プレミアムステージ特別企画

犬神家の一族 〜誰も知らない金田一耕助〜


04.04.03 Sat 20:03〜22:54 フジテレビ系列 にて ON AIR

 



犬神邸・正面門

そうして、何日か経った夜。犬神家の玄関のベルが鳴る。松子と佐清が東京から戻ってきたのだ。竹子と梅子が出迎える。が、松子に続いて、復員した佐清らしき人物は、三角の黒頭巾を被り、目の部分だけをギラつかせ、無言で屋敷の中に入っていった。その姿に何も言葉が出ない竹子と梅子。



那須旅館・金田一宿泊の部屋

朝。那須湖を臨みながら、依頼人であった故若林から送られてきた『佐兵衛伝』を捲る金田一。『神官との出会い』『犬神製糸工場』『家族の写真』と題された各ページ・・・もちろん家族の写真の中には佐清の写真も当然あった。

  金田一「犬神・・・佐清・・・」

そこに、古館が金田一を訪ねてやってくる;

  古舘 「すみません」
  金田一「おやおや、古館さん。いよいよ問題の遺言が公開されるわけで
      すか?」
  古舘 「金田一さん、私が恐れているのはそれなんです。しかも、戻ら
      れた佐清さんは、顔を隠したままなのです」
  金田一「顔を隠してる?」
  古舘 「若林君に代わって私があなたを雇います。どうか一緒に犬神家
      に来て欲しいんです」
  金田一「えっ、本当ですか?!!いやぁ〜うれしいなぁ〜。いやぁ〜、
      そうですか、そうですかぁ〜。いや、ものすごく奇怪な事件に
      なりそうなんですよね。いやはぁ〜嬉しいなぁ〜。あっ、そう
      ですか、あはは」
  古舘 「・・・」

子供のようにはしゃぐ金田一に、呆然としちゃう古舘さん。古舘さん、後悔してないか?(笑)



犬神邸・大広間

古舘と共に門をくぐる金田一。屋敷の長い廊下を抜け、屋敷の大広間へとやってくる。さすがに金田一も神妙な面持ちで部屋に入ると、既に犬神家の一族は揃っており、佐清・佐武・佐智の3兄弟は上座に並んで座し、それ以外は松子を筆頭に脇に一列に並んで座している。金田一は真っ先に、問題の黒頭巾を被っている佐清を凝視した。

  古館 「みなさん、こちらが金田一耕助氏です」

古舘にそう紹介された金田一は、ゆっくりと頭を下げる。そして再び顔を上げたときに、その一族の一人一人の表情を見、最後に珠代と視線が合い、再び黙って頭を下げた。


「では・・・」と古舘が遺言状を読み上げようとしたときに、竹子、梅子が佐清の素顔を見せるように督促した。皆、マスクを被ったままの佐清が、佐清本人であるかどうかを疑っているのだ。その疑念を振り払うように、松子が「佐清!その頭巾をとっておやり!」と叫ぶ。一種の緊張が走る中、ゆっくりと佐清が黒頭巾を取ると、白いゴムマスクが表れた。

  松子 「佐清はお国のために戦って、顔に酷い怪我をしたのです。それ
      でああいうのを作って被らせてあるのです。私たちの東京滞在
      が長引いたのもそのためです。私は昔の佐清の顔にそっくりな
      仮面を東京で作らせたのです」

佐清がさらにそのゴムの仮面をとると、そこには、焼け爛れた肉の塊とでもいうべき顔がそこにあった。「きゃー」と小夜子の悲鳴が響き渡ったが、他の者も声こそ出さなかったものの、その佐清の顔を見た瞬間、凍りついた。

そうして、それ以上、だれも異議を挟むものは居なかった。


松子の督促され、ようやく遺言書の封を空ける古舘。一同を前に、その文面を読み上げます;

  古舘 「一、犬神家の全財産並びに全事業の相続を意味する、犬神家の
      三種の家宝 斧・琴・菊は、次の条件の下に野々宮珠代に譲ら
      れるものとする」

珠代という言葉が出た途端、騒然とする一族。もちろん、珠代も顔面蒼白の状態である。

  古館 「但し、その条件とは珠代は配偶者を佐清・佐武・佐智の三人か
      ら選ぶことである。珠代が3人から選ばなければ相続権を失う。
      逆に三人がそれを拒むものであれば、珠代が全財産を得ること
      が出来る」

既に、騒然としている一族の前に、次の文章が更に理性を失わせるものとなる;

  古舘 「珠代が死亡した場合は半分は3兄弟に、残り半分は青沼静馬が
      相続する。さらにさらに、静馬が死んでいる、もしくは消息が
      不明の場合は、他に相続者がいなければ、犬神奉公会に全納さ
      れる・・・」

松子・竹子・梅子は、実の娘である自分たちに相続されないなどという馬鹿なことはありえないと叫び続け、それに従う亭主らも、同じ思いで叫び続ける。そんな喧騒の中;

  古舘 「この遺言状は活きています!あなた方が何と仰ろうとも、遺言
      状の精神は一言一句も間違いなく守らなければならない。そう
      して逐一、実行されなければならないのです」

古舘のそんな言葉など誰も聞くものは居なかったが、しかし、それが現実なのである。今、目の前で繰り広げられている光景をただただ、眺めている金田一。



那須湖畔

那須湖畔に一人たたずみ、夕日を眺める金田一・・・

(格好ええ〜〜〜!!できることならこの映像だけであと30秒ぐらいまわして欲しかった…)



古舘弁護士事務所

夜になって、犬神邸から引き上げ、事務所で昼間の出来事を振り返る古館と金田一。

  金田一「血で血を洗うような葛藤が起こることを目的として作られた遺
      書・・・まるで呪いのようですね」
  古館 「全く、酷い話です。こうなると、斧・琴・菊・・・この家宝も
      皮肉なもんです。『良き事を聞く』という守り言葉になってい
      るんですがね」
  金田一「西の方では斧のことを『よき』と呼ぶそうですね」
  古館 「ええ。しかし、こんな遺言を聞くことになろうとは…」
  金田一「珠代さんは、佐兵衛翁の恩人で那須神社の大弐さんのお孫さん
      だそうですが、いくら恩を受けたとはいえ佐兵衛翁はどうして
      赤の他人の珠代さんをあんなにも優遇したんでしょうか?」
  古館 「さぁ。それは私には…」
  金田一「それに、有利な立場な人がいますね。この青沼静馬とは何者で
      す?」
  古館 「佐兵衛翁の息子です。ただ、青沼菊乃のという女工との間に出
      来た子ですが…」
  金田一「女工に?」
  古館 「ええ。今は消息もわかりません」
  金田一「しかしこれでは、静馬君も珠代さんも犬神家の人々に恨まれる
      ばっかりですね」
  古館 「あっ」
  金田一「もし、仮に、誰かを若林さんを買収して、本当に遺言状を読む
      者があったとしたら、この人の為ならと、若林さんがそのよう
      に思える人はいませんでしたか?」

金田一は頭をかきながらそう、古館に尋ねた。その質問に思い当たる節があったのか、頭の中で一人の人物が思い浮かんだ古舘は、眼鏡を外した。

  古館 「・・・あ」
  金田一「その人物が若林さんを殺して、珠代さんの命を狙っている可能
      性が一番高いんですが…」
  古館 「そ、そ、そ、そんなはずはありませんよ。だって、その人が危
      ない目に遭ってる当人なんですからね」
  金田一「珠代さん・・・ですか?」
  古館 「・・・」
  金田一「なるほど。加害者が被害者を装うということはしばしばありま
      すからね」
  古館 「まさか!何の為に?!何の為に珠代さんがそんなことをするん
      です?」
  金田一「来たるべき事件のためです」
  古館 「来たるべき事件とは?」
  金田一「佐清・佐武・佐智もの三重殺人事件」
  古館 「!」
  金田一「珠代さんがもし、あの三人が三人とも嫌いだったとしたら…、
      他に愛人があるとしたら。それに、膨大な遺産を失うのも嫌だ
      ったとしたら…。もしそうなったらあの3人に死んでもらうし
      かないじゃないですか。その準備行動として演じて見せたのが
      度重なる危機。つまり後に事件が起きたときに、自分も犠牲者
      なのだということを装うために…」
  古館 「あなたは恐ろしい人だ。あんたのような仕事をしている人は、
      そんなに疑い深いんですか?」
  金田一「あはははは(笑)。僕は疑っているんじゃないんです。ただ、可
      能性を追求しているんです」
  古館 「まさか、あの珠代さんが毒のタバコを。あんな美しい人が…」
  金田一「・・・」

金田一はそれ以上は言葉を噤んだ…。



那須湖畔

日を改めて昼間。那須湖が臨める場所に佐清を呼び出した珠代は、手にしていた懐中時計を差し出した;

  珠代 「戦争中にまた壊れてしまいましたの。直して頂けますか?」

昔の佐清であれば、この珠代の申し出に対して、いつも快く引き受けてくれていた…。だが、今の佐清は、一旦はその懐中時計を手にしたが、だまってそのまま珠代につき返し、去っていった。そんな二人の様子を影から見ている猿蔵(って、意味深だったけど、意味無いよね?)



那須神社

神社の階段を駆け上がる金田一。境内には、社に向かう古舘や、佐武・佐智らの姿があった。

  古舘 「おや、金田一さん、どうしてこちらに?」
  金田一「珠代さんがこちらの生まれだと伺ったんで、ちょっと寄ってみたんですが、みなさんはどうして?」


そうして、那須神社の大山神主と面会し、1つの巻物を見せてもらう。その巻物の中央には、手形が押されていた。

  大山 「これが佐清さんの巻物でございます。どうぞご覧下さい」
  金田一「これは?」
  古舘 「この地方ではみなさん、戦争に出る前にこういう手形を押した
      巻物を奉納していったんです。武運長久を祈る意味ですね」
  金田一「これを一体、どうしようというのです?」
  佐武?「分かっているじゃありませんか。これでこの間帰ってきたあの
      男が本当に佐清君かどうか確かめてみようって言うんです」
  金田一「それではあなた方は、あれが佐清さんでは無いかもしれないと
      いう疑念がおありなんですね」
  佐武?「無論です。あんなに顔がくしゃくしゃにくずれた男を信用でき
      るもんですか!」
  金田一「しかし、お母さんの松子夫人があんなにはっきりと…」
  佐智 「金田一さん、あなたは伯母という人を知らないんですよ。あの
      人は佐清君が死んでいたら、身代わりでも何でも立てる人なん
      です。あの人は犬神家の財産を僕達に渡したくないんだ!だか
      らそれを妨げるためなら偽者なんでも構わない。自分の息子と
      して主張する。そういう人なんでですよ!」



犬神邸・大広間

そうして、その晩。犬神家の一族は大広間に集合している。上座には、松子と佐清が座し、目の前には先程那須神社から引き上げてきた巻物と、その横に朱墨と半紙が置かれている。つまり、佐武・佐智は、松子に佐清に手形を押すようにと迫っているのだ。だが、松子は、犬神家の長男である佐清に手形を押せなどと罪人でも扱うような彼らの言いように激怒する。

  松子 「この子に、そんな汚らわしい真似はさせません!決して!」

そうして、佐清の手を取って大広間を出て行った。



那須のとある宿(柏屋)

その頃、一軒の宿に復員服を来た、顔を布で覆った男が現れる。



那須旅館・金田一宿泊の部屋

同時刻、金田一は、部屋に寝っころがって、犬神家の家系図を眺めている;

  金田一「若林さんを殺す機会があったのは、復員してきたばかりの佐清
      君を除いて全員・・・絶対的に有利な珠代さん、そうしてあの
      猿蔵・・・」

だが、まだこれまでの材料では、犯人を特定する材料は何も無い・・・



那須のとある宿(柏屋)

再び宿。先程の復員服を着たその客は、宿の主人に対して、宿帳の記載も代わりに書いてくれという。その客が、ちょうど10時を示す柱時計が鳴ったとき、部屋から下りてきて・・・宿を出て行く・・・


その頃、ますくをかぶった佐清は犬神の屋敷で・・・



そうして、最初の惨劇が起きた夜が夜が明けた。



那須湖畔

  『金田一さん!大変なことが起こったんです。若林君の予言が当たったんです!』

その一方を聞いた金田一は、一目散に犬神邸に向かって駆けた(おお、また吾郎君が走ってるよぉ〜(笑))。



犬神邸・中庭

金田一が犬神亭の玄関に到着するやいなや、大慌てで古舘は金田一の手を取って、そのまま庭を駆けていく。古舘は完全に落ち着きを失っているようである;

  古舘 「金田一さん、と、とうとう、とうとう!」
  金田一「古舘さん、一体、どうしたんですか?」
  古館 「来て下さい!来てみればわかります!」
     「恐ろしい!実に恐ろしい!!!正気の沙汰ではありませんな。
      悪魔の仕業なんだ。一体、何のために、あんな恐ろしい、悪戯
      を・・・みみみ、見て下さい、金田一さん!」

そうして、金田一が連れてこられたのは、菊の花が並んだ中庭。そこにはさらに、見事なまでの菊人形が並んでいた。

  金田一「うわぁーーー、綺麗ですね!」(←無邪気)
  古館 「み、み、み、見て下さい、あの顔を!」
  金田一「ん。鬼一法眼 三百の巻 三段目『菊畑』ですね。義太夫狂言の
      名作ですよぉ〜。菊の咲き乱れる美しい庭園を舞台に繰り広げ
      られる若き日の牛若丸を中心とした、源氏再興の物語ですね!」

と、金田一が菊人形を愛でている間も、古館さんは後ろであたふた、おどおど・・・。そんな古舘さんの慌てふためきの様子も気にせず、暢気に演説を続ける金田一君。

  金田一「おお!犬神家の一族のみなさんに似せてるんですね。鬼一法眼
      が佐兵衛翁。皆鶴姫が珠代さん。牛若丸が佐清さん。智恵内が
      佐智さん、そして、笠原淡海は・・・」

と、順番に並んだ人形の最後を目にした瞬間、金田一は言葉を失った。最後のその一体は、頭部が佐智自身の頭と挿げ替えられていたのだった。

  金田一「あっ、あっ、あれは・・・あれは!!」

と、ようやく叫んだ瞬間、その人形の首がボトリと金田一の目の前に転げ落ちた(ホラーだわ…(汗))。

  金田一「あああああああ゛ーーーーーーーー!!」

腰を抜かして尻餅をついちゃう金田一。

  金田一「これは…、これは、殺されたのは佐武君だったんですね…」



犬神邸・松子の部屋の前

  竹子 「松子!!!!」

血相を変えて竹子が包丁を持って松子の居住区まで押しかけている。それを必死で止める梅子たち。だが、その前に現れた松子と佐清は非常に涼しい表情をしている。

  竹子 「あんたが、あんたが、佐武を殺したんだ!!」

と飛び掛ろうとした瞬間、金田一が駆け寄ってきて;

  金田一「あぶない、落ち着いてください!」

と、竹子の持った包丁を取り上げたのだった。泣き崩れる竹子と、それとは対照的に無表情な松子と佐清。二人はそのまま無言で部屋に引きこもった。金田一はそんな二人の表情が読めないでいる。


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