国際収支表の見方

 


1、定義

 
 国際収支とは、1年間の国際取引の受け取りと支払いの勘定の記録である。いわば、国家の家計簿と思えばよい。
 2014年1月から、IMFの国際収支マニュアルに合わせて統計の取り方が変更になった。
       
貿易・サービス収支 貿易収支は、モノの輸出入の差、サービス収支は、輸送費、通信費、金融、保険、旅行など、形のない取引の収支
第一次所得収支 対外資産からの投資収益。具体的には配当、利子、工場からあがる収益など
第二次所得収支 国際機関への拠出、食料や医薬品などの無償援助、海外で働く人々の本国への送金(野球やサッカー選手を含む)
資本移転等収支 政府が外国に行う資本形成の援助(道路や港など)
金融収支 海外に工場を建てるなどの直接投資、外国の株式や債券を購入する証券投資、外貨準備などからなる。
誤差脱漏

* 上記の表のうち、貿易・サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支を合計したものを 経常収支 という。


2014年の国際収支は次のとおりである。

経常収支(2兆円余りの黒字) 
・貿易・サービス収支
貿易10兆円の赤字、サービス3兆円の赤字。トータルで13兆円の赤字
・第一次所得収支
海外からの投資収益、18兆円の黒字
第二次所得収支
食料や医薬品など消費財の海外援助・国際機関への拠出など、2兆円の赤字

金融収支
直接投資は12兆円の黒字、証券投資は日本株が買われ資金が流入したため5兆円の赤字、その他合わせて金融収支は5兆円余りの黒字であった。

資本移転等収支
道路など社会資本への無償資金援助など、2千億円の赤字。 
 

(問題)
 次の取引内容は、国際収支表のどの項目に分類されるか。
1,サンフランシスコに海外旅行に行き、ホテルに宿泊費を払った。
2,トヨタ自動車が、ヨーロッパに工場を建てた。
3,トヨタのヨーロッパ工場から、日本のトヨタに配当が支払われた。
4,イギリスに留学中の子どもに生活費を送った。あるいは労働者の本国送金

(問題の正解) 1 ,サービス収支、2, 金融収支、3,第一次 所得収支、4,第二次所得収支
 
 

 2,国際収支表の見方のポイント

@金融収支の理解がポイントとなる。たとえば、トヨタが自動車を20億円輸出すれば、輸出代金はアメリカの銀行にあるトヨタの口座に振り込まれるため、金融収支はプラスになる。だから、貿易・サービス収支の黒字が増えれば、金融収支もプラスとなって海外資産が増える。

 一方、日本企業が外国で工場を建てたり、外国の証券を買ったりした場合は金融収支海外資産の増加という意味でプラス表示となる。

A海外の工場や証券が利益や配当を生み日本に送金されれば、それらは第一次所得収支として計上される。近年、所得収支の黒字幅が急速に増えている。

B第二次所得収支は国際機関への拠出金やアメリカに留学している子どもへの送金などをイメージすればよい。第二次所得収支も資本移転等収支も基本的には、対価を伴わない(つまり無償)の資金移動である。それが消費財の場合は第二次所得収支に、資本財の場合は資本移転等収支に分類される。

 第二次所得収支、資本移転等収支がマイナス基調であるのは、日本が発展途上国への援助国であることを反映している。

 

 

3、日本の国際収支の特徴

 一般に国際収支は、国の発展段階に応じて次のような特徴を持つ。

国際収支発展段階説

発展途上国 外国からの借金で国内の工業化を推し進めるため、金融収支は字になる。また、輸出品の競争力がないため貿易収支も赤字になる。
先進国 輸出で稼いでその分のお金を海外に投資するパターンが多い。したがって先進国の国際収支は、経常収支黒字・金融収支黒字の傾向にある。
 日本の国際収支は、かつては毎年10兆円あまりを貿易で稼ぎだし、それにみあった分が海外に投資される(=金融収支黒字)という典型的な先進国のパターンをとっていた。しかし、 近年その傾向に次のような変化がみられる。
@2011年から日本の貿易収支は赤字になっている。
Aかつて海外に投資した資産から多額の投資収益を得ることができるようになり、第一次所得収支の黒字が急速に膨らんでいる
B貿易収支赤字・第一次所得黒字の基調は、日本がさらに成熟したことを示している。

(注)日本の貿易収支が赤字になった理由の一つに、円高により日本企業が海外進出し、日本に逆輸入していること もある。
 

 

4.外貨準備高
 外貨準備とは、政府・中央銀行が保有する金や外貨のことである。政府・日銀は急激な円高によって輸出産業が打撃を受けるのを防ぐため、しばしば外国為替市場で「円売り・ドル買い」介入を行う。手に入れたドルは外貨準備となる

 このドルは、多くの場合米国債等で運用されるが、外貨建てなのでやはり外貨準備になる。為替管理が行われていない現在、民間の保有する外貨はこの中には含まれていない。
 近年、中国の外貨準備が世界一になっているが、これもドル買い介入の結果である。

注) 国際収支は複式簿記の原理から、
国際収支=経常収支+資本移転等収支−金融収支+誤差脱漏=0
 つまり
、国際収支の合計 は常にゼロになるように作られている。国際収支ははプラスにもマイナスにもならない。だから 経常収支が黒字になったとか赤字になったりすることはあっても、国際収支自体が悪化したり改善されたりはしない。
 

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