読書力を身につける

 2003年2月9日

 最近読んだ本のなかで、斎藤孝氏の『読書力』(岩波新書)がおもしろかった。私自身の読書体験と共通する部分が多かったからである。最近の学生は本を読まなくなったといわれるが、出版業界の不振は日本経済の不景気という理由だけではなさそうである。
  私自身、読書について語れるほど多くの本を読んできたわけではない。とくに高校生まではほとんど読んだ記憶がない。本格的に本を読み出したのは大学生になってからである。その後30年余り。1年間に100冊読んだとして、これまでに約3000冊読んだ計算になる。実際はもっと多いように思うが、年間4万種類の本が出版されている現実からすれば、3千冊 や5千冊など微々たる量にすぎない。しかし、それでも読書をする際のコツみたいなものは、なにがしか身につけたような気がする。以下は私の体験に基づく読書論である。

 1、本は買って読もう
  テレビで映画を見るより、レンタルビデオを借りてきて見たほうが真剣にみる。レンタル料300円の元を取ろうとするからである。本もこれと同じである。なけなしのお金をはたいて買えば、その分の元を取ろうと真剣にもなる。1冊がたとえ2000円しようと、本は読めば安い買物である。得られる情報量は2000円ごときではない。それに、自分のものにすることによって、いろいろ余得もある。 年間、20万円分の本を読もうと思ったら、結構大変である。

 2、線を引き 、図式化しながら読もう
 図書館から借りたものと違って、自分で買った本は重要な箇所に線を引くことができる。どこが重要か を探しながら読むことは、読書をより積極的なものにし、読書のスピードアップにもつながる。この本のメッセージはいったい何か。線を引くだけではなく、因果関係などをマルで囲ったり、矢印で結びつけたりすると、さらに効果があがる。また、あとで読み返すとき、線を引いたところを中心に読み返せば、 再読に要する労力は十分の一か百分の一で済む。

 3、本のメッセージをつかみとろう。
  1冊の本には一つのメッセージがこめられている。読書とは、つまるところ、そのメッセージをつかみとり、著者が要するに何を言いたいかを取り出す作業だといってもいい。したがって、いくら本を読んだといっても、そのメッセージが何であったかを要約できなければ、読んだことにはならない。一般に、本のメッセージは本の厚さに反比例するともいわれ る。そのメッセージをつかむことさえできれば、本は別に全部を読み切る必要もない。

 4、本を読むスピードに変化をもたせる。
  およそあらゆることには、メリハリが大切である。勉強でも、重要なところには時間をかけ、そうでないところは手を抜く。そうした要領の良さが能率よく勉強をするコツである。読書もそれと同じである。初めて読む分野や、教科書のような基本書とよばれるたぐいは、たっぷりと時間をかけてスローペースで読むべきである。およそ何事にも基本となる骨格の部分がある。それを身につけるのは一朝一夕ではできない。1日数ページづつ、1ヵ月でも半年でもかけて構わない。しかし、いったん基本が身につけば、その分野の読書スピードは飛躍的にアップする。
  同様に、1冊の本を読む場合でも読むスピードに変化をつけるとよい。心にしみる内容はゆっくり読めばよい。しかし、しっくりこないところはどんどん読み飛ばして構わない。要は、1冊の本のメッセージを誤りなくつかむことさえできればいいのである。

 5、音読と黙読
 読書をする際は黙読が基本である。アイ・スパンを意識的に広げ、活字を声に出さないで、次を予想しながら内容を把握するようにすると速く読める。アナウンサーは、意識的にアイ・スパンを広げる訓練をさせられる。良いアナウンサーほど、アイ・スパンが広いそうである。
  大人になると、音読をする機会はほとんどない。しかし、実は音読と黙読は相関関係がある。本をたくさん読んでいる人は、音読もまた速い。僕自身、初めて大学に入ったとき、先輩の音読のスピードにびっくりしたことがある。恐ろしい早口で資料文を読むのである。読書の習慣のない人は、音読のスピードもまた遅い。どのくらいの早口で文章を読めるか、自分の限界スピードを一度試してみると、自分の読書力の程度がわかるであろう。それは英文を読ませてみたときと同じといってよい。訳さなくても、内容がつかめているかどうかはポーズの置き方一つですぐわかるものである。

 6、有益な本、有害な本、積んでおく本
 本には3種類ある。第一は買って必ず読んでほしい本である。有益な本といってよい。第二は、読んではいけない本である。誤りを含んだ有害な本といってよい。第三は、読まなくてもいいから、買って書棚に並べておいてほしい本である。古典といわれる本がそれである。たとえ読まなくてもいいから、書棚に並べてお くと、その背表紙を見ているだけで、じわーっとその著者の存在の大きさが知らず知らずのうちに身につく。一般に、古典とよばれる本は高価なものが多い。しかし、そのお金を惜しむようでは学問をやる資格はない。

 7、気にいった著者と出会ったら、全作品を読もう。
  手当たり次第いろんな本を読み散らかすのもいいが、もし好きな著者と出会ったら、その人の書いた本をできるだけ買い集めて読んでみることも有効である。小説でも、専門書でもいい。一人について徹底的に読み込むと、自分自身の視座が定まり、 他との比較が可能になる。また、自分の思想形成にも役に立つ。

 8、発表の機会をもとう。
  一般に、アウトプットがあるからインプットの必要に迫られる。テスト勉強もそうである。答案用紙に正解をアウトプットするために、前日になってあわててインプットを急 いだ経験は誰にでもあるのではないか。読書を効果的にするためには、アウトプットの機会を意識的に作るとよい。読んだ本を親や先生に話してみるのもよい。また、ゼミナールなどに参加して、自ら1時間くらいみんなの前で発表する機会を作るのもよい。また、読書の感想や著者の考え方を小論文ふうにをまとめてみるのもよい。ともかく、読みっぱなしにしないで、なんらかの形に発表してみることである。発表しようと思って本を読むと、さらに読書の量・質ともに格段の飛躍をすること受け合いである。

                          

南英世の息抜きエッセーに戻る

トップメニューに戻る