教室で労使対立を再現する

 


 働いた経験のない生徒に労働問題を教えるのはけっこう難しい。下手をすると、労働三法を中心とした堅苦しい説明に終始し、血の通わない授業になりかねない。労働問題を何とか自分の身近な問題として楽しく勉強させる授業を工夫してみた。

 

1.悪徳経営者募集

(1) 授業が始まったら、まず、架空の会社を作り、会社名を板書する。
次に、その会社の経営者を3〜4人募集する。会社名は何でもよい。仮に△△株式会社としておこう。経営者を募集するときは最初から「悪徳」と言わない方がよい。誰しも悪役はやりたくないからである。多くの場合、仲良しグループが集団で名乗りをあげてくれる。
 経営者以外の生徒には全員この会社の従業員になってもらう。また、この地域には△△株式会社以外に働く場所がないことを告げる。

(2)経営者が決まったら、経営者チームに会社の決まりを作ってもらう。1日の労働時間と時間給ぐらいの簡単なものでよい。労働基準法も何もないと仮定して、なるべく「悪どい」勤務条件を考えてもらう。

 

・勤務時間 朝4時〜夜10時(昼休みをのぞく17時間勤務)

・時給 400円 

・ボーナス  もちろんなし 

 

 

    

2.従業員の反発を抑える

先 生「今、経営側が上のような条件を出してきたが、みんなそれでいいか? 納得して働くか?」と従業員役の生徒に聞く。

従業員「もっと給料を上げて欲しい」。

従業員「勤務時間も短くして欲しい」。

経営者「だめです。今文句を言った人、クビにします。明日からは会社に来なくてけっこうです」。

先 生「一人ずつ会社側に要求するとクビになります。では、クビにできないようにするにはどうしますか?」

従業員「みんなで力を合わせて団体交渉します。それで給料をあげてもらいます。」

先 生「それでも給料を上げてくれなかったら?」

従業員「それだったら、明日からみんなでストライキをします。仕事をしません」

先 生「経営者の人集まってください。対策を一緒に相談しましょう」「ストライキを扇動する人は目障りだから、新しく国会で法律を作ってもらい、死刑にしませんか?」(小声で相談)

経営者「かわいそうだけど死んでもらいましょう。死刑に賛成。」(と相談がまとまる)。「○○さん、あなたは新治安維持法に違反したので死刑にします」  

従業員「ワー、それはひどい!」

先 生 「ひどくなんかないですよ。これは実際にあった話ですからね。1886年5月1日、アメリカで労働者が8時間労働を要求してゼネストをやった。ところが、これを指導した中心人物5名が死刑になってしまった。それを記念して今5月1日はメーデーとして労働者の祭典になっている

 

 

 

3.解決への道

先 生「従業員のみなさん、どうしたらいいでしょう?」

従業員「労働者を守る法律を作るしかないわね」

先 生「でも、法律を作るにはまず選挙権が必要です」

従業員「そうだ、まず選挙権を要求しよう」「そして、議会に私たちの代表を送り込んで、私たち労働者のための法律を作ろう!」 

先 生「具体的にはどんな法律?」

従業員「まず、労働組合を認めさせる(団結権、労働組合法)」

従業員「そして、労働組合の要求を会社と団体で交渉できるようにする(団体交渉権)」

従業員「ストライキを行うことも認めさせる(団体行動権)」

従業員「それから、1日の労働時間や最低賃金も決める(労働基準法)」

 生徒からどういう発言が飛び出すか分からないが、発言を上手に生かし、当意即妙に答えたい。各自の学校の状況に応じてさまざまなバリエーションが考えられる。この授業で一番大切なことは、生徒に考える時間をたっぷり与えることである。時には挑発し、意地悪な質問を浴びせかけ、生徒を困らせることも必要であろう。

 生徒は労使のこうしたやりとりを通じて、今の私たちが憲法(28条)や法律(労働三法など)で守られていることや、そうした権利が認められるようになるまでに、多くの血の犠牲があったことなどを学んでいく。
 最後に、授業の中で「新しい発見」や「ビックリしたこと」がいくつあったかなどの感想を書かせてもよい。

  

 なお、この授業で労働組合の重要性を認識すると、今度は、

・それではなぜ日本の労働組合組織率が18%しかないのか
不当労働行為って何?
パートやアルバイトの人も労働組合にはいることができるのか
・「労働組合になぜいろんな種類があるのか

 といったことにも興味を示す生徒が出てくる。
日本の労働組合や日本の労働問題の現状については、以下の私のノートを参照してください。

note-roudou.htm  

 

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