日本の政党政治


1.55年体制の成立

 政治とは正義と秩序を実現し、みんなを幸せにすることである。では、正義とはなにか。何をもって正義とするのか。この答えは人によってさまざまであろう。

 近代政治の出発点となったフランス革命がめざしたものは「自由」「平等」「博愛」であった。そして、フランス革命から200年以上たった現代においても、「自由」と「平等」が正義だと考える人は多い。人々は、「自由」で「平等」な社会を作るために、共通の価値観(=目標)を持つ人たちで政党を作る。そして、その目標を実現するために権力を握ろうとする。

 ところで、自由と平等は並列的に言われることが多いが、元来、自由と平等とは両立しない概念といってよい。たとえば、100メートルをヨーイドンで自由に走らせれば、1着もできればビリもできる。かならず勝者と敗者が出て、不平等になる。

だから、自由と平等は基本的にはトレード・オフ関係にあるといってよい。自由を追求すれば平等が犠牲になり、平等を追求すれば自由が犠牲になる。両者のうちどちらの価値を重視するかで基本的な政党の枠組みが決定される。
 

 二つの価値観のうち、「自由」を重視するか、それとも「平等」を重視するかによって戦後の日本では自民党社会党という二大政党が生まれた。主な争点は次の3点である。

・「資本主義と社会主義」、
・「自由と平等」、
・「憲法改正と護憲」。

 自民党も社会党も、いずれも1955年に誕生したことから、こうした2大勢力による政治体制は、1970年頃から55年体制と呼ばれるようになった。ただし、社会党は自民党の3分の1の議席しかとれなかったので、実際には55年体制は自民党の一党優位の時代であったといってよい。

自民党と社会党の比較

自由民主党 @資本主義体制を維持し、自由な社会を建設することを目的の一つとする。

A自由民主党の綱領を読めば分かるが、自由民主党は憲法を改正することを目的の一つとして作られた政党でもある。もちろん、自民党の国会議員の中には中道に近い人もおればタカ派の人もおり、多少の温度差はある。しかし、基本的には憲法改正を党の方針としてかかげている政党である。

 これまで自民党は、何回か憲法改正(とくに1条と9条)の動きを見せてきた。しかし、憲法改正の発議に必要な国会議員の3分の2の議席を獲得できなかったため、断念せざるをえなかった という経緯がある。今後も自民党は憲法改正に向けて息の長い運動を展開するものと思われる。

B自民党の支持基盤財界・日本医師会・農協・日本遺族会・立正佼成会などである。
日本社会党 @自由経済を認めるならば、競争の結果、必ず貧富の差などの不平等が生じる。社会党はこうした不平等を根本から取り除くために、資本主義を否定し社会主義を実現することによってみんなが「平等」に暮らせる社会を建設することを目的とする。

A憲法改正に反対する(特に9条)。

B日本社会党の支持基盤は労働組合が中心。

 自民党と(保守)と社会党(革新)の対立は、世界の冷戦構造を反映したものであり、その国内版である。対立軸が明確で、有権者には非常にわかりやすい主張だったともいえる。

 そうした中で自民党は経済成長を最優先に掲げ、長期に渡る国民の支持を得ることに成功した。一方の社会党は、自民党に対するお目付役として一定の役割を果たしたものの、口を開けば「護憲、護憲」というばかりで、具体的な政策に乏しく、国民から見放されていった
 
 55年体制はその後38年間続き、その間、経済成長を実現した自民党が一貫して政権を担当した。

 


2.政界汚職

 国会議員も選挙で落ちればただの人である。いかに選挙戦を勝ちぬくか。選挙の戦い方は、基本的には次の三つである。

選挙の戦い方

ジバン 自分を支持してくれる地域又は組織
カンバン 知名度、社会的信頼性
カバン 札束の入ったカバン、すなわち資金力


(1)地盤
 2000年5月、小淵首相(62歳)が亡くなると、その直後、次女の小淵優子さん(当時26歳)が父親の地盤を引き継ぐ形で立候補し、見事当選をはたした。別に2世議員だから悪いといっているわけではない。それほどまでに選挙地盤というものが威力を発揮することを知ってほしいのである。2000年12月の調査では、衆議院議員480人のうち、123人が2世議員であった。

 社会党や共産党が労働組合を頼りに選挙を戦うのも、また、公明党が創価学会という宗教団体を基盤に選挙を戦うのも、「地盤」の一種である。

(2)看板
 テレビなどで名を売って当選した議員(=タレント議員)や、弁護士、大学教授、官僚など社会的信頼性を売り物に当選した議員は多い。


(3)カバン

 政治活動にはお金がかかる。たとえば、自分の政策を訴えようと有権者に封書を送ったとする。1通80円。10万人に送れば800万円が郵送費で消える。年に10回送れば8000万円である。選挙戦ともなると、政治にかかるお金は億単位 ともいわれる。

 そうしたお金を政治家はどこから集めるのか。個人献金の少ない日本では、結局、党や派閥の領袖のバックアップや、業からの政治献金などに依存することになる。そして行きすぎた場合には、政治家が企業から賄賂をもらい、見返りとして企業に便宜を図るという汚職事件にまで発展する。ロッキード事件やリクルート事件に代表されるように、第二次大戦後、自民党を中心に多くの黒い霧疑惑が取り沙汰された。

汚職事件例

ロッキード事件

 アメリカの飛行機会社ロッキード社が、全日空にトライスター(306人乗り)21機を売り込むために、丸紅を通じて田中角栄首相に5億円の賄賂を贈ったとされる事件。トライスターは1機60億円するから、21機の売り込に成功すれば1260億円の商談となる。田中首相は1、2審とも懲役4年、追徴金5億円の実刑判決を受けた。

 

 

3.派閥と大臣願望

 国会議員になればだれだって大臣になりたい。大臣への近道は、第一に「族議員」と呼ばれる専門性をもつことである。あの先生がうちの省の大臣だったら安心だ、と官僚が思えるような専門知識を身につける必要がある。

 第二に、派閥に属し、当選回数を重ねてひたすら待つことである。平均的には当選6回(衆議院の平均任期は2年半であるから、約15年かかる)で、待望の大臣が回ってくる

 派閥を作り、支持者を増やせば派閥の領袖は首相になれる可能性が大きくなる。一方、国会議員のほうも、自分が属する派閥の領袖を首相にすれば、やがて大臣の椅子が転がり込んでくる。こうした持ちつ持たれつの関係が派閥を生み出す原因となってきた。また、戦後長らく中選挙区制がとられてきたことも、派閥を生み出す要因になったと言われる。

 現在も細田派、額賀派、岸田派、二階派、などがある。しかし、1994年に小選挙区制が導入され、派閥の影響力は以前ほどではなくなったといわれている。

 
 

4.55年体制の崩壊と政界再編

  相次ぐ自民党の汚職事件に対して、国民からの批判が高まった。1993年の総選挙に際し、一部の自民党議員が自民党を離党し新党を作り、結局自民党は分裂してしまった。そして

 1993年、細川護煕(ほそかわもりひろ)を首班とする、非自民による細川連立内閣が誕生し、38年間続いた55年体制は崩壊した。

  55年体制が崩壊したあと、政界再編をめぐる動きが活発化した。
 社会党は、ソ連が崩壊(1991年)し社会主義への魅力が光を失ったこともあり、しだいに支持する人は少なくなっていった。

とくに1994年には、それまで対立関係にあったいわば天敵ともいうべき自民党と連立政権を樹立し、社会党の村山富市委員長が首相になったことから、急速に国民の支持を失った。その後、1996年には社会民主党と党名変更したものの、その凋落ぶりは目をおおうばかりである。

 代わって自民党の対立軸として登場してきたのが民主党(96年結成)である。かつての社会党の支持層を含め幅広い国民の支持を集め、自民党につぐ第二の勢力を持つようになった。ただ、日本最大の労働組合組織である「連合」(組合員675万人)が支援しているといっても、実際に民主党に 投票するのは組合員の約20%程度ともいわれる。

また、民主党の議員の中には元自民党であった議員も多く、 民主党が自民党と政策のうえで具体的にどこが違うのか分かりにくい民主党は2009年に政権をとることに成功したが、右から左までの寄せ集め集団だったこともあり、党内の意見を集約することができず、結局国民の信頼を失うこととなった。民主党は2016年に維新の党の合流により民進党と改称し、その後、立憲民主党国民民主党などに分裂した。

一方、20012年には第二次安倍内閣が誕生し、アベノミクスと呼ばれる経済政策を展開して広く国民の支持を獲得し、憲法改正に意欲を燃やしている。
 

 

5.政治的無関心の増加
 最近、若者が政治に関心を示さなくなっているといわれる。それは、投票率の低下などにもあらわれている。 伝統的無関心と、現代的無関心の2種類あるといわれる。

政治的無関心の分類

伝統的無関心  政治は複雑であり、経済のことも含め、ある程度勉強をしないと政策の善し悪しを判断できない。それを面倒臭がれば政治的に無知となり、政治に関心を持てなくなる。これが伝統的無関心である。
現代的無関心  伝統的無関心は今に始まったことではない。もっと深刻なのは、政治のことがかなり分かっていて、そして分かっているがゆえに投票所に行かない新しいタイプの政治的無関心である。

この第二のタイプの政治的無関心を現代的無関心と呼ぶ。その背景には、官僚政治の厚い壁や、自分の要求が実現されない無力感などからくる政治参加への意欲の減退などがあるものとみられる。

 政治的無関心は民主主義を崩壊させファシズムを招く危険がある。湾岸戦争(1991年)以降、日本全体が右傾化している。また、歴史の書き換えを行なおうという動きもある。民主主義という制度は絶対ではない。民主主義の健全な発展のためには、「棄権」は「危険」と心得るべきである。




  (参考) 無効票と白票についてまとめてみました。勉強の気分転換にどうぞ

          無効票と白票




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