現代の市場機構

 

1、価格の決まり方

需要曲線の導出
 セリのやりかたには二通りある。最初に高い値段をつけて次第に値段を下げていく方法と、逆に最初は安い値段をつけて次第に値段をつりあげ、最後にいちばん高い値段を付けた人が競り落とす方法である。
 いま、手持ちの電子辞書を使って、クラスでセリをやってみよう。電子辞書の需要曲線がきれいな右下がりの曲線として描けるはずである。

需要と供給の一致(図は省略)
 価格がP1のときは売れ残りがでるため値段は下がる。一方、価格がP2のときは品不足となるため値段は上がる。こうして価格が上下することにより、価格がP0となったとき需要と供給が一致し「均衡 」する。このように価格には需給の不均衡を調整する働きがあり、これを価格の自動調節機能といい、アダム・スミスは神の見えざる手と呼んだ。価格が完全に伸縮的で、かつ売手も買い手も価格に影響を及ぼさないような市場を完全競争市場というが、今日このような完全競争市場は、株式市場や外国為替市場、財市場の一部(野菜や魚などの市場)などに例外的に見られるにすぎない。

 

2、需要曲線と供給曲線の移動(図は省略)

需要曲線の移動
 需要曲線は,消費者の好みを反映してたえず移動している。
1、所得が増える
2,ある商品に対して人気が出たため欲しがる人が増える
 などの変化が消費者に起きると、同じ価格でも買いたい人が増えるので需要曲線そのものが右に移動し価格は上がる。
 逆の時は左に移動し価格は下がる。

供給曲線の移動
1.魚が豊漁であったり,米が豊作でたくさん取れたときは,供給曲線そのものが右に移動する。
2.企業側に技術革新が行なわれた場合も、今までより安く生産できるようになり、その分もうかるからたくさん作ろうとする。その結果、供給曲線そのものが右に移動する。
 いずれの場合も供給曲線が右にシフトするため価格は下がる。30年前45万円もしていた電卓が、今は千円ほどに値 下がりしているのは技術革新の好例である。

コラム 
需要と供給を一致させる一般解
 一般にいかなる社会といえども需要と供給が一致しないことのほうが普通である。需要と供給を一致させる方法は、基本的には価格調整か数量調整しかない。
一般的には
@お金をたくさん出す、
A先着順、
B抽選をする、
Cテストをする(大学入試など)、
D戦争をする(領土をめぐる争い)
などの方法があるが、市場経済はもちろん@による解決方法であり、@以外はすべて数量調整である。資本主義は自由な社会のように見えるが、実はお金がないと大変不自由な社会でもある。

 

 

3、市場の情報処理能力のすごさ(図は省略)
 ワープロの出現により消費者はだれもタイプライターを買わなくなった。その結果、タイプライター産業は消滅し、ワープロの生産量が増大した。そして、それまでタイプライターの生産に使われていた生産の三要素(土地・労働・資本)は、ワープロ産業に移動した。しかし、そのワープロ産業もパソコンが普及 すると生産停止に追い込まれた。このように、どのような製品をどれだけ作るかは、最終的には消費者の動向が左右しているといえる。

 一般に企業が「何を」「どれだけ」作るかを最終的に決定する権限は消費者にあると考えられる。このような考え方を政治の投票にたとえて消費者主権という。言うまでもなく消費者の欲望は無限である。何千万人、何億人もの消費者の欲望をいかに生産者に伝えるか。そのしくみは、経済活動にとってはたいへん重要な意味を持つ。資本主義社会でその役割を果しているのが市場である。資本主義社会における市場の情報処理能力にはものすごいものがある。

消費者の選択のしかたは市場を通して企業に伝えられ、最終的に社会全体の資源配分の在り方を決定している。この結果、消費者が欲しいものを欲しいだけ手に入れることができる望ましい社会が実現される(資源の最適配分)。社会主義はこうした市場メカニズムが働なかったことが崩壊の一因となった

 

4、市場の失敗
 市場は消費者の無限の情報を生産者に伝えると同時に、生産者の素早い対応を引き出し無限の消費者の欲望を充たしてくれる。その意味で市場の情報処理能力はどんなコンピュータにも勝るといえる。
 ところが、市場に任せておいてもうまくいかない場合がある。寡占の弊害、公共財の供給、外部不経済、所得分配の不平等、といった問題で 、これらは「市場の失敗」とよばれる。

@寡占市場
 資本主義では、基本的に競争は善とされる。なぜなら、競争によって価格は下がり、質が向上するからである。しかし、現代において価格が伸縮的に動かないことが多い。なぜなら、価格が市場の需要と供給によって決まるのではなく、企業が生産費に一定の利潤を上乗せし一方的に決めていることが多いからである。また生産企業数が少ない場合は、価格競争を避けるために企業間の暗黙の協調によって価格が形成される場合も多い。

例えば、かつて典型的な寡占市場であったビール業界では、業界の有力企業であるキリンがプライス・リーダー(価格先導者)となり価格を設定し、他の企業がそれに追随するという管理価格がみられた。このような市場では、生産費が低下しても価格は下がらず(価格の下方硬直性)、宣伝などによる非価格競争が展開される。
 寡占化が進む現代においては、このほかにも競争を制限することにより手っ取り早く利益を上げる次のような方法がある。

1,価格などについて企業間で協定を結び価格競争をしない(カルテル)。
2,富士製鉄と八幡製鉄が合併し新日本製鉄となったように、同業種の大企業が合併し、さらなる「規模の利益」を追求する(トラスト)。
3,戦前の財閥系企業のように、持株会社を中心に異種産業をグループ化し独占的地位を得る(コンツェルン)。

 もちろん、消費者の利益に反する行為このような行為は独占禁止法により禁止されており、公正取引委員会が監視をしている。

A公共財の供給
 道路、橋、警察、国防などは一般に公共財と呼ばれる。これらの供給には多額の費用がかかり、もうからないので市場に任せておいても民間企業では供給されない。しかし、社会的にはどうしても必要である。そこで国民から税金を取り供給される。

B外部不経済(公害・環境破壊など)
 AがBの家の横に豪華な庭を造った。BはAのおかげで料金を払わずに只で庭の景色を楽しむことができるようになった。Aの行為によるこのような効果を外部経済という。近くに駅ができて便利になった、コンビにができて便利になった等々、これらはみな外部経済である。一般に外部経済は 社会的には問題にならない。

 問題になるのは外部不経済のほうである。たとえばAがBの家の隣に工場を建てたとしよう。そして朝から晩まで騒音を撒き散らし、おまけに、廃水を川に流し、川には悪臭が漂っているとしよう。BはAの行為によって多大な迷惑をこうむったことになる。Aの行為によるこのようなマイナスの影響を外部不経済という。公害や環境破壊といった問題は典型的な外部不経済の事例である。これらも、市場に任せておいては解決できない市場の失敗の例である。

C電力・ガスなどの公益事業
 電力やガスなどは最初に設備を作るのに莫大な費用がかかる。そのため、例えば関西地区に電力会社が二つも三つもできる余地がない。一つあれば十分である。したがって必然的に独占にならざるをえない。もし、電力料金を自由市場に任せれば、独占価格となり、非常に高いものとなる恐れがある。そこで、このような産業においては、価格は政府の規制下におかれている。

D情報の非対称性
  買い手と売り手それぞれが持っている情報に差がある場合、取引が対等に行われない。このため市場の失敗が起きる。典型的な例として保険市場がある。

 
(注)所得分配の不平等は市場の失敗には含めない
 資本主義という競争社会では、かならず貧富の差が生じる。しかし、所得分配の不平等は市場の失敗には含めないのが通例である。累進課税制度などを導入し、ある程度修正している。

5、政府の役割の増大
 現代では、基本的には市場の長所を生かしながらも、市場の失敗を解決するために政府が積極的に経済活動に介入するようになった。よく市場の失敗をことさら大きく取り上げ、資本主義はダメだという人がいるが、この態度はまちがっている。どんな社会だって、パーフェクトではありえない。市場メカニズムがある社会と、市場メカニズムが全くない社会を比較した場合、市場メカニズムある社会のほうが好ましいことは旧ソ連や、改革開放政策以前の中国を見れば明らかである。

 

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