地球環境問題

(含む人口・資源・エネルギー問題1、文明と人間
 
ギリシャ時代  長い間人類は、自然現象は神々の活動の結果引き起こされると考えてきた。初めて自然を合理的にとらえようとしたのは、ギリシャ時代である。すなわち、タレス、ピタゴラス、デモクリトス等は、変化するものの根底にある「変わることのない法則」を求めようとしたのである。
中世  しかし、中世になって、キリスト教が支配したため、 合理的な態度は一時後退する。
ルネッサンス  合理的精神が再び復活するのは、近代になってからである。ルネッサンスは一般に「再生」と訳されるが、これは、「ギリシャ」・「中世」・「近代」をそれぞれ「生」・「死」・「再生」とみる価値判断を含んでいる。
近現代  近代に入って、デカルトの演繹法やベーコンの帰納法が確立され、科学は急速に進歩した。科学の進歩は新しい技術を生み出し、やがて産業革命を引き起こした。
 現在、産業革命以後200年以上たったが、基本的にはわれわれは産業革命の延長上にあるといってよい。すなわち、技術は人類を幸福にするという「信仰」のうえに暮らしている。

 われわれは、とかく中世をバカにし、近代を輝ける人類の勝利の時代と考えがちであるが、はたしてそうか。中世と近代とは「神」を「技術に対する信仰」と置き換えただけで、基本的には何も変わっていないのかもしれない。  技術は人類を幸福にするという「信仰」は正しいのか。そのことを初めて考えさせてくれるきっかけになったのが地球環境問題であったといえる。
 

(コラム)研究者の心理
 最先端の研究に携わっている人には共通の心理がある。それは、「世界で最初に発見したい」という心理である。たとえば、ある研究者が今までだれも考えつかなかったようなアイディアを思いついたとする。

 そうすると、「自分が考え付くほどだから、世界の誰かがきっと同じ研究をやっているのではないか」と考える。そうなると、もう寝る時間も惜しくなる。だれが世界で最初に発表するか。時間との競争である。その技術が人類を幸せにするかどうかなどということは考えない。ともかく開発するのである。



2.地球の温暖化(global warming)

(1)予測
 現在の地球の平均気温は16、9最近100年間で0、6℃上昇してい る という。このまま地球の温暖化が 進めば、今後100年間で3(あるいはもっと)上昇すると予想されている。
 もしそうなれば、平均2000メートルの厚さの南極の氷がとけだし、海面は約65p上昇する。(ちなみに、全部溶けると海面は80メートル上昇するという)。その結果、インド洋に浮かぶモルディブ共和国をはじめ地盤が低い地域は海面下に消滅する。
 それだけではない。温暖化すれば、世界の農作物に影響を与え、食糧問題を引き起こすだろうし、マラリアなどの熱帯の病気も北上する。また、永久凍土が溶け出し、そこにすむ人々の生活を困難にするであろう。そのほか、様々な影響が出てくるものと思われる。

(2)原因
 地球温暖化の主たる原因は、二酸化炭素の増加である。現在、化石燃料を燃やすことによって1年間に排出される二酸化炭素の量は、約220億トン。このうち、光合成によって消費される二酸化炭素量は約130億トン程度。この結果、産業革命が始まる直前の1750年頃の空気中の二酸化炭素濃度は0.028%であったものが、現在では0.035%にまで高まっている。しかも、二酸化炭素を吸収してくれるはずの森林はどんどん伐採され、吸収力は低下している。

(3)対策
 1992年、地球サミットがブラジルで開かれ、「気候変動枠組み条約」が結ばれた。また、1997年には地球温暖化防止京都会議が開かれ、京都議定書が取り交わされ、二酸化炭素の排出を抑える努力がなされた。しかし、アメリカが離脱し、中国もまた削減義務を負わなかった。そこで、2015年にCOP21でパリ協定が全加盟国の間で合意され、ようやく低炭素社会に向けて本格的に動き出した。

しかし、現在の技術では、二酸化炭素の排出量を抑制することは、経済成長を抑制することと同義であり、二酸化炭素削減に向けた各国の足並みはそろっていない。2017年、アメリカのトランプ大統領は、パリ協定からの脱退を発表した。

 一方、各業界では個別の技術開発もなされている。たとえば、自動車業界では燃料電池への期待が高い。ガソリンを燃やして自動車を走らせると二酸化炭素が出るが、、水素と酸素による反応を利用して電気を起こす燃料電池の場合、化学反応によって発生するのは「水」だけである。
実際には、純粋な水素は天然ではほとんど存在しないので、天然ガスやメタノールなどから水素を取り出す ため、その際、わずかではあるが二酸化炭素が出る 。しかし、ガソリンを燃やすほどではない。すでに試作車が作られており、時速144キロ、燃料の補給なしで450キロ は走行できるという。
問題は、コストダウンである。そのほか、電気自動車や天然ガス自動車といった低公害車にも期待が寄せられている。
現在日本に走っている車は約7000万台。もし、中国人が日本人と同じように車を走らせるようになれば、約7億台になる。そうなれば、環境問題はもっともっと深刻化する。その前に手を打たねばならない。

 今後、中国やインドも工業化をすすめるであろう。そうなると地球環境はますます悪化する。いま、私たちに求められていることは、地球温暖化問題に対するこれまでの認識を改め、危険がすぐ目の前に迫っていることを自覚することである。そして、どんな小さなことでも実行することである。さらには世論を喚起して政治を動かしていくことである。海の水は暖まりにくく冷めにくい。しかし、一度暖めてしまってからではもう手遅れである。

 

(コラム)あと80年で地球は滅亡する?

 西澤潤一元東北大学総長が『スーパーゼミナール 環境学』(東洋経済新報社 2001年)のなかで 2080年、人類は二酸化炭素の増加によって滅亡するというショッキングな主張をしている。西澤教授といえば、学問に対する厳しさではとくに有名である。根拠のないいい加減なことを書くはずがない。

 西澤教授によれば、地球温暖化がある種の「臨界点」をこえると、海底などに眠っているメタンハイドレートがガス化し、大気中に放出されるという。メタンの温室効果は二酸化炭素の44倍である。この結果、海水の温度が上昇し、今度は海に溶け込んでいた二酸化炭素がビールの栓を抜いたように泡となって、一気に大気中に放出されるという。

 海水に含まれる炭素の量は36兆トンである。半端な量ではない。現在の大気中の二酸化炭素の濃度は0.035%。これが80年後には100倍の3%に達する可能性があるという。人間は10%だと1分で意識を失い、30%では即死する。3%だと人間はあえぎながら死んでいくという。

 現時点で西澤教授の指摘が本当かどうかは、神にしかわからない。しかし、もしそれが本当なら、地球温暖化問題は決して遠い未来の話ではない。すぐ目の前に迫っている問題である。早急に対策をとらないと、とんでもない事態に直面する。非化石エネルギーへの転換、炭素税や法的規制の導入、ライフスタイルの見なおしなど、この際できることは何でもする必要がある。

 一人ひとりが排出する二酸化炭素の量は微々たる量かもしれない。しかし、総排出量の約半分は家庭からの放出である。一人ひとりが力を合わせれば、かなりのことができるのではないか。

 


(コラム)
地球寒冷化論

 1960年代から80年代は寒冷化論が流行っていた。当時の学生はみんな、今地球は寒冷化に向かって進んでいると信じていたそうである。それが1988年にジェームズ・ハンセンというNASAの人が地球温暖化ということを言い出し、世界各国から集まった4000人の科学者で作る「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)が二酸化炭素犯人説を提唱すると、これが世界の常識として完全に定着してしまった。  

そうした中で、東京工業大学大学院の丸山茂徳教授が勇気ある発言をしている。丸山教授によると、地球の気温を決める要因は次の5つであり、地球は今寒冷化に向かっているとのことである。

1.太陽の活動度
2.雲の量
3.火山の噴火活動
4.地球の軌道、地軸の傾き
5.温暖化ガス

1.太陽の活動は今後2035年に向けてしだいに不活発になる。

2.雲の量に影響を与える地球の磁場は弱くなり、その分宇宙線の量が増え、今後雲の量は増えると思われる。もし、雲の量が1%増えれば地球の平均気温は1度C下がる。

3.地球の過去40万年の気温の変化を調べてみると、10万年周期に氷河期が訪れている。最後の氷河期が終わったのが1〜2万年前である。これまでのデータから、そろそろ氷河期に転換してもおかしくはない。ただし、いつ転換するかについては幅があり、2000年先かもしれないし、8000年先かもしれない。

5.地球温暖化の犯人といわれる二酸化炭素は大気のわずか0.04%(体積比)しかなく、それがわずかに増えたとしても地球の気温に与える影響は限定的である。それより、雲の量が与える影響のほうがはるかに大きい。

地球のこれまでの歴史を見れば、今から約1〜2万年前のウルム氷河期の気温は今より8度Cくらい低かった。したがって、海面も今より100メートルくらい低かった。ベーリング海峡は陸続きで、アジアから北アメリカへ人間が移住できたのはそのためである。人間が何をしようがするまいが、放っておいても地球の気温や気候というのは変動する。今人類がとるべきは、寒冷化対策である。

さて、この説に反論できる人はどのくらいいるであろうか。二酸化炭素犯人説を前提に議論をしている人のほとんどは、IPCCの結論を鵜呑みにしているだけではないだろうか。科学的真理に民主主義は通用しない。

 



3.オゾン層の破壊

(1)オゾンの形成
 地球が誕生して46億年。35億年前、海に最初の生物が誕生し、約6億年前から一気に栄えはじめた。そして約4億年前、動植物は陸に上がり始めた。
 なぜ、動植物が陸上で生存可能になったのか。理由は成層圏(上空15〜35キロメートル)にオゾンが形成されたからである。オゾンは太陽から来る有害な紫外線を吸収してくれるバリアーの役割をはたす。今日われわれが陸上で安心して暮らせるのはオゾン層というバリアーがあるからである。オゾンが形成される前は、紫外線のバリアーになっていたのは水であった。したがって、生物は水中でしか生きることができなかったのである。

 このオゾン層、実は全部集めてもたったの3ミリくらいの厚さにしかならないのだという。宇宙飛行士の毛利衛さんが、「地球をリンゴとすると、空気の層はリンゴの皮ほどもありません。でも、そのおかげで生命が生まれ、人類が生きています」と述べていたが、まさしく地球はリンゴの皮よりも薄いもので守られているのである。

2)フロンガスによる破壊
 ところが、何億年もかけてやっとできたわずかなオゾン層が、いまフロンガスの放出によって破壊されはじめている。1985年、南極大陸でオゾンホールが確認されたのをはじめ、北極でもオゾン層の破壊が進んでいることが確認されている(『日本経済新聞』2000年3月8日)。

 もし、今後もオゾン層の破壊が進めば、皮膚ガン白内障が増加する。ことの重大性を知った各国は、1987年、フロンの全廃をめざすモントリオール議定書を採択した。

(コラム)フロンガス
 1928年に開発された。毒性はなく、本来空気より重いが、空気の撹乱により成層圏に達する。エアコン、冷蔵庫、スプレー、洗浄剤などに広く使われていた。これまでに1500万トンが排出され、その10%が約10年かかって成層圏に到達したと推定されている。


4.酸性雨

(1)原因
 PH5.6以下を酸性雨という。いま 、世界中でこの酸性雨が観測されている 。原因は、工場や自動車から排出 された硫黄酸化物窒素酸化物が、雨水に溶け込んで地表に落ちてくることにある。とくに硫黄酸化物は酸性雨の原因の75%を占めるといわれる。
 酸性雨の被害としては、森林が枯れたり、湖から魚が死滅したりしている。とくにスウェーデンでは湖沼8万5000ヵ所の20%にあたる1万8000ヵ所で魚が死滅したといわれる。そのため、石灰をまいて中和させる努力が続けられれている。

(2)対策
 1972年、国連人間環境会議がスウェーデンのストックホルムで開催され た。

国連人間環境会議
1972年

 かけがえのない地球」というテーマで環境問題が討議された。この会議はそれまでの公害というローカルな現象から、地球規模の環境問題を考える発端となった。

 

(コラム)PH
 PH7が中性である。PHは1〜14の値として示される。ただし、理論上はマイナスや14以上もありうる。普通の水は空気中の二酸化炭素が溶け込んでいるので、PHは6前後である。オレンジジュースはPH4.5。料理 用の酢 はPH3である。




5.森林破壊と砂漠化の進行

 いま世界では、日本の面積の半分にあたる約1700万haの森林が毎年消失している。問題となっている地域や原因を表にまとめてみた。

アマゾン  ここは1970年からアマゾン横断ハイウェイ(総延長5871q)の工事が開始され、多くの貧しい人々が入植した。肥料を買うお金もない人々にとって、一番手っ取り早い方法は焼畑農業である。セルバとばれるうっそうとした森林を焼き払い、次々に場所を変えて農業を行なう。

しかし、焼畑によっていったん大木が取りのぞかれると、大粒の雨が直接地表にたたきつけられ、ラトソルとよばれる養分を含んだ表土が流出してしまう。そして森林は2度と再生しない。

また、最近ではアメリカ企業が熱帯林を焼き払って大牧場を作り、ハンバーガー用の安い牛肉を生産している。ランドサットから撮影した写真からは、焼畑によって無残に赤茶けた土地が「あばらぼね」のように、しだいに広がっているのが観測される。

先進国によ
る伐採
 たとえば日本は、フィリピン(〜1970年頃)、インドネシア(1970年代)、マレーシア(1980年代)などから木材を伐採し購入してきた。現在は、ボルネオのサラワク州を中心に開発をすすめている。しかし、ここもいずれはハゲ山になる。次はニューギニアだといわれている。

東南アジアから日本にやってきた留学生が、「日本が次々に自分たちの国から木を切っていくので、日本には木が一本もないのだろうと思っていた。しかし、日本にやってきて森林が多いのにびっくりした」という感想をもらしていたのを聞いたことがある。

サハラ砂漠 過放牧と薪の消費などでしだいに樹木が失われ、年平均5qのスピードで砂漠が広がっているといわれている。
 このほか、大インド砂漠、タクラマカン砂漠(中国)、アタカマ砂漠(チリ)などでも砂漠化が進行しており、地球全体では1年間に600万ha(九州と四国の合計面積)が砂漠化しているといわれている。


 

 6.産業廃棄物の処理

 廃棄物は、一般廃棄物と産業廃棄物に分類される。

一般廃棄物 われわれが日常生活で出すいわゆるゴミは一般廃棄物で、年間約5000万トンが出され、各市町村で処理されている。
産業廃棄物 産業廃棄物は一般廃棄物の8倍の4億トンが排出され、その多くが民間の業者によって有料で処理されている。

 両者を合計すると約4億5千万トン。つまり、国民一人当たり年間4トン半になる。 これは一般廃棄物を1人1日に約1、1s、産業廃棄物も含めると1人1日に約10sを排出している計算になる。
 これらの廃棄物は、基本的には「焼却」するか「埋め立てる」かの二つの方法によって処理される。こうした処理にともなって、いまさまざまな問題が生じている。

(1)埋立地の不足問題
 都市部での埋立地はあと数年で満パイになるという。自分の家の近くに廃棄物の埋立地が作られることは誰もが嫌がる。その一方で、大量生産・大量消費時代を反映して、廃棄物の量は増える一方である。最近では、都会で出た廃棄物を地方に運び込んで処理することも多くなった。瀬戸内海の豊島はその代表例である。今後、埋立地をどのように確保していくかが課題である。

(コラム)産業廃棄物の「都会から田舎」への押しつけ
 一般廃棄物の処理は、基本的にはゴミを出した市町村で行なわれる。しかし、産業廃棄物はそうではない。他県へもっていって処分されることも多い。処分場が作られやすいところは、「都市近郊」で「高速道路」が走っている「山間部」である。大阪の場合、北部は住民運動が活発なため処分場はほとんど作られず、多くは南部の奈良県や和歌山県に作られている。西吉野の産廃富士や橋本市のダイオキシン汚染などはその代表的な事例である。


 

(2)埋立地から有毒な物質が流出
 産業廃棄物の処分場には、安定型、管理型、遮断型の3種類があるが、そうした処分場から有害物質が流出し、川や地下水を汚染するという問題 がある。

安定型  建設廃材やプラスチックのように腐敗したり化合して変化したりする心配はなく、したがって素掘りの穴に埋めて土をかぶせておくだけでよいタイプの処分場である。全国2300ヵ所の処分上の7割にあたる1600ヵ所はこのタイプである。
管理型  市町村の運営する大半の埋立地はこのタイプである。厚さ1、5ミ リほどのゴムシ ートを敷き詰め、地 下水の汚染を防止するようになっている。
遮断型 厚さ10センチメートル以上のコンクリートで囲い、屋根をつけ、汚染物質を封じ込める構造になっている。

 しかし、こうした処置が施されていても安心はできない。日本各地で、ゴムシートに穴が開いていたり、コンクリートにひび割れが生じて汚染物質が流れだしたという事件がしばしばニュースとして報道されているからである。
 しかも、現在の法律では処分場を飲み水の水源に作っても違法ではなく、産廃施設の許可をする都道府県も建設の中止を求めることはできない。少なくとも水源の近くに処分場を建設することは禁止すべきであろう。早急な法改正が望まれる。

(3)ダイオキシンの発生
 ダイオキシンは有機塩素化合物(たとえばラップ、ゴミ袋、ポリバケツ、ビニール傘、卵パック、ティッシュペーパーの取出し口の透明シートなど)を300〜600度の低温で焼却すると発生する(ただし、燃焼温度が800度以上だとダ イオキシンはほとんど発生しない)。
 大気中に拡散されたダイオキシンはやがて土の表面に落ちてきて土壌を汚染する。土壌の汚染はやがて川や海を汚染し、プランクトンや魚などの食物連鎖を通して数十万倍に濃縮され、人間の体内に取り込まれる。人間が体内に取り込むダイオキシンの90パーセントは食物を通して口から入ってくるといわれる。いったん体内に取り込まれたダイオキシンは、水に溶けにくいため容易には排出されない。

 ダイオキシンの毒性はサリンの2倍、青酸カリの1000倍といわれる。 ダイオキシンを一躍有名にしたのはベトナム戦争(1965〜1975)で使われた枯葉剤である。10年間で7200万リットル(そのうちに含まれるダイオキシン、約170s)という大量の除草剤が散布された。そのため多くの奇形児とガン患者が発生した。

 一般に、環境問題で使われる濃度の単位はppm(100万分の1)であるが、ダイオキシンの場合はピコグラム(1兆分の1)やナノグラム(10億分の1)が使われ る。p pmの100万 分の1の濃度が問題になるほど毒性が強い。文部省が1997年、学校におけるゴミの焼却を禁止したのもダイオキシン対策であった。

  単位について
 
キロ(10の3乗) ミリ(10のー3乗)
メ ガ(10の6乗) マイクロ(10のー6乗)
ギガ(10の9乗) ナノ(10のー9乗)
、テラ(1 0の12乗) 、ピコ(10のー12乗)
ペタ(10の15乗) フェム ト(10のー15乗)

 なお1999年に議員立法によってダイオキシン類対策特別措置法が成立してからは、この問題は下火になっている。
 
 

7、資源・エネルギー問題

 エネルギーは大きく、化石エネルギーと非化石エネルギーに分類できる。

化石エネルギー 石油、石炭、天然ガスなど
非化石エネルギー 水力、原子力、地熱、太陽光、太陽熱、風力、バイオマスなど

 また、一次エネルギーと二次エネルギーを次のように定義する。

一次エネルギー  基本的に自然界に存在するままの形でエネルギー源として利用されているもので、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料のほか、水力・風力・地熱など 自然から直接得られるエネルギー、原子力の燃料であるウランから得られるエネルギーなど、まだ何の加工もしていない 状態で供給されるエネルギーのことをいう。
二次エネルギー  電気・ガソリン・都市ガス・コークスなど、一次エネルギーを加工・変換して得られるエネルギーのことをいう。

 
 1960年代に石炭から石油へというエネルギー革命が進行し、1970年には 一次エネルギーに占める石油の割合が71.9%にまで高まった。しかし、オイルショック後は原子力や天然ガスへの転換が図られ、現在石油の割合は46.3%(2004年度)にまで低下している。 なお、現在、日本の一次エネルギーの自給率は18.1%(2004年)である。

 化石燃料はいつかはなくなる。また地球温暖化の点からも非化石エネルギーへの転換が求められている。しかし、水力発電に適した河川はそう多くはないし、地熱、太陽熱、風力など ではまだ十分な供給量を確保できない。また、現在、国内にある48基(2015年)の原子力発電には「安全性」や「核のゴミ」という難問がある。

 


 (コラム)原子力発電のしくみと問題点

天然ウランには核分裂を起こさないウラン238(全体の99.3%を占める)と 、核分裂を起こすウラン235(全体の0.7%)がある。原子力発電の燃料となるのはウラン235である。ウラン235に中性子をぶつけるとウランの原子核が真二つに分裂するとともに、新たに2〜3個の中性子と巨大なエネルギーを放出する。

この時飛び出した中性子を次々にウラン原子核にぶつけることができれば、無数の核分裂の連鎖反応を引き起こし(この状態を臨界に達するという)、巨大なエネルギーを発生させることができる。この原理を応用してウラン235を90%以上に濃縮し、10万分の1秒という瞬時に核分裂させたものが原子 爆弾(広島型)である。また3%程度に濃縮したウラン235をゆっくりと核分裂をさせ、その時の熱で蒸気を発生させタービンをまわすのが原子力発電である。

しかし、原子力発電には「安全性」と「核のゴミ」というやっかいな問題が常に付きまとう。現在、低レベル廃棄物(原発で作業員が使った服、手袋、工具など)はドラム缶に詰め原発の敷地内に保存している。また、高レベル廃棄物高熱の状態にあるため、30年から50年ほど冷却する必要があり、青森県の六ヵ所村に一時保存している。冷却後、最終処分場に埋めることになっているがその場所はまだ決まっていない。

放射性物質は時間がたてば量が減る。放射線を出して別の物質に変化してしまうからである。たとえば、ヨウ素131は放射線を放出するとキセノン131に代わり、8日間で元の量の半分に減る。元あった量の半分になる時間半減期という。ヨウ素の半減期は8日である。16日で4分の1、24日で8分の1、32日で16分の1・・・・というふうにどんどん減っていく。およそ3カ月弱で1000分の1以下になる。

一方、セシウムの半減期は30年、セシウムの量が1000分の1になるには約300年かかる。高レベル廃棄物を300年も500年も安全に地中に埋める安定した地層は日本にはないというべきだろう。ちなみに、プルトニウムの半減期は2万4000年である。まさに、原子力発電はトイレのないマンションといわれるゆえんである。ゴミの捨て場がないのだ。

 


 

(コラム)高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)
 

原子炉でウランを燃やすとウラン238は、炉内の中性子を獲得しプルトニウ ム239に変わる。プルトニウムは核分裂性を持つので核燃料として再利用でき る。これが「高速増殖炉」とよばれるものである。もしこの技術が完成すれば、日本は自国の原子炉のなかから生まれる、いわば「準国産のエネルギー」を手にすることができる。しかも理論上は、10のプルトニウムを燃やして12のプルトニウムが生産されるので、使えば使うほど燃料が増殖する。まさに「夢の原子炉」である。

だが、高速増殖炉の危険性は、軽水炉の比ではない。軽水炉は冷却材として水を使うが、高速増殖炉では、冷却材として高温の金属ナトリウム(98度Cで液体となる)を使う。もしナトリウムが漏出すれば、水と爆発的に反応して重大事故が発生する。ここに宿命的ともいえる高速増殖炉の技術的な難しさがある。

高速増殖炉の開発レースに一番早く着手したのはアメリカであった。続いて1950〜60年代にイギリス・ロシア・フランスが加わった。遅れてドイツと日本も1977年に実験炉が臨界を通過した。だが、開発コストと技術的な困難さは予想以上であった。各国は相次いで開発を断念した。高速増殖炉「もんじゅ」がナトリウム漏出火災事故を起こしたのは1995年12月であった。資源小国・日本の救世主として、わが国が原子力技術の総力をあげて開発したものだけに、関係者のショックは大きかった。

ちなみに、人類にとって最良の技術とは、失敗の許される技術ではないだろうか。プルトニウムはこの世でもっとも毒性の強い物質といわれ、その半減期は2万4000年である。もし事故でプルトニウムが外に漏れることでもあれば、その影響は1万年後、2万年後にも及ぶ。そして空気中に離散したプルトニウムは呼吸器系を通じて肺や一部は骨や肝臓にも入る。いったん体内に取り込まれると、その放出するアルファ線によってガンが誘発される。

新幹線がスピードを出せるのは、ブレーキ技術がしっかりしているからだと聞いたことがある。原子力発電施設に、いざという場合のブレーキはあるのだろうか。

 

 

 8、人口問題

 (問)「ここに大きな池がある。その池には、毎年2倍のスピードで増え続ける蓮(はす)がある。100万年目でやっと池の半分まで繁殖した。水面全部をおおいつくすのにあと何年かかるか」。

(正解は、もちろん1年である)

 この例え話は、人口問題を語るときにしばしば引用されるものである。いま、地球上には「人口爆発」とよばれる現象が起きている。1950年に25億人だった人口は、37年後の1987年には2倍の50億人になった。そして、現在は65億人を突破した。動物や植物には天敵があるが、人間には天敵がない。いったい人口はどこまで増えるのか。人口が増加することによって 次のような問題が生じると考えられる。

食料不足  この問題を初めて論じたのはマルサスの『人口論』(1798年)である。彼は、人口は幾何級数的に増えるのに対して、食料は算術級数的にしか増えないとして、人口増加を抑制しないと、食料不足から貧困と犯罪を招くと警鐘を鳴らした。
資源の不足  もし中国やインドの人たちがみんな車に乗り、エアコンを使うようになれば、資源はあっという間に枯渇する。ローマクラブが『成長の限界』を発表したのは1972年であった。
地球環境 問題  化石燃料の消費、森林破壊、酸性雨などの背後には、常に人口問題が存在する。その意味では、環境問題の本質は人口問題だといっても過言ではない。
貧困問題  人口を抑制しないと、一人当たりGDPが増えないため、いつまでたっても貧困から抜け出せない。かりに経済成長率が2%であったとしても、人口増加率も2%であれば、一人当たりGDPは変わらない。「貧困の輪」から抜け出すためには、人口の抑制が不可欠である。

 現在、毎年約1億人の人口が増加しているが、増加分の90%以上は発展途上国である。したがって、人口問題の解決のためには、発展途上国の人口抑制が鍵となる。しかし、そこには簡単に解決できない問題が潜んでいる。たとえば、発展途上国では

@子どもは重要な働き手
である。
A子どもは老後の生活保障でもある
Bしかも衛生状態がよくないため、乳児死亡率も高い。したがって、親としてはなるべくたくさん産んでおくことが必要になる。
Cそのほか、発展途上国では女性の社会的地位が低いことが多く、産児制限がしにくいという社会的環境もある。

 こうして考えてくると、発展途上国は人口が増えるから貧しいのではなく、貧しいから人口が増えるといえる。したがって、人口問題を解決するためには、発展途上国の経済発展を促すこと、すなわち南北問題を解決することが課題となる。
 

(コラム)5歳未満児の死亡率
 ユニセフによると、5歳未満児の千人当たりの死亡率は、日本では6人ソマリアでは211人である(1991年)。

 

(コラム)バイオテクノロジーと食料問題
 地球上の人間が100億人になったら、食料は足りるのであろうか? その点でいま注目されているのがバイオテクノロジーである。害虫、日照り、塩害などでたくさんの農産物が収穫不能になり、人間に利用されないまま無駄になっている。もし、害虫や環境ストレスに強い作物を作ることに成功したら、食料が一気に3倍にも4倍にも増産できる。

アメリカではすでに1996年頃から、遺伝子組み換え農産物の本格的な商業生産が始まっている。たとえば、おいしいトウモロコシに、蛾が食べたら毒になる物質を含んだトウモロコシ)の遺伝子を組み込む。そうすると、蛾などの害虫に強いトウモロコシができる。また、除草剤をまくと通常は草と一緒に大豆まで枯れてしまうが、遺伝子を組み換えて除草剤に強い大豆を作ると、農家は雑草が生えても除草剤をまくだけですむ。アメリカでは大豆の70%、トウモロコシの26%がこうした遺伝子組み換え品種であるという。

遺伝子組み換え技術は食料危機に対する一つの解決方法として有力である。しかし、そうした食料を30年、50年と長期に食べた場合どうなるのかということは、今の段階ではわからない。


9.500年・1000年単位の思考を!
 熱湯のなかに蛙を入れるとすぐに飛び出し助かるが、水のなかに蛙を入れて徐々に熱すると熱湯になるまで動かず、ついには死んでしまうという比喩がある。核戦争が人類を一瞬にして死にいたらしめる心臓発作であるとするならば、環境破壊は人類を徐々に死にいたらしめるガンである。地球環境問題がこれほど議論されていながら、なぜ人々はこの問題について真剣に考え、行動に移さないのであろうか。環境問題が深刻な問題として認識されにくいの、は次のような原因あると考えられる。(『環境経済学への招待』 植田和広 丸善ライブラリー

 第一に、環境問題は直接目に見えにくいことがある。公害は煙・騒音・悪臭・河川の汚染など、われわれの日常生活のすぐ近くで起きていた。そのため誰でもが「目に見える形」で認識できた。しかし、地球環境問題について多くの人は、自分とは関係ない遠くの国の出来事と思っている。

 第二に、環境問題が長期にわたる問題であることと関連する。地球温暖化といっても、 さしあたり今日・明日はどうということはない。多分、自分が生きている間は大丈夫だろう。みんなそう思っている。自分が死んだあとどうなるか?・・・そんなことは知ったことではない。心のどこかにそんな気持ちがあれば、真剣に取り組む気持ちが起きないのは当然であろう。

 第三に、発生源が多数で、しかもそれぞれの発生量が微量であることも関係している。温暖化にしても、酸性雨にしても、自動車にのる一人一人にも少なからず責任がある。しかし、自分一人が自動車にのることをやめても、それほど事態が改善するわけではない。その結果、みんな真剣に取り組まなくなる。

 第四に、被害が必ずしも発生源の周辺に起きるとは限らないことがある。たとえば、日本の酸性雨の主たる原因は、中国にあるのではないかと考えられている。中国はエネルギー源として大量の石炭を使用している。その結果、空気中に大量の硫黄酸化物が撒き散らされ、それが偏西風にのって日本列島に酸性雨を降らせる。地球環境問題が国境を越えて発生していることは、ヨーロッパでも広く起きている。

 環境破壊問題は、おそらく人間が住んでいるかぎり、悪化することはあっても、改善されることはないであろう。しかし、お風呂に入るとき、次に入る人のことを考えて、なるべくお湯を汚さないような努力が必要なように、環境問題についても、なるべくきれいな状態で次世代に渡す努力が必要である。そのためには、500年、1000年単位で物事を考えることが必要なのではないだろうか。  


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