Web評論誌「コーラ」49/化学物質過敏症・香害に対する社会的認知の合意形成に資する活動の端緒として 過敏症・香害を正しく知る委員会

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Web評論誌「コーラ」
49号(2023/04/15)

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[プロローグ]
いま日本で、世界で、何が起こっているのか。
化学物質過敏症や香害とは? 何が問題なのか?
そこには地球レベルの環境汚染問題が横たわっている。
この病に苦しむ人たちの生の声に耳を澄ませること、
そしてこの病気を正しく知ることの重要性に気づいたら、
その先にSDGsの課題もきっと見えてくるはず。
 
[概   要]
 一度は聞いたことがあるかも知れない「香害」という言葉を。
 それは「ふつう」の生活者が、「ふつうに」使っている日用品である合成洗剤、柔軟剤、抗菌剤などにより惹き起こされ人体に甚大な影響を及ぼす。症状や発症原因は何十年も前から問題視されてきた「化学物質過敏症」と重なる部分もあり今も多くの人を苦しめている。
 かつては住宅建材に含まれるホルムアルデヒドなどの揮発性有機化合物であるVOC物質や野菜や樹木に使用される農薬、豚や牛などの食用肉に使われる抗生物質、様ざまな食品添加物による健康被害が問題になった。そして現在、洗剤や柔軟剤、抗菌剤に含まれる成分により同じような症状を呈する人が増えている。
 いずれも激しい頭痛やめまい、蕁麻疹などの皮膚症状、倦怠感や集中力の欠如などを誘発しその症状は多岐に亘る。
 これらの症状に苦しむ人たちは、その多岐に亘る症状のため症状ごとの複数の診療科を受診するが、それぞれの専門医による対症療法的な処方しか与えられず一向に症状は良くならない。そうこうしているうちに症状は悪化、職場や学校へは行けず、電車にも乗れず、人混みにも行けずなにもすることができなくなってしまう。
 相談に乗ってくれていた友達や家族からは精神的な疾患を疑われ心療内科への受診を勧められる。折角色いろアドバイスしたのにこの人はまだ不満を撒き散らすとばかり、徐々に距離をとられるか喧嘩になるしかなく人間関係にまで齟齬をきたすことになる。
 それもそのはず、これらの症状が指し示す病名は「化学物質過敏症」であり、その病気を治すには専門医を受診するしかないのだから・・・。
 しかしその「化学物質過敏症」を診断してくれる専門医も少ないどころかかつてより減ってきているぐらいである。そんなわけでこれらの症状に苦しむ人たち(この段階で彼ら彼女らは患者ですらないのだから)は地獄のような日々を過ごすしかないのである。
 それでも運よく専門医に辿りついた患者は漸く快方への道を進むことになる。
 しかし、この10年ほどでわが身に降りかかったさらなる悲劇に患者たちはその身を焦がすことになる。その原因こそが香りの害つまり香害であり、その実態は想像を絶するものである。ではそれのいったい何が想像を絶するものなのか。
 それはマイクロカプセルというあらたな技術が産み出したいわば「悪魔の所業」ともいうべきものによってもたらされた。過敏症を誘発する化学物質は様ざまなプロセスを経て人体に入りこんでくる。かつては住んでいる家で、図書館や学校あるいは職場で、草花や植物を育てている庭で、自宅やレストランなど食事を摂っている場所で。しかし香害においては化学物質は罹患する時と場所を選ばない。なぜならマイクロカプセルというナノテクノロジーの投入により、それらの化学物質はいつでもどこでも我々の身体を蝕んでいるからである。
 合成洗剤や柔軟剤に含まれる、極小のマイクロカプセルに包含された香料などの化学物質は使用したその瞬間から周りを汚染する。洗濯時の排水や干した時点でとなり近所にそれらを撒き散らす。洗濯して乾いた衣服を纏った人たちによっていつでもどこまでも持ち運ばれ、時間差でそれらが内包する化学物質の成分をまき散らす。あるときは微風に乗り、あるときは被服が擦れることによって。
 そうして、いままで限定的であった化学物質の暴露の範囲が爆発的に拡大していった。詳細は省くがそれに伴って被害も甚大なものとなったのである。
 事態は人体への影響だけに止まらない。このマイクロカプセルが、衣服とともに外出し空中を浮遊する。または洗濯水とともに排水溝を流れ海まで行きつく。そこで何が起こるか。
 空中を飛散したマイクロプラスチックは、ピレネー山脈や富士山の山頂まで辿り着き、排水を通り海に到着、それを魚介類が食べ神経に入り込む。それを人間が食べる因果応報が起こるというわけだ。そう。話はもはやわれわれ人間の問題を大きく飛び越えて地球規模の汚染に繋がっている。こうした事態を指して香害を「第5の公害」と呼ぶ研究者も現れた。
 人間の話に戻って続けると、住宅由来の化学物質過敏症を発症した人がどこへも行けない、色んなものが食べられない、人間関係に齟齬をきたすというのは上述のとおりである。これだけでもうすでに普通の病気ではなく環境由来の病つまり公害であるといえる。
 しかし香害の出現により事態はより深刻なものとなった。
 化学物質過敏症になったためにどこへも行けない、たとえば主婦であれば、買い物、散歩、旅行を含むあらゆる種類の行楽、子供の学校、親戚の結婚式や法事にも出向けない、親の介護にも支障をきたす。かつてそんな病気があっただろうか。
 しかし行動制限という意味では香害はさらにその上を行く。
 まず、ナノレベルのマイクロカプセルのせいで家の中に居てさえ、有害な化学物質は平気で入り込んでくる。VOC物質を放出する建材やペンキ、抗菌剤が使用されている建物には入れない、乗り物には乗れないだけでなく家の外でさえも大きなダメージを被る。そう、よほど極端な自然の中を除いて過敏症患者の居場所はどこにもないということである。
 このことが何を意味するか。それはいまこの時代この病を得たら日常生活を送る場所がこの日本に限ったとしても全くないということを意味する。
 いまいちど言うが、そんな病気が人類の歴史上どこにあっただろうか。病気だけれど基本的に薬は飲めない、大けがを負っても手術はおろか病院にも入れない。これから来ると言われている南海トラフなどの大地震があったとしてもおそらく避難所には行けないだろう。
 このように著しく人としての生存権を脅かされてなおこの病気に対する世間の無理解は引き続き患者を苦しみ続けている。
 世間の無理解は無知に由来する。この場合無知とは馬鹿の別称ではなく、文字通りこの病気およびこの病気を取り巻く実態を「知らない」という意味にほかならない。
 柔軟剤の臭い(成分)のキツさをいくら訴えたところで、「ふつうに」売っている商品を「ふつうに」購入し使っているだけ、それのどこが悪であるのかと。その通りである。百歩譲って使っている人に罪はない。しかし、一方でいままで説明してきたように苛烈な環境で忍従を強いられる人たちが多く存在するということはまぎれもない事実である。そんな人たちの窮状を目の前に、ほんの少しの想像力を働かしてその人たちに寄り添う意思を示すことはできるはずである。
 まずはこの病気のことを知(識)ってもらい、自ら調べてもらい、つらい立場の人たちのことを想うこと。われわれが生きているこの地球環境に思いを馳せること。そしてこのような商品を平気で売り続けるメーカーや規制を加えようとしない政府にその重い腰を上げさせる。つらい立場の当事者に手を差し伸べることはもちろん必要だが、事態がここまで逼迫してきているいま必要なのは根本的な変革である。それはメーカーに人体や地球環境に悪い商品を作らせない、この一点に尽きる。
 昨秋この運動を始めて少しの月日が経ったが、最近"Innocent Pollution"という言葉を旗印に活動している。われわれが「イノセントポリューション」=「悪意なき汚染」と呼んでいるのは、この病気を取り巻く環境に横たわる構造的な問題でありいまのところ解決しそうにはない。
 一般市民は、「ふつうに」売っている商品を「ふつうに」使用していて、テレビCMで盛大に紹介されている商品が健康に良くないはずがない、これを使っている自分に対して側にいると体調が悪くなるとか、この商品を使っているため地球環境が汚染されるだとか、だから使わないでくれとか、目にも見えないのに一方的に言ってくるが一体何を言ってるのか解らない。そもそもそんなに身体に悪いものならとっくに国が禁止しているはずだ。なぜ他人から「ふつうに」使っている製品の使用を止めてテレビCMもやってない知らない、いま使っているものより高い商品を買わなくてはならないのか。職場では症状を訴えたとしても、「香りは好みのもの」「一人のためにみんなが使っているものを変えることはできない」と多数の原理で聞き入れてくれずやがて厄介者扱いされ退職に追い込まれるというのはよくある話だ。
 隣近所に配慮を求めると、近所づきあいの手前「大変ね」「分かる」とは言うものの結局、柔軟剤は止めてくれないし、洗剤も無香料のものに変えてくれない。こうして過敏症患者や香害被害者は地域でも孤立しますます居場所がなくなっていく。
 そういった無知からくるいじめに似た仕打ちや白眼視、優しさを装った日和見主義的な態度が健康被害者を深く傷つけ、公害(による汚染)=環境破壊を助長していく。水や空気、人を傷つけていることに全く気付かずにいままでどおり危険な洗剤や柔軟剤、抗菌・抗臭剤を使い続けている。
 あらためて言う。決して自らの所為ではない病を得てなお患者たちは声を上げてはならないのか。この病気に罹った患者が悪いのか。「ふつうに」売っている商品のために健康を著しく損なっている事実を訴え、それを止めて欲しいと懇願することは悪なのか。他の人たちが「ふつうに」売っているものを「ふつうに」使う権利があると主張するのであれば、患者たちにも「ふつうに」生きる権利があるはずではないのか。
 活動で使用しているTシャツにも書いているが、健康被害者の願いはいたってシンプルなものである。「おいしい空気が吸いたい」
 
ps)ふだんは「ひとりと一匹のステッカー大作戦」という活動を行っています。そして今回、これらの問題についてのパネル展示を下記の要領で開催させていただくことになりました。ぜひご来場いただきこの問題についてすこしでも知ってもらい、考えてもらい、そして患者の生の思いに触れていただければ幸いです。
 
【展 示 名】
(化学物質)過敏症・香害・SDGs―現状と未来を見据えた参加型パネル展示―
【日  時】
2023年5月1日(月)〜5月31日(水)
【場  所】
 堺市総合福祉会館
 堺市堺区南瓦町2-1 堺市総合福祉会館1Fロビー
 ※平日及び土日 9 時〜21 時祝のみ閉館
【主  催】
 過敏症・香害を正しく知る委員会(ひとりと一匹のステッカー大作戦)
 
「ひとりと一匹のステッカー大作戦」の活動が分かるSNSは以下の通りです。
 

Web評論誌「コーラ」49号(2023.04.15)
寄稿:化学物質過敏症・香害に対する社会的認知の合意形成に資する活動の端緒として(過敏症・香害を正しく知る委員会)
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