中小企業

(1)中小企業のイメージ

 中小企業と聞いて、どのようなイメージを抱くであろうか。一般的には町工場や大企業の下請け、陶磁器産地の地場産業、あるいは最近はやりのベンチャー企業などを思い浮かべるかもしれない。しかし、その辺の商店街にある八百屋床屋クリーニング店飲食店など、個人のお店も含め、これらはすべて中小企業に含まれるのである。
 中小企業の定義は、中小企業基本法(1963年)に定められている。

製造業 資本金3億円以下、または従業員300人以下のいずれかに該当する
卸売業 1億円以下、または100人以下
小売業 5000万円以下、または50人以下
サービス業 5000万円以下、または100人以下

 もちろん中小企業の定義は、国により異なる。たとえば中国の場合工業分野における定義は「従業員が2000人以下、あるいは年商が3億元以下、あるいは総資産が4億元以下」が中小企業に該当するというからおもしろい。

 現在日本には約577万の事業所があり、そのうち99%は中小事業所であり、働く人の約80%の人が中小事業所で働いている。働いている人を分野別に見ると、約3分の1が卸売業・小売業・飲食店で働き、3分の1が建設業・製造業で働き、約2割の人がサービス業で働いている。

 

(2)中小企業の果たしている役割

 中小企業は経済活動の中で次のような役割を果たしている。
@下請け企業として大企業を支えている。特に自動車や電器産業では、部品を供給する中小企業が欠かせない。

Aニッチ(隙間)な産業に製品を供給する。大企業では採算がとれない部門に製品を供給している。ニッチ産業としては、たとえば、次のようなものがある。

・NASAでも使われる緩まないボルトナットを作った大阪のハードロック工業株式会社
 http://www.hardlock.co.jp/company/

・山本光学(SWANのブランド、世界で初めて度付きゴーグルを発売) 
http://www.yamamoto-kogaku.co.jp/outline.html

そのほかにも
・砲丸投げの砲丸を作る辻谷工業、
・藍染めの技術を活用しデニムの最高級ブランドを確立した広島の「カイハラ」、
・ペット葬祭ビジネス
・介護関連事業 

など様々な企業がある。

B地場産業の担い手
 繊維製品(丹後ちりめん、今治タオル)、各地の家具、木工品、仏壇仏具、漆器、和紙、陶磁器(清水焼、信楽焼、有田焼)、豊岡かばん、マッチ、地酒、醤油、手延素麺、熊野筆、加賀友禅、西陣織 など

C新しい産業の創造(ベンチャービジネス)
 
大学生が創立したマイクロソフト、デル、ヤフーなど、これらも元はベンチャー企業であった。日本でも、ソフトバンク、楽天、ミクシーなど、たくさんの企業が新しい産業の創造に貢献した。
言語学習のための相互添削SNS事業を展開するランゲートhttp://lang-8.com/は筆者の教え子が立ち上げたビジネスである。

 

(3)中小企業の特徴

(短所)
@規模が小さいので企業の新規参入が容易であるため、常に激しい競争にさらされている。
A特殊な技術を持たないと価格競争に巻き込まれ、倒産しやすい
B資金調達が難しい
C生産性が低く、長時間労働で賃金も安い。とくに、中小企業では年功序列型賃金は期待できず、年齢が高くなっても賃金が上昇しない場合が多い。

(長所)
@経営組織が簡単なため、大企業にはない小回りがきく。たとえば急ぎの仕事で生産ロットが小さくても納期までに作ってくれる。
A従業員数が少ないので様々な仕事をこなさなければならないが、もし、将来独立をする場合には有利に働く。
B地元に根を下ろすことができる。
C一人一人の存在感が大きく、能力発揮のチャンスが多い。

 

(4)二重構造と中小企業基本法(1963年)

 中小企業は全事業所数の99%を占め、約 8割の労働者を吸収し、製造業の出荷額の約半分を 担っている。日本の中小企業の特徴は大企業と中小企業の二重構造をなしていることである。二重構造という言葉は、1957年有沢広巳が初めて用いた。特に国民の生活に密着した第3次産業では中小企業が圧倒的に多い。   
中小企業には次のような二つのタイプがある。

1,従属型中小企業
2,独立型中小企業

 日本の中小企業(製造業)の多くは1のタイプで、親企業を頂点としたピラミッド型の系列・下請け分業構造を形成している。特に加工組立型産業(自動車・機械産業など)は生産工程が多段階にわたっているため分業が幅広く行なわれており、売上高の大半を特定の親企業に依存する企業が多い。したがって、資本装備率が低く賃金や生産性は大企業の半分程度しかなく、休日数なども少ない。

 このような観点から従来、中小企業は経済的弱者とみなされ、大企業の景気調整弁としての役割を強調されることが多かった。1963年に制定された中小企業基本法は、大企業との格差是正を目的としたものであった。 そのために、つぎのことが最大の目標とされた。

規模拡大を促進する。中小企業の近代化が遅 れているのは「過小過多」に原因がある。したがって、合併・協業化を図り規模適正化を進め、これにより生産性を上げる。

 
 

(5)ベンチャー企業の台頭新「基本法」(1993年)
 しかし、すべての中小企業が大企業によって支配され、生産性が低いという公式は正しくない。ベンチャー企業と呼ばれる タイプの中小企業の中には「新産業創造の担い手」として成功した企業もある。
 ソニーもパナソニックもホンダもかつては小さな町工場だった。ヤフー も、最初はガレージで立ち上げた。一代でソフトバンクを作った孫正義氏は、会社設立当初、みかん箱の上で2人の社員に向かって檄を飛ばしたという。インテル、マイクロソフト、アップル、シスコ、アマゾン、グーグル、楽天などのIT企業も、かつてはみな中小企業からスタートした。会社を設立してうまくいけば500億円、1000億円の創業者利得をえることも決して夢ではない。

  1999年、中小企業基本法が改正された。改正後の中小企業 基本法は、かつての二重構造論から脱却し、中小企業の発展性に目を向けたものとなっている。
 すなわち、かつての問題型中小企業観積極型中小企業観へと180度転換し、中小企業に起業・創業の促進、新たな産業の創出、就業機会の拡大などを期待したものとなっている。

 新基本法が従来の問題型中小企業論から脱却したことは大いに評価されてよい。しかし、中小企業の発展性のみを強調し、かつての中小企業が抱えていた問題点を全く配慮しないとしたら、それも間違いである。

 事業経営には生業的経営事業的経営があるが、圧倒的多数の経営者はリスクに挑戦することを避け、生活を優先させる生業的経営をとっている 。郊外型のショッピングセンターやロードサイド店に客を奪われ、シャッター通りと化した駅前の商店街がふえている。

 

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