グローバリゼーションの光と影

1.光=生産効率の向上

 自由貿易が進む現代では、一つの産業・業種が必ずしも1か所にまとまって立地している必要はない。生産活動を細かい工程に分け、それぞれの活動に適した立地条件のところで部品を作り、それらを1か所に集めて最終組み立てを行っている。

 東南アジアの貿易構造は、以前はアジアが原料や食料を輸出し、日本が工業製品を輸出する「垂直的分業」が一般的であった。しかし、近年、日本企業がアジアに 生産拠点を持つようになり、中国、韓国、台湾、香港、ASEAN諸国との結びつきを強めている。

 たとえばiPodというアップルコンピュータのヒット商品がある。この部品はアメリカ、日本、韓国など世界中から集められ、それらを最終的には台湾で組み立て 、世界に出荷している。こうした貿易形態を垂直的産業内貿易という。中国の輸出・輸入ともに 機械が第1位である理由は垂直的産業内貿易が盛んであるためである。

 グローバリゼーションによって、生産効率は極限まで高められる。それにより製品価格は安くなり、消費者の受けるメリットは大きい


.グローバリゼーションのもたらす影

(1)暗躍するヘッジファンド
 ヘッジファンドの資金の出し手は民間の投資家である。世界のファンド数は数千にもおよび、残高は2兆2千億ドル(240兆円)といわれる(20 12年現在)。1997年のアジア通貨危機の原因となったほか、世界の金融・資本市場の乱高下の原因の一つとされるが、実態はよく分かっていない。

(2)アジア通貨危機(1997年)
 
発展途上国が経済発展できない理由の一つは、資本が不足するからである。こういうものを作れば儲かると分かっていても、それを作るためのお金(=資本)がない。そこで、先進資本主義諸国は、豊富な資金を発展途上国に投資し利益をあげようとする。こうしてグローバリゼーションの波に乗って資本の自由化が進み、先進国の大量の資本が発展途上国に流れ込んだ。 

 しかし、もし外国資本が何らかの理由で発展途上国から一気に国外に流出 せばどうなるか。そうした悪夢が現実となったのが1997年におきたアジア通貨危機である。 1985年のプラザ合意以後、日本企業は円高を背景に、 盛んに東南アジアに生産拠点を移した。東南アジアには最新の設備と機械が導入され、それが「アジアの奇跡」と呼ばれるような経済発展をもたらした。

 ところが1997年、ヘッジファンドを含む外国人投資家が一斉に東南アジアから逃げはじめたの だ。 民間の巨額な国際資本が一気に流出したのである。そのため為替レートはあっという間に暴落し、アジア通貨危機が発生した。

 韓国、台湾、香港、シンガポールはかつては「アジアのフォードラゴンズ」として、アジア経済の躍進を象徴する存在であった。ところが、
1997年にタイのバーツが急落したことをきっかけに、通貨下落はインドネシア、韓国などアジア全体に広が った。この経済危機によって、インドネシアでは32年にわたったスハルト長期政権が崩壊した。

 タイ、インドネシア、韓国の3ヵ国はIMFに支援を要請し、総額1400億ドル(約15兆円)の融資を受けた。ただし、IMFは金融支援と引きかえに、
@通貨防衛のために金利を高めに誘導すること、
Aインフレ抑制のために財政支出を抑えること、
などの政策をこれらの国々に求めた。この結果、各国は景気が悪化し、多くの失業者を抱えることになった。アジア通貨危機は、グローバリゼーションがもたらした新しいタイプの通貨危機であると言える。


(3)サブプライムローン問題と世界経済

  サブプライムローンとは、アメリカで利用されている住宅ローンの一つで、通常の融資を受けられる人々(プライム層)ではなく、信用力が低い低所得者の人々(サブプライム層)向けのローンである。住宅ローン債権はリスクを分散させるために証券化され、国内外の機関投資家やヘッジファンドなどに広く売りさばかれた。ところが、2006年、サブプライムローンの焦げ付きが急増しはじめると、サブプライムローン関連の証券 の価格も暴落し証券を保有していた世界中の金融機関は多額の損害を被った。

 サブプライムローン問題に端を発した金融危機は、世界経済に深刻な影響を与えた。2008年には大手証券会社のリーマン・ブラザーズが破綻したのをはじめ、2009年には、クライスラーに続いてGM(ジェネラルモーターズ)も破綻した。グローバリゼーションが進む中で、アメリカ発の金融危機は「百年に一度の不況」と言われた。

(4)移民の増加

 カネ・人・モノの移動が自由になったことにより、国境を超えた人の移動も急速に増加した。以前は、言葉の壁や習慣の違いなどで、EUの中でもそれほど大きな社会問題となることはなかった。しかし、経済格差が大きい場合、そうした壁を乗り越えて大量の移民が豊かさを求めて流れ込むこととなった。そのことは、たとえばイギリスのEU離脱(2016年)を招き、ドイツ、フランス、オランダなどでは極右政党の台頭となって表れている。


講義ノートの目次に戻る



トップメニューに戻る