1、公務員の世界
(1)公務員の人数
20世紀になって政府の役割が増大し、行政国家と呼ばれるようになった。それにともない、公務員の人数も急増したl。
日本の公務員数
国家公務員 |
約58万人( 行政34万人、自衛官24万人など)。支払われている人件費は年間5.3兆円である(2021年度)。 |
地方公務員 |
約277万人(教員89万人、警察官25万人など)。これに要する人件費は約2
0兆円である。 |
日本の総就業者数6600万人のうち5.2%が公務員ということになる。これを人口1000人あたりの職員数で国際比較すると、日本は32.5人で、アメリカ、イギリス、フランスの半分以下
となる。
(2)採用
国家公務員の採用試験次の3種類ある。
総合職試験 |
キャリア組と呼ばれる幹部候補生。従来、T種試験試験と呼ばれていたもの。 |
一般職試験 |
主として事務処理等の定型的な業務に従事する職員の採用試験。試験の種類は「大卒程度試験」「高卒者試験」「社会人試験(係員級)」の3つがある。従来のU種、V種試験にあたる。 |
専門職試験 |
国税専門官、 労働基準監督官、 航空管制官
、 務省専門職員、 法務省専門職員(人間科学)、
財務専門官、食品衛生監視員、 皇宮護衛官 |
こうした公務員制度の頂点に立つのは、もちろんキャリア組と呼ばれるエリート官僚たちである。2021年度は申込者数14310人、合格者数1,834人で、倍率は7.8倍であった。2014年、内閣府に人事局が設置され、官邸による官僚支配が強化されたことから、公務員を志望する学生が急減している。
◆出身大学別合格者数(上位10位)2021年度
1位 東京大学 256人
2位 京都大学 115人
3位 北海道大学 80人
4位 岡山大学 78人
5位 早稲田大学 77人
6位 慶応大学 68人
7位 東北大学 67人
8位 東工大学 58人
9位 千葉大学 57人
10位 九州大学 56人
10位 中央大学 56人
(コラム)キャリア官僚の出世
国税庁の職員は5万5583人(2001年4月現在)。そのうち、財務省採用キャリアが55人。国税庁採用キャリアが236人。あとはノンキャリア組である。国税庁に
キャリア組として入った後輩が、入庁6年目の28歳で「地方の税務所長になりました」という葉書をくれたときには、さすがに言葉を失った。これがキャリア組の出世かと思ったものだ。ただし、この慣行は批判され、
1995年以後「原則として税務署長に出すのは35歳以後」と方針変更されている。 |
(コラム)厚生労働省
厚生労働省の職員数は5万2千人で、財務省7万1千人、国土交通省6万2千人などと並ぶ大所帯である。これに所管する14の独立行政法人の職員数7万人弱を加えると、12万人になる。このうちキャリア官僚は約1000人で、入省8年目で課長補佐、20年目くらいから課長に就任する。
一方、扱う金額も膨大で、厚生労働省の年間の予算は一般会計
96兆円のうちの30兆円を占める。このうち98%は医療・年金・介護・福祉などの社会保障費である。これだけの大所帯を一人の大臣で切り盛りするのはさぞかし大変だろうと思う。 |
(3)仕事ぶりと給料
一般に、エリート官僚というと何かと批判にさらされがちであるが、日本の高度成長を支えてきた背景には、彼らの努力があったことは確かである。公務員であるから、特別給料が高いわけではない。民間へ就職した大学の同期の仲間たちに比べれば、半分くらいの給料である。しかし、安月給であるにもかかわらず、彼らは実によく働く。
毎年、8月31日には各省庁から来年度予算の概算要求が出され、そのあと、12月22日ころに財務省の原案が出されるが、その間の財務省官僚の献身的な予算作成作業は涙ぐましい。残業時間は月に300時間を超えることもあるという。もちろん仮眠室もある。霊安室のような冷たい部屋なのだそうだが、
かつては(大蔵省にちなんで)内輪では「ホテル・オークラ」といわれてい
た。だが、それだけ働いても残業手当はわずか5〜6万円程度である。
もちろん、彼らは奉仕精神だけで働いているのではない。30年ほど勤めて、適当な時期に民間企業の社長や政府系機関の理事などとして天下りをする。そして、そこで今までの安月給を補填(ほてん)するのである。キャリア官僚の最高ポストである次官経験者の生涯収入は10億円を下らないとも言われている。
2、官僚たちの活躍
(1)法律の原案を作る
今日、官僚が大きな権限を持つようになった第一の理由は、社会が複雑化・専門化したことと関連がある。教科書的に言えば官僚の本来の仕事は、国会が決定した法律や政策を執行することである。しかし、社会が複雑化した現代においては、法案の作成にはきわめて高度な専門知識が求められる。そのため、国会議員だけでは法案の作成は困難になり、法案作成のほとんどを専門知識をもった官僚の助けに依存せざるをえなくなってしまった。その結果、官僚は国会議員の知恵袋として、政策の企画・立案段階から法案の作成にいたるまで、深くかかわることとなった。こうして官僚は、行政権だけではなく立法権にも大きな影響力をもつようになり、確実に権力を伸ばしていった。国会で議員が行なう質疑応答の原稿も、国会議員自身が書いたものより、官僚の手になるものの方が多い現実一つをみても、官僚が今日いかに大きな働きをしているかが分かるであろう。
(2)委任立法の増加
官僚が大きな影響力をもつようになった第二の理由は、委任立法がふえたことである。すなわち、法律では一般的抽象的なことだけを決めておいて、具体的な内容については政令や省令などの「命令」で定めるやりかたである(憲法第73条)。こうしておけば社会の情勢が変わっても、いちいち国会で審議をして法律をかえる必要はなく、臨機応変に行政の判断で対応できる。
(コラム)命令
議会の制定する法律に対して、行政機関の制定する法(政令や省令)を命令という。たとえば、学校教育について言えば、教育基本法(全11条)や学校教育法(全108条)などの法律で大まかな方針を定め、それをさらに詳しくしたものとして学校教育法施行令(=政令)を出す。さらにもっと細かな具体的な内容は、文部科学省の学校教育法施行規則(=省令)を定めるというふうである。 |
(3)許認可権の行使
これに加えて第三に、官僚は行政指導や通達、民間企業に対する許認可権の行使などを通しても大きな影響力をもつ。
(コラム)鉄の三角形
政界・財界・官僚の関係を鉄の三角形と呼ぶ。この3者のうち、いちばん偉いのはだれか?
実はこの3者は「三すくみ」の関係にある。官僚は各種の規制や許認可権をテコに財界に睨みをきかせている。しかし、その官僚も、選挙に選ばれた国会議員には頭が上がらない。しかし、その国会議員も、政治資金を財界に依存しているから財界に頭が上がらない。 |
3、行政の民主化
ところで、立法権と行政権のうち、どちらが国政の中心であるべきか。答えは明白である。国民が直接選挙で選んだ立法府こそが国政の中心であるべきである。いくら官僚が優秀であるとはいっても、たかが大学卒業時の1回のペーパーテストで合格した人たちが日本丸を引っ張っていくというのは筋違いというべきであ
り、そうした事態は、民主主義にとっては脅威であるとも言える。選挙で選ばれたわけでもない行政マンを、いかにして「国民主権」のもとに置くか。それが行政の民主化といわれる問題である。行政の民主化の方法としては3つある。
行政の民主化の方法
行政委員会の設置 |
行政権からある程度独立した合議制の機関を設置することにより、中立性を保とうとする制度である。具体的には人事院、公正取引委員会、中央労働委員会、選挙管理委員会などのほか、教育委員会や国家公安委員会なども行政委員会に含まれる。 |
情報の公開 |
情報公開条例や情報公開法(2000年4月より施行)を制定し、国や地方自治体のもっている情報を積極的に公開する |
オンブズマン
(行政監察官) |
スウェーデンで生まれたこの制度は、行政活動を調査し、必要に応じて改善を勧告する制度である。本来は公的機関として設けられたものをいうが、日本で公的に設置しているのは川崎市、新潟市、沖縄県などまだまだ少なく、代わりに民間組織として設けられた市民オンブズマンが活躍している。 |
4、行政改革
市場の失敗を補完するために、20世紀になって政府が民間経済に積極的に介入するようになった。しかし、そのことが逆にさまざまな弊害を引き起こす原因ともなった。財政赤字、企業競争力の低下、官業の非効率な運営などはその典型である。そこで、大きくなりすぎた政府の「ぜいにく」を削ぎ落とし、再び引き締まった身体(=小さな政府)にしようという動きが求められるようになった。
具体的には次のようなことが行われた。
省庁再編 |
2001年1月、それまでの省庁を再編し1府12省庁に改めた。 |
人員削減 |
約115万人(2000年現在)いた国家公務員を、郵政事業(約30万人)の民営化や国立大学(約13万人)の独立行政法人化 などによって58万人(2021年)にまで削減した。2001年に始まった小泉政権の下で新自由主義的政策が推進され、非正規雇用が増加した。現在、国家公務員の約2割あまり、地方公務員の約3分の1はアルバイトや非常勤の非正規雇用といわれている。 |
規制緩和 |
これまで日本の政治は、政界・財界・官僚による「鉄の三角形」と呼ばれる強固な結びつきのもとで行なわれてきた。その中でもとくに官僚は各種の規制や許認可権をテコに、産業界に大きな影響力を行使していた。
こうした規制を外し、これにより競争促進政策を展開する。 |
公共事業の削減 |
公共事業が、かつての新幹線や東名高速道路などのように、新たな産業の発展に寄与するものならば問題はない。しかし、
近年の公共事業は、次の経済発展に結びつく効果はきわめて小さい
。建設業就業者数(国勢調査)は、ピーク時(1995年)の663万人に対し、2010年は447万人(△32.6%)まで減少している。 |
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