「キュウ!」
そして、目前には、巨大な聖獣・フラミーと。
「こりゃこりゃ、くすぐったいでちよう、フラミーちゃあん。
じゃあさっそくでちが、シャルロットとげぼくその1をっ。
くらーいくらーいせーいきから、きゃっち★あんど★りりーすっ!」
怪しいほど、フラミーを猫っ可愛がりするシャルロットが居た。
何か食べられるモンは無いかと<マナの木>の傍を離れたシャルロット。
帰って来た時には<人間界>では見た事も無い、ド派手なキノコを沢山抱えて帰って来た。
童女はマイコニドの極彩色版にまみれて居る。
ソイツを地面に倒れたままの俺にだな。
『いいからひとつ、どくみせんかい』
とか言いながら、ムリムリぎゅうぎゅう押し付けて来る。
俺は童女の暴力から逃れるべく【風の太鼓】に手を伸ばし、邪悪なキノコに手渡した。
悪の化身・シャルロットは、最初は怪訝な顔をして受け取ったが、其処は幼児だ。
反射的にデンデンデンデン鳴らし出す。
そうすると、聖獣フラミーが<マナの木>の上に現れて、俺達の傍に舞い降りたのだ。
「うっしっし、おてがらでちねえ、デュランしゃーん?
これでこの、しんきくさ~いせーいきからは、えいえんにおさらばけっていでちねっ。
ばいびーせーいき、サヨナラでんせつ!!」
「オイ、シャル、てめえ!
さっきから聞いてりゃ、其の軽くてアホなノリはなんだ?
アンジェラとフェアリーが<闇の力を持つ者>に攫われたんだぞッ!
なのにお前は平気なのかよ!」
「・・・そんなことは、ない!
でも」
「でも、何だ」
シャルロットは、テンッと【風の太鼓】を鳴らした。
頬はむくれ、口を突き出し、いかにも『不満顔』だ。
足元の小石をぺしっと蹴って、半べそにさえなっている。
そして、最後は消え入るような声で、俺に言った。
「でも、いまのシャルロットたちに、ほかにいったいなにができまちか?
フェアリーしゃんも、アンジェラしゃんも、あんなにたかいおそらのうえで・・・。
しかも、あんなにこわーいおふねのなかで・・・。
あんたしゃん<ふね>につっこんで、じばくでもしたいんでちか?
それとも<マナのせーいき>に、まだやることがのこってまちか?
こんなだれもいない、ほしのうみのまんなかの、めちゃくちゃくらいボッチなばしょで」
シャルロットは、不安気な眼で辺りを見回す。
今の俺達が立って居るのは<マナの木>から少し離れた、女神像の群れの中だ。
像は列柱のように並び続け、一直線の道をなして居る。
道の先にある、一際高い場所には東屋があり、他の像とは違う女神像が祀られて居た。
東屋の女神像は他と比べて少しばかり形が大きい。
そして<石自体が七色に光って居た>。
薄く光る女神像を、俺達が見上げた瞬間に、また霧雨が降り出した。
シャルロットは濡れるのを嫌ったらしく、東屋に向かって走り出す。
二人して、デカイ女神像に向かう階段を、一から駆け上がる羽目になる。
屋根の下に入ってから、シャルロットは、再び俺を軽く睨んだ。
ゆっくりと念を押すように尋ねながらだ。
「・・・デュランしゃん!
まだこんなトコにいるいみがありまちか?
こんなあめばっかでくらいトコ、シャルロットはもうイヤでちよ。
もうおうちにかえる~!
ヒースう!
びえっ・・・っ!」
「クッ・・・。
すまん。
お前はそうだったな」
想い人の名を出して泣かれると、流石の俺も言い返せない。
幼いコイツにも、これまで随分と、大きな負担が掛かって居たのだろう。
アンジェラ同様、普段は陽気ぶってるだけで、シャルロットの中身だってまだまだ子供だ。
そう泣くのも無理は無い。
だが、どうしても・・・。
俺は<マナの聖域>から立ち去る気にはなれなかった。
なまじ<マナの女神>から聖獣フラミーを与えられたから尚更だ。
しかし、今すぐ<空中要塞>を追うのは自爆行為。
かと言って、このままでは故郷に帰れない。
せめて『次はどうするのか』を決めなくては、一歩たりとも動け無かった。
変わらなければ俺は弱いままだ。
<聖域>から逃げたとしても、事実は何も動きはしない。
「うっ、えぐっ、うわあああん・・・。
おじーちゃんのうそつきい~~~・・・。
<せーけん>をぬいても、ぜんぜん<めがみさま>はたすけてくんないでちよ。
やくたたずのめがみさまは、もうハリセンチョップをくらえでち!!」
「ゲッ!
シャル、そりゃ流石にバチ当たりっ・・・!」
其の時だ。
悪徳童女がヤケになった余りに<七色の女神像>へハリセンをぶちかました。
そのせいで『ゴイーン』と凄くいい音が、聖域中に響き渡る。
いーんいーんいーんと、まるで寺院の鐘のような音が、辺り一面を震わせた。
其れと同時の出来事だ。
辺りに地鳴りが走り出したのは。
突如始まった地鳴りは、やがて、大地震に変わって行った。
大きく縦に揺れる<聖域>が、このままじゃあ、地面ごと崩れ去っちまうんじゃないか?
そんな恐怖を覚えるほどの揺れに包まれる。
遠くでフラミーがバサバサと飛び立つ影が、非情に観えた。
「ああっ!?
フラミーしゃんが、シャルロットたちをおいて、にげたでちっ。
まさか、つばさあるもののちちが、ゆうしゃのおつれさまをほうちとは・・・!」
「おい、シャルロット!
こりゃお前が招いた事態だよっ。
どーすんだ、きっと<七色の女神様>をハリセンで殴ったせいだろ、この揺れはっ?
お前が何とかしろ、お前が何とかするんだ、お前がケツを持てえ!」
「し、しるかでち!!」
ズズズ・・・!!
いよいよ激しくなる縦揺れと地鳴りの中で、一際女神が輝いてゆく。
次の瞬間に、俺達は、白で塗り潰されて行った。
Ⅱ
___『父さんは、せいきしなの』
気が付くと、俺は・・・。
光の中でかつての親父に語り掛けて居た。
俺は5歳の少年で、お袋も生きて居た。
妹のウェンディも加え、一家の4人で小さな家の食卓を囲んで居る。
狭いキッチンには、ステラおばさんが立って居る。
勝手口からは前触れも無く、リチャのおっちゃんがやって来る。
フォルセナ城の台所からくすねた『戦利品』を手土産に、晩飯を食べに来た。
其れは、俺が小さな頃にはよくあった、当たり前の景色だった。
『リチャード、またか!
其の年になってもそれだから、ヴァルダが怒るんだ。
来る時には連絡ぐらい入れろよ、それが大人の常識だろ』
『いいじゃないか、天下の聖騎士・ロキが、ケチくさい事を言うな。
賊は巻いて来たんだぞ』
『賊じゃなくて、部下だろう?
ハア、未だにそんなので、お前に竜が倒せるか?』
『オイオイ、そう怒るなよ。
ほらほらフォルセナ城の酒だぜ。
やあデュラン。
お前も呑むか?
旨いぞお?大人の酒は・・・』
そうしてリチャのおっちゃんは、5歳の俺に『大人の酒』を勧めて来た。
けれども親父は睨んで制する。
酒ビンをおっちゃんから没収し、隣のお袋に突き出したのだ。
お袋は苦笑して、おっちゃんに『デュランはまだ5歳ですよ?』と窘めた。
『リチャード王子。
君は息子にダメな事を教えるつもりか』
『相変わらず、お堅い男だなあロキは。
酒の味も解らずに、息子は大人の男にはなれまい。
それとも敬虔な聖騎士様は、酒の一つもダメなのかい』
『酒は人を酔わせて安きに流す。
俺が自制して居るのを知って居る癖によく言うよ。
俺は、何処ぞの誰かみたいな軽薄な行動は、犯さんようにと務めてるんだ』
そうして、親父は・・・。
同時に、背後の大人達の全員が・・・。
にっこりと、小さな子供を見守る微笑みを、子供の俺に向けてくれた。
母・シモーヌは、スッと親父の肩に寄り添いながら。
ステラおばさんは、眠ったウェンディを抱き上げながら。
リチャのおっちゃんは、酒の代わりに、ケーキ箱を開いてゆく。
次の瞬間には、時が止まってしまったように、みなが動かなくなり色を失う。
唯一人、親父だけに、時を残して。
『・・・シモーヌ・・・』
動かなくなる時の中で、親父の時空だけが色を帯び、母の名を呼んで居た。
母の髪を優しく撫でながらだ。
母は、何処かうっとりとした表情のまま、眠るように父へと身体を預けて居る。
動かない、過去の時間の中で、父は母を愛して居た。
『デュラン』
其の時、母の頬にキスをしながら、親父が俺に笑顔を向けた。
本当に12年前の笑顔のままだった。
明るくて、健やかで、何の憂いも無い微笑。
唇は、母の頬にキスしたまま、父は眼だけを向けて囁く。
『息子よ。
これから私と王子はドラゴン退治に行って来る。
今度の敵は[竜帝]と呼ばれるドラゴン族でも最強の奴だ。
だが大丈夫。
王子と私なら必ず勝てるよ。
デュラン、お前は男の子だ。
ウェンディと母さんを頼んだぞ!』
『・・・ん!
いってらっしゃい!』
(父さん!
竜帝との戦いに行っちゃ駄目だ・・・ッ!)
5歳の俺は親父に抱き付く。
背後で見守る大人の俺は親父を止める。
親父はいかにも父親顔で『5歳の俺』をグシャグシャ撫でた。
けれども其の眼差しは、背後の俺を見つめて居た。
そして、親父は、問い掛ける。
再び理解を超えた言葉の羅列で尋ねて来る。
『さあ、デュラン。
お前は果たしてどちらを選ぶ?
<光>の道か、それとも<闇>か___』
■
そうして、俺は・・・。
気が付くと、もう一度東屋に居た。
「・・・今のは、夢?
ハッ、シャルロット、シャルロットは何処だ・・・ッ」
今は<薄く光る七色の女神像>だけが、俺の傍には立って居る。
辺りを見回すと、何処にもシャルロットの姿は無くなって居た。
慌てて探しても、傍に在るのが像だけなのは、どう見ても明らかだ。
そして、地鳴りがする前よりも、遥かに視界が明るかった。
星空もオーロラも、今は白濁した空間に、すっかり包み込まれて居る。
時折蜃気楼のように<聖域>全体がユラリと揺れた。
もう『夢からは覚めた』はずなのに・・・。
まだ白夢中の只中だ。
「畜生、何だってんだ!
女神はアッサリ消えちまうし、シャルロットも消えちまって・・・。
これは、悪い夢なのか?
ならば何処から何処までが?」
聖剣伝説なんて『夢物語』。
遂一か月前までの俺は、そう喝破していたハズなのに。
気が付けば、俺自身が悪夢の真ん中だ。
今の俺は<聖剣>を奪われ、仲間を奪われ、自尊心さえ剥ぎ取られて、女神の幻に独りで取り込まれてる。
そうして足元で、小さな花がゆらりと揺れて、気付いた途端に記憶が蘇る。
『私を支えてて』___王女の切ない懇願を、香りで思い出しちまう。
「クソッ、一体なんだってんだ!
やいっ<マナの女神>め。
さっきからテメエは何を考えて居る。
無責任に消えたと思ったら、今度は夢か?
ふざけるなっ!
ンなもんを、俺に見せつけて、お前は一体どうしろと言うッ。
こんな事で、アイツを、アンジェラを、お前は救えるとでも言いたいのかッ」
『汝、選びとれ。
光か闇か』
(・・・!)
其の時、脳裏に<女神>とは明らかに違う、何処か男性的な声がした。
声は最初、俺の心の奥深くから、聞こえたような気がして居た。
だがよく聞けば、声は像から響いて居る。
女神像の声なのに男の声を響かせる。
明らかに<女神>じゃない。
「だ、誰だ、てめえは。
さっきからお前は俺に、一体何を選ばせたい?」
『私は女神を創りし者。
汝は女神の僕なり。
女神は汝を選定せん。
故に<力>を与えよう。
汝、自ら選ぶがよい。
光か闇の道をゆけ』
・・・<光か闇の道>?
そう言えば、俺はさっきの夢の中でも、親父に問われて居た気がする。
<光の道>か<闇の道>、お前はどちらを選ぶのかと。
そして、輝く女神像は『力を与える』と言って居る。
つまり其れは<光の力>か<闇の力>、其のどちらかを選べと言う事なのか。
選べば<新たな力>が与えられ、俺は強くなれるのか。
『心せよ、退路は無い。
光は闇になれず、闇は光になれない』
<七色に光る女神像>は、心の声を聴いたように深く語る。
どうやら俺の考えは、それで正解だったらしい。
かつどちからかを選択すると、後戻りが出来ない仕組みになって居る。
一度<光の力>か<闇の力>を選ぶと、片方は失う事を意味して居た。
俺は、旅の間に何度も聴いた<闇の力>。
其の意味を知るチャンスを初めて得た。
しかし、これまでの経緯を振り返ると、<闇の力>はかなりの曲者のハズだった。
たった今も竜帝が<闇の力>で世界を支配しようと企んで居る。
<死んだ俺の親父さえ其の力で蘇らせて居る>。
しかし、深い声はおかまい無しに、考える時間を全く与えず今すぐ選べと迫って来た。
『女神の為に選ぶが良い。
試練を経て決めるが良い』
「ハア?
しれん?
・・・でえっ!!」
其の時。
ベチャッと。
俺の顔に『ゼリー状のネバネバしたヤツ』が落ちて来た。
唯の粘々じゃなくて生き物みたいだ。
影が液状の形を得て動き出し、顔上でウゾウゾ蠢いてゆく。
「うわっ、きもっ、むがっ、なんだよコレ、モンスターかっ?」
『そは、シャドウ・ゼロ。
未来の汝を映す鏡。
光と闇に分かたれた、未来のお前の姿である』
一定の間、規則正しく顔上で蠢く、黒いゼリー状の生物。
『シャドウゼロ』と呼ばれたモンスターは二つに分かれ、分裂を繰り返す。
最初はゼリー状だったのだが、大きくなればなるほどに、だんだん人の形を取って行った。
やがて『大きくなったシャドウゼロ』は『二人の俺自身』と化したのだ。
一人は白く光輝いて、一人は闇を纏って居る。
それは<光の自分>か<闇の自分>だ。
<光のデュラン>は、白銀の甲冑と盾を身に着けて、紺碧のローブを纏って居た。
優しい微笑は周囲の総てに慈愛を注ぐ表情だ。
『自分の事より周りを何より考える』そんな男の顔だった。
<闇のデュラン>は、漆黒の甲冑に身を包み、盾はすでに捨てて居た。
代わりに抜き身の大剣を掲げて居る。
其の姿は、まるで、此の世で信じられるのは『己の力のみ』みたいな存在だ。
<二人の俺>はずっと動かないままで、黙考を重ねて瞳を閉じて居る。
まぎれもなく<どちらも俺>だ。
本来は分けられるはずがない俺自身。
其れが二つに分たれる。
そうして足元の花がフワッと揺れた。
見れば花にも『シャドウゼロ』がへばり付く。
花を包んでいたシャドウゼロは、二人の俺に向かって移動を開始した。
そうして分裂を繰り返したモンスターは、突然<アンジェラ>になったのだ。
「!」
<シャドウゼロのアンジェラ>は、両手を俺に向かって広げ始めた。
柔らかな身体を開き、潤んだ瞳で頬を染め、今にも胸に飛び込んできそうな姿だった。
そうして、頬を紅色に染めたアンジェラは、俺の事をうっとり見つめ___。
『デュラン・・・。
・・・だーい好き』
甘くとろけるように囁いた。
「・・・なっ!」
俺は<シャドウゼロのアンジェラ>と真正面から何秒も・・・。
いや、もしかしたら、5分以上は見つめ合ってしまう。
其の間も、アンジェラは、頬を紅に染めたままで居る。
身体の後ろで手を組みモジモジとさせ、かと想えば俺自身をうっとり眺めてみたりもした。
更には恥じらいを見せつつだ『フンッ』と横を向いたりもする、ツンデレぶりを披露した。
ハッキリ言って本人だ。
それなのに<幻>だ。
<幻のアンジェラ>は、豊かな胸の合間に手を当てて『私は此処だ』と言いたげな仕草をする。
「えっ・・・アッ・・・!?
いや待て、待ってくれ。
本物のアンジェラが<マナの聖域>にぽんぽん落ちてる訳がねえ。
大体アンジェラは関係無いハズだ。
これは『俺の試練』だろう?
ならば<力>と関係無い!」
『ねえ、デュラン・・・。
私、魔法よりも、もっとステキなものを見つけちゃったの・・・』
「なんだ、これ・・・」
俺は、唯ひたすらに『俺が好きだ』と言い続けるアンジェラを、見つめ続ける羽目になる。
そして、彼女の後ろに立つ俺達は、長い間動かない。
其の間主張をし続けて、ようやく満足したような<幻>は、クルンと背後に向き直った。
そうして二人の俺が瞼を開く。
<光のデュラン>は静かに彼女の手を取った。
そして、恭しい仕草のまま、桜色の指先へと、其の唇を落としてゆく。
『果たして此れは俺なのか』と、自分で頭を抱えるほどの、凛々しい佇まいを見せて居た。
<光のデュラン>は12年前の親父みたいな存在だ。
黄金の騎士は、アンジェラ王女に、慈愛の微笑を見せて居た。
そして其の微笑みで、彼女に語り掛けて居る。
『<一族の末裔>理の女王陛下。
私は貴女に永久(とこしえ)の忠誠を捧げよう』
・・・・・・いちぞくのまあ?!
俺には『<一族の末裔>理の女王陛下』の意味が解らない。
新手の呪いかと思うほどに謎過ぎる。
しかし<光の騎士>がした仕草は、間違い無く王族への敬礼だ。
アンジェラは王女なのだから、俺が騎士の立場なら、敬礼ぐらいはするのだろう。
やがて、唖然とし、無言で突っ立った俺はそっちのけで、次は<闇の戦士>が王女の手を取った。
けれどもコチラは褒められた仕草じゃない。
細腕を捩じ上げるように取っちまう。
そして、頬を赤らめた、王女の耳まで顔を近づけ・・・。
『アンジェラ。
お前は永遠に俺だけのものだ』
また意味不明の台詞をのたまった。
そして<闇の戦士>は本体のハズの俺を垣間見て、不敵にニヤリと嗤って見せる。
それは『男の顔』で『騎士』じゃない。
其の笑みは、父が母を見る時の、一瞬の眼差しだ。
唯愛する女を欲する眼___。
二人の俺に挟まれてもアンジェラは、終始『デュラン、だーい好き』の姿勢を崩さない。
本物である俺を丸ごと無視し、ガラにも無く大人しく、二人に指を預けたままで居た。
俺の心に戦慄が走ってゆく。
俺には全ての意味が解らない。
いや、其れよりも、何よりも。
「・・・ほ、本物は俺だ!
お前らじゃねえってば!
なあ、聴いてるかっ、なあっ?!」
___此れがホントに<力>の試練かよ!
だが目前の景色以外、何も起きては居なかった。
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