「・・・リース」
「お前達、ホークアイに何をしているのっ。
尋問なんて、なんて酷い事を・・・。
・・・今すぐ止めなさいッ!」
そしてリースは、俺に駆け寄る。
その目が少し、涙で滲んでいた。
そして何度も、ごめんなさい、と謝りながら、俺の縄をほどこうとする。
だが、その手を制する者がいた。
___ライザだ。
ライザは、縄に伸びたリースの腕に、すっと自分の手を重ねながら。
リースの潤んだ目を、覗き込むようにして続けた。
その声は、あの時と同じトーンだ。
俺を納戸で威嚇した、あれと全く、同じ声___。
「・・・なりません、リース様。
優しさと、ものの道理は別です。
貴女はローラントの王女、アマゾネス軍のリーダーなのです。
・・・同情で、判断を誤られてはなりません」
「ライザ!
何をいうの。
ホークアイは、私の仲間です・・・離してください!」
「いいえ、離しません。
どうしても離せというのなら、このホークアイが、間違いなくローラントの味方だと。
すぐ皆の前で、証明なさってください。
リース様、できますか」
「・・・!」
_________________________________今すぐ証明。
だがリースには、そんな事が出来る訳は無かった。
きちんと俺が無害だと。
いやそれ以上に、俺がナバールの者だとしても。
この状況の中ですら、ローラントに対して、誠実な人間なのだと。
・・・・・・リースには、示せる訳が無い。
何故なら彼女は、唯、信じてくれただけだ。
・・・あの時、なんの根拠も無くたって。
___________こんな俺の事を。
______だから俺は。
________決めた。
信じてくれた人が、俺を庇うせいで、立場を失うのは・・・絶対駄目だ。
だったら、ローラントにも。
そして、ナバールにも。
一番いい方法を、今俺が、語らなきゃいけない。
もしかしたら、俺に似ていると言われた___。
_______________あの<ファルコン>という人みたいに。
「・・・ライザさん!
それは俺が、証明できるよ。
・・・だって俺の事だから___な!」
だから俺はまた、ハハッ!と笑顔を決めた。
俺が、この群衆の中で、あまりにもデカイ声で笑ったから。
皆が驚いて、縛り付けられたままの、俺を見つめた。
だから俺は喋り続ける。
皆がリースではなくて・・・俺を見る事ができるように。
精一杯訴えた。
「いい作戦があるんだ。
だから、この縄を解いてくれないか。
ほどいてくれたら、今、皆の前で話すよ_______!」
Ⅵ
『小賢しいが採用しよう』。
結果、アルマが下した判断は、俺を仮釈放だった。
俺の隣には、リースと、そしてライザがいる。
俺が話した作戦が、皆に納得され、受け入れられた時に、同時に決まった采配だった。
リースはもちろん、旅の仲間だが。
ライザは、言ってしまえば___監視役だ。
奪還戦の間、俺がきちんと役目を果たすか、背後からひたすら厳しく迫られているという訳だ。
この作戦における、俺の役目とは___即ち。
今のナバールが好む兵法や、戦術の情報を、ローラントに提供すること。
そして俺自身が協力する姿勢を、示し続ける事だ。
特に、アルマとライザ。
__この二人に対して。
「・・・なあ、リース。
アルマさんとライザさんって、どんな人なんだい?」
できれば、俺は関わりたくは無かった二人だ。
俺はその素性を、リースの耳元で、こっそり聞いた。
リースは一瞬、ピクッとして、何故か顔を赤らめながら、耳から顔を離す。
やがて、少しだけ頬を膨らませたあと・・・軽く咳払いをしてから。
紙にペンを滑らせた。
・・・筆談だ。
ほどなくして渡された、小さな紙には、こう書かれていた。
「アルマは、私と弟の乳母です。
それから、父母の旧友なんです。
ライザは軍で、私の代理を勤めてくれています。
・・・ちょっと怖いですけど、とても頼りになる人なんですよ!」
____そのメモを、見つめてから。
俺は、筆談のお礼にウィンクをした。
するとリースは、また顔を赤くし、それから半ば呆れ顔になった。
そして、またすぐに、ペンを紙に走らせる。
その様子は、カカカッと、野菜を食べる白ウサギに似ていた。
「・・・ホークアイ!
少しは危機感をもって下さい!
・・・私は貴方が心配なんですっ!」
でも俺は、気にも留めない。
だって今ここで、こんなウサギ並に可愛い女の子に、守られちゃうようでは!
ナバールの男がすたるゼ!
だから、こんな状況でも____軽い冗談くらいは飛ばせよ、俺ってもんだ。
むろん___危機感が無いわけじゃない。
・・・むしろ___在り過ぎるくらいだ。
でもそれは、今は誰にも、悟られたくない。
だから、また俺は、軽い笑いを浮かべて見せた。
それでリースは余計に呆れて。
頭の羽飾りが、シュン、と垂れるみたいになってる。
同時に、その仕草からは、リースが俺の事を、本気で心配する心が伝わってきた。
その目が今、ちらりと背後を見る。
後ろから、俺達二人についてくる___。
___ライザを。
_____ローラントが、こんな状況で。
旅の仲間に、リースが居るのなら。
いくら俺が関わりたく無かったとしても、こうなるのは必然だった。
ローラントとナバールの争いに、旅の仲間と共に・・・。
俺が・・・巻き込まれちまう事。
(・・・どうせ避けられなかった。
だったら、受けて立つしかないんだ)
だから俺は、そう強く自分に言い聞かせる。
そして俺もリースがくれた紙に、ペンを走らせた。
こんな状態の中でも、せめてもの気持ちだけは、伝えたかったからだ。
「・・・ありがとう、リース!
でもこの戦いは、俺自身の戦いでもあるんだ。
_________信じて任せてくれないか?」
・・・やがて俺達は、ローラント城の裏手についた。
日はもうとっくに暮れて、今は夜だ。
丘から見える城の城壁、その松明の数。
そこからザッと、見張りの数を想定してみる。
裏手には今、約50人~80人くらいの配置があるようだ___。
それを隣で、ライザも眼をこらしながら、じっと見つめている。
それから俺を睨みつけ、リースと俺の間に割って入るようにして、俺の隣に立つ。
そして、どう見ても、ワザと槍先をチラつかせてだ。
「・・・ホークアイ。
お前の作戦がうまくいくなら、次の見張りの交代は無い。
城内が混乱して、裏門まで人は来ない。
___そうだな?」
「今日の奇襲が、イザベラにバレてなきゃ。
それは大丈夫かな?
ライザさん」
「あなどるな小僧。
抜かりはない」
「・・・じゃあ、きっとそうなるサ」
やがて2時間後・・・ふつふつと、松明の明かりが消え始める。
そしてその数が、半分ほどになる。
__________やっぱりだ。
それは城内から人が、裏までやって来なくなった、結果だった。
「やったネ、ホークアイ!
・・・うまくいったみたい!
でも、咄嗟の思い付きだったから、ほんとに運がよかったです。
マイコニドの瞳なんて・・・モノがちゃんと集まって良かった」
「リースも協力ごくろうさん!
アイツらの今日の晩飯、隠し味がそれで・・・。
まあバレなくて良かったな。
おかげで食った奴は全員、今頃爆睡!
上出来だゼ!」
「・・・それは我々が、配給ルートを抑えていたから、できた事だ。
それに眠らせたと言っても、城内で食事を済ませた連中だけ・・・。
・・・気は抜け無い!」
そしてライザは、立ち上がる。
そのまま、控えていた数十人のアマゾネス軍に、指示を出した。
今なら裏門を突破し、王族がいれば風のシステムを止められるからだ。
だからリースとデュランは、そちらへ向かう手筈だ。
そして俺は、ライザと二人で_____裏門に向かう事になっていた。
「・・・OK。
じゃあライザさん、行こうか。
・・・道、教えてくれるんだろ?」
王族と直近の者しか知らない、裏道を使って城内に入り___。
裏門のカンヌキを開けるのが、俺たちの役目だ。
だから俺達は、二手に分かれた。
リースは城に突入する軍の中。
そして俺は、裏門へだ。
アマゾネス軍が門を突破できるよう、俺達はすぐにでも、鍵を開けなくてはならない。
だから早速、夜の闇に紛れながら、俺とライザはローラント城まで近づく。
裏手の城壁まで近づくと、ライザの案内でそれはあっさり、乗り越えられた。
人一人が超えられるよう、わざと低く作られた箇所だからだ。
だが低くとはいっても、城壁だから、それなりに高さはあった。
それをまず、俺が乗り越える。
2階からでも飛び降りれる、シーフの俺には、これくらいは朝飯前だ。
だがライザは、一瞬飛び降りる事に、躊躇を示した。
だから俺は、それを助けようと手を伸ばして___。
「・・・触るな!」
だが________________________拒絶された。
そして、喝破されてしまう。
「勘違いするな、ホークアイ。
・・・私は監視役だ。
私はいつでも、お前がローラントを裏切るものと思って、ここに居る・・・」
それからライザは、自分の鎧を外し、地面に投げ捨てる。
そして身軽になってから、槍は持ったまま着地をした。
地面に足を突くと同時に、俺に向かって槍を突きつけ、あの低く___だが通る声で。
凛としたまま、俺を睨みつけて、言う。
「・・・。
何故ならホークアイ。
貴様には、こちらを助ける道理は・・・本来無いからだ。
ナバールの賞金首が、無償でローラントに協力だと_____?
・・・生憎タダほど、この世に怖いものは無い。
・・・お前にも裏がある事だろう。
・・・だがそれでもいい。
お前が使えるうちは______。
私としては・・・・・・それだけだ」
「・・・」
「・・・リース様は、まだお若い。
・・・・とても未熟だ。
だが、私は違う。
同じように、その甘いマスクを使えると思うな。
それがお前の身の為だ______ホークアイ」
そしてライザは、片手で槍をこちらに向けたまま、足だけで地面の甲冑を拾った。
宙に投げてから、それを片方の手で受ける。
器用に左手だけでも、甲冑を身に着けるその仕草の____何処にもスキはない。
だから俺は、ヒュウ、と口笛を吹く。
それだけ手先と身体を上手く使える人間は、ナバールにも居ないからだ。
「___勿体ないな。
ライザさんは、こんなに綺麗で器用なのに、男は嫌いなのかい・・・?」
俺は、それを素直に褒める。
だがライザは、それが気に障ったらしく、片眉がピクリと上がった。
けれども俺は続ける。
どうしても、俺はこの人に、伝えたい事がある。
リースが旅で留守の間、軍の指揮権を持つ_______この人に。
「・・・。
その嫌いなナバールの男の、頼みで申し訳ないが・・・。
でも聞いてくれないか、ライザさん。
俺は、この状況下じゃ、ナバールが間違っていると思う人間だ。
君は信じてくれないだろうけど___。
これは全部、イザベラのせいだからな」
「・・・」
「だけど、俺はもう、呪いだなんて言わない。
きっと簡単にイザベラに操られた、ナバールも脆かったんだ。
だから、カーン様が正しいとも・・・もう言えない。
首領が、飢えた結果、ローラントから奪う決断をしたのは___事実だ。
でも俺は、それが間違いだと思ってるし・・・・。
少なくとも、それを止めたいと、強く願っている。
俺にとって___一番大切な人にも。
・・・・・最期に強く願われたんだ。
・・・これからのナバールを頼むと」
一頻り喋ってから、俺はため息をついた。
______________イーグル。
お前に、最後に手渡されたものは・・・。
・・とても大きかったと想う。
ジェシカとナバール。
命を懸けても、イーグルが俺を逃がしてくれたのは、その為でもあったんだって。
こんな状況だからこそ、痛いほどそれが解った。
俺達が幸せに育ったナバールが、イザベラのせいで、こんなになってしまった。
・・・なら俺は生き延びた分。
必ずジェシカとナバールを、救わなきゃいけない。
______だから。
「・・・ライザさん!
今だけでいい!
ナバールを許してくれ!
・・・この通りだ!!」
だから俺は、土下座をする。
ローラントの人々に対して。
___精一杯の誠意を示す。
ナバールの過ちは、俺が認める。
もう・・・それが出来なくなった、人の代わりに、全力で謝る。
そして俺は、ナバールの仲間の命を、少しでも救いたかった。
「・・・これから戦いになるが・・・できるだけでいい。
俺の、ナバールの仲間を殺すのだけは・・・。
頼む。
殺さないで、捕まえるだけにして欲しいんだ・・・!
勝手なお願いだって、解ってる。
でも・・・」
それは本当に身勝手だと、自分でも解っていた。
それでも俺は、これ以上、仲間を失いたくない。
そしてリースのローラントが、ナバールの仲間の手で、傷つけられるのも嫌だった。
だからローラント城を、ナバールから取り戻すこと。
それを俺は、必ずすべきだと思っている。
それはイザベラに操られた、ナバールの罪だからだ。
だから、そこで起こる戦いの被害は、出来る限り、俺が抑えたかった。
これは避けられない争いだとしても・・・。
・・・お互いに、無駄に命を落としあう必要は・・・無い。
___だから。
こんな俺の頭一つで、食い止められるなら___。
そう思って、俺は土下座をした。
鼻と地面が触れて、砂利の匂いが、俺の鼻孔を突く。
砂に触れる手が汗ばんで、握りしめた拳が、自分でも痛いぐらいだった・・・。
「・・・」
だが、ライザの答えは、無い。
___あまりにも長い間の、無言___。
だから俺は土下座をやめる。
するともう、そこにライザは居なかった。
もう数メートル先に見える、裏門をめがけて歩いている。
やがて城壁の窪みに身を隠しながら、手鏡を使って、見張りの位置を確かめていた。
だから俺は立ちあがって走り、追いついた後、同じように身を潜めながら、再びその答えを待つ。
だがライザの横顔は、まるでミッションしか頭に無いようだ。
鋭い眼差しが、変わることは無い。
そして、その横顔が___。
___俺に問う。
「・・・。
なら聞くが、ホークアイ。
お前に同じ頼み事を、私がしたとして・・・。
お前にそれを叶える、力があるか?
私の、ローラントの仲間をできる限り、これから生かしてくれと。
そうお前に私が頼んで、ナバールが今、承諾するのか?
できるなら聞いてやるさ。
・・・お前の望みも」
「・・・!」
________ライザの言葉。
________それは、今の俺には・・・・。
________叶えられない、頼み事だった。
「・・・もういい加減、夢物語は終わりにする事だ・・・ホークアイ。
これがイザベラの呪いか、フレイムカーンの過ちか。
そんな事は今、目の前の現実には、何の関係も無い。
私たちは、今ここで、殺し合いをしている。
そしてローラントは、ナバールからかかる火の粉を、振り払っているだけ。
それを払うなというなら、今、お前が止めて見せろ。
・・・それができぬなら、黙って我々に協力する事だ、ホークアイ。
・・・生きてローラントを出たければな」
俺の頼み事を突っぱねた後のライザは、そう淡々と、まるで業務連絡かのように、答を語った。
その、あまりにも当然の事を・・・。
・・・平然と語るような口調が、俺には辛かった。
ライザは、圧倒的に___正しすぎる。
____何故なら、それらは全て事実。
そして、その言葉が。
俺の誠意を<夢物語>だと喝破する。
俺にナバールを止められないなら、語れぬ事だと。
___現実を突きつける。
「く・・・っ」
「無駄口を叩くな、ホークアイ!
・・・お前はあの錠前を外せッ!
見張りは2名だけだ」
そして、ライザが裏門へ突入した。
だから俺も、それ以上は何も言えずに、その背中を追った。
目の前には、高さ2メートルほどの門が聳えている。
松明を掲げた男が二人、その場に立っていた。
ごく一般的なナバール兵と同じ身なりだった。
___ターバンで顔が解らない。
それにライザが、斬りかかる。
だけど、もう俺にはやめてほしいと言えない。
今すぐ叫びたいのに___________。
________________できない!
「______クソオオオッ・・・!」
それは、言葉にならない叫びに変わる。
そのまま俺は、戦うライザと傭兵の隙をつき、がっつくように錠前まで飛び込む。
そして懐から、分解作業用の仕事道具を取り出した。
こんなに頭がイカれそうなぐらい悔しいのに。
シーフの仕事ならできてしまう。
そんな自分が、情けなすぎて涙がでそうだ。
・・・俺には、力が無い・・・!
こんなことしか、今はできない・・・!
たった今後ろで、仲間とライザが殺りあっていても・・・。
・・・止められない___!
やがて鍵穴の奥で、カチリと乾いた音がして、鉄の塊と化した錠前が、地面に落ちた。
それを確認したライザが、炎のコインを地面に投げる。
その瞬間、火柱が上がる。
とたんにアマゾネス軍がなだれ込み、城へ突入してくる。
___その先頭は、リースだった。
「・・・ホークアイッ!」
リースは俺を確認すると、心から安心した顔で・・・駆けつけてくれた。
その手が、俺の手を取って『無事で良かった』と囁く。
ほんの少しその目に、涙が浮ぶ。
・・・だから俺も、一瞬目の奥が熱くなって。
・・・でも、それは見せないように、笑った。
そして、リースの肩を叩く。
「・・・。
・・・・作戦その2、うまくいったなっ!」
それを見てリースが、本当に一筋涙を流したから、俺はよけいに慌ててしまう。
ハンカチ出さなきゃとか思うが、生憎ポケットは、スパナとかピックばかりだった。
仕事道具か、ダガーしか持っていない。
それで途方にくれると。
「たった二人だけで、うまくいくか心配してたんです・・・。
・・・ああ・・・でも良かった・・・。
ホーク、あなたが無事で、本当に良かった・・・!」
「リース・・・」
そしてリースは、涙を自分の指でふいてから、気を取り直すように笑った。
それから自分に言い聞かせるように、もう行かなくちゃ、と呟いた。
リースはこれから、風のシステムを止めに行かなくてはならない。
だから二人で手を繋いだまま、すぐに俺達は、地下の制御室を目指して走った。
その後ろを、まだライザが追ってくる。
俺とリースに・・・そんな必要は、無い!
その姿が目に入った瞬間。
ライザに向かって、そう叫びたい衝動が、俺の心に走る。
だが、それは堪えた。
・・・ライザは今、ライザの成すべき事をしている。
唯、それだけの事だ。
それは、ローラントにとっては___何処までも正しい判断なのだから___。
やがて、一体いつまで続くのか解らないほどの長い階段を、3人で下り切った時だ。
目前に華麗な装飾が施された、両開きの扉が見えた。
___それは、風の制御室だ。
階段を下りる前までは、戦いの喧噪が響いていたが・・・。
此処は、水を打ったように静かだった。
ほの暗い空間に、扉が松明に照らされて、浮き上がっている。
開いて中に入ると、巨大なコントロール・ルームが広がっていた。
その光景は___一体どういう仕組みなんだ?
そう、驚かずにはいられない。
両側に伸びた壁に、光のラインがいくつも走り、まるで血流のように動いている。
光が走る度に、鈴のような音が弾けている。
ラインが、やがて奥の間まで流れて、一つに集まっていく。
奥で、一つになって輝く光。
それは巨大な宝石のようだ。
だが一見して、そうは見えても・・・違う。
表面のガラスの奥には___。
さっきの錠前とは___比較にならないほどの、複雑なシステム___。
_____________________機械自体が、輝いていた。
「・・・ぬあんじゃい、こりゃあ・・・」
だから俺は、その表面を、コンッと指で叩いてみた。
だが宝石は反応を示さずに。
静かにガラスの奥で、システムを動かし続けている___。
「・・・これが風システム本体なんです。
ホークアイ。
その宝石は王族にしか、反応しないんです。
これに私が鍵を差し込めば、風の城壁をなくせますよ」
「すっげえなリース・・・。
これはローラントの技術なのか?」
「そうとも言えるし・・・ちょっと違うかもしれません。
私達は、これを使う事はできるんです。
でも、一から作れるかと言われたら、多分できないから・・・」
「・・・?」
そう呟きながらリースは、胸元の小さな宝石を外した。
いつも防具の中央についている、紅い小さな石だ。
やがてそれを、風のシステムの本体にかざそうとして______。
________________________その時だった。
「・・・やっぱり、必ずここに来ると思った。
ローラントの、お嬢ちゃん・・・」
「・・・!」
_______________コツと。
どこかで聴いた、あの高いヒールの音と。
腹の底から響くような甘い声が、制御室に響いた。
時折鳴る鈴のような、システムの音とヒールの音が、響きあって入り乱れる。
そして俺は振り返り、もう一度邂逅する。
あの、悪い美貌の女。
イーグルの敵と。