_________そして夜



そして風呂から上がった俺達は、あとは寝るだけなので、また部屋に帰る。
ご丁寧にも脱衣所にまでバスローブがあったので、新しいものに変えた。
肌触りがとても柔らかい。

お湯が、もしや温泉だったのか?というぐらい熱かったせいで、若干のぼせ気味だ。
誰か倒れてなきゃいいが、というくらい火照ってしまう。

しばらく汗が引きそうに無い・・・。


柔らかなタオル
身体を火照らすお湯の熱
少しだけ回った酔い


窓から夜空を見上げると、今夜は満月だった。







___20代・夜編___








部屋に戻ると月明かりに照らされたベッドの上で、ホークアイも満月を見ていた。
小さな部屋が夜の闇に沈んで、月明かりしか、今ここを照らすものは無い。
夜に沈んだ部屋の窓辺に、大きな月だけがある。


「____明かり、つけねえのか」


だから、月をぼうっと見上げるホークに聞いた。
だがホークは聞こえてないのか、無視しているのか、ごろんと向こうを向いた。
それで周りを見渡すがケヴィンがいない。


「ケヴィンは?」


だからもう一度聞いてみた。
それでも、ホークは答えなかった。


「・・・」


まあ、もう後は寝るだけだから。
・・・これでもいいか。


そう思って俺も、窓辺に行った。
サイドテーブルに置かれたビールが、よく冷えていたのでまた拝借する。
もう後は倒れりゃいい訳だから、無礼講だと思いながら。

するとホークアイが、そりゃ俺のだよと言わんばかりに、グラスを奪った。
そして一気飲みした。


「なんだ、起きてるんじゃねえか」


だから笑ってそう声をかけた。
するとホークは「うるさいなあ、俺はもう寝るよ」
と言いながらまたごろんと横になり、月を見上げた。
そして


「・・・デュラン。
お前ってさー、この年になっても、何もかも上手くいってるカンジがするよなあ」


などと言いだした。
だから俺は


「ん・・・そんな訳ないだろう。この年になって、順風満帆なんてあるか」


と言い返してやった。
するとようやくホークアイは笑顔になった。


そしてベッドサイドから、よく冷えたビールをまた出す。
それを冷やしたグラスに次ぎながら、まあお前も飲めば、とそれを突き出された。
だから改めて俺はそれを受け取った。
すると


「じゃさ!アンジェラとも苦労してる訳だな?心身共に」

「!」


などとまた笑顔で、聞かれてしまった。
____だから俺は、無言でグラスに口をつける。
それはほろ苦く、深い麦の味がした。


「まあ、それは」


そして手短に答える。
今の俺たちの問題を、ここでゴチャゴチャ言ったって、なんの解決にもならないからだ。

するとまたホークは、2杯目に手を出し始めた。
お前昼から数えて何杯目だよ?と俺は眉をひそめたが、やっぱりまた、まあいいかと思う。


・・・今夜は無礼講だからだ。
6人揃う夜なんか、滅多に無いのだから。
冒険が終わった後には。


「・・・
じゃあデュラン、お前も困ってるって認識でいいわけだ?
昼の事情もそうだけど

__________夜の情事も、な」


「!」


そして
<夜の情事>と


微笑を浮かべながら、月明かりに浮かぶホークアイの顔
その艶やかな唇が、甘く囁く。

それで一瞬、俺の時が止まる。

________もう経験も積んで、慣れたけど

やっぱり、こういう話題は向かない体質かもしれない。



「・・・なんだよ。何か言いたいことでもあんのか。ホーク」


だから照れ隠しに平静を装いながら、ぐいぐいビールを飲んでやったら
キンキンに冷えてたせいで頭につんと来た。
それを笑いながらホークが見つめて


「ま、正直俺もうまくはいってなくてだな。
だからデュラン、お前が順風満帆なら秘訣でも伺おう、という所かな!」


とか軽く言う。

だけど俺は秘訣とかの前に
ホークアイがこの俺に、よりによってそっちを聞くのか?とビビる。

数年前じゃ考えられない展開だ。
この色男の代名詞みたいなのが、何故俺なんぞにだ。

だから軽くあしらうつもりで、言ってやった。
俺にはまあ参考になる事なんて、一つも言えないだろうから。



「・・・
夜の秘訣?
そんなもん、無いぞホーク。

あんなのはまあ____________男の押しだ。

以上!」


だがそれを聞いたホークアイは、不満げに頬を膨らました。
その綺麗な紫のおさげが、ゆらっと揺れる。


「っ。
それができねえ相手だから、苦労してんだよ俺は・・・。察しろよ。
それができんデュラン。お前は押しばっかで、きっと手が未熟だな!」

「!
なんだとうっ」


だが突然また昔のように、空気が戻った。
だからやっぱり俺よりは、ホークアイの方が得意ジャンルだと思う。
にも関らず困るという事は、よっぽどに違いない。


えーとこの場合
つまりリース相手には困っている、という認識でいて、いいんだろうか?


そしてそのリースに対して、よっぽど困ってるホークは
また昔のように、お調子者加減を弾けさせながら続けた。


「よし・・・ならこうしようぜ、デュラン。
お前は今から押しの伝授をする。
そして俺は、ソフトな気遣いを語ろうじゃないか?
夜の相手には、そのどちらも必要だからな・・・!」

「押しの伝授?」

「あるだろ最近、壁ドンとか床ドンとか、ドンドンとかなっ」

「最後のはなんだ!」



____________くそ、どーあってもそっちの方向か!


唸るが、もう仕方ない。
一旦こうなったホークアイが、飽きるまでこうなのは、毎度のことだった。
だから俺は諦めてドンだかなんだかを、ちょっと考えてみた。


<別に俺がアンジェラを押し倒す時、ドンなんて音はしない>


・・・とか言えばいいのか?
なんだか頭が痛くなってきた。


だがそんな俺を後目にホークアイは、あーだこーだとブツブツ言ったあげく

「やっぱり、まずはムードだよな。問題はどう持ち込むかだ」とか
「人の身体は繊細だし、個人差もあるから、まずは研究だ」とか

不埒な事を楽し気に吟味した後で


「で、お前はどう押すわけだっ」


などと、ぐるんっと振り向いて言い出しやがった。
だから俺は言葉に詰まる。


「あーーーー俺はーーーーーーーーーーー」

「照れんな。もうここまで来たら、吐け。全部吐け」

「いやホーク、お前に吐け!って言われてもだな・・・」



押しに、はたして言葉なんかあるだろうか?

・・・あんなのは最後、勢いだ、勢い!

だから俺は、よしと覚悟を決めた。
話して解るモノでは無いし、だったら実演するまでだ。


だから俺はホークアイの肩をつかみ、そのままベッドに押し倒した。


___ドンッツ!


って音は、やっぱりしなかった。


「______________ッツ!!」

「とまあ、こんな感じだな」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」



何故か、顔が釣れたてのタコみたいになったホークアイが
じたばたしているので、それも押しで封じてみた。

やっぱ普段から鍛えてると、身体がなまってない。
良かった、このまま壮年まで鍛えあがった身体でいたいなー、などと思っていると

ホークアイが


「これが押しか!?押しなのかあーーーーーーーっ!」

と叫んだので、俺も

「じゃあお前もやってみろよ・・・気遣いって奴を・・・な」


と、勝ち誇って、囁いてみた。
そして内心フフフフフン、俺だってこのジャンルで、いつまでも日陰者じゃないぜ?
などと思ってみたりする。


この5年まあ色々あって、未熟なりに一応俺は、経験を積んだ。
何も知らない10代とは違うわけだ。


なので、やれるもんなら倍返ししてみやがれー!とぐりぐり腕を締め上げてみた。
もうコイツは男だから、アンジェラとは違って容赦はしない。
むしろ身体を鍛える訓練だと思って、締め上げた。


「デュラン・・・っ!気遣い、それは気遣いがゼロっ・・・・!」

「野郎に気遣いなんかいるかよ」

「いや、まずヒト、人として・・・っ!!」



_____________そんなこんなで、暮れていく。


爽やかな20代の夜。








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ここまで読んで下さって有難うございました☆





オマケ