現代の企業

 

1、株式会社のしくみ
 現在日本には153万社の法人企業と330万社の個人企業がある。法人企業の99%は株式会社と有限会社であり、とりわけ重要な働きをしているのが株式会社である。有限会社は株式会社のミニ版と思えばよい。ここでは株式会社のしくみを中心に見ていく。


株式会社の発達
 一般に大量生産すればするほど製品1単位当たりの生産コストは下がり、大きな利益をあげることができる。例えば、一つの工場で自動車を100台作る よりは100万台作るほうが1台当たりの費用が安くな る。これを「規模の利益(スケールメリット)」という。
 世界最初の株式会社は、1602年のオランダ東インド会社といわれるが、19世紀後半に重化学工業が発展しはじめると、企業は規模の利益を求めて巨大化し、それにともない大規模な資本調達に便利な株式会社制度が急速に普及し始めた。
 日本では、資本金3億円以下または従業員300人以下の企業(ただし、製造業の場合)は中小企業と定義される。参考までに、日本の代表的な企業の資本金額を掲げておく。

問1
NTT、ソニー、関西電力、新日鉄、トヨタの資本金がいくらか、インターネットで調べてみよう。

(答) NTT9380億円 ソニー6460億円  関西電力4890億円  新日鉄4200億円  トヨタ4000億円

 

株式会社と配当
  かりにあなたがある製品を開発し特許を取ったとしても、お金がなければ工場を建て大量生産することはできない。資金を調達するいちばんてっとり早い方法は、誰かからお金を借りることである。親兄弟・親戚のほか、担保があれば銀行から借りる方法もある。しかし、担保もない。お金を貸してくれる親戚もなければどうするか。
 そんなときに威力を発揮するのが株式会社である。株式会社は簡単に言うと、複数の出資者からお金を集め、その代わりに株式を発行し、利益の一部を配当として株主に還元する会社のことである。発起人が、事業への賛同者をつのり、株式を発行し資金を集める。 2006年の会社法改正で、現在は発起人1人以上、資本金1円以上で株式会社を設立できる。株主には株券が渡され、配当が支払われる。

問2
 
ソフトバンク(資本金2388億円)の孫正義社長は同社の株を2億3000万株所有している。一株あたりの年間配当は 40円である。孫正義社長は年間いくらの配当を受け取っているか。 

(答) 40円×2億3000万株=92億円  (2015年3月現在)


 

株式の公開
 ほとんどの企業は成長し大きくなると東京証券取引所や大阪証券取引所に上場(「じょうじょう」と読む)する。もちろん上場するためには一定の基準がある。これをクリアーして上場すれば、証券取引所で会社の株式の売買ができるようになる。また、上場により会社の知名度が上がり、社会的な信用が得られるほか、資金集めを大々的にできるなどのメリットがある。そのうえ株式公開にあたっては莫大な株式売却益が創業者にころがりこむ。いわゆる「創業者利得」である。株式の上場は経営者の夢といってよい。

問3
 孫正義社長が保有するソフトバンクの株価を調べてみよう。もし、孫正義社長が保有する株をすべて時価で売却したらいくらになるか計算してみよう。

(答)7000円×2億3000万株= 1兆6100億円  (2015年3月現在)


 

2、株式市場の話
 ところで、株主が急にお金が必要になって株券を換金したい場合どうすればよいのだろうか。もしその企業が証券取引所に上場しておれば、証券会社を通じて株券を売ればすぐ現金を手にすることができる。ただし、いくらで売れるかはその時の需要と供給のバランスによる。例えば「トヨタ自動車」は、もともと1株の額面は50円だが、現在は市場で1株 約8000円で取引されている。

 一般に創業者以外の者が株を取得するときは、額面ではなくその時の時価で買うしかない。買った株が値上がりをすればその差額はもちろん買った人の利益となる。現在株を買っている人の大半は、会社に出資し配当を得ることを目的とするよりも、短期的な値上がり益を得ようとして株式投資をしている場合が多い。東京証券取引所第一部には、 1871社(2015年3月現在)が上場されている。相場の指標として日経平均などが発表されている。

問4
 
トヨタ自動車の株(1株=8000円)を1000株買うためにはいくら必要か。もし、その株が9000円になったら1000株でいくら儲かるか。

(答) (9000円−8000円)×1000株=100万円


 

3、三大企業集団
 大企業は全事業所数(約500万社)の1%にすぎないが、製造業の出荷額の約半分をしめる。そして これまで大企業は
・三井住友グループ
・三菱東京UFJグループ
・みずほグループ
 という閉鎖的な三大企業集団を形成してきた。各企業集団の中核をしめるのは金融機関と商社である。集団の中には自動車・電気・機械食品・化学などあらゆる産業部門がそろっている。そして、各企業集団は集団内部で必要なすべてを調達する「系列取引」でがっちり結ばれて きた。いわば、企業集団ごとの自給自足体制といってよい。
 しかし、近年、世界的競争が激化するにともない、企業間の株式持ち合いの解消や系列を超えた取引など、これまでの企業集団に大きな変化が起きている。

 

4、日本的経営の特徴
 日本的経営の特徴は次の3点である。
1, 終身雇用
2, 年功序列
3, 企業別組合

 戦前においては会社が儲けることはすなわち資本家が儲けることであり、それは労働者の反感をかった。しかし、戦後の企業においては労働法の整備や「所有と経営の分離」が進んだこともあり、能力と運があれば誰でも社長に出世できるチャンスが与えられた。
 労資関係はいつのまにか労使関係と置き換えられ、使用者と労働者は対立する関係ではなく、会社という同じ運命共同体を担い協力する関係と考えられるようになった。会社が儲かれば自分の給料も増え出世もする。
 かくして人々は私生活を犠牲にし、馬車馬のごとく働くことになる。朝暗いうちに家をでて、夜は月明かりの中を帰ってくる。営業(=販売)の人には毎月の売り上げノルマが課せられる。研究職の人にも年間に何個の特許をとれという形でノルマが課せられる。

 毎日「社歌」をうたい連帯感を高め、時には仕事の延長として会社の仲間と酒を酌み交わす。日本社会では「酒」は職場の潤滑油として欠かせない。もちろん飲むビールは自分が所属する企業集団の銘柄である。
 土曜・日曜日も接待ゴルフに駆りだされ、たまの休みは死んだように眠る。結婚式の仲人も会社の上司なら、住む家まで社宅である。毎年秋には会社主催の運動会まである。おまけに民間企業の中にあっては、憲法で保障された思想・居住の自由ですらおぼつかない。会社は憲法の枠外なのである。選挙ともなれば会社ぐるみで特定の候補を応援し、また、辞令1本で単身赴任を強いられる。24時間・365日、 会社人間にならなければ厳しい競争社会では生きてはゆけない。なぜなら、みんなそうしているからである。

 しかし、それでもすべての人が出世できるわけではない。役職は上にいくほどピラミッド状に少なくなる。40歳代から関連会社への「出向」という名の片道切符が渡されはじめる。最後に重役までいけるのは同期に入社した社員の何パーセントか。
 大企業の人はまだ恵まれている。中小企業の人に比べれば給料もいいし、世間体もいい。中小企業では今だに労働組合のないところすら多いのである。
 最近では、国際競争の激化・不況の長期化などで,こうした日本的経営も急速に崩れつつある。

5、日本的経営システムの崩壊
 日本的経営システムとは、@終身雇用、A年功序列型賃金、B企業別組合、の3点を言う。これらは戦後日本経済の高度成長をささえてきた制度であり、1980年代まではその長所が盛んに持ち上げられた。

 長所としては、第一に終身雇用制によって失業のリスクが小さくなる。第二に、年功序列型賃金により年を経るごとによって給料もあがるため、会社への忠誠心が高まる。この結果、これらの制度は会社を自らの運命共同体とみなす人々を増加させ、社員のやる気を引き出し、企業を発展させるうえで大きな効果を上げた。また、運命共同体意識は企業別労働組合によっても強化された。

 ところが、1990年代に入って次の3つの理由により日本的経営システムが行き詰まってしまった。
@バブルの崩壊によって不況が長期化した
A国際競争が激しくなり、国際的な価格競争が展開された
B団塊の世代と呼ばれる人たちが50代にさしかかり、年功序列型賃金を維持出来なくなった

 これら 三つの要因によって、企業は生き残りのために厳しいコスト削減を迫られるようになった。この結果、次第に終身雇用制が崩れ、賃金体系の面でも成果主義が取り入れられるようになった。
 「安定」から「競争」へ。これからの日本社会は、自らのリスクをとり、成功したものが大きく報われるアメリカ型の社会に変わりつつある。

 

6、起業のすすめ
 ヤフーという会社がある。1995年に当時スタンフォード大学の博士課程でコンピュータの研究をしていたジェリー・ヤン氏(台湾出身)が設立した会社である。1995年11月、まだ社員15人、設立して8ヵ月、年間売り上げ2億円で、1億円の赤字を抱えるヤフーを訪れた日本の孫正義氏は、その場で115億円の投資を決め、翌年1月にヤフージャパンを設立した。ヤフージャパンはその後株式公開され(額面5万円)、大きく値上がりした。

 このほかにも、インテル、マイクロソフト、アップル、アマゾン、グーグル、ソフトバンク、楽天など、近年IT産業といわれる新しいビジネスが急速に増大している。サラリーマンを一生やって稼ぐことができる生涯所得は2〜3億円ほどである。会社を設立してうまくいけば、500億円、1000億円の創業者利得をえることも決して夢ではない。

 

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