ベストセラーの条件

 2007年06月13日
 



 売れる本の条件とは何だろうか?
 第一に、書名にインパクトがあることである。たとえば、『バカの壁』は読めば分かるが、そんなたいしたことが書いてあるわけではない。簡単に言えば人間のものの見方にはバイアスがかかっており、そのバイアスの大きさをaとすると、事象Xを見たときの認識Yは
Y=aX   ただし、0< a < ∞
で表されるという単純なものである。しかし、この本はバカほど売れた。まさに書名の勝利である。

 また、、『さお竹やはなぜつぶれないのか』という本がある。この本は、日常生活のふとした疑問を題材にしている点では興味深いが、からくりをきけば「なーんだ、そんなことだったのか」とガッカリする 内容である。マジックの種明かしを聞かされた時に似た感情を抱く。会計学入門と称しているが、会計学らしい中身はほとんど何もない。それでもよく売れたのは、ひとえに表題のおかげである。

  『人は見た目が9割』も書名のインパクトで売れた本である。われわれは学校で、「外見で人を判断するな」と教えられる。しかし、外見で人を判断することは世間のジョーシキである。言いにくい本音をズバリと言ったところにこの本の魅力がある。



 第二に、時代の流れに乗ることである。『国家の品格』は、左翼思想の退潮、右翼思想の台頭にうまく便乗し 、結果爆発的に売れた例である。日本は(1930年代がまさしくそうであったように)不景気になると行くべき方向性を見失う。そうした折りに台頭するのが、日本の原点 を問い、「日本古来の思想に帰れ」という右翼思想である。
 「日本人には日本人としての生き方があり、それはほとんどDNAに組み込まれている」として、戦前の日本を賛美し、日本丸の行くべき方向性を戦前の思想の中に見いだそうとする。『国家の品格』はまさしくそうした時代背景を巧みにとらえてベストセラー になった本である。

 バブルの時によく読まれた『清貧の思想』も、バブルに狂った日本人の生き方の反省としてうまく時流に乗った。また、バブル崩壊後のリストラ時代 を生きるバイブルともなった『チーズはどこへ消えたか』も、時流をうまくとらえた本と言える。
 


 第三本の価格も大切である。1500円以下、できれば1000円以下ががよい。1000円以下なら、たとえ買った本が「ハズレ」であってもそれほど腹が立たない。また、そのくらいの分量の本なら2〜3時間もあれば読める。
 
 以上をまとめると「書名がユニーク」で、「メッセージが時代の流れをとらえ」、「肩が凝らず」、「薄くて安い本」。これがベストセラーの条件である。さらに、最初の50頁に筆者のいいたいことをすべてぶち込んであればなお良い。読者はパラパラとめくってみて、最初の50頁に面白そうなことが書いてあれば買うからである。
 


 そこまで分かっていれば自分でも書けるのではないか? などと思うのだが、書いてみれば分かる。ベストセラー本など誰にでも簡単に書けるものではない。柔軟な発想と鋭い観察眼、それに「勇気」が必要である。いずれをも持ち合わせていない私にはとても書けそうにない。
 

 

南英世の息抜きエッセーに戻る

トップメニューに戻る