日本の保守主義

 

ヨーロッパ流の保守と革新

 今日は、もっとも書きたくないことに挑戦する。最近急速に台頭しつつある日本の保守主義についてである。
保守主義とは、簡単に言えば、人間の理性の限界性をわきまえ、今ある制度を打ち壊して、新しい社会に作り替えるという発想に疑問を持つ思想である。
つまり、根底に人間の理性に対する疑いを持つのが保守主義である。

 その結果、新しく作り替えるリスクを犯すよりは、長い歴史を通して作られた伝統にこそ人間の知恵と合理性があると考える。イギリスの政治家、エドモンド・バークや日本の小林秀雄、福田恒存、江藤淳、山崎正和らはそうした立場に立つ。

 これに対して、革新は人間の理性を信頼し、社会を新しく作り替えることにより人類は進歩すると考える。革新と保守の対立はフランス革命とその反動として明確化された。
 

 

日本におけるヨーロッパ流の保守主義

 日本がその歴史を通じて培った伝統とは、政治的には天皇制であり、精神的には神道、仏教、儒教、武士道などである。この中でも序列があり、天皇制の維持が一番重要とされる。そして天皇制を支える付随的な精神思想として神道、儒教、武士道などがある。

 典型的な保守主義者は、日本は100代もさかのぼれば、みな天皇を中心とする一つの血族ファミリーであり、日本という国はいわば天皇をオトン、皇后をオカンとする一つの家族であるとする。一つのファミリーであるから、両親が子どもを思うように天皇は国民を思い、子どもが両親を慕うように国民は天皇を慕うのが当然だとされる。

 また、国家と国民との関係は、まず国家という大きな枠組みがあって、その枠組みの中で初めて個人の幸せが考えられるとする。従って、家族が家を守るために一生懸命になるのと同じように、国民が国家のために犠牲になることをいとわないことは当然の義務とされる。以上がヨーロッパ流の保守主義を日本に適用したものである。

 

アメリカ流の保守主義

 実は保守主義にはもう一つアメリカ流の保守主義がある。アメリカ流の保守主義は個人の能力を信頼し、自分で人生を切り開く徹底した競争原理を重視する。つまり「小さな政府」を志向するのがアメリカ流の保守主義である。アメリカには「大統領になる自由もあれば、乞食になる自由もある」といわれる。この言葉の背景には、こうした保守主義思想がある。

 アメリカは建国以来、「自由」という理想を実現するために、文字通り「社会契約説」を地で実行してきた国である。したがって、国家と個人の関係でいえば、基本的には個人の独立が尊重される。

 

日本における2つの保守主義

 日本の保守主義は、ヨーロッパ流をベースにしながら、一部アメリカ流も取り入れたものとなっている。その結果、日本の保守主義はずいぶん分かりにくいものになっている。現在の自民党の政策は、小泉政権以来アメリカ流の保守主義色を強め、競争原理礼賛オンパレードとなっているが、その一方で、憲法改正を打ち出し、ヨーロッパ流の保守主義の復権をもはかろうとしている。

 一方、日本の革新を自認する人たちは、人間が生まれながらにして平等だと説く時代に、なぜ天皇という特別の存在を認める必要があるのか。天皇制はすぐ廃止しろと主張する。

 これに対して、保守主義は天皇制を擁護する。天皇制はこれまで、日本が混乱に陥ったとき日本を混乱から救い、統一するための中心として機能してきた。明治維新はその典型である。

 もし、日本社会が「平民」だけの世の中になれば、「おれが、おれが」という争いが生じやすい。そこに天皇という「血筋の伝統」をもちだせば、誰もがひれ伏さざるを得ない。だから、天皇制は日本が混乱したときの「保険」として残しておくべきだという主張である。

 天皇制を維持するために国民が払っているお金は、内廷費、宮廷費、皇族費、皇宮警察、宮内庁などすべてを入れても200億円あまり。国民一人当たり年間200円ちょっとである。このくらいの保険料なら高くはないか、と考えるかどうか。

 

以上を表にまとめると次のようになろうか。

(日本における保守と革新)

     
  保守 革新
@天皇制・神道 維持する 廃止する
A国家と個人の関係 個人より国家を重視 国家より個人を重視
B国家の役割 小さな政府を志向 大きな政府を志向
C重視する価値観 自由な社会、競争社会 平等な社会、競争の制限
D税金 安いほうがよい 高くてもよい
E軍事力 軍事力強化 軍事より福祉を優先
Fおもな政党 自民党、維新の党 共産党、社民党

 @はヨーロッパ流の分類であり、ABCDはアメリカ流分類である。ただし、日本の保守主義はAの国家と個人の関係がアメリカとは逆転しているところに大きな特徴がある。すなわち、アメリカでは国家より個人が重視されるのに対して、日本では 「 国家は天皇を頂点とする日本人ファミリーである」として、国家のほうが重視される。

アメリカの保守主義は、国家より個人を重視するから、小さな政府、自由な競争の社会、税金は安いほうがよいとなり、全体に矛盾が生じない。しかし、日本の場合、 天皇制を重視するため個人より国家が優先され、結果としてAEとBCDは矛盾する関係にある。

 最近、急速に保守主義が台頭しているが、天皇制の問題はさておき、個人よりも国家を優先させるという思想にはちょっと危険性を感じている。

 

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