経済主体とその結びつき

 

1、経済主体
 経済活動を行なう単位として、家計・企業・政府の三つがある。これらを経済主体と呼ぶ。貨幣はこれらの間を血液のように循環し、それぞれの経済主体を結びつけている。まず最初に、日本全体の国民経済がどのように循環しているかを典型的な例を通して見てみよう(図省略)。

家計
 平均2.4人家族とすると、約5000万世帯ある計算になる。各家計は企業に労働力を提供し、代わりに賃金を得ている。現在、約6600万人の人が働き、年間で約500万円の給料をもらっている。家計は所得から税金を払い、残りの所得(これを可処分所得という)を消費と貯蓄にまわす。平均的には所得の9割 あまりが消費され、1割弱が金融機関などに貯蓄される。 最近は、高齢化が進み、年金だけでは生活できず貯蓄を取り崩すため、貯蓄率は低下傾向にある。


企業
 現在日本には約153万社の企業がある。企業は家計から労働力を買い、1年間に約500兆円のモノ(国内総生産=GDP)を作る。企業は500兆円のうちの約1割を輸出し、残り9割を国内で販売する。
 

政府
 家計も企業も、所得があれば税金を払わなければならない。家計が払う代表的な税金は所得税(約9兆円)である。企業が払う税金として法人税(約9兆円)がある。また、家計も企業も購入金額の8%を消費税(約15兆円)として支払っている。このほか、国債発行で集めたお金も含めると、日本の1年間の財政規模は約92兆円余りになる。このお金で国はさまざまな財政活動を行なっている。

 

2、市場
市場には財市場・金融市場・労働市場・外国為替市場と全部で4種類ある。それぞれの市場で需給を調整するのは、価格・利子率・賃金・為替レートである。市場の働きは、自由主義経済の根幹をなすものであり、非常に大切である。

財市場
 企業が生産し、家計は収入を得る。その両者が出会う場所が市場(しじょう)である。市場といっても、魚市場や青果市場のように、取引がなされる特定の場所があるわけではない。あくまで抽象的な概念である。1年間に生み出された総額500兆円の約6割が家計によって買われている(消費)。このほか企業間での取引もある。財・サービスが市場で取引される際、そこにどのような法則があるかを明らかにするのが市場の理論であり、経済分析の重要な柱の一つとなっている。

金融市場
 家計部門で余ったお金は、銀行や証券市場を通して企業に貸しつけられる。その仲立ちをするのが金融市場であり、資金の需給は利子率によって調整される。 かりに、銀行が企業に5%で貸し付け、預金者への利息の支払いと銀行自身のコストが4%であったとすれば、銀行自身の儲けは1%になる。もし、銀行の預金量が100兆円あれば、1%の利鞘で年間1兆円の 利益を稼ぐことができる。ものすごい金額である。実際は利鞘は1%まで大きくはない。せいぜい0、5%ぐらいのものであろう。それでも銀行の儲けは年間で5000億円になる。わずかな金利差であっても、銀行経営に与える影響は甚大であることを知っておいてほしい

(課題)
みんなが知っている銀行名と資金量を調べ、大きいものから並べてみよう。経済理論の習得のためには、常に現実と理論を対応させて考えるクセをつけることが大切である。

(答え) (データは2019年)

1位 ゆうちょ銀行 預金残高183兆円
2位 三菱UFJ銀行 預金残高153兆円
3位 みずほ銀行  預金残高120兆円
4位 三井住友銀行 預金残高116兆円


労働市場
 労働力を提供したい6600万人の人々と、これを雇い入れる企業が出会う場が労働力市場である。不況になると企業はあまり人を雇わないようになるため、労働需要が落ち込み賃金は下がる。逆に景気がよくなると労働需要が高まり賃金が上昇する。


外為市場
 輸出によって得たドルを円に交換したり、輸入代金を支払うためのドルを買ったりする場が外国為替市場(略して外為市場)である。実際は、貿易に伴う取り引きばかりではなく、投資や投機を目的とした為替取り引きも多い。売買は電話で行われ、ブローカを経由するもののほか、近年では銀行間で直接取り引きをする場合も多くなってきた。

 

3、ミクロ分析とマクロ分析
 経済分析の方法は大きく分けて二つある。一つはミクロ分析(価格分析)と呼ばれるもので、家計や企業、あるいは両者の接点となる市場において、どういう法則があるかを観察するものである。結論を簡単にいえば、家計は自らの効用を最大化するように行動し、企業は自らの利潤を最大化するように行動する。その結果として、需要曲線・供給曲線が導出され、市場において価格を媒介として需給が調整されていく。少し難しいかもしれないが、要するに家計・企業・市場を別々に取り出して、顕微鏡で見るように観察するのがミクロ分析だと思えばよい。
 一方、マクロ分析(所得分析)は1930年代の世界恐慌をきっかけに、ケインズによって樹立された分析方法である。なぜ不況になるのか、なぜインフレになるのかなど、一国全体の経済を巨視的に観察する。遠くから、日本全体を望遠鏡で観察するようなイメージで理解しておけばよい。

 

(コラム) 数字に対するセンスを磨こう
 現在日本の失業率はどれくらいであろうか。次の中から選べ。
   2% 4% 10% 25%
 正解は、約4%。人数でいうと約270万人である。2%は日本が高度成長期だった頃の数字。25%は世界恐慌のときのアメリカの失業率である。こういう数字に対する感覚を身につけておくと、新聞で失業率統計を読んだとき、いま日本経済がどういう状態であるか、おおよその見当をつけることができる。数字に対するセンスを磨くことは、経済に親しむ第一歩である

 

講義ノートの目次に戻る

トップメニューに戻る