国民主権と天皇

 

1、世界の王制

 世界における君主制(王制)は、民主化という時代の流れの中でつぎつぎに崩壊した。20世紀になって崩壊した国として は次のような国がある。

中国 1912年
ロシア 1917年
オーストリア 1918年
トルコ 1922年
イタリア 1946年
イラン 1979年

 一方、現在もなお世界で君主制を採っているのは、イギリス、オランダ、スウェーデン、スペイン、サウジアラビア、タイ、日本など約30ヵ国である。このうち今なお”Emperor”の称号でよばれ るのは、日本の天皇だけである。

 

2.天皇の地位

 昭和天皇は、人生の前半を「神の子」として生き、後半を「人間」として生きた。天皇の地位について憲法は、「この地位は、主権の存する国民の総意に基く」(第1条)と定めている。このことは反対解釈として、もし国民の総意が天皇制に反対ということになれば、憲法を改正することによって、天皇制を廃止することも可能であることを憲法は認めているとも読める。現在のところ、世論調査では、象徴天皇制に賛成するものが約77%あり、象徴天皇制はほぼ国民の間に定着したものと考えられる。

 

3.皇室の予算

 皇室の予算は、明治憲法下では「御料」を中心とした私的財産の収入ですべてがまかなわれていた。しかし、戦後は皇室財産が国有財産に移管されたため、皇室費用は国庫から支出されている。 宮内庁関係の予算を大別すると,皇室費と宮内庁費に分かれて、その内訳は次のようになっている(皇室経済法第3条)。

宮内庁関係予算(平成20年度)

皇室費(総額約68億円) 内廷費  天皇・皇后・皇太子一家に支給される生活費は内廷費と呼ばれ、年間3億2400万円である。内定費として支出されたお金は公金ではなくなるので、余ったお金で株を買ってもよいし、貯蓄してもよい。
宮廷費  皇居の維持、宮殿での晩餐会、儀式、外国ご訪問など皇室の公的活動に必要な費用は宮廷費と呼ばれ、年間約61億円7000万円である。宮廷費は,宮内庁の経理する公金である。
皇族費  秋篠宮・常陸宮など6皇族に対し、各3050万円を算出基準として、総額2億7984万円が使われている。皇族がその身分を離れる際に支出される一時金も、ここから支出される。
宮内庁費    宮内庁の運営のために必要な人件費・事務費などが主なもので,年間約110億6,000万円である。

資料、宮内庁ホームページ http://www.kunaicho.go.jp/15/d15-03-02.html

 
 皇室費、宮内庁費をすべて合計すると、約178億円になる。これを国民一人あたりに換算すると、約150円になる。つまり、日本は皇室を維持するために大人も子どもも含めて年間150円を負担していることになる。これが高いか安いかは人により感じ方が異なるかもしれない。
 

(問題) 天皇は「国民」に含まれるか、それとも含まれないかと質問されたら、諸君はどう答えるか。理由もあわせて考えよ。

 答.理論的には天皇は国民には含まれないと考えられる。なぜなら、「天皇主権」と言う概念に対して「国民主権」という概念があるのだから、国民の中に天皇が含まれていては整合性を欠く。

 

 

4.天皇の権能

 天皇の権能について憲法は、「国政に関する権能を有しない」と定め、内閣総理大臣と最高裁判所長官の(形式的な)任命のほか、 衆議院の解散(憲法第7条)など10種類の国事行為を行なうことを定めている。そしてこれらの行為にはすべて「内閣の助言と承認」が必要とされ、天皇に何か失敗があってもその責任は助言と承認を与えた内閣にあり、天皇は責任を問われないシステムになっている。

 古来、日本の政治は権威権力という二重構造を形作ってきた。 天皇は権威の象徴としてあがめられ、天皇の居所は「禁中」と呼ばれ、天皇を直視すると眼がつぶれるという信仰すらあった。したがって、いかなる権力者(たとえば徳川幕府)といえども天皇を敵に回す ことは「朝敵」とみなされ、自らの権力基盤が脅かされかねなかった。

 憲法前文には「そもそも国政は、・・・・・その権威は国民に由来し・・・・」とあ り、本来、選挙で選ばれただけで十分な権威があるはずなのに、それだけでは割り切れない何かが日本人の政治感覚にはあるのかもしれない。1999年には国旗・国歌法が成立し、天皇はますますその存在感を高めつつあるように思われる。

 

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