「国会・内閣・裁判所」という日本の統治機構について学習する際、一番大切なことは、憲法の目的は人権を守ることであり、統治機構は人権を守るための「手段」であることをはっきりと認識しておくことである。
1、国会の地位
国会の地位について日本国憲法は、「国会は国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」(第41条)とのべている。ここで大切なことは二つある。
第一に、「国権の最高機関」とは決して国会が他の二権(内閣や司法)の上位にあることを意味しない。国会が法律を作り、その法律に基づき行政および裁判が行なわれるという意味で「国権の最高機関」であり、国会が国政全体の中心であるという趣旨である。誤解してはならない。
第二に、「国の唯一の立法機関」の意味である。この規定は、明治憲法下では行政権による立法(たとえば独立命令・緊急勅令)が広く認められ、議会が関与できなかったことへの反省から生まれた。
ただし、「国の唯一の立法機関」としてはいるが、いくつかの例外もある。
・最高裁判所の規則制定権、
・両議院(衆議院と参議院)の規則制定権、
・公正取引委員会の規則制定権、
・人事院の規則制定権、
・会計検査院の規則制定権、
・国家公安委員会の規則制定権、
・内閣の政令制定権、
・地方公共団体の条例制定権、
などがある。なぜ、こうした機関に例外として規則制定権を認めているのか。その理由を考えることが大切であろう。
2、国会の組織と種類
(1)二院制
国会は二院制である。理由は慎重審議のためとされるが、実態は衆議院が政治の表舞台で、参議院の存在は影が薄い。
ただし、ねじれ国会の場合は、参議院の存在は無視しがたいものがある。2院制は、権力分立の一つととも考えられる。
通常の法律案は衆議院に先に提出しても参議院に先に提出しても、どちらでもよい。ただし、予算はかならず衆議院に先議権がある。
実際の審議は本会議の前に行なわれる各委員会でなされる。これを「委員会制」と呼び、イギリスのような本会議中心の「読会制」と区別される。
国会法第41条は、衆議院に20、参議院に17の常任委員会の設置を定める。衆議院でいちばん人気があり希望が多い委員会は予算委員会である。これはすべての分野への言及が可能であり、すべての大臣がずらりと並ぶうえ、審議の模様はテレビ中継される。テレビ中継は地元選挙民へのアピール効果が抜群であり、国会議員にとっても晴舞台なのである。そのほか、
財務、経済産業、国土交通など、利権にからむとされる委員会に人気がある。ちなみに、いちばん暇な委員会は懲罰委員会で、いちばん忙しいのは議院運営委員会である。
(2)国会の種類
通常国会 |
臨時国会 |
特別国会(衆議院総選挙後30日以内) |
参議院の緊急集会 |
通常常会は1月から5月頃まで開かれる。これは、4月までに予算を審議・成立させるためである。会期は150日、ただし1回の延長が可能である。そのあと夏休みがあり、この期間に国会議員は外遊などを行なう。そして、秋になると臨時国会が内閣の召集によって開かれる。臨時とはいうが、毎年開かれている。そのあと、1月になるとまた通常国会が始まる。
(3)本会議場の席
本会議場の各党の席は、議長席からみて右側が第1党、ついで左回りで第二党、第三党と振り分けられる。衆議院でいえば右端から中央にかけて自民党、ついで民主党、公明・・・となる。左翼といえば共産党の代名詞のようになっていたが、現在の最左翼は、議席が激減した社民党(かつての社会党)である。
ちなみに、現在の議席の由来のもとになったのは、1792年のフランス国民公会である。この時、議長席からみて右に穏健派のジロンド党が、左に急進派のジャコバン党が議席を占めた。この後、「右」といえば保守、「左」といえば革新を意味する用語が定着した。
3、国会の権能
国会の仕事としては、法律の議決(59条)、条約の承認(61条)、内閣総理大臣の指名(67条)、憲法改正の発議(96条)などがある。
これらのうち、衆議院の優越が認められているものとして、
1,法律の議決(第59条)、
2,予算の先議権・議決権(第60条)、
3,条約の承認(61条)、
4,総理大臣の指名(67条)、
の4つがある。そのほか、衆議院のみに認められているものとして、内閣の不信任決議権(69条)がある。
(問題)憲法はなぜ衆議院の優越を認めているのであろうか。 |
(答) 第一に、衆議院には解散があり参議院より民意をよく反映していること、第二に、国会議員の定数が衆議院の方が多いこと、の2点が根拠となっている。
4.両院協議会
衆議院と参議院が、それぞれ異なった内閣総理大臣を指名した場合は、両院協議会を開かねばならない(第67条)。
たとえば、2007年9月、首相指名で衆議院が自民党総裁の福田康夫、参議院が民主党代表の小沢一郎をそれぞれ指名した。両院協議会は衆参から選ばれたそれぞれ10名の議員で構成されるが、協議
会の話し合いで決着するわけはなく、結局、憲法67条の規定に従って衆議院の議決が優先され、
福田康夫氏が首相に決まった。
両院協議会は第16回国会(昭和28年5月)までは、内閣総理大臣の指名1件、法律案の議決27件(うち24件は成案を得る)というふうにしばしば開かれていた。しかし、その後自民党が衆参両院で多数を占めるようになって
からは両院協議会が開かれることはほとんどなくなっていた。
講義ノートの目次に戻る
トップメニューに戻る
|