教師の力量

 

 

1.学ぶ意欲をかき立てる二つの方法

 教育で一番大切なことは本人をやる気にさせることであり、やる気さえ引き出すことができれば教育の99%は成功したといってよい。生徒の学ぶ意欲をかき立てるためには二つの方法がある。

@授業で感動させる。感動させることにより授業が面白い、楽しい、もっとやってみたいと思わせる。
A生徒の学力を着実に向上させて、テストで結果を出す。成績が伸びれば勉強がおもしろくなって学習意欲が湧いてくる。

 一般的に言えば、社会、国語(現代文)、理科などは感動的な授業が比較的やりやすい教科である。教師の名講義がそのまま生徒のやる気につながる。もちろん、数学などでも感動的な授業をできなくはないが、数学の解法の美しさに感動できる生徒は、ごく一部の生徒に限定されるであろう。

 これに対して、英語、数学、国語(古文)などは、多くの生徒に授業そのものを「面白い」と感じさせることは難しい。したがって、テストで点数を取れるようにしてやることが、学習意欲を引き出すための大きな動機づけになる。教師がいくら名講義をしても生徒の成績が伸びなければ生徒はやる気が出てこない。着実に生徒の学力を向上させ、テストで点を取れるようにすることがこうした教科の一番の「特効薬」となる。

 この点、予備校のカリスマ教師と呼ばれる人の指導法に学ぶことは多い。予備校や塾では目に見える形で力をつけさせないと、生徒がすぐやめてしまう。公立高校はそうした厳しさにさらされていないぶん、どうしても授業準備が甘くなりがちだといったらお叱りを受けるだろうか。


 生徒の学ぶ意欲をかき立てるためには様々な方法があるが、まとめると次のようになる。

 ◆感動を与えて面白い、やってみたいという気にさせる
 ◆テストで点数を取れるように着実に学力をつけさせる
           

    学ぶ意欲をかき立てる

 

 

 

2.引き寄せられる授業とは?

(1)豊富な専門知識
 
では、上記のような授業ができるようになるためには、教師にどのような力量が必要なのであろうか。3つ考えてみた。

第一に、教師自身の専門知識を豊富にし、圧倒的な信頼感を勝ち取ることである。専門知識が不足していては「話」にならぬ。専門書を読みあさり、できる限り現地を訪問し、多くのよもやま話を仕入れておく。実際の授業では、そのうちの一番面白そうなところを「ちょっとだけ紹介する」。

 授業ではあれもこれも全部喋らない。伝えたいメッセージを明確にし、教える内容を精選して、一番大事なところだけを重点的に教える。

 それと同時に、自らも研究課題を持ち、学び続けるという姿勢を示すことも大切である。いくら立派な授業をしているつもりでも、10年前の古いノートで授業をしているようでは、先生の怠慢が知らず知らずのうちに生徒に伝わってしまい、生徒が身を乗り出して聞くような迫力のある授業にならない。

 自らも一チャレンジャーとして研究課題を持ち、学問と真剣に対峙しているという姿勢があって初めて、授業に凄みが出てくる。


(2)コミュニケーション能力
 第二に、生徒とのコミュニケーション能力を高めることも大切である。授業とは結局、生徒と教師との化学反応みたいなものである。生徒の目が輝いていなかったり、教室の空気がよどんでいるようでは、よい授業とは言えない。よい授業とは、生徒が生き生きと授業に参加している授業である。

 生徒を授業に「巻き込む」にはコミュニケーション能力を磨くことが不可欠である 。研究者としていくら素晴らしい能力を持っていたとしても、コミュニケーション能力が不足していれば高校教師としては失格である。

 生徒は授業をどういう心理状態で聞いているのか、常に読みとりながら授業を進めねばならない。そして、状況に応じて話し方を変え、説明のしかたを工夫する必要がある。

 もちろん、生徒の名前を覚え、生徒一人ひとりをよく把握することや、生徒の目をしっかり見据えてアイコンタクトでコミュニケーションを図ることは基本中の基本である。しかし、意外と黒板に向かって話しているシャイな先生が少なくない。

(3)人間的魅力
 第三に、人間的魅力を高めることも教師に求められる大切な力量である。先生が嫌いだから、その教科が好きになれないという話はよく聞く。生徒から慕われ、自分もあんな人間になりたい、と思われたら最高である。

 以上、3点について述べたが、少なくとも私は上記条件のいずれも満足にはできていない。「技術に頂上なし」。理髪店で見た標語である。教育も同じかもしれない。

 

 

 

3.素質を見抜く

 教師の力量とは優れた授業ができることであると常々思っていた。しかし、 最近、教師にはもっと別の力量が必要なのではないか、と思うようになった。それは「人間の素質を見抜く」力である。

その人の持つ隠れた潜在能力を見いだし、その能力を引き出し、励まし続けて開花させる。それがうまくいったときは、教育という仕事の最高の醍醐味を味わうことができる。

 以前、高校3年のある生徒が、定期考査(1問100点の論文試験)で素晴らしい答案を書いているのを見た。表現力や論理展開がぬきんでているのだ。「この生徒はすごい! これだけの答案が書けるなら、数学もきっとできるに違いない」。そう思って京都大学を受験することをすすめた。

最初、本人は京都大学なんて雲の上の存在とばかり、全く関心を示さなかった。しかし、会うたびに「受けたら受かるよ」とささやくうちに、本人もその気になり、ついに受験を決意。センター試験は今ひとつだったが、2次試験で持ち前の「底力」を発揮し、本当に受かってしまった。

 また、「テレビに出てくる天気予報のお姉ちゃん(気象予報士)になりたい」という 女子生徒がいた。時々くじけそうになるので、「頑張れ頑張れ、頑張ればきっとなれる」と 励まし続けた。その後、見事に気象予報士の資格を取り、日本気象協会に入った卒業生もいる。そのうち、テレビに出てこないかなって楽しみに待っている。

 自分探しは最後は自分でやるしかないのかもしれない。しかし、「先生と出会って人生が変わりました」といわれる出会いが一つでも二つでも増えてくれたら、と 密かに思って今日も仕事に励んでいる。

 

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