本物を見せる

 

1.100万円の札束

 現代社会はお金に関わる話が多い。そこで教室に持ち込むのが100万円の札束である。本当は銀行から100万円おろして実物を見せると一番良いのだが、さすがにそれは・・・・ちょっと・・・。
 そこで考え出したのが、一番上と下に本物の1万円札を使い、中身はワラ半紙で作った「百万円の束」である。

 それでも、教室に持ち込んだときの生徒の反応はすごい。
「おおーーー!」

 もちろん、すぐネタばらしをする。中身がワラ半紙とわかって
「なーんや、偽モンやんか」
と今度は教室は笑いの渦に包まれる。

先生 100万円で1センチ。では1千万円では?」

「正解は10センチ」(と指で10センチの高さを作ってみせる)。

先生 「1億円で床から1メートル。みなさん、1億円の札束見たことないでしょう。僕はあるんです。日本銀行の大阪支店に行って、本物をさわってみました。ビニールパック詰めされた1億円の束がいっぱいあって、持ち上げるとズシーッと重い。ちょうど10キロの重さでした。私たちが一生かかって稼ぐお金が2億円か3億円。つまり、床から天井くらいの高さになります。」

 ここから先はいろんな話につなぐことができる。
先生「世界一金持ちといわれるビルゲイツの資産が約9兆円(2015年3月)。 9兆円ってどのくらい?」
先生「日本の累積国債残高は00兆円(2014年)。 800兆円を並べてみれば・・・・」

 

 

2.手榴弾

 沖縄に行って来たとき、おみやげ物屋で米軍が使っている本物の手榴弾をみつけて買ってきた。 20年くらい前で3000円くらいだったと思う。もちろん火薬は抜いてある。当時、飛行機に乗った経験がほとんどなかった私は、帰りの飛行機で「手荷物」として持ち帰ろうとしたため、エライ目にあった(笑)。みなさん、手榴弾を持ち帰るときはくれぐれもご注意を。

 沖縄戦の話をするときは必ず、この本物の手榴弾を教室に持ち込み、生徒に実際にさわらせる。

 「意外と重い!

といってビックリする。
 沖縄戦では住民に手榴弾が配られ、捕虜の辱めを受けるよりは自決しろと教えられた。数人が車座になって手榴弾を破裂させる。すぐに死ねれば楽だが、時には鉄片が体に食い込んだまま2日も3日も「痛い、痛い」とのたうち回りながら死んでいく。

 手榴弾の本物を示し、写真を見せながらこうした話をする。日本では殺戮兵器を実際に手にする機会はまずない。平和教育は、こうした本物を見せるところから始まるのかもしれない。

日本では殺戮兵器を実際に手にする機会はまずない。平和教育は、こうした本物を見せるところから始まるのかもしれない。

 そのほかにも私は次のようなさまざまな実物教材を使う。

@株券の本物(倒産した木津信用金庫の株券) 。ただし、現在はペーパーレス化で、紙の株券はなくなっている。
A1930年に発行された拾円札(兌換紙幣
Bドイツのハイパーインフレのときに発行された10万マルク紙 幣
Cジンバブエの100兆ジンバブエドル紙幣
D本物の1オンス(31g)金貨

 @は知り合いから借りているもの、ABは古銭商でたまたま見つけ たもの、Cはネットオークションで落札、Dは授業のためにわざわざ田中貴金属店で購入したもの(約15万円)。
アンテナを張っていると、けっこういろんなグッズを入手できるものである。

 

3.裁判の傍聴

 本物を見せるという点でもっとも効果的なのは、裁判の傍聴である。裁判が公開でなされるべきことは憲法82条に書かれている。裁判所に事前に連絡する必要はない。ふらっと出かけて、好きな法廷に入り、自由に傍聴することができる。

 テレビニュースで、傍聴券を求めてずらっと並んでいるシーンが映し出されることがあるが、そうした裁判は世間から注目されている事件だけであって、ほとんどの場合、傍聴席はがらがらのことが多い。

 ただし、高校生を引率し、団体傍聴をする場合は、事前に裁判所の広報課に連絡を入れておく方がよい。事件の中には、高校生には見せたくない事件もあるので、裁判所の方で適当な法廷を紹介してくれる 場合がある。また、団体傍聴を申し込んでおくと、開いている法廷に案内してくれ、いろんな説明をしてくれたり、裁判長の席に座らせてくれたりする。

 最近は裁判員制度が始まったせいか、団体傍聴にずいぶん人気があって、申し込んでも「すでにいっぱいです。」言われることが少なくない。裁判所は土曜日が休みで、夏休みも閉廷していることが多く、平日に授業がある生徒を引率するのは、日程的になかなか大変である。

 一つの法廷に入ることができるのは、関係者のための席を空けておくことを考えると、最大15人程度である。だから、それ以上の生徒を引率する場合は、複数の教員が必要である。

傍聴のおすすめは地方裁判所刑事事件である。

 実際に傍聴してみると分かるが、刑事事件で一番多いのは「覚醒剤取締法違反」である。覚醒剤の末端価格は1グラムあたり5〜10万円。外国から1キログラムを持ち込むと数千万円になる。20年前の半値以下であるが、暴力団の収入(シノギ)の3分の1はこうした密売によるといわれる。

 日本では年間2万人が検挙されている。日本の法律では覚醒剤の所持・使用は「10年以下の懲役であるが、中国では死刑である。日本が甘すぎるのか中国が厳しすぎるのか。中国の場合アヘン戦争の教訓が今も生きているのかもしれない。

 最近は、被告人が外国人である場合も結構多い。先日見た覚醒剤取締法違反の裁判では、被告人はロシア人女性で、通訳を介してやりとりがなされていた。検察官、弁護人、裁判官の発言をすべて、瞬時に訳して被告人に伝えるのは、さぞかし大変だろうと思った。ボーダレスとか国際化とかいうのは、裁判所の中にまで及んでいることにちょっと驚いた。

 うまくいけば1回の傍聴で

人定質問
  ↓
起訴状朗読
  ↓
罪状認否
  ↓
証拠調べ
証人喚問
  ↓
論告求刑

 を全部見ることができることもある。次の裁判の日程をメモしておき、判決の申し渡しを見に行くのもよい。テレビドラマで見る裁判とは違って、ほとんどの場合被告人は罪状を否認することはなく、裁判は淡々と進められていく。

 

 なお、傍聴に当たっては次の点に注意すること。

@法廷内に入るときは、開廷の5分くらい前に入室し、裁判中の入退室は控えること。法廷に入ることができるかどうかは先着順で決まる。

A傍聴席の後ろの方に座ること。前の方は関係者のためにあけておく。

B法廷内はもちろんのこと、敷地内における一切のカメラ撮影は禁止である。これは判決が出るまでは無罪が推定されるからである。

C法廷内でメモはとってもよい

D法廷内への長傘は持ち込み禁止である。

Eケータイの電源は必ず切っておくこと。

 書物で勉強することも大切だが、「世間という書物」から勉強することはもっと大切である。

 

 

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