ファ・ディール歴×××年 女神没
ファ・ディール歴×××年 女神没
ファ・ディール歴×××年 女神没
そして、頭上の天球は、世界を映し出す。
千年の時の流れの中で、何度も、何度も、マナの樹が枯れていく事を。
其の度に、幾人もの聖剣の勇者達が、マナの女神に選ばれて、聖剣を抜いて行く事を。
繰り返し【世界大戦】が起こり【闇の力】が増大して【マナストーン】の封印が解ける。
【八体の神獣】が復活し、最終形態となった時、人類は存続の危機に晒される。
【闇の魔物達】が人類につけ込み、世界を、更なる戦乱の渦へと巻き込んで行く___歴史。
けれども聖剣の勇者達は、光輝く聖剣で、千年間、大戦の度に魔物を破り続けて来た。
そうして【新たな女神】は誕生し続ける。
それは【新たなマナの木】が芽生え続ける時代であり、同時に平和な時代が長くは続かない歴史だ。
再びマナの木は枯れる、世界大戦が起こり、世界は闇に染まり、聖剣の勇者が現れて、マナの木は___。
時は流れ___歴史は繰り返す。
ファ・ディール歴×××年 女神没
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ファ・ディール歴×××年 女神没
ファ・ディール歴×××年 女神没
「・・・!!」
恐ろしいほどの情報量が、圧倒的なスピードで、俺の心を呑み込んだ。
胃液が突き上げ吐き気で足がふらついた。
同時に、崩れそうになった俺を、強く掴む手が在った。
___紅蓮の魔導師の手だ。
「・・・目をそらすな、小僧。
お前は此処まで来たのだから」
「ブライアン、アンタはいつから知って居たの?」
「・・・竜より【闇】を得た時から。
けれども俺は、幼い頃から知って居た。
女神は何も救わない、唯【闇】を封じるだけなのだと」
そして、光の渦は、告げてゆく。
人類史上、争いの無い時代は無かったと。
例え、聖剣の勇者達が一時戦いを収めても、平和な時は続かない。
時代の中で、滅びなかった王国は存在せず、何百という王国が、生まれては死んでゆく。
「同じ名前の国家なら存在する、また、名の変わった国も在る。
けれども『不変の国』は無い。
創世以来の千年間、国家が争いをする度に【闇の力】は増大を繰り返した。
変わらないのは【8つのマナストーン】のみだ。
【禁断の古代呪法】で封じられた【神獣の膨大なマナエネルギー】。
そして【伝説のマナの剣】。
世界で争いが起こる度に、聖剣を抜く者が現れて、解き放たれた神獣を封じ込め、新たな女神が誕生する。
どれだけ時が経とうとも、どれだけ国家が滅んでも、世界のルールは変わらない。
___『そうだった』な、アンジェラ」
「・・・」
「千年間、古代を継いだ国だけは、マナを使う事が出来たのだ。
古の時代より【限られた一族】が【高度な文明】を継いで来た。
数多の国が滅んでゆく中で、魔法の国が、マナの技術を守り続けて来た事を、お前は知って居るだろう」
そして、紅蓮の魔導師は、アンジェラ王女を抱きしめた。
宝物を扱うような、魔導師の抱擁を、アンジェラは・・・受け入れる。
拒まない。
俺には立ちすくむ事しか出来なかった。
______今、紅蓮の魔導師が、彼女の唇を奪ったから。
Ⅷ
「・・・俺と共に生きろ。
アンジェラ・・・」
二人の唇が、ゆっくりと、離れてゆく。
紅蓮の魔導師が、もう一度、彼女を強く抱きしめた。
拒まないアンジェラは、腕の中で震えて居る。
紅蓮の魔導師は、動かない、アンジェラ王女には構わずに、優しく抱きしめ続けて居た。
「世界を深く理解して、使役するのは此の俺だ。
幼い頃から一緒に居たのは俺だった」
優しい手が、彼女の背中を滑った瞬間に、アンジェラの、身体の力がフワりと抜ける。
彼女の瞳は憂いを湛えて震えて居た。
古代を知る魔導師が、アンジェラ王女を口説いてゆく。
「アンジェラ、俺は、マナの剣を竜に捧げる事が出来たのなら、戦争などに用は無い。
マナの剣に蓄積された、負のエネルギーの大きさは、戦争よりも、遥かに強い。
このまま竜が、マナの女神を打ち負かせば、やがては【闇】が、世界を支配してゆく事だろう。
そうすれば、俺達を苦しめ続けたアルテナも、美しく、消滅する」
「・・・ブライアン。
あっ」
「叡智の竜が、ファ・ディールを治めてゆくならば、【人間界】は滅び、新たな世界が生まれるのだ。
大戦が起こり【闇の力】が増大する事で、マナの木が枯れるのなら、いっそのこと、枯れ果ててしまえばいい。
其の先には、誰も辿り着いた事が無い、新大陸と海が在る。
マナの女神には創れない___竜と闇の楽園だ」
紅蓮の魔導師は、そっと、アンジェラの胸に手を当てた。
左胸のふくらみの、心臓の真上にだ。
其の瞬間、アンジェラはもがいたが、ブライアンは放さない。
眼球が、二人を据えた瞬間に、俺は、とっさに、眼を閉じた。
「飽きもせず、繰り返すだけのマナの木を、復活させて何になる。
精霊の力で【闇の力】を封じ続けても、やがては枯れる善の木だ。
竜が干渉しなくとも、ヒトは戦い続けるさ。
人類とは、互いを喰い合う、生物だ。
・・・【闇の力】は何度も増大するだろう」
紅蓮の魔導師は、彼女が逃れる事を許さずに、強く、深く、離さない。
彼女の瞳が閉じられて、白くて柔らかな手の平が、男の背中を滑って行くのが、俺には【眼を閉じてるのに観えてしまう】。
「アンジェラ、今の、俺ならば・・・」
魔法の国の魔導師は、王女の胸のふくらみに、甘いキスを落としてゆく。
一瞬だけ見開かれ、魔導師と見つめ合う、翡翠の瞳がゆらゆら揺れる。
「俺なら、地上に、新たな世界を築ける。
竜と共にマナを駆使した帝国を。
世界に蔓延る争いは、俺が王になる事で、未来永劫消してやる。
其の時、お前は俺の隣に居て、唯、微笑んでくれればいい。
俺の妃になってくれ。
お前を、俺に、与えてくれ・・・」
其の時、激しい音を立てながら、紅蓮の魔導師の身体から、黒い焔が燃え上がる。
焔は竜の形を取りながら、二人を呑み込むようだった。
ドクンドクンと鈍い軋みをあげながら【闇】は男を内から支配する。
激しい痛みに耐えて居る、ブライアンの細い手が、アンジェラ王女へ伸びてゆく。
「・・・ダメ、お願いだから、もう止めて。
竜にヒトを滅ばせ、帝国を創るだなんて、私はイヤ。
そんなコトにアルテナを、ううん、みんなを巻き込むのは、私は絶対したくない」
「人間界を滅ぼすのは、偉大な竜の意思なのだ。
総てが終われば俺が新たな国を創ってやる。
醜く不完全な世界など、此の手で破壊をしてくれよう・・・ッ!!」
新帝国を望む魔導師は、余りの【闇】苦しさに、酷く顔を歪ませた。
男は胸をわし掴み、其の眼で、俺を、射貫いてゆく。
網膜の奥深く、男が映った瞬間に、【闇の力】で壊れかけた魔導師は、狂気を秘めて、嗤い出す。
ニイッと歪んだ瞳の奥の瞳孔が、割れてゆく、クリスタルの結晶みたいに煌めいた。
長い睫毛が濡れて居る。
痛みに満ちた魔導士が、俺に、まっすぐ、問い掛ける。
「どうだ?小僧。
ファ・ディールの有様は。
貴様は此れでもマナの女神に仕えるか?
お前にならば【観える】だろう。
マナの力を此れ以上【人間界】に用いるべきでは無い事が。
ニンゲンなど、此処で、滅べば、い、い、こ、と、が」
「・・・。
お前が何と言おうとも、俺は【女神の騎士】なんだ。
祖国に忠義の剣を預けたように、俺は、彼女に、身を捧げた。
彼女の意思が在る限り、俺はヒトを信じ抜く」
「ハッ、石頭め、何故解らんッ!
マナの女神の伝説は、不完全な幻だ。
アンジェラを、アルテナ女王にハラませた、フォルセナ王と同様に・・・。
脆くて愚かな幻想だ!」
「・・・。
・・・え?」
アンジェラの、澄んだ瞳が、見開かれる。
壊れた瞳が「ウソでしょう?」と呟いた。
黒き光がバチバチバチバチ弾けゆく。
___【闇】が収束されてゆく。
同時に紅蓮の魔導師の、あらゆる身体の部位からは、血と体液が溢れ出す。
真紅のローブが赤黒く、血管みたいに染まりゆく。
それでも彼女を見据えた魔導師は、「ゴフッ」と血を吐きながら、優しく微笑み掛けて居た。
「アンジェラ、お前は、気付かなかったんだな。
お前が女王の娘で在りながら、どうして魔法が使えなかったのかを。
【精霊の力を文明化に使える】ほどに、マナの技術を受け継ぐには、【古代の血】が必要だ。
フォルセナ王は優秀だが、それでも奴は『ヒト』なのさ。
唯のヒトにはマナの技術は操れない。
フェアリーに選ばれて、自然界の精霊が、ヒトに宿るのは一時だ。
【聖域の扉を開ける使命が在る内】は、唯のヒトでもマナを得る。
かつての世界大戦で、マナの剣を抜いたヒト。
お前の父親、フォルセナ王はそうだった」
「もう止めて!
此れ以上は言わないでッ。
お父様のコトなんて、今は聞きたくなんかないッ。
それよりアンタの身体が壊れちゃう・・・。
【闇】がアンタを殺しちゃう!」
「・・・恐れる事など何も無い。
どうせ、短い、此の命だ。
俺は【闇】に賭けて居る。
竜が女神を超えてゆき、世界を我が手にしたのなら、古代呪法は竜のもの。
竜帝様は、解放された、全ての神獣のマナエネルギーを【禁断の古代呪法】にてコントロールされるだろう。
其の時こそ【転生の秘法】を使えばいい。
そうすれば、此の肉体が壊れても、別の器に乗り移り、新たな生を生きられる。
【闇の力】が在るのなら、俺にも出来るハズなのだ。
歴史の中で、どんなにヒトと交わって、消えていった血だとしても。
俺は、アンジェラ、お前と同じで【古代の血を引く者】だから」
アンジェラの、宝石みたいな眼差しが、割れるように見開かれる。
余りにも、紅蓮の魔導師の身体を纏いゆく、黒の光が禍々しい。
彼女を強く脅かし、世界の総てを否定して、生に強く執着する、黒きエネルギーの巨大な渦。
闇の力が古代呪法を渇望する、男の身体を覆いゆく。
今、ドウッと叩きつけるような風爆が、俺の身体を打ち砕かんとして行った。
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