐かしんでいる二人。一方、「姉ちゃんのもあるよ」と奈津子が袋から取り出したのは、貴子が小学校のときに金賞を取ったという書道の作品で、そこに書かれた文字は『結婚』『嫁』『根性』。先生に一番好きな言葉を書くように言われたところ、この言葉を選んだらしい(苦笑);
貴子 「これ、3つで1つになってるの。根性で結婚して嫁になるっ!」
当時から結婚に憧れてはいたものの、そういう女性ほど、不幸になると自己分析している貴子姉さんでした(苦笑)。そして、この際、これらの作品を壁に貼っちゃおうということで、画鋲を探して順番にサイドボードの置いてある壁に並べてみます。
奈津子「なんかいいじゃない、姉妹揃って挫折して帰ってきました〜、みた
いな」
貴子 「あんんたも復活してきたねぇ」
奈津子「もうねぇ、こういうのは自分で茶化しちゃうのが一番!」
そこに台所の奥から大家さん登場。どうもご機嫌斜めです。おかみさんはお友達の展覧会で外出中。残る娘二人にはプールに行ってこいだの、それがダメなら縁日にいってこいだの、どうも家を追い出したい雰囲気です。挙句に、貴子がコーヒーを飲まないかと声を掛けたところ;
満男 「コーヒー嫌いなんだよ!」
と怒鳴り声をあげて、家を出て行ってしまいました[小ネタ*3-1]。父親の不機嫌さに首をかしげながら、姉に;
奈津子「安西と籍戻せば・・・?」
と言う奈津子。でも、奈津子にはそんな気は無いようで、結局、先ほど壁に貼った書道の作品も、「あれ、剥がしといて。見る度にプレッシャーになるから」と、奈津子に伝え、コーヒーカップを手に2階の部屋に戻っていきました。
奈津子「・・・」
茶の間に残された奈津子は、姉に言われたとおり、書道の作品を外し、それを袋にしまいます。そして、ぼ〜っと中庭から縁日の音が響いてくるのを聞いています。
そこに2階の部屋から降りてきた町田君登場@ここでは赤と紺の縞模様のラガーシャツ姿(^^;)。
少し奈津子が何をしているのか、気になりつつ様子を見ています。振り返った奈津子に;
町田 「雑誌、借りようかと思って…」
と、適当なことを言ってるような雰囲気。一方の奈津子も多少ぎこちなく、雑誌を探している町田君に;
奈津子「縁日、行きませんか?」
と声を掛けてみるものの;
町田 「日に焼けちゃうから」[小ネタ*3-2]
(おい!折角のデートの誘いを断るんかい!(^^;))
奈津子「・・・」
町田 「真っ赤になるんだよね。紫外線ブロックしないと」
町田 「夕方からでもいいですか?」
奈津子「(うなづいて)じゃぁ、夕方・・・」
と、少しいいムードになってます(^^;)。そして、町田の過去を知りたがる奈っちゃんは;
奈津子「町田さんは、お仕事しないんですか」
町田 「うん、僕は理系だから、そのうち家庭教師でも探そうかと思ってる
んだけど」
奈津子「理系、無口、冗談が苦手、パソコン持ってる。トマトが嫌い」
町田 「あと、納豆もね」
奈津子「1ヶ月も一緒に暮らしてきているのに、私、あなたのこと、これだ
けしか知らない」
町田 「今の僕はそれで全てですね」
奈津子「過去のあなたは?どういう人?」
町田 「特に面白い過去は何もありませんよ。奈津子さんや貴子さんのよう
に、とても小説にはなりませんね」
と、何が何でも話したがらない町田君は、さらに話を逸らして;
町田 「あ、レコード!」
奈津子「音楽関係者!?!」
町田 「懐かしいなぁ〜。レコード好きだったんですよね。タイガース…、
ジュリーか。ホクロの位置、変わってないなぁ。これ、お借りして
いいですか?」
奈津子「どうぞ・・・(--;)」
と、雑誌とレコードを手に、2階の部屋に戻ろうとします、が;
町田 「これは?」
と、壁に貼り付けられた、奈津子の家庭科の作品に目が止まります;
奈津子「小学校の家庭科の授業で作った作品。変でしょ〜、小学生でちゃぶ
台なんて〜」
町田 「へぇ〜、素敵じゃないですかぁ〜」
そして、それが自分のデザイナーとしての原点で、デザイナーになって最初に作ったバンダナがちゃぶ台の柄だったと言う奈津子。
町田 「!!!!!」
奈津子「すっごく売れたのよ、一度に20枚も買っていく人がいて!」
町田 「そうですか」
それ以上何も言わず、背を向けて急いで部屋に戻っていこうとする町田君。
奈津子「あっ、コーヒー飲みませんか?!」
町田 「コーヒー飲めないんで…」(おい!)
そして町田は階段を駆け上がっていった。がっかりの奈津子ちゃん。さきほどの貴子の書道の作品が入った袋を、階段の倉庫に戻しに行きます。
そこに、今度は2階から、清さん、後に続いてキクさん&瑛子ちゃんが降りてきます。キクさんと清さんが言い合いをしながら、清さんは中庭に下りて、手にしたジャージをそこにある洗濯機に押し込みます。
キクさんの大声に、奈津子だけじゃなく、貴子もドタドタドタを階段を下りてきて(迫力あったなぁ、この駆け下り方(^^;))、話に参加;
貴子 「何、何、何、何?!?!喧嘩?
キクさんと清さんで瑛子ちゃんの取り合い?」
暎子 「あのね、そうやって何でもかんでも男と女で話をしようとするのは
良くないクセだよ」
貴子 「あなたが言わないでよ。男と女の専門家でしょ?」
暎子 「まだわかってないかなぁ。私はね、人間の追及をしているの。男同
士より、女同士より、男と女の方が深ーい所で繋がってるつーの?」
なんて話していると、いきなり渦中の清さんが、中庭から茶の間に上がって来て;
清一 「わかるなぁ〜、手と手が触れ合うだけでいいんだよな?俺とあとで
縁日いかない?」
暎子 「ええ、清さんと一緒に手をつなぐのかなぁ」
などと、冗談の掛け合い(^^;)。
さて、そんな話は置いといて、先ほどのキクさんと清さんの喧嘩の原因について、キクさんが事の次第を話し始めます。昨晩、町田が「奈っちゃんという小説があったら」と言った言葉を思い出し、「キクさんという小説があったら」と少し自問自答してしまい、何も無いんじゃないかと考え始めると、眠れなくなったらしい。そうしてソファーのところで夜中に1人で起きてると、ちょうどそこに泥だらけになった清さんが戻ってきたというのだ。それはキクさんじゃなくても気になると、みんなが清さんに事情を聞こうとします;
清一 「キクちゃんよぉ〜、心配してくれてありがとよ。でも、少なくとも
喧嘩じゃない。話をすると、迷惑を掛けちまう奴がいるから。今日
はこれぐらいで勘弁してくれ…」
それだけ言い残して、自分の部屋に帰っていった。
キク 「余計気になる良い方をしてぇ〜」
心配しても仕方が無いし、清さんが嘘をつくわけが無い。ここは清さんを信用しようという貴子は;
貴子 「それよかさ、上で人生ゲームしない?」
暎子 「どっから出てくんだよ、この流れで!」
貴子 「そもそもそれを言おうと思って降りてきたのよ」
その勢いに負けてか、キクさん(=人生ゲームをやるといつも貧乏農場らしい)&暎子ちゃんは貴子に続いて2階に上がっていきました。
貴子 「せめて、ゲームの中だけでも、もう一回結婚をしたいのよっ!」
そして、一緒に行くのを躊躇いつつ、奈津子もコーヒー片手に2階に上がっていきました。
誰も居ない茶の間。空が急に曇り始める。そこに静かに大家さんが、コソコソと何やら“ワケ有り”っぽい雰囲気でやってきて、こっそりひっそり誰も居ないことを確認しつつ、玄関から入ってくる大家さん。なぜか安西と一緒で、茶の間に招き入れます。
安西が手にしたパソコンを起動させ、相場関連の情報を見ている。何をこそこそとやっているかというと、満男は安西の会社から金を借り、コーヒー豆の先物に手を出したと言うのだ。貴子と別れてしまったことで引け目を感じていた安西は、満男からの50万円の融資の申し入れを断ることができなかったらしい。
安西 「そのときはまだ、競馬だと思っていましたからね。50万円もすれば
十分だと思っていたんですよ。事情をお母さんに話せば、50万なら
払ってもらえる、そう思ったんです」
「大体、何でよりによってコーヒー豆なんかに手を出したんですか?!
一番あぶないのに手〜出しやがって」
満男 「だって、安いコーヒー店が増えてきて、コーヒー豆の値段が上がる
かなぁと思ったんだもん」
と、軽く言っちゃう大家さん。相場では50万円のお金(証拠金)で、その10倍の500万円の豆が買えちゃうらしい。しかも、コーヒー豆はこの時期のブラジルの天候に大きく左右されやすく、霜が降りれば豆の値段は上がり、霜が降りなければ下がる。
満男 「俺は降りる方に賭けたのよっ」
安西 「でも、実際には降りなかった!」
満男 「そうなんだよ…」
その後、損をした分を取り返そうと、再び安西の元を訪ねたが、安西は融資を拒否(当然だよね)。なのに、大家さんは、そこの社長さんからお金を借りちゃったのだ。そして、その応対に出てきたのが、OLの小夜子。
お水を飲んで、一息おく安西さん。
安西 「おかしいな、小夜子は僕には何も…」
と、そうかそうかと、「あれが君の彼女か!」と合点がいった大家さん、「あの娘はいいよぉ。うちの貴子より全然いい!」と安西さんと意気投合(笑)。だけど、安西さんにしてみれば、大家さんがお金を借りに来たことを、自分に言わないことを不信に感じ始め、更に大家さんの話を聞くと、小夜子は最初は少し硬かったが、行く度に愛想がよくなっていったらしい。
安西 「ちょっと待って下さい。何度も、って、そんなに何回も行ったんですか?」
満男 「7〜8回かなぁ」
安西 「お金を借りにですか?!」
満男 「そりゃ、お茶を飲みには行かないよ!」
安西 「つまり、コーヒー豆の値段が下がる度に、お金を借りてコーヒー豆
を買い足していったんですね!」
どれだけお金を借りたかと言うと、トータルで指一本(1,000万円)。コーヒー豆はさらにその10倍の金額を買ったということで、それだけのことを小夜子は安西には何も言わなかったというのだ。
貴子の実家=つまりこの下宿屋狙いで安西と付き合い始めた小夜子は、手切れ金狙いで安西と付き合い始めたのではないかと推察する。
満男 「あ、君、はめられた!」
安西 「しかし、僕は貴子と別れてしまった。もう、手切れ金は当てにでき
ない。そこにのこのこと、家の持ち主が現れた!お父さん、あなた
は飛んで火に入る夏の虫だったのです!」
満男 「虫だったのか、俺は!」(笑)
しかし、小夜子は君の彼女なんじゃないのか?と問い詰めると、実は家にやってくるのも月に一回。しかもそのときは料理を作って待ち、「僕には指一本触れさせてはくれません」という悲惨な状態らしい。今から考えれば社長と小夜子はできていたのだろうと。
安西 「ああ、信じていたものがガラガラと音をたてて崩れてくぅ」
満男 「それはショックだろう…」
安西 「ショックといえば、これ(1本)もショックですよ。これだけの大金
を借りたとなると、お父さん、どれだけの豆を買ったかお分かりで
すか?!」
満男 「桁の違う、これ(1本=1億)、だろ?」
そうして、安西がパソコンで今のマメの値段を見ると、何とグラフは値を下げ、当初の取引の半分で取引されているではないか。つまり5,000万円の損失をだしたことになり、満男はこの5,000万+安西の会社から借りた金の1,000万プラス利子を支払わなくてはいけない;
満男 「でも、また豆の値段が上がるまでおいておけばいいわけだし…」
安西 「お父さんは9月ギリで豆を買っています。つまり9月中にこれらの
お金を支払わなくてはいけません」
その事実を聞かされ、腰を抜かして、そのまま台所の奥に逃げ込んでいく大家さん。
安西が一人になったところで、2階で人生ゲームをやっていたはずの貴子が茶の間にやってくる。
貴子 「コーヒーカップが欠けたの」
安西 「どこから聞いていた?」
貴子 「お父さんが『虫』のとこ」
安西 「じゃぁ、全部聞いたも同然だね」
そこに大家さんが奥から金庫を持ってやってくる。銀行に預けた300万円で大穴を当てれば、これら借金は返せる!と。その言葉に思わず満男の頬を張り飛ばす貴子(本当に叩いてたよね?(笑))。
貴子 「どうしていつもそうなのよ!!」
その声に、ドタドタドタと、下宿人勢揃い。大家さんは泣き伏してしまってます。下宿人のみんなに、「どうした?」と聞かれても、何も言わずに2階に上がっていく貴子。それを瑛子ちゃんが追いかけます。そこに友達の展覧会に行ってたおかみさんが帰ってきちゃいます;
富士子「ただいま」
天候が悪くなってきたので予定より早く帰ってきたという富士子さん。
富士子「銀座でコーヒーを飲もうと思ったら、1,000円だって。 飲めない、
飲めない、あははははは…」
と乾いた笑いをしつつ、茶の間には全員集合状態&泣き伏す大家さんを見て、否が応でもただならぬ雰囲気を感じます。そして、ふとみると、大家さんの目の前に置かれた金庫。
富士子「あなた、どういうこと?説明して頂戴」
おカミさんに問われて、顔を見ることすらできずに、そのまま大家さん、遁走。清さんが後を追います。
この中で事情を知っているのは安西だけ。躊躇いながらも安西は洗いざらい話をするように富士子に言われます。と、その前に;
富士子「ちょっと待って」
そう言うと、台所に向かい、エプロンをして、冷蔵庫からキャベツを取り出し、包丁片手に準備;
富士子「どうぞ」
富士子さんはキャベツをトントンと切りながら(^^;)、安西の話を聞きます。
安西の話を聞いて、黙って一人、部屋に戻っていく町田。一方、
富士子「安西さん、今回もご迷惑をおかけしてごめんなさい」
富士子「今日行ったお友達の展覧会で、桜の絵があったんですよ。額一杯に
広がった綺麗な絵でねぇ。それを見て、来年は家族みんなでお花見
をしようと思ったんですよ。何の心配も無く、4人でお弁当を広げ
て…。でも、咲く前に散っちゃったわね…」
泣きながら奥に引っ込むおかみさんの後をキクさんが追います。残った奈津子は安西に何か手立てはないかと尋ねます。
奈津子「藁にもすがりたいってこのことね。すがる藁は無いの?」
そこに町田が、この家にやってきたときに手にしていたボストンバッグを手に、部屋から降りてきます。
町田 「安西さん。お金が入ってます。1200万円…」
町田からかばんを手渡され、中をあけると、札束がぎっしり。
安西 「利子の分まである!助かるよ!!ついでに社長に辞表も叩きつけて
くる!」
安西はそのまま駆け足で玄関を飛び出していった。残された町田と奈津子。町田は奈津子に背を向ける。
奈津子「何なのよ、あのお金!あなた一体、誰なのよ!」
町田は自分の部屋へと駆け上がっていった。
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