男と女の間には、越えられない壁がある____
そう、例えばこんな風に
ごく普通に<えっちな本>が書店に並んでいた場合______
「俺なら買える。再び買えるゼ!」
男であれば、特に問題なかったりする。
_______20代の男女の間 お昼編________
(~そして五年後~)
「で、何?一体買ってんのホーク・・・お前?」
そして俺はホクホクと上機嫌で、ウェンデルの光の神殿を目指していた。
隣ではデュランが、半眼でじーっと丁寧に包まれた紙袋を見ている。
さっきまで一緒に書店にいたんだから
中身は解っているだろうに、なぜか軽蔑のまなざしを止める事がない。
「デュラン、だってさ~~~~せっかく5年ぶりに6人で会ったんだぜ?
やっぱ話が盛り上がる小道具があったほうが、楽しいじゃねえか!」
「相変わらずお前は、堂々と駄目な奴だな」
そして、ふらふらウェンデル光の神殿・・・というより
その隣にたってるゲストハウスみたいなとこへ、入った。
シンプルな白の建物は、神殿よりどこかモダンな印象だ。
何もかもが直線的なデザインである。
その全体がオフホワイトが基調のロビー、そしてその奥のシルバーのドアが
まるで自動的なかのようにすすすーーーっと開いて
「あっ!きたきた、来たです~~~!もう、アンタがたおっそいです。
ちゃあんと部屋決めできないじゃないですか。ぷんすか!」
はぐれシャルが現れた。
「え~~~~シャル今一人?」
「そうですよう。
アンタがたがあまりに、おっそいからもう部屋決めちまいました!」
「まあ俺は別に構わねえけど。誰と寝ようが」
「なんか発言がさっそくヤラシイなあ・・・デュラン」
「!?」
_________だからなんでホーク、お前はイチイチそっちに走る?
と、キッ!と睨みつけてくる、どっかの素直じゃない奴はもう置いといてだ。
俺はシャルの頭をぽんぽん叩き、次はほっぺたをプニプニし
そしてそれをミョーーんと伸ばして、ぱちんと弾けさせた。
するとシャルはぎょえ!と鳴く。
冒険後5年たったシャルは、身長が伸びた。
全長140センチくらいだ。
ちなみにコイツの属性は光で、攻撃力も倍になり
なんと語尾が「です」に進化した、凄腕モンスター少女になっている。
「・・・
今私の事、まるでモンスターのように見てましぇんか、ホークしゃん」
「・・・いや?
すっごい綺麗になったよなシャルもと、思ったダケサ」
「ほう。今頃ほめても、その
私を憐れむような眼は、隠しきれないようですがねえ?」
「いや?!
シャル、お前のスリーサイズも実にいい感じさ。特にBの盛」
「フ、おしおきスペシャルコース!」
「!!」
_______助けてデュラン!
と俺は後ろを振り向いたが、デュランはへーまあ喰らっとけば、みたいな顔だ。
こいつはコイツで、まあなんか、でかくなった。
17過ぎてからやけに、反則的に身長が伸びたらしく、180センチ過ぎくらいだ。
そしてムカつくことに、外見が妙に垢ぬけた・・・。
一体何があったお前・・・。と思わず出会いがしらは遠い目で、俺は3秒停止した。
ありえねえよ。誰だよお前。って。
「・・・
今お前俺のことは、ありえねえ、誰だお前って思っただろう・・・ホーク」
「!いや全く?
なんで今日はみんな、俺の思考を邪推するのカナ」
「テメエの顔は、整いすぎてて解りやすいんだよ。
俺はその綺麗さ加減が、ありえなくて3秒止まったよ」
「・・・へえ
奇遇だね、デュラン」
そしてまあ、そんなこんなで3人そろったその時
またすすす~~~~っと、全自動な感じのドアが開いて、アンジェラが現れた。
「わ、ホークね。お久しぶり~~~~~☆
まあ、相変わらず無駄に綺麗ね、アンタ」
「いやイヤいや、その言葉はそっくり君に返そうじゃないか、アンジェラ。
君も本当に、いつも余分に美しい」
「別に私は余分じゃないもんっ」
「俺も無駄じゃないさ!」
と、全く5年のタイムラグを感じさせない、意味もなく突っ込みを繰り返す
アンジェラと俺のやりとりは、健在極まりなかった。
それをまた、隣でじーーーーーっと半眼で見てる、どっかのある意味素直な奴がいる。
それが突如俺をトンッと突き放し、しっしっと
まるで子猫を追い払うかのごとく、無慈悲な顔をした。
そして真顔のまま。
「ま、部屋決めっつってもあれだ。今からでも別に、多少希望は通るんだろ」
「デュラン、なんだよ急に」
「是非今夜も男女別にしようじゃないか。
今回も男祭、したいんだろ?なあ、ホーク?」
「・・・!」
そしてデュランは、俺の手に握られた紙袋をまた、じとりと見つめながら
更にしっしっと、追い払うかのような手つきをした。
アンジェラから。
「お、お前。素直すぎだろ」
「素直なのは美徳だろう」
「いやあ、大人になった今や、それは単なるデレだろっ!」
「デレ?なんだそれは。
ステイタス異常かっ」
そして、一応男女別だけど
移動したかったら、別にどうぞですよ?、と意味深なシャルの眼差しとともに
5年ぶり、6人全員集合大会が始まったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そしてたらふく、何故かめ一杯<ウェンデル発・精進料理>を食べ
俺たちは男部屋に向かった。
一切、油とか肉っけが無かったにも拘わらずバイキング状態で
むしろ残すと余るから食え、とシャルに脅迫された(すごく理不尽に)。
よって胃袋が、変に膨張した状態で、俺たちは部屋に帰った。
街の本屋は割と規制がゆるかったくせに、そこはウェンデルかよ!
と思わず、歯ぎしりをしながらの帰途であった。
ああ、肉が食いたい。
「ホーク、お風呂、入る?」
そして宛がわれた部屋に戻ると、先に帰っていたケヴィンが
まっしろの、ふわふわもこもこを来て
ばーーーんと効果音をしょう勢いで、仁王立ちしていた。
「うわ、白いもこもこがいるっ」
「うー、これ、バスローブ、っていうんだって。
気持ちいい。着よう着よう。着てお風呂!」
そしてケヴィンがクローゼットから、ばんばん白いタオル地のそれを
投げてよこしたので、さっそく着てみることにした。
そういえば昔、着た浴衣に似てなくもない。
でもあれよりは厚みがあって、あったかい。
隣でデュランも着ている。
そして、俺はそれを見て。
「・・・
てめえだけが大人になったと思ったら、大間違いだ・・・・」
俺はちっと、悔しくなった。
・・・・・・身長を抜かれまくったからだ。
あの時はあんまり変わらなかった背丈が、今はいっこデュランに追い抜かれてしまっている。
髪も切ったせいで、ヤケにすっきりしやがったな、この野郎と思ってしまった。
それがバスローブなどを普通に着やがった日には、もうキャラが違いすぎるだろう。
実は、名前だけ同じの別人じゃないか?こりゃ。
と、俺は邪推したくなる。
「いいよ。ああ、いいさ。
お前と違ってどうせ俺は、無駄に綺麗なだけの男・・・!」
「!」
よって、やけになってきたので、俺は絡んでやることにした。
うりうりウリッとデュランに抱き付いて、俺の髪と顔をうずめてやる。
するとなんか、デュランは固まっていた。
顔がひきつってぴくぴくしてるくせに、耳まで赤くなっていた。
「何・・・ええ?
もしかしてお前、照れてんの?」
「ぬああっ!いーから離れろ、ホーク!
お前がバスローブなんぞを着ると、何かが殺人的だってわからんのか!」
「・・・殺?」
そしてその、ちょっと意味がわからない事を
わめきだした何処かの抜け駆け野郎は、まあこの際置いといてだ。
俺は紙袋から
ビール、柿ピー、さけるチーズ、サラミまで
どんと来いとばかりに、小さな応接セットの上に並べた。
隣でケヴィンがおお~~と、サラミを嬉しそうに見つめている。
そして極め付けとばかりに
<えっちな本>を高く掲げてみせた。
「風呂の前に、まずは前哨戦だ。
そして
肉を食う!」
「ホーク、すごい!」
そんな俺を賞賛の眼差しで見つめるケヴィンの図、が出来上がった。
だから俺もケヴィンを、ヨシヨシしてみた。
ケヴィンは5年たっても、あまり変わっていないように見えた。
ただ全体的に、よく引き締まって細見になったと思う。
背丈も俺よりは低いが、ちゃんと伸びていた。
そして当時は、やんちゃでワイルドな可愛さだったが
今は、大人びたワイルドな可愛さだ。
それに。
「よしよし、ケヴィンも、もう今なら解るよなあ」と言えば
「ああ!オイラ、よく解ってる、ホーク」と、ケヴィンは笑う。
だから俺はからかい半分に、ケヴィンの頬を指でうりゃっと突いた。
そして
「へえ、じゃどれぐらい解ってるんだろうね。最年少の君が?」と挑戦する。
するとケヴィンは笑顔のまま、指で耳を貸せとジェスチャーをした。
だから俺はすぐ、そこに耳を近づける。
すると
「_______________________」
すごく濃いお話が聞けた。
「・・・」
そして隣でデュランが、デュランのくせに、ちゃんと綿棒で耳掃除をしているのが、見える。
だからといって俺は、お前こそは苦手ジャンルだろ未だな、と思う。
こういうネタは、ば、ばかやろ!とか言って、きっと慌てふためくに違いない。
今やバスローブが似合ってたって、中身はまだそんな感じなんだろ?と思う。
と思っていた_____
と思っていたのに_____ごく普通に
デュランは<えっちな本>を眺めていた____。
「・・・!?」
そしてデュランは___フと、興味無さそうに嗤ったかと思えば
またパラパラとページをめくった。
やがて、何故かヴィジュアル的に訴えるものの無い
モノクロの文字ページで手を止め
「そうか。なるほどな」
とか、真顔で頷きやがった。
「な、なるほどって、デュランお前」
「ああ、勉強になるよホーク。ここんとこは」
「・・・勉強」
「まあ俺は、こういうネタは苦手だからな。
そうは言っても全く解らんじゃ、アイツに悪いし!」
そして、ごく普通にぽんっとそれを渡された。
なのでページを見ると、見事に<字>ばっかりである。
びっしり、こりゃ新聞かよってぐらい、ほんと字しかない・・・・・・・ッ!
「何・・・こんな無味乾燥なページのくせに・・・
何故俺は・・・こんなデュランに負けた気に!?」
「?
画像より実用性を、俺は取るだけのことだが」
「じつ」
実用性
そして俺の脳裏にめくるめくその三文字が舞い、その結果妙に
実用化の対象が、頭をよぎったのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「くちゅっ」
____ん~ちょっと寒いです・・・なんだか悪寒がします・・・
そう思って夜空を見上げていると、隣でアンジェラが笑った。
ほこほこ湯気が出ているその向こうに、白い肌が見えている。
ちょっと赤くなった頬が、すごく綺麗だ。
それが悪戯っぽく、小悪魔的に微笑を浮かべたせいで
何故か私が、照れるはめとなった。
「リースってすごく可愛いクシャミするのね~~
あ~目の保養~~~ホークがうらやま~~~~~~!」
それが乳白色のお湯に、半分顔を沈めながら
足をパタパタさせている。
にゅっとお湯から伸びた足が、つやつやしている。
大胆に太ももまで、時々お湯の間から見えて
何故か私は同性なのに、にも関わらず目のやり場に困った。
だから
「それはアンジェラのほうが、じゃないの?とても綺麗じゃない」
と言うと、アンジェラは
「えー?自分で自分なんか見たって、ぜんぜん目の保養じゃないわよ?
それに私、ほんとはスレンダーな身体に憧れてるの。
まあ無いものねだりなんだけどね。
うん、リースみたいなっ!」
「!」
そして突然がばっ!とアンジェラの手が伸びて、ばしゃーんと勢いよくお湯をはねかした。
次は何故か私の胸元を狙って、水鉄砲をかけまくるアンジェラ。
なんだかくすぐったいので、私も負けじとお湯をはねかすと
突然アンジェラは、私の後ろにシャッと回った。
そして、その白くてスベスベした手が伸びて__
「!・・・ふあっ」
「あらー、けっこうリースって、意外と大きいのねっ。
やわらか~い!マシュマロみた~い!
・・・Cカップ?」
「!!
・・・アンジェラっ」
だから私はそんなアンジェラの横暴に、精一杯抵抗を示した。
小さな露天風呂の表面がバシャバシャ波打って
洗い場までお湯が大きく流れ込んでいく。
その波で今まさに、つかもうとしていた石鹸が流されたらしく
シャルの抗議の声が響いた。
「むきーっ。アンジェラしゃんは今だにエレガントじゃないですねっ。
もっとこう、落着けないんですか、最年長のくせに!」
するとアンジェラも、負けじと言い返す。
今までこちらに向けていた水鉄砲を、シャルに向けて放ちながら
もうすぐ二十代後半にも拘わらず、まるで10代のように叫んだ。
「ちょっとシャル!
最年長とか言わないでよ、なんかイヤッ」
「ふーん、年増の事実は事実です。
ま、でもそんなんじゃ、案外まだアンジェラしゃんが一番お子ちゃまだったり、ですね?
このシャルロットのように、殿方とのふかーーーーい触れ合いも、実は知らなかったりして」
「!」
そして突如
<殿方とのふかーーーーい触れ合いも>
などと不敵に笑う、シャルロットのコトバ。
それはアンジェラに言った言葉だというのに
なぜか私の胸にえいっ!と刺さったような気がした。
ふかーい触れ合いって
あああ、たぶんそういう事ですよね・・・!?
と思いながらも憶測で、多分とかしか思えない程度の、経験値しかない私。
今ちょっとそれが浮彫になってしまった。私ももう20代なのに。
「・・・
ふかい触れ合いって何よ。
シャル、どうせアンタのことだから、また頬っぺたかオデコどまりなんでしょ」
「アンジェラしゃん、失礼ですねえ。
ちゃんと、熱くて深い抱擁をですねえ。
シャルロットは殿方から、いただきましたよ!」
「ははあ、じゃあほんとに<抱きしめるだけ>だったわけね?
それ以上でもそれ以下でも、ないね」
そして自分で落着け、と言ったにもかかわらず、シャルロットの方がむしろ大興奮で
<ケロヨン>と書かれた桶で、お湯を頭からかぶったあと
ばしゃ____ッと露天風呂につかった。
こっちは見た目が10才くらいだから許されるけど、もうすぐ二十歳としては
やはり中々キツイ行動だと思う。
それがザバッと水面から顔を出して、叫んだ。
「むが~~~!だから何だってんですかっ。ハグはハグだもんっ。
じゃあアンジェラしゃんには、ネタがあるんですね!
だせだせっ、あるなら出せ~!」
「・・・
あ、や、そ、それはちょっと・・・」
「ははーん、ほんとは無いんですよねえ。だからそんな伏せ目がちで、顔がまっ赤ですねえ?
嘘はいけないです、嘘はっ」
「いや・・・
嘘とかじゃなくてね・・・まあ、お子ちゃまにはあんまし・・・?
リース・・・うん、このネタだったらきっとリースの方が、この場には最適ね!」
「!?」
そして助け船を求めるように、アンジェラがこちらを見た。
くゆる湯気の向こうに、桜色の肌が艶めいて
透明な滴が、振り向いたアンジェラの周りで輝く。
もこもこ上がる湯気のおかげで、すべて見ることは無いが
それでも、あられのないアンジェラの大きな胸が、目の前で揺れた。
「あう!
アンジェラ・・・!ご、ごめんんさい、わ、わたしにはっ!
ほんとに・・・なにも・・・!」
「そんな訳ないでしょっ。あのホークが相手でしょ?
いいから言っちゃってってばっ」
「~~~!!」
今私の身体が、すごく熱い。それは多分のぼせてるせいだと思う。
だけどそれ以外の戸惑いとか、恥じらいとか、そういうものでも、きっと体温は
目いっぱい、あがっちゃうのだろう。
でも今はもう。それに任せちゃえばいいや、と私は眩暈を感じながら
「わかりました・・・
ではおはなし、します・・・
私と、ホークは・・・!」
と叫びながら
気が付くと私は、お湯に倒れこんでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


★オマケ★

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