情報社会に生きる(現代マスコミ論)

最終更新 2021年10月11日 

1、マスコミと世論

 テレビ放送が開始されたのは1953年である。今やテレビは私たちの生活になくてはならないものとなった。私たちは1年間で、いったいどれくらいテレビを見ているのであろうか。仮に1日平均3時間見るとすると・・・年間では約1000時間。すなわち、日数に直すと年間で40日以上、夜も寝ないでテレビを見ている計算になる。テレビの視聴率1%は約100万人であることを考慮すると、テレビの影響力は絶大である。
 テレビと並んで、私たちが日頃接するもう一つの重要な情報源は新聞である。新聞は、テレビに比べて速報性は劣るが、情報の解説や記録性において、テレビよりすぐれている。2020年の日本の新聞発行部数 (朝刊のみ、スポーツ紙等を除く)は、以下のとおりである。(  )内は2014年データ。インターネットに押されて新聞の発行部数が急速に減少している。

 1,読売新聞 711万部 (926万部 )
 2,朝日新聞  471万部 (710万部)
 3,毎日新聞    200万部 (330万部 )
 4,中日新聞 213万部 (264万部)
 5,日本経済新聞 186万部 (275万部 )
 6,産経新聞 119万部 (161万部)

*ちなみに、創価学会の機関紙である聖教新聞の発行部数は公称550万部、日本共産党の発行紙赤旗は100万部弱といわれている。

 このほかにも私たちが情報を得る手段として、ラジオ、書籍、インターネットなどさまざまなものがある。とくに最近では、インターネットによって必要な情報が簡単に手に入るようになり、便利になった。
 こうしたさまざまな情報源をその信頼度からみて、東大、岩波書店、朝日新聞、NHKを日本の4大権威と呼んだ人がいたが、なるほど当たっていなくもない。現代においてマスコミは「第四の権力」ともいわれる。

 ところで、情報社会に生きる私たちにとって一番大切なことは、こうした氾濫する情報とどう向き合うかということである。結論を先に言えば、テレビや新聞の情報も疑ってかかれ!ということである。もっと言えば、本に書いてあることや大学の先生の言っていることも疑ってかかるべし、ということである。「はたしてそうか」と疑い、「自分なりに考える」。それが情報を受け取るさいの基本でなければならない。
 朝日新聞サンゴ礁事件(1989年)、NHKスペシャル「禁断の王国ムスタン」やらせ事件(1992年)、朝日新聞の従軍慰安婦報道(1992年→ その後朝日は2014年に訂正記事を掲載)など、問題となった事例は少なくない。
 (なお、授業では応用問題として、最近の新聞記事の中からいくつかを紹介し、その記事が信用できるかどうかを考えてもらう予定である)。

 

2.統計資料の読み方

(コラム)統計の読み方
 一般的に、統計を正しく読みとるためには、次の3点に注意をする必要がある。

1,統計の出所を見る。
 出所が書かれていない統計は信用できない。また、レポートを書くときは、官公庁の統計書を利用することが基本である。

2,調査方法を見る
 サンプル数は十分か、サンプルに偏りがないかなどに注意を払う。もしサンプルに偏りがあれば、書かれてある数字は信用できない。

3,数字のもつ意味を考える。
 統計学でいちばん大切なことは、数字の背後に「生きている人間の姿」を読み取ることである。たとえば「失業率5%」という数字を見たときに、そのなかに300万人あまりの職を捜している人と、その家族をイメージできなければならない。まさに ”with cool heads but warm hearts ”の精神が求められるのである。

 

(コラム)こんなグラフや統計には要注意!
 新聞を読んでいるとよくでてくるのが、「平均値」である。たとえば、「日本の個人の金融資産は一人平均1000万円で、3人家族では3000万円になる」というたぐいの報道である。この話をきいて、ほとんどの人は「うちは平均以下だなあ」と寂しく思うに違いない。しかし実際には1世帯の平均は約500万円ほどにすぎない。これは、平均が意味をもつのは、分布の山が正規分布に近い形をしている場合だけである、という統計学の初歩を無視して展開された議論だからである。
 このほか、グラフの一部省き、強調したいところだけを拡大する描き方も、誤った印象を与えるので読み手は注意が必要である。このタイプのグラフはいまでも新聞で多用されている。新聞社としてはわかりやすく表現しているつもりかもしれないが、読者に誤解を与えやすく用いるべきではない。



3.客観的報道はありうるか。

 結論から言うと、おおよそ「客観的な報道」などというものは存在しないと考えるべきであろう。理由は以下のとおりである。

 第一に、何を記事に取り上げるか、あるいは取り上げないか、という段階で必ず記者の主観が入る。たとえばなにか事件が起きたとする。それを記事として取り上げるかどうか。その取捨選択に際して、必ず価値判断を行なわざるをえない。それは客観性を求められる教科書の記述でも同じである。たとえば教科書に第二次世界大戦中の日本軍の行なった残虐行為を載せるかどうか。それはひとえに執筆者の価値判断にかかっている。
 書かれていないことにもっと重要な真実があるのではないか。報道されていないことにもっと重要なニュースがあるのではないか。常にそういう気持ちで情報に接することが大切であるまた、一般的に、ニュースになるのは社会全体から見れば例外的事項が多いことも忘れないでおきたい。電車が普通に走っていてもニュースにはならないが、脱線転覆事故を起こせばビッグニュースになる。

 第二に、記事をどう扱うのか(肯定的に扱うのか否定的に扱うのか)を判断する際にも記者の主観が入り込む。たとえば湾岸戦争(1991年)のあと自衛隊の掃海艇がペルシア湾に派遣されたが、その際の記事の扱い方を比較してみるとおもしろい。肯定的な記事から否定的な記事まで、新聞各社によってまちまちである。一般的にいって記事の書き方は、産経新聞、読売新聞が右寄りで、朝日、毎日は左寄りである。

 第三に、事件ををどのくらいの分量で扱うかにも主観が入り込む。たとえば、テレビのどのチャンネルを回しても、同じ事件を5時間も6時間も実況中継を行なっていることがあるが、そのことにどれほどの意味があるのか。

 


4.情報操作

 20世紀のキーワードのひとつは「大衆」である。産業革命の結果、都市に出現した大衆は、やがて政治・経済・文化の在り方に大きな影響力をもつようになった。そして政治の世界では、大衆の支持を得ることは「正義」の代名詞と考えられるようになった。いかにして大衆の支持を得るか。それは議会制民主主義でもファシズムでも 同じである。20世紀は、あらゆる支配者が大衆を意識せざるをえなくなった社会でもある。

 大衆の支持を獲得するために有効な手段が「情報操作」である。この情報操作をもっともたくみに利用したのはヒトラーである。ヒトラーは書いている。

「大衆の支持をえようと思うならば、われわれは彼らを欺かねばならぬ。たくみな宣伝をたえず用いれば、人々に天国を地獄に見せることも、その逆に、もっとみじめな状態を楽園のように見せることもできる。」
 「(大衆は)理解力は小さいが、そのかわり忘却力は大きい。・・・宣伝は短く制限し、これをたえず繰り返すべきである。・・・もっとも単純な概念を何千回も繰り返すことだけが、結局覚えさせることができるのである」
(ヒトラー『わが闘争』)。

 こうして彼は、大衆をたくみに操り、ドイツ国民の選挙によって権力を獲得したのである。

 情報化が進めば進むほど、権力者にとって「情報の管理」は重要になってくる。ベトナム戦争で自由な報道を許したアメリカは、湾岸戦争においては一転して徹底した報道管制を敷いた。テレビで見た湾岸戦争の映像は、まるでテレビゲームでも見るかのようにミサイルが空中を飛びかう映像ばかりで、まったく死体というものが出てこなかった。では、湾岸戦争で死んだ人はいなかったのか。もちろんそんなはずはない。イラクだけでも約12万人が死亡したと推定されている。また、油で真っ黒になった水鳥の写真は、イラクが環境破壊者であるというイメージを世界に強烈に植え付けることに成功した。
  現代において、アメリカは世界の3つのMを握っているといわれる。Military,Money,Media の3つである。今日、アメリカといえども「正義」が自らにあることを国際社会に納得させることなくして戦争を遂行することは不可能になっている。 正義か否かは国際世論が決めると言ってもよい。その意味で自らの正当性をアピールするための Media の役割がますます重要になってきている。戦時におけるアメリカの情報が本当に正しいものなのか。目をよく開けて、耳を澄まして、あらゆる角度から物事を見る力が大切である。

 

 ちなみに、日本のマスコミは、新聞社とテレビ・ラジオが系列化されている。

テレビと新聞社の系列一覧

テレビ会社 新聞社
日本テレビ 読売系
朝日放送 朝日系
TBSや毎日放送 毎日系
フジテレビ 産経新聞系
テレビ東京 日経新聞系

 もし、新聞やテレビが一斉に同じ論調で書き立てたら・・・いったいどれほどの人がそれらの情報を批判的に受けとめることができるであろうか。マスコミの報道を鵜呑みにせず、「はたしてそうか?」と問う気持ちを常に忘れないでおきたい。現代はインターネットの登場によって、私たち一人一人がマスコミに負けないだけの情報発信力をもつことができるようになった時代でもある。

 

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