心に残る3人の先生
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(1) 20代の後半、スキーに 夢中になったことがある。スキークラブに入り、年間50日以上滑った。しかし、シュテムターンからパラレルターンができるようになるまでには、ずいぶん苦しんだ。自分ではパラレルターンをしているつもりなのに、どうしてもスキーのテールが微妙に開いてしまう。 赤倉ヨーデルスキー学校の菊地英男先生に出会ったのは、そんなときだった。菊地先生は一言「回転するときの意識を変えてください」といわれ、雪面に図を書いて説明して下さった。するとどうだろう。その一言のアドバイスで、その日のうちにパラレルはおろか,ウェーデルンまでできるようになった。 教え方一つで人間はこうも変われるものかという経験は、その後の私の教員生活の糧となった。あとで、菊地先生が日本のプロスキーヤーのデモンストレーターの一人だと聞いて大いに納得した。先生のお陰でそのシーズンにはSAJ(全日本スキー連盟)1級を取ることができた。
(2) 水野教室では、現在プロ棋士として活躍している吉田美香八段、小西和子八段、水野広美五段といった人たちが、当時はまだ小学生や中学生として修行していた。プロを目指す卵がいる環境の中で指導を受けたこともあって、一年あまりの間にアマチュアの初段から一気に四段に駆け上った。 水野先生から教えていただいた中で一番印象に残っているのは、「発想の大切さ」である。細かな定石やテクニックをいくら覚えても、本当の力は付かない。一番大切なのは、その根本にある「発想の仕方」である。小手先のテクニックなど、骨太の構想の前には簡単に粉砕されてしまう。 現在私が 高校生の定期テストで、一問百点の論文試験を課している最大の理由も、物事の一番大切な「原理=発想の仕方」を大切にしてほしいからである。教師の値打ちとは、脳みそにグサッと突き刺さって、10年たっても20年たっても忘れられない本質的なことをどれだけ教えられるかにかかっているように思う。水野先生からは、書物からは学べない大切なことを教わった。
(3)
奥田先生は、著書『抜かずに歯をよみがえらせる』の中で、よい歯科医選びのチェックポイントについて書いておられる。そこには
「患者さんの意向を尊重する」 この「患者」という言葉を「生徒」に置き換えれば、いずれも教員の世界にそのまま当てはまる。この中で私が一番好きな言葉は、「応用問題をラクにこなせる」である。 教科書通り教えるのではなく、それを自分流にアレンジして教える。しかも、それを楽しみながらいとも簡単そうに行うことができる。それがプロというものかもしれない。 そういえば、プロスキーヤーの菊地英男先生の教え方も、囲碁の水野弘士先生の教え方もそうであった。教則本通り教えるのではなく、生徒一人ひとりを見て、その個性にあった指導法をその場で考え出す。一流と呼ばれる人には、そうした力が備わっている。
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