05. interception
君には、あげられないな……
何も
だって、俺の中身は空っぽなんだよ
幻に身を委ね、それが自分の成すべきことだと言い聞かせて、突っ走ってるだけの、ただの犯罪者
そんな中身を知って、君はどんな目で俺を見るだろう
こんな奴を追いかけていたのかと、自分自身に呆れるだろうか
愚か者を見下すように、蔑んだ、凍えそうなほど冷たい視線を向けてくるのだろうか
気づかせないで
既に、中身が空っぽになっていることを
俺という存在は、もうどこにも、ないってことを
「よお」
「子供が、こんな時間に外をうろつくものではありませんよ?」
「そうだな。だが、オメーの前では、俺は見た目通りの子供じゃない。そうだろ?」
にやりと口角を上げて笑う様は、確かに見た目通りの子供ではないことを証明している。
キッドは肩を竦めた。
「あなたが見た目通りの子供でなくても、いやだからこそ、歓迎できるものではありません。違いますか?」
「はっ、よく言う。挑発してきたのはオメーだろ?」
「それほど挑発した覚えはありませんが……。そんなやすい挑発に乗るなんて、底が知れてしまいますよ?」
「かまわねぇよ。それで油断してくれれば、儲けもんだろ」
「私が?」
「ただの一般論。オメーは規格外」
おかしなことを言うものだと、キッドはくつくつと笑う。
「それを知っていながら追う貴方は無駄なことがお好きなようだ。幻を掴まえても、消えるだけ。何もありませんよ?」
何もないと言ったキッドの声音に自嘲の色が見えて、コナンは嫌悪感も顕に顔を歪めた。
それほどまでの圧倒的な存在感を見せ付けておいて、何を言うのか。
焦がれるほどに惹きつけておいて……。
自分を孤独の淵から救ってくれた。
消えかけていた工藤新一を、確かな存在にしてくれた。
ああ、やっぱり……
痛みを知るからこそ、出来るんだな。
救おうとしたわけではないだろうが、知っているからこそ、無意識にそういう言動となる。
ハートフルで、優しさで出来ているこの怪盗ならば。
だったら──
コナンは意思の光をその瞳に湛え、真っ直ぐに怪盗を見つめる。
「お前は、今、ここに、存在してる」
幻ではないと証明するかのように、コナンはキッドの手首を掴んだ。
それは怪盗にとって危機的状況であるが、そんなことは意識外だ。
非力な子供の力で、必死に掴むその強さ。
それから伝わってくるものが、そんな殺伐としたものではないから。
だからこそ、危険を感じるよりも先に目を瞠った。
怒りさえも感じるほどの、悲哀を纏った探偵の瞳の色が、何を語っているのか。
怪盗には読めなかった。
理解できないと言ってもいい。
何を、そんなに――
「オメーの本名を知らなくても、そんなもん関係ねぇ。お前が何であろうと、お前は今、ここに、俺の目の前にちゃんと存在している。──何もないなんて、言うな……」
鏡に映るこの姿が、工藤新一を消したように。
犯罪者の道を選んだそれが、本当のお前を消そうとしているんだな。
確かに窃盗は罪、けれど。
断罪するべきものではないと、そう感じた自分を、俺は信じる
「何もないというのなら、幻だと言うのなら、なぜお前は存在してる?」
「それを私が答えると思うのですか?」
少し嫌悪感を纏った怪盗の声音に、コナンはふっと柔らかな笑みを浮かべる。
「やっぱ、あるんだ。理由が。オメーの正義が」
「正義とは、おかしな事を仰る」
「オメーが何と言おうと、俺は自分の直感を信じる。見つけてやるよ、お前の真実を」
コナンはそう言って、掴んでいたキッドの手首を離した。
「オメーをずっと追い続けてやる。ずっとだ。江戸川コナンが消えたあとも、ずっと。全てをやり遂げたあとも、俺はお前を見てる」
「何を……」
何を言っていると鼻で笑うつもりが、上手く作れなかった。
お題配布サイトさまよりお題を頂戴して、拍手お礼小話とさせて頂いております。
コKなのかKコなのか。お好きな方でご想像下さいv
拍手お礼は全て曖昧! これを売りにさせて頂いております。
えー、コナン・KIDで5のお題、ですから、この微妙に繋がってる?という話はこれにて終了です。
拍手を頂き、この話にもお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
申し訳もありません!
書くだけ書いて、アップしておりませんでした!
10年も経ってしまいました……うわぁ。
大改装で発見、遅ればせながら、アップさせて頂きました。
2009.04.18 制作 2019.11.15 UP