金融政策
   
最終更新 2024年8月28日

1.金融とは

 資金が余っているところから足りないところへ融通することを金融という。資金が余っているところは家計であり、足りないところは政府企業である。

 家計から企業・政府への資金の流れには二つのルートがある。
一つは直接金融といわれ、家計が株式や社債、あるいは国債を購入する方法である。もう一つは間接金融といわれ、家計がいったん金融機関に預金した後、金融機関が企業に貸し出したり、公債を買う方法である。
 日本では個人がリスクをとることを嫌う風潮があり、間接金融が多い。しかし、企業にとっては直接金融の方が安いコストで資金を調達できるため、政府は間接金融から直接金融に移行させようとしている。アメリカは圧倒的に直接金融が多い。

 経済理論の習得のためには、常に現実と理論を対応させて考えることが大切である。日本の銀行の資金量を大きいものから並べると次のようになる。 (データは2019年)

1位 三菱UFJ銀行 預金量195兆円
2位 三井住友銀行 預金量150兆円
3位 みずほ友銀行 預金量145兆円

ちなみに2007年に民営化された「ゆうちょ銀行」の資金量は195兆円である。  

 

 (補論)株式と債券はどう違うか?

        株式と債券の違い




2.マネーストック
 現在日本銀行が発行している現金通貨は約113兆円(その内の約85%は1万円札)である。しかし、 私たちが日常生活で支払いに使うのは現金だけではない。電気料金やガス料金は銀行の普通預金から自動的に引き落とされるし、当座預金から振り出される小切手や約束手形も、現金と同じように支払い手段として利用される。 このような理由から、一般に現金に預金通貨を含めた金額を「通貨」と定義している。

通貨 (M1)=現金+預金


 一方、定期性預金も 解約すればいつでも現金に交換できるから、これもほとんど現金と同じである。

2024年7月現在の統計は以下の通りである。
現金通貨=113兆円・・・・・(1)
預金通貨=983兆円・・・・・(2)
準通貨(定期性預金)=489兆円・・(3)
CD(譲渡性預金)=24兆円・・(4)

(注)CD譲渡性預金)とは、他人への譲渡が可能な無記名の預金。日本では最低預金額は5000万円以上で、企業の決済用に利用される。

これから
M1=1096兆円・・(1)+(2)
M3=1609兆円・・(1)+(2)+(3)+(4)
となる。
 

(これらのデータは、日本銀行のホームページから最新のデータを得ることができる)

 なお、マネーストック(=M3)のうち、日銀が直接コントロールできる通貨量(=ハイパワードマネー)は、現金通貨113兆円と、支払い準備のための通貨 (預金量の約1%)にすぎない。通貨の大半を占める預金は、基本的に日銀は操作できない。なぜなら、貸し出しが増えないと信用創造がおこなわれず、通貨は増えないからである。
日銀はお札を増やすことはできるが、お金(通貨)を増やすことはできない。お金(通貨)を増やすことができるのは、市中銀行だけなのである。



3.
信用創造

 ところで、113兆円のお金は銀行に預金され、また貸し出しされる。こうして預金と貸し出しを何回も繰り返すことによって、銀行全体として膨大な預金が蓄積され ていく。これを信用創造という。
 一般的に、 新たに信用創造された金額は次の式から求められる。

信用創造額=(最初の預金額/預金準備率)−最初の預金額

(練習問題)
A銀行が日銀から1000億円借りた。預金準備率を10%とした場合、新たに生み出される信用創造額はいくらになるか。

(答)(1000億円/0.1)−1000億円=9000億円

 

4.金融政策
 金融政策とは日本銀行が行う政策であり、具体的には次の二つの方法がある。
公開市場操作

(オープンマーケット・オペレーション)

 これは、都市銀行などが保有する国債・手形などを日銀が直接買ったり(買いオペ)、売ったり(売りオペ)する政策である。不況期に買いオペをやれば、その分日本全体に流通する通貨量が増大し、それがコール市場の金利(コールレート)を引き下げ、その結果企業 への貸し出しが増え、投資が増加し、景気がよくなる。

 この政策は日常的に頻繁に行なわれている。しかもダイレクトに通貨量をコントロールできるため、非常に強力な政策である。

支払い準備率の変更  これはいざというときに備えて、金融機関の預金の一定割合(現在は1.2%程度)を日銀に無利子で強制的に預けさせる制度である。もし支払い準備率を引き下げれば、各金融機関の貸し出しに回せる資金がその分増え、それが企業の投資を増やし、景気が良くなる。

 しかし、この政策はほとんど使われることはなく、実際、1991年にそれまでの1.75%から現在の1.2%(預金額2兆5千億円超)に引き下げられて以来変更されていない。いわば金融政策の変化球というところである。したがって、支払準備率の変更操作を、日常的に使われる公開市場操作と同列に扱うことは不適切といえる。



.金融の自由化
 これまで日本の金融機関は護送船団方式と呼ばれる方法で、政府によって手厚く守られてきた。例えば、証券業務と銀行業務は完全に分離され、互いに縄張りを侵すことなく利益を確保できるようになっていた。一方、銀行も長期信用銀行・信託銀行・都市銀行・地方銀行・信用金庫などでそれぞれ融資対象が重ならないようにし、互いの縄張りを侵さないシステムが出来上がっていた。

 さらに、金利は需要と供給を反映せず大蔵省の指導で一定に定められ、銀行間の金利競争は制限されていた。預金金利に差がないから、預金獲得競争は預金者への粗品で行なうほかない。しかし、その粗品ですら大蔵の指示で決められていたという笑い話のような本当の話がある。

 この結果、競争力のない非効率な金融機関は淘汰されることなく温存された。しかし、国際化の進展とともに、ビッグバンで鍛えられたアメリカの金融機関との競争が激しさを増すと、日本の金融機関は苦況に立たされた。動物にたとえれば、日本の銀行は保護されたペットであり、アメリカの銀行は弱肉強食の野生動物である。ペットと野生動物が同じ檻の中に入れられればどうなるか。国際競争に勝ち抜くためには、日本も金融の自由化に踏み切らざるをえなくなった。

 こうして1980年代に入り、まず金利の自由化が行なわれ、さらに1996年の日本版金融ビッグバンにより業務範囲の自由化が一気に進んだ。1998年からは、それまで証券会社でしか買えなかった投資信託が銀行の窓口でも買えるようになった。また、金融機関の再編が旧財閥の枠を超えて急速に進み、三井住友 銀行、三菱UFJ銀行、みずほ銀行の3大メガバンクが誕生した。。さらに、金融持ち株会社も解禁された。

  ところで、金融システムは社会的なインフラとしての役割を担っている。もし、金融システムが損なわれれば、経済活動は大混乱に陥る。そこで、1971年に、銀行が倒産(破綻)した場合でも預金者の預金を守るための預金保険制度(ペイオフ)が導入された。ペイオフとは「払い戻し」という意味である。これは金融機関が破綻した場合、預金保険機構が 決済用の当座預金の全額と、預金者一人につき元本1000万円とその利子を保証しようというものである。これにより、いざというときの信用秩序の維持を図ったのである。

 しかし、バブルが崩壊し、経営破たんが噂される金融機関が増えると、政府はペイオフを凍結した。これにより預金は全額保護されることとなった。理由は、ペイオフ制度の下では、預金が元本1000万円とその利子までしか保護されないため、預金者が中小の金融機関から、より安全な大きな金融機関に預金を移し、基盤の弱い金融機関が経営破たんに追い込まれることが心配されたためである。

 その後、不良債権の処理が終わって金融システムが安定した2005年に、ペイオフ凍結は全面解除されている。

 

.バブル崩壊後の金融政策
 

 一般に、金融政策が効果があるのは、 金融を緩和することで日本全体のマネーストックが増加し、最終的にはそれが企業の投資活動を活発にするからだと考えられる。しかし、金利にたいして企業投資がどのように反応するかは、その時の経済情勢による。

 金融政策と経済活動の関係は、ちょうど馬と馬の手綱の関係に似ている。すなわち、馬がいくら元気に走っていても、手綱をひけば馬は必ず止まるが、馬自身が弱っており元気がないときに、いくら手綱を緩めても馬は走り出さない。バブル崩壊後、金融政策を緩和しても、企業の資金需要は一向に増えず、金融政策は期待する効果を上げることができなかった。

 不景気の際に必要なことは、世の中に出回るお金の量を増やし景気を良くすることである。1999年以降、日銀はゼロ金利政策や量的緩和施策が採られ、貨幣供給量を増やそうとした。
ゼロ金利政策  銀行同士が無担保でお金を貸し借りするコール市場に日本銀行が大量の資金を供給し、コール市場の金利をほぼゼロに近づける金融政策 をいう。銀行はタダ同然で資金を調達できるため、企業への融資がしやすくなり、景気が刺激される。日銀は1999年にゼロ金利政策を導入した。
量的緩和政策  ところが、ゼロ金利政策を導入しても景気が回復しなかった。そこで、日本銀行は2001年、あらたに量的緩和政策を始めた。これは日銀当座預金(日銀と民間金融機関の取引に使われる口座))の残高を買いオペなどにより増額し、これにより金融機関に潤沢な資金供給し景気刺激を図る政策である。2014年からは物価上昇率2%を目標に量的・質的緩和政策を実施し、これまでにない異次元の金融緩和をおこなった。

 2024年3月、日銀は11年間にわたる大規模な金融緩和策を終えると発表した。マイナス金利を解除して17年ぶりの意利上げに踏み切った。その背景には、円安の進行を食い止め、国内の物価上昇を抑え込む狙いがあった。しかし、金利の引き上げは国内経済を悪化させる。日銀の今後の政策に注目が集まる。



(補論) マイナス金利とは何か?
 
         https://blog.goo.ne.jp/minami-h_1951/e/3a9539c4671f7c47bb24404797b09a89


(補論)日銀の金融政策と株価
 
         https://blog.goo.ne.jp/minami-h_1951/e/21cee9cb502327a969b17630f1a5b2b5


(補論)MMTとは何か?
 
         https://blog.goo.ne.jp/minami-h_1951/e/c55ec05e53a8baaccc451b166099e43c





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