生徒の疑問から出発する

 

 1.私語に悩む

 小さい頃、「なんで」、「なんで」、「なんで」と親を質問攻めにして困らせていた子どもが、いつの間にか質問しなくなり、やがて「勉強とは暗記すること」だと思うようになり、疑問に感じることさえなくなってしまう。

 授業に興味を持てないものだから、目は開いていても明らかに大脳が活発に働いていなかったり、あるいはあちこちから湧き上がる私語、私語、私語・・・。

 結局、私語のモグラたたきになり、お互いに気まずくなってしまう。そんな授業を何とかできないかと思って工夫したのが、今回紹介する授業である。

 

 

2.人間は知りたがっている

 授業で一番大切なのは導入部分である。教科書的に言えば導入では「何のために学ぶのか」という学習の意義をしっかり説明し、心構えを作ることだとされる。しかし、その程度のことでは授業に食いついてこない生徒も多い。そこで、授業の冒頭で生徒に紙を配り、

 「今日は、日本経済の歩みというテーマでやります。次のグラフを見て、これなんでやろうとか、こんなこと知りたいねん、ということを3つ以上書いてください」

 と言って、生徒に「知りたいこと」や「疑問に思うこと」を書き出してもらう。もちろん、生徒はすぐには書き始めないから、机間巡視をしながら、生徒の関心を引き出すようにつとめる。

 

 

3.実践例

 やってみるとわかるが、生徒は意外と疑問に思っていることがあるもののだ。

「こんなことを説明して欲しい」
「これ、何でやろ?」

と言わせることができたら、授業は8割方成功といってよい。疑問点を板書すると、「ほかの生徒がどのようなことを考えているかがわかる」という副次的効果も期待できる。

・なぜ景気が悪くなるのか
・高度経済成長はなぜ可能だったのか。
・なぜ、今日本の景気が悪いのか。
・バブルが起きたのはなぜか。
・石油ショックはなぜ起きたのか。

 生徒の疑問に答える形で授業を進めると、非常に展開がやりやすくなる。自分が出した疑問に先生が答えてくれるのだ。生徒は「砂漠が水を吸収するように」聞いてくれる。ある生徒がこんな感想を書いてくれた。

一つの疑問から解説していく。こんな授業のやり方もあるんやなと思った。

 ただし、このやり方はどんな質問が飛び出すか分からないから、授業がどの方向に向かって飛んでいくのか分からないという難点がある。何を聞かれても大丈夫という自信がないと、こうした授業はちょっと難しいかもしれない。説得力のない答えでは、生徒はすぐ「あっちを向いてしまう」からだ 。

 しかし、受験に関係なく、私語に悩まされている学校では、効果抜群である。授業に対する生徒の満足度も極めて高いという結果も得ている。

 また、質問の中には「えっ、こんなことも知らないの」と思われる質問が出ることもある。「そうか、生徒はこんなところで躓いているのか」と改めて知ることができる。

生徒「先生、経済成長って何?」
先生「GDPが1年間に何パーセント増えたかをいいます。景気の良し悪しを判断する代表的な指標です。今だったら経済成長率が2%以上だとまずまず景気がいいといえるでしょう。」
生徒「先生、GDPって何?」

 前の授業でやったからといって、頭に残っているとは限らない。基本的な用語が分かっていなければ、意味の分からない英単語で会話をしているようなものである。丁寧に説明してやらなければならない。

 

 

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