「お前達!
ホークアイに何をしているのっ。
尋問などと、酷い事を・・・。
今すぐに止めなさいッ」


リースが、俺に駆け寄って来る。
其の眼には、少し涙が滲んで居た。
リースは、何度も『ごめんなさい』と謝りながら、俺の縄を解こうとしてくれる。
けれども、其の手を制する者が居た。
___ライザだ。
ライザは、リースの腕に、スッと自分の手を重ね、潤んだ瞳を覗き込む。
其の声は低い。
俺の事を、納戸で威嚇した時と、全く同じ音だった。


「なりません、リース様。
優しさと、道理は別物です。
貴女は、ローラントの第一王女、アマゾネス軍のリーダーなのですから・・・。
同情で判断を誤られてはなりません」

「何を言うの、ライザ!
ホークアイは、私の仲間です。
・・・離して下さい!」

「いいえ、離しません。
どうしても離せと言うのなら、ホークアイが、間違なく『ローラントの味方』だと・・・。
リース様が、今すぐに、皆の前で、証明をなさって下さい。
・・・貴方に其れが出来ますか」

「・・・!
くっ・・・」


リースには、証明なんて、出来る訳が無かった。
俺の存在が無害だと、いや、其れ以上に、有益な存在だなどと、リースには言える訳が無い。
そんな事をしようとすれば、リースの立場が、軍の中で悪くなるだけだ。
何故ならば、リースは、唯、俺を信じてくれただけなのだから。
出逢った時から、何の根拠も無くても・・・こんな俺の事を。

______だから、俺は。

今、決めたのだ。
俺を信じてくれた人が、俺を庇うせいで、立場を失うのは、絶対に駄目だ。
だったら、ローラントに対しても、そして、ナバールに対しても。
一番いい方法を、俺が語らなきゃならない。
『俺に似ている』と言われた、ファルコンのように。
だから、勇気を出せ、俺。
今、立ち上がるのだ___ホークアイ!


「・・・・・・ライザさん。
其れは、俺が証明出来るよ。
だって、俺自身の事だから、な!」









『・・・小賢しいが採用しよう』


俺に対する、アルマが下した判断は、仮釈放だった。
今の俺の隣には、リースと、そして、ライザが居る。
俺が話した作戦が、皆に納得されて、受け入れられたと同時に、決まった采配だった。
リースは、もちろん、旅の仲間だ。
けれども、ライザは、正直に言ってしまえば、監視役だった。

奪還戦の間、俺がキチンと役目を果たすのかどうか、背後から厳しく迫られて居る。
ローラント城奪還作戦における、俺の役目とは、即ち。
今のナバールが好む兵法や、戦術の情報を、ローラントに提供する事だ。
かつ、俺自身が協力する姿勢を、敵国に対しても、示し続ける事だった。
特に、アルマとライザ。
此の二人に対してだ。


「・・・なあ、リース。
アルマさんとライザさんって、どんな人なんだい?」


出来る事ならば、俺は、関わりたくは無かった。
そんな二人について、俺は、コソコソと耳打ちで、リースに尋ねて見た。
リースは、一瞬、ピクッとして、顔を赤らめつつ、俺から耳を離してしまう。
やがて、ぷうっと頬を膨らませた後、軽く咳払いをしてから、紙にペンを滑らせた。
___筆談だ。


「アルマは、私と弟の乳母なのです。
父母の旧友で、昔は、城で一番強いアマゾネスだったのですよ。
ライザは、今のアマゾネス軍で、私の代りを勤めてくれて居ます。
ちょっと怖いですけど、とても頼りになる人ですよ!」


メモに目を走らせてから、俺は、筆談のお礼に、ウィンクをした。
すると、リースは、また顔を赤くしてから、半ば呆れ顔になる。
そして、すぐにペンを紙に走らせた。
其の様子は、カカカッと、素早く野菜を食べる、白ウサギに似て居た。


「もうっ、ホークアイ!
少しは危機感を持って下さいっ。
私は、貴方の事が心配なんですっ」


でも、俺は、気にも留めない。
だって、今此処で、ウサギ並に可愛い女の子に、守られちゃうようでは!
ナバールの男がすたるゼえっ?と言うモンだ。

むしろ、どんな状況下でも、軽い冗談くらいは飛ばせと言うモンだ。
むろん、危機感が無い訳じゃない。
むしろ、在り過ぎるくらい有る。
でも、其れを、今は誰にも悟られたく無いんだ。
俺は、ワザと、軽い笑いを浮かべて見せた。

そのせいで、リースは、余計に呆れてしまったようだ。
頭の羽飾りが、シュンと、耳が垂れるみたいになっちまった。
けれども、同時に、俺の事を本気で心配する心も、しっかり伝わって来る。
そんなリースの目が、今、チラリと背後を盗み見た。
特に、後ろから、俺達二人に付いて来る、ライザをだ。

ローラントが、ナバールの占領下にある中で、旅の仲間に、リースが居るのなら。
関わりたく無かったとしても、こうなる事は、必然だったのかもしれない。
ローラントとナバールの争いに、旅の仲間と共に・・・俺が巻き込まれちまう事は。


(・・・どうせ、避けられなかった。
だったら、受けて立つしかないんだ)


俺は、強く、自分に言い聞かせる。
そして俺も、リースがくれた紙に、ペンを走らせた。
酷い状態下でも、せめてもの気持ちだけは、伝えたかったのだ。


「有難う、リース!
でも、此の戦いは、俺自身の戦いでも在るんだ。
___信じて任せてくれないか?」







やがて、俺達は、ローラント城の裏手に辿り着いた。
日は、もうとっくに暮れて、今は夜だ。
丘から見える、城壁に光る松明の数から、ザッと見張りの数を想定して見る。
裏手には、約50人~80人くらいの配置が在るようだ。
隣では、ライザも眼をこらしながら、状況をじっと見つめて居る。
ライザは、軽く俺を睨みつけた後、リースと俺の間に、割って入るように立った。
そして、どう見ても、ワザと槍先をチラつかせながら、念を押した。


「ホークアイ。
お前の考えに間違いが無ければ、次の見張りの交代は無い。
城内が混乱して、裏門までは人が来ない。
・・・そうだな?」

「今夜の奇襲がイザベラにバレてなきゃね。
其れは大丈夫かな?
ライザさん」

「あなどるな、小僧。
抜かりは無い」

「・・・じゃあ、きっとそうなるサ」


やがて、2時間後、ふつふつと、松明の明かりが、城壁から消え始めた。
すぐに、明かりの数が半分になる。
やっぱりだ。
城内から、人が裏まで来なくなった結果が、ちゃんと出た。


「やったね!
ホークアイ!
作戦が上手く行ったみたい!
でも、咄嗟の思い付きだったから、本当に運が良かったですね。
マイコニドの瞳なんて・・・。
数がちゃんと集まって、良かったです」

「リースも、協力ごくろうさん!
連中の、晩飯の隠し味は、マイコニドの瞳だ。
バレなくて良かったな。
此れで、食った奴は、全員爆睡決定と来た。
・・・上出来だゼ!」


ライザが、無言のまま立ち上がる。
そのまま、控えていた数十人のアマゾネス達に、進撃の指示を出した。
今ならば、裏門を突破した後、風の城壁を止められるからだ。
リースが城壁の操作をすれば、ローラント城の風を止める事が出来る。
リースは城壁、俺はライザと二人で、裏門へ向かう手筈になって居た。


「・・・OK。
じゃあ、行こうか、ライザさん。
道を教えてくれるんだろう?」


王族と直近の者しか知らない、裏道を使って城内に入り___。
裏門のカンヌキを開けるのが、俺達の役目だ。
外で待機しているアマゾネス軍が、門を突破できるように、俺達は鍵を開けなくちゃならない。
早速、夜の闇に紛れながら、俺とライザは、城の裏手に近づいた。

裏手の城壁まで近づくと、ライザの案内で、壁は、あっさりと乗り越えられた。
人一人が超えられるよう、ワザと低く作られた箇所が在った為だ。
だが、低くとは言っても、城壁だから、それなりの高さは在る。
まずは、俺が乗り越える。
2階からでも飛び降りる事が出来る、シーフの俺には、これくらいの高さは朝飯前だ。
でも、ライザは、一瞬だけ、飛び降りる事に躊躇を示した。
俺は、彼女を助けようと、手を伸ばした・・・けれども。


「勘違いするなよ、ホークアイ。
私は監視役だ。
私は、何時でも、お前がローラントを裏切ると想定して、お前の隣に居る。
お前の仲間じゃない」


ライザには、拒絶をされてしまった。
彼女は、自分の鎧を外し、地面に投げ捨てる。
身軽になってから、槍を持ったままで、地面に着地をした。
そして、地面に足を突くと同時に、俺に向かって、武器を構える。
そして、低く通る声で、凛としたまま、俺を睨みつけた。


「ホークアイ。
貴様には、我々を助ける道理など、全く無いはずだ。
ナバールの賞金首が、無償で、ローラントに協力だと?
此の世で、無償の行為ほど、怖いものは無いだろう。
お前には裏が在るはずだ。
だが、私は、其れでもいい。
お前が使える内はな。
私としては・・・其れだけだ」

「・・・。
ライザさんは、随分とクールなんだね。
『袖振り合うも他生の縁』って言葉は知らない?
出会いは成り行きでも、縁って奴は、此の世に在るゼ」

「リース様は、まだお若い。
お前のような輩に絆されても、仕方が無い。
アマゾネス軍のリーダーとは言っても、まだ16歳なのだ。
美しい友情を信じておられるだろう。
だが、私は違う。
同じように、甘いマスクを、私にも使えると思うなよ。
其れがお前の身の為だ」


ライザは、片手は槍を向けたまま、足だけで、地面の甲冑を拾った。
重い鎧を宙に投げてから、器用に甲冑を片方の手で掴む。
左手だけでも、鎧を身に着ける仕草には、何処にも隙が無い。
・・・俺は『ヒュウッ』と口笛を吹いた。
其処まで身体を上手く使える人間は、ナバールにも余り居ない。


「・・・勿体無いな。
ライザさんは、とても綺麗で器用なのに・・・。
男は、嫌いなのかい・・・?」


俺は、彼女を、素直に褒めた。
だが、ライザには、気に障る行為らしく、綺麗な片眉がピクリと上がる。
それでも、俺は続けた。
どうしても伝えたい事が在ったからだ。
リースが旅で留守の間は、軍の指揮権を持つ、彼女に話を聴いて欲しかった。


「その、貴女の嫌いなナバールの男の頼みで、申し訳無い。
でも、俺の話を聞いてくれないか、ライザさん。
俺は、此の状況下じゃ、ナバールが間違って居ると考える人間だよ。
君は、信じてくれないだろうけれど・・・。
本当に、ナバールの行いは、全て、イザベラの仕業なんだ」

「・・・」

「でもね。
俺はもう、単純に<呪い>だなんて言わないよ。
きっと、簡単にイザベラに操られた、ナバールも脆かったんだ。
だから、カーン様が正しいとも、もう言えない。
ナバールの首領が、飢えた結果、貴女のローラントから、奪う決断を下したのは事実だ。
でも、俺は、其の決断が間違いだと思って居る。
少なくとも、戦を止めたいと、強く願って居るよ。
俺にとっては・・・一番大切な人にも。
最期に頼まれたからね。
これからのナバールを頼むと」


一頻り喋ってから、俺は、ため息をついた。

___イーグル。

お前に、最期に手渡されたものは、とても大きかったと想う。
ジェシカとナバール。
命を懸けても、イーグルが俺を逃がしてくれたのは、故郷を護る為だったのだ。
酷い状況下だからこそ、俺には其れが痛いほど解る。
俺達が幸せに育ったナバールが、イザベラのせいで、こんなになってしまった。
ならば、俺は、生き延びた分。
必ず、ジェシカとナバールを、救わなければならない。
だから・・・。


「ライザさん。
今だけでいい。
ナバールを許してくれ!
・・・この通りだ!!」


俺は、全身全霊で、土下座をした。
ローラントの人々に対して、精一杯の誠意を示して見せた。
ナバールの過ちは、俺が認める。
もう、それが出来なくなった人の代わりに、全力で謝る。
そうする事で、俺は、ナバールの仲間の命を、少しでも救いたかったのだ。


「此処からは、命懸けの戦いになる。
だから、出来る範囲でいい。
ナバールの仲間を殺す事だけは、止めて欲しい。
殺さないで、捕まえるだけにして欲しいんだ!
勝手なお願いだと、解って居るよ。
でも・・・」


本当に身勝手な願いだと、自分でも解って居る。
それでも、俺は、此れ以上、仲間を失いたくなかった。
そして、リースのローラントが、ナバールの手で、此れ以上傷つけられるのも、嫌だったんだ。
だから、ローラント城を、ナバールの魔の手から取り戻す事は、必ず果たされるべきだと想う。
奪還戦が、避けられない争いだったとしても・・・。
お互いに、命を奪い合う必要は、絶対に無い。

こんな、俺の頭一つで、争いを食い止められるのなら___。

今、鼻と地面が触れて、砂利の匂いが、鼻孔を突いた。
砂に触れる手が汗ばんで、握りしめた拳が、痛いぐらいだった・・・。


「・・・」


だが、いくら待っても、ライザの答えが無い。
余りにも長い間続く、無言の時間___。
俺は、土下座を止めた。
すると、もう其処に、ライザは居なかった。
ライザは、数メートル先に見える裏門を目がけて、スタスタと歩いて居たんだ。

彼女は、城壁の窪みに身を隠し、手鏡を使って、見張りの位置を確かめて居る。
俺は、立ち上がって走り、追いついた後、同じように身を潜めながら、再び答を待った。
それでも、ライザの横顔は、まるでミッションしか頭に無いようだ。
鋭い眼差しが変わる事は無い。
其の横顔が、俺に、問い掛けて来る。


「・・・なら聞くが、ホークアイ。
私が、お前に、同じ頼み事をしたとして・・・。
お前に、私の願いを叶える力が在るのか?
私の、ローラントの仲間を、出来る限り生かしてくれと。
私がお前に頼みこんで、ナバールが、今すぐ承諾をしてくれるのか?
其れが出来るなら聞いてやるさ。
お前の望みもな」

「・・・!」

「もう、いい加減に、夢物語は終わりにする事だ、ホークアイ。
戦が、イザベラの呪いか、フレイムカーンの過ちなのか。
そんな事は、目の前の現実には、何の関係も無いのだから。
私達は、殺し合いをして居る。
ローラントは、掛かる火の粉を振り払っているだけだ。
其れを払うなと言うのなら、今、お前が止めて見せろ。
出来ぬのなら、黙って我々に協力する事だ。
・・・生きてローラントを出たければ」


俺の頼み事を突っぱねた後のライザは、淡々と答を語った。
あまりにも、当然の事を・・・。
平然と、語るような口調だった。

ライザは、圧倒的に、正し過ぎる。
其の全てが事実だからだ。
そして、ライザの言葉が、俺の誠意を『夢物語』だと喝破する。
俺に、ナバールを止められないなら、語れぬ夢だと。
現実を、突きつける。


「ク・・・ッ!」

「無駄口を叩くな、ホークアイ!
お前は、裏門の錠前を外せ。
今なら見張りが少ない!」


そして、ライザは、裏門へ突入した。
俺は、其れ以上は何も言えずに、ライザの背中を追う。
目前に、高さ4メートルほどの、城門が聳えて居た。
松明を掲げた男が二人、門の下に立って居る。
ナバールの兵卒達だ。
ターバンで、顔は解らない。
今、ライザがナバール兵へと斬りかかる。
それなのに、俺は、止めて欲しいと言えない。
今すぐ戦を止めたいのに・・・。
・・・出来ない!


「クソオオオォォッ・・・!!」


俺の願いは、言葉にならない叫びに変わった。
そのまま、俺は、戦うライザと傭兵の隙をつき、がっつくように、錠前に飛び込む。
懐から、分解作業用の仕事道具を取り出しながらだ。
こんなに頭がイカれそうなぐらい悔しいのに、シーフの仕事なら出来てしまう。
そんな自分が情けな過ぎて、涙が出そうだ。

俺には、力が無い・・・!
こんなことしか、今は出来ない・・・!
たった今、すぐ後ろで、仲間とライザが殺り合って居ても・・・。
止める事が出来ない!

やがて、鍵穴の奥で、カチリと乾いた音がして、鉄の塊と化した錠前が、地面に落ちた。
落ちた錠前を確認したライザが、炎のコインを地面に投げる。
其の瞬間に火柱が上がった。
途端に、アマゾネス軍がなだれ込み、城に突入して来る。
___先頭はリースだ。


「・・・ホークアイッ!」


リースは、俺を確認すると、心から安心した顔で、俺の傍まで駆けつけてくれた。
少女の手が、俺の手を取り『無事で良かった』と囁く。
ほんの少し、目尻に涙が浮かんで居た。
俺も・・・。
一瞬だけ、目の奥が熱くなって・・・。
でも、涙は見せないように、笑って見せた。
俺は、軽い笑顔のまま、リースの肩を叩く。


「・・・。
作戦その2、上手くいったなっ!
次も頑張ろうゼ、リース」


俺を見たリースが、本当に一筋涙を流したから、俺は余計に慌ててしまう。
『ハンカチ出さなきゃ』と思うが、生憎、俺のポケットは、スパナとかピックばかりだった。
仕事道具か、ダガーしか持って居ない。
其れで、俺が途方に暮れて居ると。


「たった二人だけで、本当に上手く行くのか、心配して居たの。
ああ、でも、良かった。
ホークアイ、貴方が無事で、本当に良かった・・・!」

「・・・。
リース・・・」


リースは、涙を自分の指で拭いてから、気を取り直すように、ニッコリ笑った。
そして、自分に言い聞かせるように『もう行かなくちゃ』と呟く。
リースは、此れから、風の城壁を止めに行かなくてはならない。
俺達は、二人で、手を繋いだまま、地下の制御室を目指して走った。
其の後ろを、まだライザが追って来る。

『俺とリースの間柄に、監視なんか必要無い!』

ライザの姿が目に入った瞬間、そう叫びたい衝動が、俺の心に走る。
でも、堪えた。
今のライザは、ライザ自身の、成すべき事をしているだけだ。
誰にも彼女を止める道理は無い。
ライザの判断は、ローラントにとって、何処までも正しい判断なのだから。

やがて、一体いつまで続くのか解らないほどの長い階段を、3人で下り切った時だ。
目前に、華麗な装飾が施された、両開きの扉が見えた。


___風の制御室だ。


階段を下りる前までは、戦いの喧噪が響いて居たが・・・。
此処は、水を打ったように、静かだった。
ほの暗い空間の中で、扉が松明に照らされて、浮き上がって観える。
開いて中に入ると、巨大なコントロール・ルームが、闇の奥まで広がって居た。

制御室の仕組みに、俺は、驚かずには居られなかった。

両側に伸びた壁に、光のラインが幾つも走り、まるで、血流のように動いて居た。
壁の光が走る度に、鈴のような音が弾けてゆく。
光のラインが、奥の間まで流れて、一つに集まる。
奥で一つになって輝く光。
光は、巨大な宝石のようだ。
けれども、一見すると宝石のように見えても、よく見ると違う。
表面のガラスの奥に・・・。
さっきの錠前とは、比較にならないほどの、複雑なシステムが在る。
ビッシリと詰まった管が、石の奥で輝いて居た。


「・・・ぬあんじゃいこりゃあ・・・」


俺は、宝石の表面を、コンッと指で叩いて見た。
けれども、宝石は、特に反応を示さずに、ガラスの奥で、システムを動かし続けて居る___。


「此の石は、風のシステム本体なんです。
其の宝石は、王族にしか反応しないの。
私が鍵を翳せば、風の城壁をなくせますよ」

「すっげえな、リース。
城壁は、ローラントの技術なのか?」

「そうとも言えるし、ちょっと違うかもしれません。
私達は、城壁を使う事は出来るのです。
でも、一から作れるかと言われたら、多分、出来ないですから」

「・・・?」


(使えるのに、造れない技術___?)


リースは、胸元の小さな宝石を外した。
いつも首から掛けている、ペンダントのような宝石だ。
どうやらソイツが<鍵>らしい。
リースが、其の<鍵>を、風のシステムの本体に翳そうとした、其の時だった。


「やっぱり、此の場所に来ると思った。
ローラントのお嬢ちゃん・・・」

「・・・!」


コツと。
高いヒールの音と。
腹の底から響くような甘い声が、制御室に響いたのは。