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私が生まれたのは石川県の農家である。そのため、幼少の頃からネコを飼っていた。粗食しか与えず(ペットフードを買うお金はなかった)、腹が減ったらネズミを食べてしのいでもらう。ネコを飼っていないと、隣の家のネズミが大挙して押し寄せてくるから、農家にとってネコは必需品なのだ。 私の田舎では不思議なことにネコの名前はどの家も「チン」。恥ずかしくて公衆の面前では呼べないような名前だが(笑)、当時はどの家でも大きな声で「チーン」と呼んでいた。隣の家の「チン」と区別するために、頭に屋号をつけて「どこそこのチン」と呼ぶ。
私の家の屋号は「梅松」が訛った「めーまっつぁ」。だからうちのネコは近所の人からは「めーまっつぁのチン」と呼ばれていた。楽しみの少ない昔の田舎のことである。キジトラ模様のチンは私にとっていい遊び相手であった。 しかし、「おまえもネコの端くれだろう。タダ飯を食うではない」とばかり、家人に無理矢理ケツをたたかれ、しぶしぶ出動することに。ところが、しばらく睨み合ってはいたものの、ネズミのほうがあまりに大物で、やがてチンの鼻にがぶりとかみついた。「窮鼠、猫をかむ」はことわざだけの世界ではなかった。 戦闘意欲をなくしたチンは鼻に赤チンを塗られてすごすごと退散した。 その後、チンは子ネズミばかりを捕るようになった。
ネコから学んだこと
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