地方自治



1、大きな流れ
 地方自治という観点からすれば、江戸時代は地方自治がきわめて大きく認められていた時代であった。幕府直轄の仕事は貿易・国防・金の採鉱など少数に限られ、仕事の多くは各藩の裁量にまかされていた。紙幣の発行すら各藩にまかされていたことからも、藩の自治権の大きさが想像できる。

しかし、地方自治をあまりに認めると、国家全体としての統一した発展が阻害される恐れがある。事実、日本は江戸時代に欧米に大きく遅れを取ってしまった(もちろん理由はそれだけではないだろうが・・・)。

 明治政府は、欧米にキャッチアップするために、天皇を中心とする強力な中央集権国家体制を築いた。明治憲法には地方自治に関する規定は全くなく、知事は天皇の任命になる国の官吏、市長は議会で選任されたものを天皇の承認を経て任命、また町村長も議会で選出されたあと知事の認可を必要とした。要するに地方の行政は、中央官庁を頂点とするピラミッドの末端と位置付けられたのである。


 これに対して、日本国憲法ではわずか4ヵ条ではあったが、初めて地方自治に関する規定が盛り込まれた。これは画期的なことであった。ただし、国と地方の関係は対等な関係ではなく、「上下」「主従」関係にあるとされた。なぜなら、あまりに地方の権限を拡大すると、仮に中央に保守的な政府が成立し、地方に革新的な知事が誕生したような場合、全国がバラバラになる可能性があったからである。

しかし、中央と地方が主従関係とされた結果、中央政府はあまりに多くの仕事を抱えることとなり、いわゆる「大きすぎる政府」が生まれる原因の一つとなった。そこで、中央政府の機能を純化するために、地方にもっと権限を委譲することが求められるようになった 。

 このような流れに沿った改革が2000年4月から施行された地方分権一括法である。これは中央と地方の関係を、これまでの上下・主従関係から「対等」な関係へと改め、文字通り地域のことは地域住民が決める民主主義の原点に返ろうとする改革である。この変化はすぐには表れないかも知れない。

しかし、レールのポイントの切り替えのように、今後時間を経るにしたがって、少しずつレールの開きが大きくなっていくのではないか。地方分権一括法の施行は、明治憲法、日本国憲法に次ぐ第三の改革だと指摘する人もいる。

 

2、地方自治の本旨

 憲法第92条には、地方自治に関する事項は「地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める」となっている。一般に地方自治の本旨とは、次の二つの意味に理解される。

 第一の意味は、「住民自治」の原則である。J、ブライスが「地方自治は民主主義の学校である」と述べたが、この原則は住民自らが政治に参加することによって、住民の意思を地方政治に反映させようとするものである。この考え方はイギリスで発達した。この原則は、長・議員の選挙、リコール、特別法の住民投票などに具体化されている。

 第二の意味は、「団体自治」の原則である。これは、国の介入を排除し、国と対等に行政を行なうことを目的とするもので、ドイツで発達した考え方である。具体的には、警察、消防、学校、ゴミ処理などの行政作用をあげることができる。また、そのために条例による立法権も認められている。

 しかし、このような憲法の趣旨にもかかわらず、地方自治は不十分にしか行なわれず、地方行政の多くは国の下請け機関と化し、都道府県においては日常業務の7〜8割が国の機関委任事務で占められるていた。また、人事面においても、地方自治体の幹部は自治省からの出向組に占められることが多く、そのため、地元採用の職員の士気を低下させ、地方自治を確立する妨げとなった。

 

3、地方分権一括法の施行

 2000年4月から施行された地方分権一括法は、これまでの「機関委任事務」を 廃止し、新たに自治事務法定受託事務に再編するなど、国と地方の関係を「対等」なものへと変える第一歩となることが期待されている。これにより、従来の機関委任事務の半分以下にあたる45%だけが法定受託事務に移管されることとなり、地方の負担は大幅に軽減された。

 

、地方財政 の概略

 租税には、国に納める国税のほかに、県や市町村に納める地方税がある。 地方税の代表的なものとして、住民が払う住民税や固定資産税のほかに、企業が払う事業税などがある。 しかし、これではとても足りず、必要経費の3分の1程度にしかならない。そのため地方自治は3割自治あるいは4割自治とかいわれてきたのである。

 残りの6割あるいは7割の財源をどうするか。結局は国に依存するしかない。国は地方に二つの財源を与えてきた。一つは国庫支出金で、これは国が地方自治体にお金の使い道を指定して与えるものである。

もう一つは、地方交付税で、これは地方公共団体の間の格差をなくすために交付される。過疎地域ではたくさん交付される一方、東京都のように財政が豊かで交付されないところもある。地方交付税のいいところは、国庫支出金 は使い道が国から指定されるが、地方交付税は使い道が地方の自由になることである。

 2000年4月から地方分権一括法が施行され、その後、三位一体改革が実施されたこともあり、 地方税収入の割合は高まった。

 2010年度(平成22年度)の地方財政の歳入総額は約95兆円のうち、地方税が35%、地方交付税が18%、国庫支出金が15%、地方債が13%、その他 となっている。地方債の発行額は13兆円で、国も借金(累積額約800兆円)、地方も借金(累積額約200兆円)という構図はなかなか変わりそうにない。


(コラム)
三位一体改革とは何か
 目的は、地方財政の自立を促し、地方分権をすすめることである。そのために
.国のコントロールがもろに出てしまう国庫支出金を減らす
2.地方交付税があると地方は国を当てにして努力をしなくなるから、地方交付税も減らす
3.その代わり、国が徴集している税金を地方に「税源移譲」をし、地方財政の自立を促す。

 という内容である。

 こうした改革が実現すれば、「地元のため頑張ります!」と票を集めてきた国会議員はいらなくなり、国会議員を利益誘導型のスタイルから変えることも可能になってくる。 しかし、現実にはもともと財政基盤の弱い地方自治体を直撃することとなり、夕張市のように財政破たん(2007年)に追い込まれた地方自治体もあった。



 

、今後の課題

1,財源確保の問題
 地方自治の確立というと聞こえはいいが、今後は各自治体の体力差や努力差が地方財政に大きな影響を及ぼすようになる。国同様、地方自治体の財政はどこもひどい赤字である。

 地方自治体の借入金残高はバブル崩壊後の8年間で約2、5倍に膨らみ、2014年度末の累積総額は201兆円である。これは国内総生産(GDP)の約 40%にあたる。本当の意味の地方自治を確立するためには、しっかりした財政基盤を確立することが求められる。

2,道州制導入の問題
 今後、介護保険、ゴミ処理場の建設など、小さな自治体では対応しきれない問題が出てくると予想される。また、地方行政の効率化という点からも、自治体の規模があまりに小さいのは問題である。このような観点から政府は、3218あった市町村を「平成の大合併」により1718(2014年4月現在)にまで再編した。これは、明治の大合併(1889年)、昭和の大合併(1956年)、に続く3回目の大きな変化である。
 今後は、道州制の導入をにらんだ議論も必要であろう。

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