地域的経済統合

 

1.地域的経済統合の諸段階 

 地域的経済統合は、その統合の度合いによって5つの段階に分けることができる。以下の表では、下に行くほど統合の度合いが強い。
 

統合のレベル 説明 具体例 概要
自由貿易協定(FTA) 加盟国の間で関税その他の貿易に関する障壁を撤廃する

・但し、加盟国以外の国に対しては共通関税を設けない。

経済連携協定(EPA)は、モノの自由化に加えて、人や投資の移動の自由化なども認めるFTAより広い概念

北米自由貿易協定(NAFTA) アメリカ、カナダ、メキシコ間に1994年に発足した世界最大の統一市場。域内関税ゼロを目指す。
ASEAN自由貿易地域(AFTA) アジアにおける共産主義勢力に対抗する組織として、1967年にASEAN(東南アジア諸国連合)が設立された。

 1985年のプラザ合意以後、日本企業が中心となってASEANなどアジア向け直接投資が急増したが、90年代に入ると中国へと進出先が移っていった。これに危機感を抱いたASEANは、
ASEAN自由貿易協定(AFTA)(1993年)
・ASEAN地域フォーラム(1995年)
 ASEAN10の完成(1996年)
など、矢継ぎ早に対策を講じた。1993年に発足したAFTAは、域内の貿易自由化を進め、外資の誘致や企業の生産性向上を目指す。

 

ヨーロッパ自由貿易連(EFTA) EEC(ヨーロッパ共同体)に対抗し1960年に設立。アイスランド・スイス・ノルウェー・リヒテンシュタインなどが参加。中心となったイギリスが抜け、影響力は低下。

 

関税同盟 ・域内で関税を撤廃する。

・それと同時に、域外からの輸入に対しては共通関税を設ける

 

メルコスール
(MERCOSUR)
南米共同市場ともいう。1995年発足

(1967年に設立されたEC(ヨーロッパ共同体)も関税同盟に属する)

共同市場 ・域内で関税を撤廃する。

・域外からの輸入に対しては共通関税を設ける

・加盟国間の労働力・資本などの移動の自由化を行なう(職業資格の相互認証も含む)。

 

   
経済同盟 ・共同市場に加えて

共通通貨、共通の金融政策を導入する。

 

欧州連合(EU) 共通通貨ユーロの導入により、加盟国間の為替レートの問題はなくなった。
アメリカに対抗してヨーロッパ合衆国(政治統合)を目指す。
完全な経済統合 金融政策、財政政策、社会政策野統一

 

まだ、存在しない  

 

 

2.EU(ヨーロッパ連合)

 ヨーロッパから戦争をなくするためにはどうしたらよいか。そんな発想から第二次大戦後、ヨーロッパを統合する計画が持ち上がった。特にドイツとフランスは、大陸にあってしかも国境を接していることもあって、最近の100年あまりの間に3回の大戦争をしている。

 最初は1870年の晋仏戦争(〜71年)。この時はフランスが敗北し、ナポレオン三世がセダンで捕虜になったほか、アルザス・ロレーヌを失い、50億フランの賠償金を払わされた。フランスにはドイツに対する癒しがたい憎しみが残った。

 機会があれば復讐をしてやろうという気持ちは、第一次世界大戦で敗北したドイツに向けられた。アルザス・ロレーヌを取り返したほか、1320億金マルクという、当時のドイツの17年分の国家予算にあたる天文学的な損害賠償を課した。しかし、そのことが新たな悲劇をもたらすこととなった。ヒトラーの台頭 ・第二次世界大戦を招く一因となったのである。

 1967年、ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)、EEC(欧州経済共同体)、EURATOM(欧州原子力共同体)の3つが統合され、EC(ヨーロッパ共同体)が発足した。その後、1992年にはマーストリヒト条約が成立し、翌1993年にはECはEU(欧州連合)となった。

 現在28ヵ国がこれに加盟 し(2015年)、経済的統合のみならず、政治統合をめざして調整が進められている。2002年1月1日からユーロが流通し始めた。統合が完成すれば、ヨーロッパはいわば「ヨーロッパ合衆国」となり、それぞれの国はちょうどアメリカの州のような存在になる。
 なお、近年、ヨーロッパ統合の目的は、当初の「ヨーロッパから戦争をなくする」という目的から、「アメリカに対抗する勢力の構築」、というふうに変化してきている。

 

 

3.日本のEPAとFTA

政策の転換
 WTOの多角主義を重視する立場から、日本は1990年代までFTA(自由貿易協定)には批判的であった。しかし、NAFTA成立(1994年)後、自由貿易協定が急増してきたこともあり、日本は政策転換を図った。日本は2002年、シンガポールとの間に自由貿易協定を結んだのを皮切りに、FTAに積極的に取り組むようになった。近年では、EPA(経済連携協定)の推進にも積極的である。

FTA増加の背景
 地域貿易協定(関税同盟+自由貿易協定)を結ぶ国が増加しており、現在205件に上る(2008年5月)。その背景には、次のような要因がある。
@WTO加盟国が140を越え、全会一致を原則とするWTOでは多国間交渉に時間がかかりすぎるので、短時間で自由化を実現できる地域協定を採るようになった。
A NAFTA(1994年)以降急増したことから、NAFTAが世界に与えたインパクトが大きかった。
B冷戦構造が崩壊し、従来の枠組みにとらわれず地域統合が進めやすくなった。
 

FTAからEPAへ
 一方、モノやサービスの貿易拡大だけを目的とするFTAに代わり、近年増加しているのがEPA(経済連携協定)である。これは貿易だけではなく、外国人労働者を受け入れるルールや、お金の移動を自由にする投資規定なども含む。日本はシンガポール・メキシコ、ASEAN諸国などとEPAを締結または署名している。

EPA・FTAの効果
 WTOの基本原則は、すべての国に同じ関税率を適用する(最恵国待遇)ことである。しかし、FTAはその例外で、協定を結んだ特定の国(地域)に対して、関税を撤廃できる。
 したがって、FTA・EPAを結んだ国の間では貿易量が急速に拡大するなど、その効果は目を見張るものがある。たとえば、メキシコとEPAを結んだ結果、2004年から2005年にかけて貿易額で38.4%、対メキシコ投資額で242%増加している。


農業分野がネック
 日本が経済連携協定の交渉をおこなう上で、最大のネックになっているのは日本の農業自由化問題である。WTOの協定では、自由貿易協定締結の要件として、「すべての貿易について10年以内の関税撤廃」を明記している。

 しかし、日本は輸入農産物に対して、大豆やトウモロコシの関税はゼロであるものの、コメ778%(実質はもう少し低い?)、バター330%、小麦120%、豪州産牛肉には38.5%という高関税 をかけている。関税なしで安い牛肉やコメが輸入されれば日本の農家は太刀打ちできない。

もちろん、日本の工業製品の輸出攻勢を受ける相手国も事情は同じである。互いの弱い分野を守りながら妥協点を探るのは容易ではない。日本の農業がネックになって、米国や中国、韓国とのEPAはめどがついていない。

 

4.地域統合の行く末
 こうした地域的経済統合が、今後どのように機能するのか。最悪のシナリオは、戦前と同じような「ブロック化」である。しかし、過去の苦い経験に鑑み、たぶんそうはならないと信じたい。

 理念としては、とりあえず統合できるところから統合しはじめ、近い将来、それぞれのブロックを接着剤でくっつければ、理論的にはやがて世界は一つに統合される可能性があると思われる。いま進行している地域統合はそのための一つのステップである、というのだが・・・。はたしてうまく行くか。

 

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