1.悪魔のささやき
簡単に言えば「低所得者向けの住宅ローン」である。どう見ても返済能力がなさそうな人に貸すのだから、金利は(最初は低く設定されているが)、最終的には10%を越える。むちゃくちゃ高い。
しかし、そこで銀行員がささやく。
「心配いりませんよ。
そんな高い利息は実際には払う必要はありませんからね。
今、住宅価格がどんどん上がっていますから、値上がりすれば住宅の担保価値も上昇します。
そうすれば、安い最優遇金利(プライムレート)が適用できます。
だから、実際には高い金利のことなんか心配する必要がないんです。」 |
悪魔はさらにささやく。
「万が一、返済できなくなっても、買った家を手放してもらえば、借金は全部帳消しになります。それがアメリカの住宅金融システムです。」
日本の場合だと5000万円の家を3000万円のローンで買って、もしその家が2000万円に値下がりすれば、たとえ家を売っても1000万円のローンが残る。つまり、家を失った上にローンだけが残るのだ。
しかし、アメリカの場合はその借金は金融機関の損失となって、住宅購入者の負担とはならないのだ。
2.住宅バブル
これはマイホームなんて夢のまた夢と思っていた貧困層にとって、
夢みたいな話
であった。
「私たちにもマイホームが持てるんだー」
「今買わないと、一生家なんか持てなくなる」 |
そう思った貧困層がこぞって住宅ローンを組んだ。
2000年から2006年の間に、住宅価格が2倍にふくらんでいった。
3.サブプライムローンの証券化
もちろん、金融機関だって馬鹿ではない。住宅バブルがいずれ破裂することくらいお見通しだ。そこで、返済されないリスクをなくすために、サブプライム融資の証券化を考え出した。
証券化とは何か。
これがわれわれ教員にはわかりにくい。
簡単に言うと、返済されるお金を受け取る権利(債権)を切り分けて、それを証券として売り出す
ことである。つまり、飲み屋のツケの請求書を束にして、それを福袋に入れて売り出す(『グローバル恐慌』 浜規子 岩波新書))ようなものと考えると分かりやすい。 |
福袋の中は秘密である。どんな不良債権が含まれているかわからない。しかし、リスクがあっても、安く売り出せば買い手はたくさんいる。もし、ちゃんと返済されれば、買い手は大もうけ(ハイリターン)が期待できる。
しかも、金融機関はリスクを見えなくするために、国債などのほかの優良な債権とごちゃ混ぜにして福袋を作っていったのだ。こうして、
毒の入った福袋を世界中の金融機関が保有することとなった。
考えてみれば、証券化とは実に巧妙な方法である。
金融機関にすれば、住宅ローンという「単なる請求書の束」を一気に現金化し、しかもそのリスクを他人に押しつけることができるのだ
。預金をちまちま集めて企業に貸し出し、その利ざやでもうけるよりよっぽど効率がいい。おいしい話である。
金融の自由化とは、銀行が企業に貸し出すときの金利が自由になったというレベルの話ではない。もっと積極的にハイリスク・ハイリターンの高利回りの金融商品を
自由に積極的に作り出し、売りさばくことができるようになったのだ。 |
4.破綻
2006年、アメリカの住宅バブルが破裂し、サブプライムローンが焦げ付き始めた。
「たいへんだー、どうする」
「とりあえず、住宅価格を下支えする必要がある。」
金融機関は返済能力がない人々にも無理矢理住宅ローンを押し売りし、買い支えた。
1年間は保った。
しかし、2007年、サブプライムローン問題が表面化し、
2008年にはアメリカ証券大手リーマン・ブラザーズが破綻した。
世界中の金融機関が毒入り福袋を抱えている。
次はどこが破綻するのか?
どの金融機関がどれだけの損失を抱えているかわからない。
金融市場では疑心暗鬼に駆られ、短期資金の出し手がいなくなり、一時、麻痺状態に陥った。銀行や証券会社が相次いで倒産の危機に追い込まれた。金融機関は、その日の資金繰りがつかなければ即倒産に追い込まれるのだ。(山一証券の場合がそうだった)
こうしてアメリカ発世界同時不況が始まった。
「百年に一度」の経済危機と言われる中で、オバマ政権は7870億ドル(約74兆円)規模、中国も4兆元(約56兆円)規模の対策を実施した。
こうした効果もあり、ようやく世界的な景気後退に歯止めがかかりつつあると言われているが・・・・・
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