最初の授業

 

1.1時間目に話すこと

 1時間目の授業で何を話すか。私の場合は大きく二つのことを話す。
 第一に、授業を受けるに当たってこの1年間、守って欲しいことを話す。それは次の3つである。

@遅刻をしない。
A授業中は私語をしない。
B社会を良くするにはどうしたらいいか、自分の頭でよく考える。

 特に、授業中の私語は絶対に慎むよう強く念を押す。そして、授業中に私語をした場合には怒鳴って注意することもあり得ることを伝える。最低限の秩序は「力」によってしか保つことができないことを長年の経験で知っているからである。

 第二に、この1年間の授業で何を学んでほしいかを話す。1年間の授業の目次を示し、法の支配、集団安全保障体制、有効需要の原理、比較生産 費説を中心に聴いて欲しいこと、そうすれば社会を見る視点が定まり、1年後には新聞を批判的に読めるようになることを伝える。

 ともかく1時間目の授業が勝負である。生徒は教師の品定めをしてくる。甘い顔はできない。授業に対するこちらの基本方針をしっかり伝え、1年間の授業がお互いにハッピーになるようしなければならない。

 

 

(以下は余談です)

2.「現代社会」で何を教えるか

 それにしても現代社会という科目は不思議な学問である。いったい何を教えたらいいのか。
 そもそも現代社会という学問が成立するのか。岩波から『現代社会学』全26巻が出ているから、隣接諸科学の成果を取り入れた学問として現代社会という学問があるのかもしれない。また、大学に現代社会学部という学部があるから、あるいはそういう学問があるのかもしれない。

 しかし、大学のホームページを調べても、やっている内容は「情報」、「法律」、「子ども」「教育」など雑多である。所詮、学生を集めるための看板の付け替えにしか過ぎないように思えなくもない。

 だいたい、大学の学部の名称の文字数が多くなればなるほどいかがわしくなる(笑)。医、薬、工、理、法、商、文など、昔はみんな一文字だった。それが、経済学部などと2文字になったあたりからいかがわしくなってくる。ましてや現代社会学部などと4文字になると、相当いかがわしいと考えて間違いない(笑)。

 一般に、現代社会学は社会学の一部門として説明される。しかし、社会学のテキストを見てみれば分かるが、法学や医学のように「これ1冊を読めば社会学が分かる」というような一般的な教科書はない。

 確かに、マックスウェーバーのように、今まで光の当たらなかった分野に光を当て、新しい地平を開いたものもある。だが、「社会学の研究対象はこれだ」と一言で表すことは容易ではない。ある本によれば、現代社会学とは「われわれがどこから来て、どこへ向かうのかを考える学問である」というのだが・・・。

 では、高校で教えられている現代社会という科目はどうなのだろうか。内容的にいえば、

 

政治・経済(7割)

青年期、資源・エネルギー・環境問題(3割)

 

というのが実態である。これに最近流行の「情報」や「生命倫理」を加えれば「一丁上がり!」であるが、これだけ多岐に渡る内容を2単位で教えよというのだから、土台無茶な話である。
そこでどうするか? 大きく二つに分かれるように思う。

 一つは、受験にあまり関係ない学校では、担当教師間で相談して、適当につまみ食いしてお茶を濁す。これは、現代社会という科目は、日本史、世界史、地理、政経などそれぞれの専門の先生が自分の専門科目をとったあとの持ち時間調整に使われることが多いからである。

 もう一つは、

必修としての現代社会2単位と、選択科目としての政経2単位をワンセットとして考え、現代社会で政治分野を、選択科目の政経で経済分野を中心に教える

というパターンである。進学校ではだいたいこのパターンが多いのではないだろうか。現代社会は以前は4単位で教えられていた。それが情報や総合学習が必修科目として導入された際に2単位に削られたといういきさつがある。しかも、教科書の内容は4単位の頃とほとんど変わっていない。

 そこで教育現場では、どうせ2単位で現代社会の教科書を全部教えることができないなら、政経とワンセットで考え、「重複なく」「受験勉強を効率的に」行おうと工夫するようになった。自然な流れである。

 

 

3.1年後・・・

 富士山はあっちから見ても富士山だし、こっちから見ても富士山である。同じ社会現象を見ても、いろんなとらえ方がある。1年間の授業を通して、何が正しいのか、世の中を良くするにはどうしたらいいのか、を考えられるようになってほいしいと述べて、最初の授業を終了する。
 ちなみに、学年末の最後に私がよく出題するテスト問題は

この1年間の現代社会の授業を聴いて、どのような点で自分が成長したと思うか述べよ。(1問=100点、字数制限なし)

というものである。これには採点する楽しさがあり、おすすめである。

 

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